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  •  昔々ある小さな村に、一人の薬師がいました。

     その薬師はどんな病気や怪我でも治せると有名で、彼は毎日お仕事で大忙し。

     やってくる患者さんは、ご近所のお爺さんに、隣村のお医者さん
     山を越えた先にある町の偉い人や
     聞いたこともないような場所から訪ねてきた旅人などなど

     どんなに遠いところからでも人が集まるほどでした。

     「薬師さんのおかげで助かったよ、ありがとう」
     「貴方のおかげでこの目に光が戻った!このご恩は一生忘れません!」

     「お役に立てたようで何よりです。また 何かあったらすぐにきてくださいね」
     「どんなに辛くても、信じ続ける限りいつかは治ります」

     「どうか、決して、諦めないでくださいね」

     そんなある日のことでした。
     突然、薬師は誰も知らない 謎の病気にかかってしまいました。

     なぜ、どうやって病気になってしまったのかは 本人にも分かりません。

     分かったことといえば
     今まで沢山の病気を治してきた薬師にも、治し方が分からない ということでした。

     薬師と弟子たちは、一生懸命 謎の病気の治し方について調べました。

     もし、自分以外の人がこの謎の病気にかかってしまい、苦しんでいたとしたら。
     そう考えると、薬師は不安で不安で仕方がありませんでした。

     「早く治し方を見つけないと…弟子たちや患者さんが心配だな」

     「師匠も今は患者さんなのですから、ご自分の心配もしてくださいね」
     「そうだね、その通りだ」
     「少し休ませてもらうとするよ、後はよろしく頼んだよ」

     治し方が見つからないまま、どんどん時間だけが過ぎていきました。
     新しい薬草を煎じても、栄養を沢山とっても、なかなか治りそうもありません。

     そんな毎日に、薬師も弟子たちも困り果てていました。

     半年も過ぎると、薬師が謎の病にかかったという話は 国中に知れ渡っていました。
     薬師と出会ったことのある人は、みんな
     彼のことが心配で心配で仕方がありませんでした。

     早く良くなりますようにと 天にお祈りをする人
     栄養のある料理を作ってきてくれる人
     一緒に病気の治し方を探したいと言う人も沢山増えました。

     「どうか早く、薬師さんの身体が良くなりますように」
     「この食材は体を温めると、貴方から教わりました」
     「沢山作ったのでいっぱい食べてくださいね」
     「昔、貴方に助けてもらった者です。今度は私が貴方を助ける番だ」

     「ありがとう、ありがとう」
     「みなさんの気持ちが、とても嬉しいです」


     薬師が心配してたように、他の人が謎の病になることはありませんでしたが
     日が過ぎるごとに薬師は元気を失くしていきました。

     歩くことも難しくなったので、横になって本を読んだり
     弟子たちとお話したりして、静かな時間を過ごしていました。

     「私が居なくなったら、弟子たちや患者さんは心配するのだろうな」
     「沢山の人に支えられて、ここまで生きることが出来た」
     「せめて、私に出来る恩返しをしなければ」

     そう考えた薬師は、自分の持っている全ての知識を紙に記し始めました。
     この本さえあれば、困ったことがあっても弟子たちを助けることが出来る筈。
     今まで支えられてきた時間以上に、みんなを支えることが出来る筈。

     薬師は少しずつ紙に記していき
     書き終わった頃には、1冊の厚い本が出来ていました。
     

     そうして最後の夜、薬師は弟子たちを集めてこう語りました。


     「私はもうじきこの世を去るでしょう」
     「この本に、私の知っている全ての治療法をまとめました」
     「困ったことがあったときに、これを頼りにしてくれたら嬉しいです」
     「これからは貴方たちが、みなさんの道しるべとなり 支えてあげてくださいね」

     「私は、これから空に昇り 輝く星の一部となることでしょう」
     「貴方たちのことを、いつまでも空から見守っていますね」
     
     「貴方たちのようなあたたかく、優しい弟子と出会うことが出来て」
     「私はとても幸せでした」

     「今日まで、本当にありがとうございました」


     薬師はそう微笑んで、天に召されていきました。


     薬師が天に召されていった。という話は
     彼が病気になったときよりも早く、国中に知れ渡りました。

     ご近所のお爺さんに、隣村のお医者さん、山を越えた先にある町の偉い人や
     聞いたこともないような場所から訪ねてきた旅人などなど

     彼を見送る為にと、どんなに遠いところからでも人が集まるほどでした。


     集まった人たちは、薬師との思い出話を 静かに語り始めました。

     お爺さんの知っている小さい頃の薬師の話に
     弟子たちが沢山教わった薬師の知識
     患者さんたちが覚えている薬師がくれた言葉…

     薬師がくれたものは全部、みんなの心の中に しっかりと残っていました。


     これらを聴いていた とある物書きさんが、薬師の功績を詩に書き記しました。
     そしてそれを読んだ とある演奏者さんが、薬師の偉大な詩を歌い上げました。

     お星さまの一部となって
     私たちを見守ってくれている薬師への 感謝の気持ちを忘れないように

     人々はその詩を、大事に大事に語り継いでいきましたとさ。


    めでたしめでたし

    創作の三冬 Link Message Mute
    2015/08/03 23:23:55

    星の薬師さん

    小さな村で生まれ育った
    ある一人の薬師の 最初で最後のお話 #創作/オリジナル ##伝承歌シリーズ

    more...
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