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    魔の目0.

     何をしようとしていたんだったか。目の前に“目”。周囲には仲間たち。手には剣。ああ、そうだ、戦わなければ。
     悲鳴と怒号。すぐ横から血飛沫が飛んできた。崩れ落ちたのはドミニクだ、かわいそうに。碧眼でさえなければ殺されずに済んだ。
     青い目は毒だ。そこから染み出た毒が耳から入って死に至らしめてくるから、その前に殺さなければならない。青の次に毒性が強いのは緑だ、レオノラも殺さなければ……と見回すと既に死んでいた。
     次は茶……いや紫だったか。あまり多い色ではない、うちにはいなかった気がする。紫の次が茶、その次が灰。早く殺さないと。
     いつの間にか周囲は死体だらけだった。毒のせいだ。憂鬱な気持ちになる。腕が重い。剣は血だらけだ。
     もう私一人になってしまった。私一人だけが生き残った。赤い目であるというだけで、私一人が無事である。赤い目は毒ではないので、殺さなくてもよいのだ。
     ……帰ろう。そう思って歩き出した。
    「……あ?」
     目眩がする。突然濃厚な鉄錆に似た匂いが鼻をついて、吐き気がした。周囲は死体だらけである。なぜだ?
     仲間たちが全員事切れている。傷口は武器によるものばかりで、獣や魔物のたぐいに襲われたようには見えない。一番近くにあった死体は胸から腹にかけてを剣か何かで切りつけられたようだった。
     私だけが生きている。一体なにが起こったのかわからない。なにか、そう、なにかに“見られて”いた感覚だけを覚えている。なにに? わからない。
     私は立ち尽くす。生き物の気配がしないその場所で、立ち尽くす。自分も血塗れであることにまだ気付かぬまま……その後、いっそ自分も死んでいればよかったと思うことになるとはつゆ知らぬまま。



    1.

     遠征へ向かう途中の部隊がひとつ全滅し、たった一人だけが帰還した。その一人には精神汚染の名残が見られ、魔術による検査や聞き取りの結果、とある魔物の名が浮上した。
     ルナゲイザー。生態はまだ解明されておらず、目撃例も少ないが、万一出現した際には速やかに討伐することが推奨されている。何故かというと、ルナゲイザーは大規模な攻撃手段こそ持っていないものの、“魔眼”を持っているからだ。バジリスクの“石化の魔眼”やカトブレパスの“死の魔眼”のように、ルナゲイザーのそれは“狂気の魔眼”と呼ばれていた。
     ルナゲイザーに見られると、狂気に陥る。ルナゲイザーたった一体によって町の住人が殺し合い全滅したという記録もあり、知性や理性のある生き物にとっては極めて厄介な相手と言える。
     全滅した部隊は味方同士で殺し合ったのだろうと思われた。生き残った一人はその予想を告げられ──つまりは自分も仲間をその手にかけただろうことを理解し──恐慌状態に陥った。“魔眼”の力はもう及んでいないというのに。
     ──私も死んでおくべきだった!
     その叫びを聞いた他の騎士や魔術師、医師のたぐいは揃って沈痛な面持ちで黙り込んだ。ただその場にいた騎士の一人が、お前も死んでいたら報告が遅れて更に被害が出たかもしれないぞ、とだけ言った。それはただの指摘で慰めではなかったが彼の恐慌を落ち着かせる助けにはなり、彼はその騎士にすがり付いて泣きじゃくった。騎士は黙って彼を抱き締めていた。……その騎士は、生き残ってしまった彼と同じ部署に所属する先輩であった。


     討伐部隊は速やかに編成され、三日後には王都を出発していた。ルナゲイザーは環境への破壊こそ行わないが、もし人里に降りれば惨事が引き起こされることは明白だった。討伐部隊は小規模で、それはルナゲイザー自体の単純な戦闘能力はけして高くないということと、特異な相手であるため小回りが利いた方が良いと判断されたからであった。
     部隊長は聖騎士ジェラルド・バイロン、入団十八年目のベテランである。厭戦的であるとか臆病であるとか言われがちな男ではあるが、彼をよく知る人物であればその評は正確ではないと反論するだろう。
     閑話休題。部隊が全滅したという場所──川に程近く、野営出来る程度に開けた平地だ──へ到着した騎士たちは、それぞれに溜め息や呻き声を漏らしていた。……三日間野外に放置された大量の死体がどうなるかはわざわざ語るべくもない。埋葬せず放っていったことを責めることも出来ないだろう、なにせ生き残りはたった一人だったのだ。
     討伐部隊とは別に組まれていた回収部隊がここに残ることとなる。既に原型をとどめないほど損壊している死体はこの場に埋葬するしかないが、せめて遺品や装備のたぐいは持ち帰ってやらねばならない。二つの部隊はここで別れ、討伐部隊は魔力計での調査を開始した。
     ルナゲイザーはマナを好み、マナの濃度が高い方へ引き寄せられる性質がある。“魔眼”が多量のマナを消費するため、とされているが詳細はわかっていない。ともあれ騎士たちは魔力計を頼りにルナゲイザーの足取りを追った。
    「魔眼持ちの魔物は厄介だ、視線は目に見えない」
    「確かに。ではわれわれのような人間はどうやって防ぐんです?」
    「遮蔽を取るか全速で離脱する」
    「ええ……」
     ……川の上流、少しずつ石や岩が増え足元が悪くなってくる状況の中、二人の騎士が会話している。
     己の先輩のこれ以上ないくらい当然ではあるがまったく戦意の無い回答に、その灰色髪の騎士は眉を下げた。黄金の目は感情をよく映す。ウォルター・ブラッドフォード、獅子によく例えられる男ではあるが、今は精々大型犬といったところだ。
     後輩の落胆に顔をしかめた──それに合わせて顔の左半分に大きく広がる火傷の跡が歪んだ──もう一人の騎士は、一度肩を竦めてから続ける。
    「それ以外だとそうだな……古来、魔眼への対処は鏡がセオリーだが、あれは嘘とまでは言わんがなにかしらの誇大表現が含まれているだろう。そう都合よく相手の視線を鏡で跳ね返せるものか。まあ、盾を磨き上げておくにこしたことはないが」
     彼が討伐部隊長、ジェラルド・バイロンである。凪いだ海のような青い目がふと横合いを見やり、そこへひょいと年若い青年──少年といってもいい──が大きな岩から飛び降りてきた。
    「バイロン卿、ご報告です」
     彼は斥候として先行していた騎士で、見た目よりは幾分年嵩ではあるがまだ見習い期間を終えていない魔導騎士である。通常斥候や隠密行動を任されるのは黒騎士であることが多いが、今回は様々な事情が絡んだ結果黒騎士は不在であり、この若い騎士……アデルベルト・フェニングがまるで黒騎士のような運用をされていた。
     異国の血を感じる容姿の彼がどういった過去を持っているのかはジェラルドの詮索するところではないし、素直で敏捷く目の利くこの青年を斥候として使うことに文句はない。能力的な問題もない。……問題がないことが問題と言われればそうかもしれないが、それはジェラルドの考えるべきことではないだろう、少なくとも今のところは。
    「今のままの進行速度だと恐らく十五分とかからず現着可能です、特に障害物はありません」
     現着・・。そう、目的地は既に定まっていた。魔力計によってマナの濃度を測定しながら進んでいる途中、進行方向に存在するとあるものに気付いた騎士がいた。
     旧王国時代の神殿である。発見されたのはかなり昔であり調査が終わって久しく、特に厳重な管理もされていない。ただ、こういった宗教施設はどの時代においても──偶然か意図的かは不明だが──マナが豊富でその循環も滞りない場所に作られることが多い。ルナゲイザーがそこへ引き寄せられる可能性は低くないように思われたため、騎士たちはその神殿をとりあえずの目的地として設定したのだ。
    「報告ご苦労、フェニング卿。また先行していてくれ」
    「はい」
     アデルベルトは短く返事をすると軽やかに飛び出していき、すぐにその姿は見えなくなった。
    「あれで魔導騎士だっていうんだから面白いですよね」
     不意に後ろからかけられた声にジェラルドは曖昧に頭を振った。
    「元々の身体能力もそれなりにあるが、どちらかというと身体強化魔術の扱いが上手いがゆえのあの身のこなしだ。彼はやはり魔導騎士だよ」
     それから振り返るとそこにいた赤毛の若者に視線を向ける。ジェラルドよりいくらか年下──恐らくアデルベルトと同年代──の彼は、ヒューゴ・ラッセルという見習い期間を抜けたばかりの聖騎士である。
    「そういうもんですかね。俺はそこまで魔術が得意じゃあないからわからないですけど、旦那にはわかるもんですか」
    「まあそれなりにね……」
     それからジェラルドは目を眇め、小さく息を吐いた。ヒューゴの右手が落ち着きなく銃のグリップを撫でていることや、任務中だというのに普段並みに口数が多いこと……明らかな緊張の兆候を指摘するべきか迷っているのだ。
    「どうしたヒューゴくん、緊張してるみたいだな」
     ──だというのに!
     横からいっそ無邪気なくらいの声が聞こえ、ジェラルドはこめかみを押さえた。ヒューゴは面食らったようにぱちぱちと瞬きをすると、気の抜けたような笑みを浮かべた。
    「参ったなあ、わかりますか?」
    「そりゃあおれは先輩だからな。緊張するなというのも無理があるだろうが、安心したまえよ」
     芝居がかった口ぶりで言いながら、ウォルターはジェラルドの肩に手を置いた。
    「なにせこっちには『必ず部下を生還させる男』がいるからな」
    「ウォルター、私を過大評価するのはよせ」
    「事実でしょう?」
     きょとんとした様子でこちらを見てくるウォルターを窘めようとしたジェラルドは、恐らくそれが徒労に終わるだろうことを予知して結局やめた。それからヒューゴになにか言おうとしたのだが、
    「バイロン卿!」
     鋭い声がそれを中断させる。一斉にそちらを見た騎士たちの視線の先に、きらきらと流星の尾のような軌跡を足元に光らせながらアデルベルトが飛び出してくる。
    「どうしたフェニング卿」
    「ルナゲイザーの姿を確認しました、現在は神殿の敷地内にいます」
     ぴり、と空気が震える。ジェラルドは頷くと、騎士たちを見た。その眼差しは静かだが、確かな意思を宿している。
    「交戦準備を」
    「はい!」
     騎士たちは各々背負うなどしていた盾を装備するなどし、武器の具合を確認する。ただアデルベルトだけは盾を用意しておらず、斥候をするにあたって邪魔になるためウォルターに預けていた矢筒と弓だけを受け取っていた。
    「フェニング卿、ラッセル卿」
     準備が概ね終わる頃、ジェラルドが二人へ近付き声をかける。少し緊張した面持ちでそちらを見た二人を、真剣な眼差しが貫く。
    「卿らが要だ。油断するな」
     ごくりとどちらともなく唾を飲む二人を見ていた目は、少しするとその光をやわらげる。
    「なに、フォローは私とウォルターに任せておけ。これでも卿らの三倍以上は騎士をやっているわけだからね」
     平時と変わらない、どこか飄々とした口ぶり。日差しがよりその顔の印象を柔らかにしている。太陽は傾き始めていた。



    2.

     神殿といっても跡地である。柱と屋根の一部は残っているが、壁らしきものはほとんど無い。そしてその神殿跡地を、人間でも獣でもない影がゆっくりと移動している。少し離れた位置からそれを目視した騎士たちは、そっと息を吐いた。
     大きな──馬が一頭すっぽりおさまる程度の──球形の肉塊。その球体を覆うように人間の臓物めいた触手が何本も蠢いている。足に類するものはなく、地面から少しだけ浮かび上がっており、動きは緩慢だ。目は今のところ確認出来ない。触手の下に完全に埋まっているようだ。
     柱の間をゆるゆると移動するルナゲイザーの姿を見ながら、ジェラルドはわずかに眉を寄せる。そして隣で真剣な面持ちで魔物の様子を窺っているアデルベルトの方を見た。
    「遮蔽物が多いな……いけるかフェニング卿?」
     神殿跡地に視線を走らせていたアデルベルトは、ほとんど表情を変えずに頷いた。
    「問題ありません、配置につきます」
    「よし、頼んだぞ」
     アデルベルトは身を翻すと小走りに神殿とは逆方向に向かった。それを見送った後、残った二人に視線を向けるジェラルド。
    「では、打ち合わせ通りに」
    「了解」
     三人はぎりぎりまで神殿跡地に近付いた後、ジェラルドの目配せを合図に一気に飛び出しルナゲイザーへと肉薄した。かの魔物を覆っている触手がざわりと蠢く。体に前後があるのかは定かではないが──便宜上目のあるだろう場所が正面とされる場合が多いが、今はその目がどこにあるかも確認出来ない──、ぐるりと回転して向きを変えると魔物は騎士たちへとその触手を伸ばした。
     騎士たちの予想通り、いきなりその目が晒されることはない。ルナゲイザーにとって“狂気の魔眼”は最大であり最後の武器だ。確実に敵を捕捉できると判断した場合──多くの場合それは不意打ちである──にしか使われることはない。多量のマナを消費するというのもあるが、彼にとって目とは最も重要な器官のひとつであり、弱点でもあるからだ。
     ルナゲイザーの核──獣における心臓にあたる、潰せば生命活動を維持できなくなる器官──は体の中心部にあり、深く斬り込まなければ潰すことは出来ないが、その表皮は見た目に反して強靭であり通常の武器で破ることは困難だ。唯一奥まで攻撃を通すことの出来る柔らかな部位がその眼球である。だがルナゲイザーの瞼は他の部位よりも更に堅く頑丈であるため、開眼を待たねばならない。……つまり開眼した瞬間こそが最大の攻撃チャンスである。しかし、ルナゲイザーが開眼するということは、その視線に晒されるということでもある。開眼させるタイミングをこちらで任意に指定出来れば良いのだが、勿論そんなことは出来ない。
     目さえ開かなければ、ルナゲイザーはそこまで恐ろしい魔物ではない。触手の動きは素早くはあるが騎士たちが遅れを取るほどではなく、鎧を貫くような強度も無い。……万が一その触手がグリフォンほど速く、リュカオンほど強かったとしても、彼らを打ち倒すことは出来ないだろうが。
     三人の騎士は二人が前、一人が後ろという陣形を組んでいた。後ろの一人はヒューゴであり、ほとんど攻撃には参加せず周囲の空気を探ったり己の指を屈伸させたりしているようだった。そして前の二人はジェラルドとウォルターであるが、彼らは……まるでひとつの生き物のようだった。
     ジェラルドとウォルターは二人とも片目の視力が無い。ジェラルドは左、ウォルターは右の光を見失って久しい。つまるところ彼らは不具であるのだが、それを感じさせない身のこなしでルナゲイザーと渡り合っている。それぞれが見えない位置をそれぞれに託している。半分の視界を失っているにもかかわらず、恐怖が無い。触手による攻撃は正確に盾でいなされ、一撃たりとて彼らにダメージを与えることは出来ていなかった。それどころか、彼らの振るう剣は柴でも刈るかのようにルナゲイザーの触手を切り落としていた。
     ルナゲイザーの体表を覆う触手の量が減っていくにつれ、大きく横方向に入っている切れ目が露わになってゆく。瞼だ。球体の半面を横断するそれは、口のようにも見えた。ウォルターの剣の一撃が、薄く体表を削ったそのとき、ルナゲイザーの瞼が震えた。鋭い声が飛ぶ。
    「ラッセル!」
    「わかってますよ……!」
     ふ、と息を吐いて周囲のマナを手繰るヒューゴ。攻撃手段だけでなく目を守る役割も果たしている触手を失い耐えかねたルナゲイザーの目が開くのと同時、その視線が彼らを捉えるより先に閃光が周囲を塗り潰した。
     視線を回避するにはどうすれば良いか。手っ取り早いのは遮蔽を取ること、相手の視界の範囲から逃れること。……「見えない」ように隠すこと。ルナゲイザーが視認可能な距離や明るさはそこまで特異ではない。つまり、目眩ましは可能なのだ。
     けして魔術の扱いに長けているわけではないヒューゴであっても、微調整なしに思いきり光のマナを活性化させるだけなら可能だった。地上に太陽が落ちてきたかのような輝き──目を閉じた騎士たちでさえその眩しさを感じるほどの──はルナゲイザーの至近距離で炸裂し、その視線を拡散させる。
     そしてその輝きは灯台となる。神殿跡地から少し離れた場所にある高台で弓を構えていたアデルベルトにとって、それは十分目印として機能した。光魔術で強化された目はルナゲイザーの目が光に眩んで瞼を開けたまま硬直しているところをはっきり視認していたし、ぎりぎりと強弓を引く腕もまた光魔術の加護を受けている。
     びょう、と空気を鳴かせながら飛び出した矢が柱の間をすり抜けルナゲイザーの目に突き刺さった。残り少ない触手がのたうつ。が、どうやら攻撃が浅く核まで届いていない。その目が再び焦点を結びかけ、再度光を炸裂させようとしたヒューゴは指先の痺れに舌打ちをする。一度に大量のマナを扱ったせいで“帯電”している、術式を組むには少しの放出期間が必要だ。
     ルナゲイザーが、彼らを「見た」。
     前衛の二人、ジェラルドとウォルターが数歩よろける。偶然彼らの影に入っていたため視線から逃れたものの、ヒューゴの血の気が引いた。この先輩二人がもし周囲に危害を加える方向に狂えば己では止められない──下手をしなくとも死ぬ──。迷ったのは一瞬、ヒューゴは一か八かの賭けに出た。
     盾を構え、体当たりをするようにルナゲイザーに突撃する。そして、その目から生えた矢を、盾で思いきり押し込んだ。深々とルナゲイザーの体内に潜り込んだその切っ先がなにかを貫くような手応え。びくんと痙攣した肉塊が、地面へと落下しどろどろと崩れてゆく。かすかに吐き気を催すような臭気が立ちのぼる。肩で息をしながら冷や汗を拭ったヒューゴは、恐る恐る先輩二人の様子を確認した。
    「ん、……あ……?」
     ぱちぱちと瞬きをしてから周囲を見回す二人の目には理性の光がある。ヒューゴは胸を撫で下ろすと、よかったあ!と思わず出たといった風な安堵の声をあげた。
    「無事ですか!?」
     そこへ光の尾を引きながらアデルベルトが走ってくる。彼の位置からも己の一射でルナゲイザーが倒しきれなかったのは確認出来ただろうから、恐らく全速力でこちらへ戻って来たのだろう。ルナゲイザーの姿がない──地面にどろどろとした残骸だけが残っている──ことを確認し、ほっとした様子ではあるものの申し訳なさそうに眉は下がったままである。
    「申し訳ありません、狙撃が甘かったですね」
    「いや……いや、卿はよくやったとも、あの遮蔽物の数ではね……」
     まだぼんやりとした様子でアデルベルトを労ったジェラルドは、己と同じくまだ意識のはっきりしない様子のウォルターの肩を叩いてから、ヒューゴの方を見た。
    「ラッセル卿も。卿がいなければ危なかった」
    「へ、いや、とんでもない……」
     すわりの悪そうな顔で口ごもったヒューゴは、己の手が少し震えているのに気付いてそっと深呼吸をした。


     ……こうして“狂気の魔眼”を持つ怪物、ルナゲイザーは討伐された。
     被害は部隊が一つのみ──「のみ」と言うには少々大きい犠牲ではある──、一般国民への大きな被害は出さずに済んだ。なのでこの事象については後世まで記憶として伝わることはなく、ただの記録として残るだけにとどまった。
     それで良い。
     世は並べて事も無し。All’s right with the world!
    新矢 晋 Link Message Mute
    2019/11/11 23:24:49

    魔の目

    #小説 #Twitter企画 ##企画_オルナイ
    “魔眼”を倒しに行く騎士たちの話。

    アデルベルト@自キャラ
    ジェラルド@識島さん
    ウォルター@うん孔明さん
    ヒューゴ@そめさん

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    オルナイ_アデルベルト
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