EM-エクリプス・モース- 第三章「赤雷の騎士と闇の王」赤雷の騎士父さん……俺は騎士として失格だ。俺は、騎士として守るべき者を二度も守れなかった。そんな俺に出来る事は———。
サレスティル王国を後にしてから数日後、ヴェルラウドはかつて父に連れられて辿り着いた集落に来ていた。集落には父の墓がある。父が眠る墓の前で、ヴェルラウドは亡き父への想いを馳せていた。母国クリソベイアでは騎士団長として国民から称えられ、誰よりも尊敬していた父。魔物の軍勢によって深手を負い、自らの命を捨てて助けてくれたのも父だった。ヴェルラウドは胸ポケットに忍ばせていたシラリネのペンダントを取り出し、僅かに震える掌と共にジッと見つめる。
「……俺に出来る事ならば、何だってやってみせる。何だって……な」
胸中に秘めた想いを言葉に表したヴェルラウドはペンダントを首にかける。
「まってよ~!」
「きゃはは、ここまでおいで~!」
不意に無邪気な子供の声が聞こえてくる。はしゃぎ回る小さな女の子と男の子だった。
「あっ!」
走っていた女の子が突然転んでしまう。
「ぐすっ……うっ、うえ~ん」
転んだ事で膝を擦り剝いてしまった女の子は泣き出してしまう。
「どうしたの、だいじょうぶ?」
男の子が心配そうに見つめている。その様子を見ていたヴェルラウドは子供達の元に歩み寄る。
「ケガしたのか?今助けてやる」
ヴェルラウドは手持ちの薬草をすり潰し、女の子の膝の患部にそっと当てる。
「よし、これでもう大丈夫だ」
応急手当が済むと、ヴェルラウドは女の子に笑顔を向ける。
「ありがとうおにいちゃん!」
「ああ。転んだりしないように気を付けるんだぞ」
気さくに振る舞うヴェルラウドを、男の子が興味深そうに見つめている。
「おにいちゃん、何者なの?」
「うん?俺が何者かって?そうだなぁ……いろんな人をお守りする騎士さま、かな」
「え!おにいちゃん、騎士さまなの!?すごいやすごいや!」
男の子は目を輝かせてはしゃぎ始めると、ヴェルラウドは男の子の背丈に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「君はこの女の子の友達か?」
「うん」
「だったら、何があっても大事に守ってあげるんだぞ。大切な友達だったらな」
ヴェルラウドは穏やかな表情を浮かべながら男の子の頭を撫でてはそっと立ち上がり、マントを翻して去って行った。
「かっこいいなぁ……あれが騎士さまかぁ」
男の子は去り行くヴェルラウドの背中をジッと見つめている。
「ねえねえ、騎士さまってなあに?」
女の子が興味津々で男の子に聞く。
「騎士さまはねえ……お城のおひめさまをおまもりする人なんだ。ぼく、おおきくなったらお城の騎士さまになりたいんだ」
男の子はヴェルラウドの姿に密かな憧れを抱き始めていた。
集落を去ったヴェルラウドが向かう先は、母国であるクリソベイア王国だった。魔物によって陥落したが、もしかすると何かがあるかもしれない。自身がまだ知らない隠された何らかの秘密があるのかもしれない。サレスティル女王を浚った謎の黒い影を追うのが目的であるが、黒い影は今何処にいるのか解らない。行くべき場所も解らない。当てもなく彷徨うより、母国に戻る事で少しは何かの糸口が掴めるかもしれないからだ。その途中に襲い来る魔物の群れ。魔物の数はかなりのもので、凶暴化したものが次々と襲い掛かって来た。数々の魔物を打ち倒し、橋を越えて更に北東へ進む。半日間に渡って止まらない魔物との戦いを重ね、傷ついた身体を引きずりながらも廃墟となった城に辿り着く。そこがクリソベイア王国だった。騎士の国と呼ばれていたかつての栄華は完全に滅び、瘴気と毒、そして今でも人々の屍が転がっている廃墟であった。
一体……何故こうなったというんだ。俺を狙う魔物どもは、何故この国を……。
やり切れない思いのまま、ヴェルラウドは廃墟の城に足を運ぶ。城の中にも騎士達の屍が転がっており、酷い死臭が漂っていた。所々が荒れ果て、瓦礫だらけの廊下を歩くヴェルラウドは母国で暮らしていた頃の出来事を振り返っていた。
「どうした!お前の力はその程度ではないはずだ。もっと打ちかかれ!」
ヴェルラウドの父であり、剣の師でもある騎士団長のジョルディス。王国の騎士を指揮し、王国一の剣の腕を誇る実力者であり、厳格ながらも真っ直ぐで責任感が強く人望に厚い人柄で国民からは大いに慕われている存在であった。幼い頃から備わっていた騎士としての素質を見込まれたヴェルラウドは、父からの厳しい訓練を叩き込まれる日々。数年間に渡る騎士としての訓練を乗り越えた結果、未来の騎士団長に相応しい実力を身に付け、クリソベイア王と姫であるリセリアを守る騎士に任命されるようになった。
「あなたがジョルディスの息子なのね」
「ええ。姫様をお守りする騎士として、この命に代えてでもお守り致しましょう」
ヴェルラウドの瞳からはジョルディスに似ているものを感じた王とリセリアからは絶大な信頼を寄せられ、国王と姫を守る騎士として生きる事となったのだ。
「陛下……姫様……」
過去の出来事を振り返っているうちに、ヴェルラウドの脳裏に魔物の凶刃によって切り裂かれ、血に塗れて倒れるリセリアの姿が浮かんでくる。思い出は忌まわしい記憶へと変わっていき、ヴェルラウドは項垂れながらも拳を震わせていた。城の中を彷徨う中、ある部屋に辿り着く。そこは、幼い頃のヴェルラウドとジョルディスが共に過ごした部屋だった。
ねえお父さん、ぼくのお母さんってどこにいるの?なんでお母さんいないの?
母さん……か。ちょっと、お仕事中なんだ
おしごとちゅう?
今はちょっと遠いところでお仕事に行ってるんだ。何、そのうち帰って来るよ……。
生まれた頃からは既に母親の姿はなく、母親の顔を知らないヴェルラウドは何故自分に母親がいないのか解らなかった。あの頃はお仕事に行ってると教えられたから、そのうち帰ってくるものだと信じていた。だが、何時になっても帰ってくる事は無かった。母は今、生きているのだろうか。そうでないとしたら、幼かったあの頃の自分に悲しい想いをさせないためにも、父はあえて嘘をついていたのだろうか。その答えを知る事がないまま、父はこの世を去った。もし母が何処かで生きているなら、何故この国を去ったのだろうか。そもそも母はどんな人なのだろうか。自身に備わっている赤い雷の力は、父には備わっていない能力であった。そう考えると、この能力はもしや……。
ヴェルラウドは顔も知らない母の事を考えながらも、部屋を後にする。崩れかけた階段を登り、謁見の間へ向かおうとする途中、不意に立ち止まる。何かの気配を感じ、足を止めたのだ。
(……この城に、何者かの気配がする……城にいるのは俺だけじゃねぇのか……)
得体の知れない気配に用心しつつも、階段を登り終え、謁見の間に辿り着く。そこには無数の白骨死体が転がっており、凄まじい死臭に塗れていた。
「うっ……!」
ヴェルラウドが見たものは、一つ目の影の姿を持つ魔獣———シャドービーストだった。玉座の前で頭蓋骨を舐め尽くしているシャドービーストはヴェルラウドの存在に気付き、鋭い牙を剥けて唸り声を上げる。
「チッ、バケモノが」
剣を抜き、構えるヴェルラウド。飛び掛かるシャドービーストの攻撃をかわし、剣による一閃を加えては距離を取る。手強い相手だと感じたヴェルラウドは赤い雷を剣に宿し、シャドービーストの爪の一撃を受けつつも、体に剣を突き立てる。赤い雷による感電がシャドービーストを襲い、咆哮が轟く。一つ目を赤く光らせ、凶悪な表情を浮かべるシャドービーストが飛び掛かった時、後方から地面を這う斬撃の衝撃波が襲う。突然の衝撃波によってシャドービーストは体を真っ二つに切り裂かれ、声を上げる事もなく息絶え、溶けるように消滅した。
「何だ今のは……?」
予期せぬ出来事にヴェルラウドは思わず背後を振り返る。
「ふむ。危ないところだったようだな」
声と共に現れたのは、戦斧を手に持つ鎧を着た大柄の戦士の男だった。
「誰だ!」
見知らぬ男の出現に剣を構えるヴェルラウド。
「待て。決して怪しい者ではない。不審だと思うのも無理はないかもしれぬが」
冷静な声で男が言う。
「あ~あ。例の人って本当にこんなところにいるのかしら?この城ってば、目ぼしいお宝みたいなものはないし腐敗臭半端ないし全然いい事ありゃしないわ!」
続いて女の声が聞こえてくる。やって来たのは、杖を手にした魔導師のような印象を受ける金髪のショートカットの少女だった。
「あれ?オディアン。そこにいる人は誰?」
ヴェルラウドの存在に気付いた少女がオディアンと呼ばれた戦士の男に声を掛ける。
「スフレよ。どうやらこの者で間違いないようだ」
「本当!?ねえ、ちゃんと確認したんでしょうね?」
「うむ。紛れもなく赤き雷の力を使っていた」
「こんなイケメンが賢王様の言ってた赤雷の騎士だっていうわけ?あたしがイメージしてたのとちょっと違ったなぁ」
突然現れた少女スフレとオディアンのやり取りを前に一体何なんだと戸惑うばかりのヴェルラウド。
「おい、いきなり何なんだよあんた達。何の話をしているんだ?」
ヴェルラウドの一言に、スフレは表情を笑顔に変えて軽くお辞儀をする。
「初めまして、赤雷の騎士様。賢王に仕えし賢者スフレ・モルブレッドと申します」
続いてオディアンが胸に手を当てて軽く頭を下げる。
「初にお目に掛かる。私は剣聖の王に仕えし騎士オディアルダ・レド・ロ・ディルダーラ。オディアンと呼んで頂きたい」
二人が自己紹介をすると、ヴェルラウドはそれに応えるようにお辞儀を始める。
「俺はヴェルラウド・ゼノ・ミラディルス。このクリソベイア王国の生まれだが、魔物どもの手によって陥落してからサレスティル王国へ移住した騎士だ。だが今は訳あって旅をしている。あんた達は、俺について何か知っているのか?」
スフレは軽く咳払いをする。
「あたし達は賢王様の予言に従い、赤雷の騎士の力を求めてやって来たのよ。ヴェルラウドと言ったわね。あなたはかつて闇王と戦った赤雷の騎士の子であり、赤き雷を継ぐ者。復活した闇王を討つ為には、あなたの力が必要なの」
「赤雷の騎士……闇王?どういう事だ?」
唐突な話にヴェルラウドは困惑するばかりだった。
「……って、いきなりこんな話してもわけわかんないよね。とりあえず、賢王様のところへ案内するわ。賢王様はあなたを必要としているんだからね」
「待てよ。その賢王とかいうのは誰なんだ?何故俺を……」
「つべこべ言わず今はあたしの言う通りにしてちょうだい!あれこれ説明するのも面倒なのよ!」
スフレはヴェルラウドの腕を引っ張ってまで無理矢理バルコニーに連れて行こうとする。
「悪いが今はスフレの言う通りにしてくれ。我々にとっては重要な事なのだ」
オディアンの一言。ヴェルラウドは訳が分からないまま、スフレに引っ張られる形でバルコニーに向かって行った。バルコニーに出ると、スフレは腰から銀色の笛を取り出し、綺麗な音色によるメロディを奏でる。すると、遠い空から一体の飛竜が飛んでくる。現れた飛竜はヴェルラウドの前に降り立つと、誘うように鳴き声を上げる。
「こ、これは……?」
「この子は賢王様が手懐けた飛竜のライル。背中に乗れば賢王様の神殿へひとっ飛びよ!」
颯爽と飛竜のライルの背中に乗るスフレ。
「こいつに乗れって言うのかよ……」
ヴェルラウドは一瞬躊躇するが、成り行き上乗るしかないと思い、恐る恐る背中に乗り込む。オディアンが乗り込むと、ライルは翼を広げて空高く飛び立つ。
「うわわわわ!お、おい!危ないだろ!」
慌てて手綱を握るヴェルラウドだが、飛竜の背中に乗った慣れない空の旅はひたすら落ち着けない状態だった。
「ちょっと!ジタバタしないでよ!高所恐怖症なの!?」
「仕方ねえだろ!俺こういったのは初めてなんだよ!」
「もう、初心者でも少しは我慢してよね!変なところ触ったりしたら突き落とすわよ?」
あたふたするヴェルラウドをしっかり抑えつけるオディアン。三人を乗せたライルは陸地を離れ、海を越えて数十分後、見知らぬ大陸へと降り立った。
「はぁ、はぁ……ここは?」
空の旅から解放されたヴェルラウドの額は汗に塗れていた。三人が降りた場所は、荘厳な雰囲気漂う神殿の前だった。
「ここが賢王様の神殿よ」
スフレが神殿の門の扉を開く。門の向こうにある長い階段を登っては神殿の中に入る。多くの賢人に迎え入れられる中、大祭壇の間に入る。祭壇の上には年老いた賢者がいた。
「よくぞ来た、赤雷の騎士よ。わしは賢王マチェドニル。賢者を統べる者、といったところじゃ」
賢王マチェドニルを前にして跪くスフレとオディアン。ヴェルラウドは律儀にお辞儀をして自己紹介をする。
「あなたは俺の事を必要としているようだが、一体どういう事なんだ?それに、赤雷の騎士とは……」
「うむ。話せば長くなるのだが……ヴェルラウドよ。そなたはかつて悪しき魔の一族との戦いに挑んだ赤雷の騎士エリーゼの子。つまりそなたは魔を滅ぼす赤き雷の力を母となるエリーゼから受け継いだ騎士なのだ」
ヴェルラウドは思わず自身が扱っていた赤い雷について振り返る。初めて赤い雷の力が発動したのは、母国の少女が魔物に襲われている時だった。魔物に苦戦を強いられている時、突然巻き起こった雷の力で魔物を一瞬で倒してしまった。その力は後に降りかかる王国の悲劇と相まって、王国中の言い伝えにあった災いを呼ぶ力ではないかと錯覚していた。だが、それが魔を滅ぼす力というのはどういう事なのだろう。そしてこの赤い雷の力は自身の母親から受け継いだものであるという事———マチェドニルの口から語られる話に、ヴェルラウドは様々な思いを募らせる。
「世界に災いを運ぶ闇の力を持つ種族を束ねる王……闇王と呼ばれる者が復活し、この世界の何処かに暗躍している。そなたの母国であるクリソベイアが魔物に襲撃されたのも、闇王によるものなのだ。赤雷の騎士であるそなたを討つ為にな」
ヴェルラウドは衝撃を受ける。魔物達が自身を狙っていた理由がようやく判明した事により、闇王とは何者なのかという考えが頭を過る。
「闇王……そいつは何者なんだ?全てそいつの仕業だったというのか!」
拳を震わせ、叫ぶようにヴェルラウドが言うと、マチェドニルは話を続ける。
人々の間では、闇を司りし力を持つ者は世界に災いと破滅をもたらす存在とされていた。古の時代、地上の全てを冥府の闇で支配した冥神と呼ばれし邪神が伝説として人々の間で語り継がれ、地上に存在する闇の力を持つ者は邪神が遺した遺産とされ、地上に蔓延る魔物は闇の力によって生み出されたものだと伝えられていた。神に選ばれし者によって冥神が封印され、地上に光を取り戻してからも闇の力を司る者は多く存在していた。闇を司りし者———外見上は普通の人間と変わりないが、闇の力が目覚めると悪魔の姿に変化する者を『人魔族』、人間の姿をベースとした悪魔の姿を持つ者を『魔族』と呼び、そして闇を司りし者を束ねる存在が、闇王であった。地上に多くの魔物が現れるようになり、人々が魔物の存在に危機感を抱き始めた頃、何処からともなく現れた強大な魔物が一つの大陸に猛威を振るうようになる。魔物は強力な闇の力を扱う恐るべき存在であり、やがて大陸全体に脅威をもたらすようになるが、現在のサレスティル女王である戦乙女シルヴェラ、クレマローズ王国のガウラ、クリソベイア王国の騎士ジョルディス、剣聖の王国ブレドルドの剣士グラヴィルと妹となる騎士エリーゼ、そして賢者マチェドニルによって倒された。恐るべき魔物を生み出した元凶となる存在が闇を司りし者にあるとされ、魔物を倒した戦士達は闇を司りし者達との戦いに挑んだ。闇を司りし者に挑む戦士の一人であるエリーゼには、赤き雷の力が備わっていた。それは冥神に挑みし者の一人である戦女神が操る雷であり、全ての魔を打ち砕く雷と闇を浄化する光の炎の力を併せ持つ裁きの雷光であった。闇王との死闘の最中、グラヴィルが深手を負って倒れた時、エリーゼの中に眠る赤き雷が目覚め、迸る裁きの雷光は闇王を打ち倒した。雷光は闇を司りし者を滅ぼし、赤雷の騎士として称えられたエリーゼはジョルディスと結ばれ、クリソベイアに移り住んだが数年前から病を患っており、一人の子供をもうけた直後にこの世を去った。兄であるグラヴィルも既に亡くなっていた。
そして今———何らかの理由によって闇王が蘇り、邪悪なる魔物を使役して赤雷の騎士を狙っているのだ。
「まさか……俺の親父とお袋が……」
マチェドニルの口から語られた過去の出来事を聞いて言葉が出ないヴェルラウド。
「ヴェルラウドよ。闇王は古の邪神が生み出した存在なだけに、このままだと世界に脅威をもたらす事になるであろう。そなたを狙いながらな。奴を打ち倒す為にも、ある物を手に入れて欲しいのじゃ」
「ある物?」
マチェドニルの言うある物とは、冥神に挑んだ古の戦女神の力が備わった神雷の剣と呼ばれるものであった。ブレドルド王国の王家によって守られていた剣であったが、強大な魔物が猛威を振るった際にグラヴィルの手に渡り、闇王が倒れた後、エリーゼによってブレドルドの王家が管理する地底神殿の奥深くに封印されたという。剣が封印された地底神殿の扉を開くにはブレドルド王の力が必要であり、闇王の居城がある大陸は闇の結界に覆われている故に神雷の剣がないと闇王の元へたどり着けないというのだ。
「やれやれ……随分と厄介な事になったもんだな」
想像以上の試練を課せられたヴェルラウドは軽く溜息を付く。
「スフレよ。オディアンと共にヴェルラウドの力になってくれ」
「はい!私の魔法ならばきっと大きな力になれるでしょう」
スフレがお辞儀をして挨拶をする。
「てなわけで!あたしがあなたのサポートをしていくからよろしく頼むわね、ヴェルラウド」
「あ、ああ」
「ブレドルド王国は私の出身国だ。私が王国まで案内しよう」
オディアンの案内でブレドルド王国へ向かう事となったヴェルラウド達。ブレドルド王国への道のりは徒歩では所要時間十数分程の距離であった。
「なあ、あの翼の生えたドラゴンは呼ばねぇのか?」
「呼ぶ必要ないわよ。ブレドルドはここからだとそこまで遠くないんだし」
「そうか、それなら安心だ」
「ふーん、さては怖かったんだ?」
「な、なわけないだろ!」
「ハハハ!あなた、一見すまし顔のクールなタイプだと思わせといて割と表情豊かなのね!」
「うっ、うるせぇよっ……」
からかう調子で言うスフレに、ヴェルラウドは少々顔を赤くしながらも反論した。
「む?お前達、気を付けろ。魔物の気配がする」
オディアンが戦斧を構えると、魔物の群れが出現する。獰猛な魔獣ヘルジャッカル、逞しい肉体を持つ牛型の獣人オックスバトラー等の凶暴な魔獣タイプが多数集結していた。
「この程度などあたしの魔法があれば楽勝よ」
スフレが詠唱を始めると、魔物の群れが一斉に襲い掛かった。ヴェルラウドとオディアンがそれぞれ武器を手に迎え撃とうとした瞬間、スフレの身体が魔力のオーラに包まれる。多数の属性魔力を司る賢者の象徴である黄金のオーラだった。
「アーソンブレイズ!」
スフレが杖を地面に突き立てると次々と火柱が巻き起こり、魔物を取り囲むように大きく燃え上がる。怯んだ魔物の群れを、オディアンが戦斧の一撃でなぎ倒していく。
「跡形もなく吹き飛ぶがいいわ!エクスプロード!!」
スフレの凝縮された炎の力が爆発を起こし、魔物の群れを吹き飛ばしていった。スフレの魔法とオディアンの攻撃によって、魔物の群れはあえなく全滅した。
「すげぇな……」
ヴェルラウドはただ驚くばかりだった。
「どう?これがあたし達の実力よ。驚いたでしょ?」
「……そうだな」
素直に感心するヴェルラウド。
「ま、闇王の力はとてつもないものだって聞いてるから浮かれてらんないけどね。あなたも頑張りなさいよ」
「ああ、それくらいはわかっているさ」
三人は再び歩き始める。途中立ちはだかる魔物を撃退しながら進む事数十分、三人はブレドルド王国に辿り着いた。