一堂零と幼馴染のチャコが、少し危うい雰囲気になる話悩んで学んで
「お盆を過ぎるとさ、朝の五時になっても、少し暗いと思わないか、チャコ。」
「あんた、夏休み期間中にそんなに早く起きるのー?」
「運が良ければ、蝉の脱皮が見れるのだよ。近頃は、朝早くても夕立のように、ザーッと雨が降ることが多いけどさ。チャコ、あの雨何ていうか知らないか?」
「それは零、朝だちじゃない?」
「なるほどなっ」
八月も終わりが近いと、夏の果物を食べたら体が少し冷えてくる。
「回覧板回しに来ただけなのに、西瓜までご馳走になって悪いなぁ」
「いいんじゃない?うちのおかーさん、零のこと好きみたいだし」
零は先程から、美味しいと満面の笑みを浮べて西瓜を平らげている。いい食べっぷりだな、やっぱり男の子だ。
「タンクトップに半ズボンなんて、もう少し服装に気を使ったらー?」
「いいだろ、夏だし。君もさっきまで下着みたいな格好だったじゃないか」
「キャミソールだよ、失礼な」
「パーカーを着てくれたから良かったものの、目のやり場に困る」
「こっちこそ、お土産に蝉の抜け殻なんて貰って困ってるとこだよ。」
「昔は手づかみで蝉を捕まえては、私の背中に入れて泣かせて遊んでた癖に」
「やだよ。いつまでもそんなことしてたらモテないもん」
「チャコは時々、女の人みたいなことを言う」
「女の人だよ」
「良い事を教えてあげる。蝉の抜け殻は美容にいいのだよ。卵とじにすると、なかなかの味になる」
「嘘つき」
半刻ほど前に、零があたしんちの玄関先までやってきて、庭に水撒きをしているあたしに、チャコ、回覧板!と声をかけたんだ。お庭までは敷地だよね?炎天下にキャミソール一枚とホットパンツで、お洗濯ものやお布団を干して、水撒きをしていても、零に咎められる謂れはないと思うよ。
「そもそも君んちに回覧板回したら、とっとと帰るつもりだったのだ」
炎天下の中、玄関先で二人で会話が転がって行くもんだから、おかーさんが、中に入って喋ったら?と零に勧めたんだ。下着みたいな格好をしている男女二人が、いつまでも外で、くっちゃべるのは世間体が悪いってのもあるけどね。
おかーさんも、零とあたしに西瓜を振る舞ったあと、パートに行っちゃったし、健一も学習塾に行って夜まで帰ってこない。今日は居るも帰るも自由な幼馴染の二人きりの家。閉じ込めておきたいのはどうでもいい無駄話くらいだ。
「天野さんって、いたじゃない?」
炎天下のはずだったのに。西瓜を食べるとお腹の芯からお尻が冷えだした。零はそんなこと感じないのかな?そういや、零の身体の向こうの西の空が少し鉛色をして、さっきよりも広がってきている。
「あの子が零に預けてた猫って、飼い主見つかったの?」
「結局、同じ御女組の女の子が飼ってくれることになったな。天野くんもよくわからない。最初っから御女組の連中を頼れば良かったのだ、私じゃなくてさ」
「零に、頼みたかったんじゃないの」
「よしてほしいな。一回でも可愛がったり面倒みたものには、責任が出てくるだろ。ラッシーだって、もともと迷い犬で飼う気は無かったのだ」
「名前までつけちゃったもんね。清水の舞台から飛び降りる気持ちで」
「ラッシー!」
零の呼び声が塀一つ飛び越えて、零の家に届いたのか、ラッシーが、オンオン!と返事をする。
「そーいや、散歩の時間じゃない?お茶出してあげるから飲んだら帰りなよ。あたしも夏休みの宿題するからさ」
「夏休みの宿題なんかするのか、この裏切り者」
「はいはい。西瓜食べた後だし、麦茶、温かくして出してあげるよ。」
二人で食べ散らかした西瓜の皮をお盆の上に纏めるあたしを見て、零は、チャコはお母さんみたいだと笑う。スキあらば、おままごとして遊ぶあたしは、お母さんになって、何でも片っ端から可愛がるのが大好きなのだ。それが零だったり、弟の健一だったり。二人が大きくなって、あたしに可愛がらせてくれないときは、ペットのチンパンジーのチータを抱きしめたり。
「あたしも猫ちゃん飼いたかったなあー」
「なんだチャコ。さっきの天野くんの猫の話か?」
「そーだよ、可愛いし抱っこしたいもん。それで、零とラッシーと鈍ちゃんとパー子が来てさ、猫ちゃん歓迎パーティーとかしたら楽しそうだよね」
「生き物バンザイじゃないんだぞ、チャコ」
零は呆れたように呟くと、あたしが淹れた熱い麦茶を受け取った。そのままあたしは、零の隣に、零の体温をなんとなく感じる距離に座った。零が麦茶を飲む時に上下する喉仏を見てると、やっぱり男の人なんだと思う。
「うちにはチータがいたから、猫ちゃんの名前は、水前寺清子にしようかなー」
「君の冗談は、たまにわけがわからない」
離れて暮らす、おとーさんの仕事の関係で、チンパンジーの子をチータと名付けて、あたしのうちで飼っていたけど、もともとは家庭で飼えない種族だから、大人になる前に動物園に渡したのだ。あたしがチータを抱きしめていたのは、ごく短い間だけだった。
「今日は宿題も捗りそうにないし。鈍ちゃんを呼んで、三人で無駄話しない、零?」
「急にまた、なんで鈍ちゃんなのさ?」
「だってあたしたち、仲良しご近所三人組じゃない!二人でこんなに無駄話が盛り上がるんだもん、きっと三人だともっと盛り上がるよっ」
我ながらいい考えだ。あたしが名付けたご近所三人組は、鈍ちゃんが子供で、零がお父さんで、おままごとしていたほどの仲良し三人組なんだ。あたしが奇面組という、零が選んだもう一つの家族に対抗しているのもあるけどね。
「だから、あたし、鈍ちゃんに電話してくるね」
そう言って、立ち上がった時だった。
あたしの腕を、零が、ぐっと掴みだしたのだ。あたしの腕を掴んだ零の掌は、あたしの少し冷えた身体を溶かすように熱くて、座っているのにあたしが振り払えないくらい強い。
「どーしたの、零」
零はこっちを見ずに下を俯いたままだ。
「手を放してよ、あたし電話かけられないよ?」
あたしの腕を掴んでおきながら零は応えようとしない。
「あんたも勝手だね。奇面組って言う家族がいるのに、あたしなんかにさ」
あたしは根負けして、また元の位置に座り直した。再び零の体温を微妙に感じている。
「くすぐったいって、零!」
ホットパンツを穿いているあたしの露わな太ももの上に、零が自分の頭を載せてくる。あたしの太ももに零の頭の熱と重みが伝わりだした。
「さっき回覧板と一緒に渡した蝉の抜け殻、今日抜けた奴なのだよ」
ようやく口を開いたかと思ったら、くだらないことを言って、猫のようにあたしの露わな太ももの上に頭をワシャワシャと擦り付ける。あたしは、むず痒い気持ちを堪えて抗議した。確かに猫が欲しいとは思ったけど、こんな大きな猫、扱いに困るよ。
「君の膝は気持ちいいな、チャコ」
この猫、あたしの膝から、どこうとしない。
「次からお金取るよ、零」
「私を餌付けしたのは君だろう?」
「西瓜のこと?男手がいないあたしのうちを、零が時々助けてくれたことあったじゃない。日頃のお返しだってば」
わけあって、あたしの家族は、おとーさんと暮らしていない。
「男の人っていいなって思うもん」
零の家族は、お母さんがいない。
「チャコ、手がお留守」
「撫でろって言いたいの?」
「餌付けされた上に君の家の役に立ってるわけだろ?私は君に飼い馴らされているようなもんじゃないか」
「ラッシーじゃないんだからね、あんた」
「面倒を見たものには責任があるのだよ。君もチータで知ってるだろ」
あたしの零の頭を撫でる手が止まった。
「ごめん。思い出させてしまったな」
「あははっ。短い間のことだから、覚えてないや」
零の真似だ。死んだお母さんのことを聞かれた零は、いつも笑ってはぐらかす。零は纏まりのつかない感情に触れられたとき、多分こうして、自分の気持ちを守ってきた。
チンパンジーは大人になったら、人を襲うこともあるからと言われ、可愛がっていたチータを動物園に引き取って貰ったことが、あたしに大事なものを手放したという纏まりのつかない感情になっていく。あたしにはもう、抱きしめるものがいないのだ。
「私が、チータや猫の代わりになってもいいのだよ」
「生き物を飼うって死ぬまでってことだよね。チータはね、チンパンジーは五十年生きるんだよ、あたし、おばあちゃんになるまで、ずっとチータを大事に出来るかわかんないや」
「五十年か。親子やってる長さだな。父ちゃんもその年齢まで、私にスネを齧らせてくれるかな。たまに親に申し訳なく思うのだ。チャコと私の親は夫婦じゃなくて、一人で子供を育てているだろ。関係を持つって大変なことだな」
「零のところはお母さんが亡くなったけど、うちのところは、おかーさんが、おとーさんを飼い馴らせなかったのかもね」
「……吐き出したいのかな?チャコは」
零の手が、あたしの頬に触れ、イイコイイコしだす。零の手は熱が強い。
「ううん。二人とも大変だったから離れ離れで良かったんだと思う。チータとあたしも結局それで良かったんだ」
「そうだね。どうにもならないことはチャコのせいではないのだ。ラッシーには子供を作られては叶わないから去勢させたしな。可愛がるのは人間の勝手かも知れない」
縁側の外に目をやると、いつの間にか、夏の青空を追い出した鉛色の雲が天を覆っている。雲が孕んだ暗さに鳴き出すコオロギがいる。秋はもうすぐそこだ。夏休みの宿題はしなくちゃいけない。あたしは頬を撫でてくれる零の手に自分の手を重ね、そっとあたしの頬から、零の手を外した。
「可愛がりたいのは人間の勝手か。大人の世界だね」
「人間同士で飼い馴らすってさ、餌付け以外なにがあるのかな?」
「さあ。あんたたち奇面組みたいに友情だったり、猫を預けたりすることじゃないの」
天野さんって子、預けた猫のそばで、一緒に寝息をたてる零に想いを馳せることは絶対に無かったのかな。
「あたしだって、あんたみたいに家族みたいな仲間が欲しければ、頼る相手が欲しいもん」
あたしは早く、抱きしめる相手が欲しい。おままごとのように、ひたすら可愛がる相手が欲しいんだ。
「やっぱりチャコは女の人だな」
あたしの膝の上で、零が笑う。
「あんたは全部持っているじゃない。羨ましいよ。あたしも友達はいるけど、そこまで深い仲の人はいないよ」
「なんなら君も一緒に、私達と海や夜店で遊べば良かったのだ」
そのなかに、あたしが入れるわけがない。零が閉じ込めた奇面組という家族に、零が選んだ仲間の中にどうやってわけいることが出来るのだろう。
「ねぇ、零」
夏中うるさかったはずの蝉の声が弱々しい。零が見つけた抜け殻の中の蝉は、ちゃんと相手が出来たんだろうか。
「あんたが選んだ奇面組みたいにさ。あたし、誰かに選ばれたっていうのないんだよね」
コオロギの鳴き声が警告しているかのように響く。夏の虫から秋の虫に、庭の世界が変わってる。あたしたちが人生の中にいるのはどのへんの季節なんだろう。鉛色の雲が連れてきた冷たく強い風の吹く方向から、ゴロゴロとした重い音がしだした。
虚ろな、あたしの心に響くように、大粒の雫が庭先で一つ二つ、それよりももっと、拍子を乱して跳ねる音がする。
「選ばれるのって、どんな気持ちなのかな」
親も相手を選び結ばれて、零もあたしも生まれてきた。その後の人生が、絵本の読み聞かせみたいに、メデタシメデタシで終わらないものだって分かってる。零もあたしも、ごっこ遊びが好きだけど、模倣していた大人の世界が、すぐそばに迫ってきているのだ。
「羨ましいな。あんたみたいにあたし、誰かに頼られたいし、秘密を持ち合いたいんだ」
雲の向こうのゴロゴロとした重い音が、近くに迫ってきた。縁側にいると、夏の熱を吹き飛ばす冷たい風が身体にあたる。せっかく熱い麦茶で暖めたのに、零の頭で温めたのに。
「チャコと鈍ちゃんとおままごとをする時は、いつも私は、お父さん役だったな」
零は、あたしから身体を離し、身を起こした。零のいない膝がすうすうして、寒くて軽い。
「小さい頃は子供役をさせてもらえたのに、いつの間にか甘やかせてくれなくなったのが、少し寂しかったのだよ」
零は、あたしに目線を合わせてきた。それだけじゃない、今度は、両腕であたしの身体を引き寄せてきた。
「零!」
抱きしめる相手が、あたしは欲しかったはずなのに。あたしの顔が零の首あたりに迫りだした。あたし、抱きしめられているんだ。冷えた身体が、零の熱を吸い込みだす。あたしがずっと欲しかった熱さと重さだ。
縁側の外で、何かが光る。間髪入れず、地響きをたてる音がする。カミナリさまだ。おかーさんや健一の留守中に、家で零とふたりっきりで不埒なことをしているから怒られているのかな。これからあたし、零と不埒なことをするのかな。あたしと零の心臓がカミナリ様に負けないくらい、お互いの胸を激しく鳴らし出す。
「君が私を、お父さん役にしたのは、そういう意味かと思っていたのだ」
そういうと、零はあたしをゆっくり押し倒した。外は大粒の雫が次々と、地面めがけて振り出し、屋根や窓の音をたてる。風も窓を叩き出す。嵐だ。あたしの頭の中の纏まりのつかなさと同じだ。どうしよう。あたし、零としていいんだろうか?自立もしていないのに。おかーさんはおとーさんなしで、一人で頑張っているのに。
「あんた、何する気?」
「チャコが聞いたんじゃないか、選ばれるのってどんな気持ちって」
零の身体があたしの身体を押しつぶさないように、四つん這いになりながら、近づけてくる。ジリジリと近づくさまはまるで猫みたいだ。あたしが、おままごとをして抱きしめて可愛がっていた頃の零とは違う。あたしを簡単に抱きしめたり押し倒したり出来る、男の人に塗り替えられたんだ。
「君は私を選んでくれたと思ってたけど」
おままごとや、餌付け以外の飼い馴らす関係。もっと原始的で、両親もしていて、庭先の蝉やコオロギもしている関係。答えがなんとなくわかると、あまりのことに目が眩みそうだ。
「チャコ、私も君のこと……」
零があたしに、唇を重ねようとしたとき。あたしは咄嗟に、零を平手打ちしてしまった。平手打ちの景気の良い破裂音と、カミナリ様が地響きをたてる音が重なった。零は自分が仕出かしたことに気づくと、申し訳なさそうに目を伏せた。
「ごめん、チャコ」
窓の外は大粒の雫が地面を打ち付けている。
「あ、あああ、あたしこそ、ごめんね。零!」
「……チャコが謝ることないのだ。悪いのは」
「ほら、あんたのほっぺた、蚊が止まってたからさ。思わず叩いちゃった」
あたしの目尻には小さい雫だ。
「手加減して叩けば良かったのにねっ」
大声を出してしまった。紛らわせないと、纏まりのつかない感情に、飲み込まれてしまいそうだからだ。零はまだ、おままごとの頃のあたしの可愛い子供だと思っていたのに。
「蚊ってしつこいよねー。卵を産まなきゃいけないから、しつこくもなるかな。お母さんだもんねっ」
「ほんとに蚊なのかい?」
「蚊だって!あはははっ」
零もあたしも、その辺はまだ子供だ。とりあえず笑っとけとばかりに、二人とも乾いた笑いをしたけれど、先から動悸が止まらない。腹立たしい。
「あんた、この気まずい空気をなんとかしなさいよっ」
あたしの怒声と一緒にカミナリ様が地面を震わせた。
「謝るしかないのだ。君は私を選んだと思いこんで、二人だけでいると歯止めが効かなくて」
今日の零は、あたしの知ってる零じゃなかった。何が零に火をつけたんだろう。
「私はとっくに君を選んでいたのだよ」
「嘘つき」
「君に怖い思いをさせてしまったのだ。反省している。なんならもっと平手打ちしても構わない、だから」
「ちょうどいいわ、夏休みの自由研究にカミナリ様と人間のおへその関係ってやりたかったの。あんた、へそ出して庭に出てよ」
「……それで気が済むなら、そうするけど」
零は縁側を出て、天を仰いだ。外は一層大粒の雨が打ち付ける。
「君のうち、洗濯物やら布団やら干しっぱなしじゃないのかい?」
「ああっ!」
外はうちつけるような大雨だ。
「せっかく、お昼に庭に水を撒いたのに!」
「そこを気にするかな?洗濯物と布団取り込まないと、おばさんにこっぴどく叱られるんじゃないか、チャコ」
「夕立の馬鹿っ、いや昼立だっけ?」
「そこはもう、夕立でいいんじゃないか」
零は、自分から布団の取り込みの手伝ってくれた。
「やっぱり男の子だね。あたしだったらもう少し時間が掛かっちゃう」
「君のうちも、私を餌付けをしたかいがあっただろう?」
あたしたちのもつれた感情も、洗濯物やら布団やらの取り込みで、どこかに行ってしまった。
「零、びしょ濡れだね」
あたしは洗濯物を簡単に片付けると、零の頭にバスタオルを被せた。夕立の雨をものともせず外に出てくれたんだ。零の癖っ毛が雨に濡れて一段とくしゃくしゃになる。
「こうして髪を拭いてくれると、チャコはお母さんみたいだな」
「こんな大きな子供困るよ。甘えん坊だしさ」
零の事をおままごとに託つけて可愛がっていたのは事実だし、抱きしめられた時の熱と重さを、本当はもう一度味わいたかったのだ。
「君は優しいな」
あたしがあんたを、抱きしめたいだけだ。
「……私を、嫌いにならないでくれるかな」
「馬鹿だね」
ずぶ濡れの冷たい身体の二人だ。風邪ひくかもしれない。そう思うと、今度はあたしの熱や重さを分けてあげたくなってきた。
「ところでパーカーを脱ぐの、止めてくれないかな」
雨に濡れたパーカーが身体の熱を奪うから脱いでいたら、零は赤面してそっぽを向いた。気づくと、二人とも際どい格好だ。
「パーカー洗濯するからさ。零も脱ぎなよ、風邪ひくし」
「さっきのこと怒ってるんだろ。勘弁してくれないか?」
「ほら、洗濯機回すから脱いじゃって!」
「……帰るよ。君に迷惑かけちゃったし」
「止むまで面倒みるよ、だってお外こんなんだよ」
大雨、打ちつける冷たく強い風、そして、カミナリ様。お隣のうちに帰るとしても、ずぶ濡れは避けられない。居るも帰るも自由な幼馴染の二人きりの家のはずなのに、嵐を過ぎるまでの密室になってしまった。
「お布団寝室に持ってってよ。着替え用意してあげるから」
「はいはい」
零はあたしに対する後ろめたさか、飼いならされたように、布団を寝室に持っていった。
零があたしに唇を重ねようとしたとき、子供のときからの何かを壊しそうな気がして、つい平手打ちをしてしまったけど、やっぱりあたしは零を可愛がりたい。
おままごとの時に散々可愛がって甘やかせて刷り込ませたのはあたしだし、零にあたしを選ばせるように、あたしが何も言わなくても態度で零をけしかけていたんだ。
可愛がって面倒を見たものには責任を取らなきゃ。チータを手放したときのように、もっと可愛がればよかった、もっと抱きしめたかったと寂しい思いをするのはもう嫌だ。
結局あたしは、零を閉じ込めることを選んだんだ。
纏まりのつかない感情がようやくまとまりだした。あたしは意を決して、零が布団を運んでいった寝室に向かった。
「あれ、チャコ。手伝いに来てくれたのかい?もう終わったよ」
「まだ、頼みたいことの続きがあってさ。あんた、あたしに飼いならされてるんでしょ?」
「もー。君は人遣いが荒い。雨が止むまでの間にしてくれないかな」
外は嵐。季節の変わり目だ。
「多分すぐすむと思うよ」
あたしは意を決して寝室に鍵をかけて、零を閉じ込めた。下着みたいな格好の男女が、寝室に二人だ。このずぶ濡れの格好を抜け殻のように脱ぎ捨てたら、あたしたちが今いる季節がわかるだろう。あたしはぎゅっと、零を抱きしめて呟いた。
「男なら役に立つとこ見せなさいよ、零。」