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    事代先生が教え子の一堂零とデートするお話事零「つみなひと」

    思えば、安上がりな恋人だ、こいつは。
    「事代先生。タダとはいえ、陸奥先生に、新聞のおまけで貰った博物館の券、何も律儀に行くことなかったんじゃないかなー。電車賃も掛かったしさ」
    休日を安く過ごそうとするあまり、柄にもない博物館への遠征にいくはめになってしまっても、文句を言いつつついてきてくれる。
    「お前ら生徒が、博物館なんてお堅いところに来るわけないからな。白昼堂々と二人で行けるのってこういうところしかないじゃないか」
    一応高のアホの総元締めである一堂零と、脳みそまで筋肉の体育教師の俺こと事代作吾が、博物館というアカデミックな場所など楽しめるわけなどない、どうせ冷やかしで、すぐに見終わるだろうとタカを括っていた。しかし自然科学好きの零と、まがりなりにも教師である俺は、展示物を見ているうちにのめり込み、昼飯の時間はとうに過ぎ、夕刻まで過ごしてしまったのだ。
    「もうすぐ終わりの展示会だからかもしれないけど、来ている人が少な過ぎて、先生と私の二人だけの貸切かと思いましたもん」
    「結局、一日を室内で過ごしてしまったな」
    「いつもと変わらないでしょ?」
    生徒と教師の恋だから、逢瀬はいつも俺の部屋に篭りきりだ。噂にのぼるのを避けるためには、白昼堂々と一緒に外で歩くなど、ましてや外で手を繋ぐことなどもってのほかだった。零と訪れた博物館は知り合いと出会うこともないほどの離れた街で、開放感が手伝い、どちらかともなく手を繋いで、展示物を見て回った。同じものを見て、きっと同じことを考えながら。
    「先生ー、お腹空いた」
    「これで、紛らわせろ」
    空腹を紛らわせるために飲料の自動販売機のコーンスープを買った。プルトップを開ける音が、人気のない博物館の庭園に響く。
    「不器用だなあ、先生。プルトップ、半分以上、ちぎれそうですよ」
    「うるさい」
    コーンスープを飲みながら、晩秋の寒さに身を縮ませて見上げた空は、夕闇近い柿色の空だ。二人で私服姿で、並んで空を見上げるのって、そうそうない。空は柿色で、博物館の庭園の木々の葉は、血のような赤や冴えた黄色、朽ちた黄土色だ。空も木々も地面の下の葉も、赤味に染まり、コーンスープを飲んだ後の息が、それぞれ白く漂う。
    「何やってんだ、こら」
    「いやあ、はまらないですよね。先生の指ってゴツいから」
    悪ふざけが好きな零は、取れそうだった俺の缶のプルタブを引きちぎり、俺の左手の薬指にねじ込んで遊ぶ子供っぽさだ。博物館に行くからと、白いシャツにネクタイ、サスペンダーとズボン、革靴と、大人っぽい出立と、そのアンバランスな行動が、逆に俺の心臓を掴み出す。
    「俺の缶で遊ぶなというに。さっさとお前も飲んでしまえ」
    俺は、一張羅のトレンチコートを身にまとっている。おめかしをしようと言ったのは俺の方で、ネクタイの結び方が、わからないと言った零に、甲斐甲斐しくネクタイを結んでやった。たぶん、奴は俺がいる限り、覚える気など、ないだろう。
    「うわっ、コーンが缶の底にへばりついて離れないっ」
    「しるこドリンクの方が、良かったか?」
    「小豆が缶の底にへばりつくでしょーが」
    二人で、軽口を叩き合って笑う。柿色の空が少しずつ紫に染まる。帰り道は一緒だけど、帰る場所はお互い別々だ。明日は学校だから、俺の部屋で逢瀬の続きをするわけにはいかない。帰りにうどんでも食べて帰るか?そう言おうとした俺のトレンチコートの裾を、零は掴んだ。
    「そっち、出口ですよ」
    言わんとすることはわかる。博物館の外に出たら、少しずつ日常に戻るからだ。平日はお互い教師と生徒を演じきり、時には言外に本音を見せてはお互いの気持ちを少しずつ確かめ合う日常だ。博物館の庭園で周囲には誰もいないことを確かめてから、俺は零に唇を重ねた。俺のアパートで重ねる唇の感触と違い、幾分乾いて冷たくて、人目を気にして素っ気ない。
    「ごめんな。こんな風にしかデートできなくて」
    「楽しかったですよ。手を握るたび、先生の感情がつたわってきましたから」
    思い返せば、同じものを見て、ぎゅっと手を握り合っていた。俺は零のほうが興味のまま展示物に目をやり、心を動かしていると思っていたのだ。俺は零と同じ感じかたをしたくて手を握ってたくさん話しかけた。その時のこいつのキラキラとした顔や、時に思慮深げな表情、真剣な瞳に見惚れていた。
    「おまえ、真面目な表情するんだな」
    「い、いやー。勉強嫌いなのにね。柄にもなく良い子だったでしょ?今日の私」
    「それも、お前の本質だよ。展示物なんかよりお前を見てるのが楽しくてな。ついついギュッと握ってしまった」
    さっきのプルトップの指輪の続きだろうか?俺の左手の薬指をギュッと握りだしてきた。
    「悔しいな。あなたには結局、いろんな自分をみせてしまう」
    休日はいつもどおり部屋にこもって、好きなだけ口づけをして肌をかさねるほうが良かったかな?さっきまではそう思っていたけれど、外に出ればその分、いろんな零に出会い、俺は零の恋人だけれど、何もかも一緒というわけではないと思い知らされる。
    「お前は俺のことが、大好きってことでいいのか?」
    「なぜ、口に出して言いますかね?」
    夕闇が迫る。オレンジの夕陽が恋人の頰が何色かわからないくらいに染めていく。零が俺に、プルトップを左手の薬指に無理やりはめようとしたのも、いろんな自分を知られるのが悔しいというのも。
    「照れ屋だからな、お前」
    柄にもない自分を恥じらい、それを受け止める相手に俺を選んでくれたからかな。
    「そういうとこですよ、先生」
    夕闇が恋人の表情をくらましていく。ネクタイもサスペンダーも革靴も、普段は身につけないはずが、今日のためにとおめかしをした一堂零が、そこにいる。ネクタイの締め方がわからないなら、ずっと俺を頼ればいい。
    「これを着ろ」
    日が沈むと一気にあたりが冷えだした。シャツ一枚の零に俺はトレンチコートを脱いで、かけてやった。流石に大事にしてやらないとな。安上がりなデートをされても、きらきらとした表情で俺の隣にいてくれて、逢瀬はいつも俺のアパートにされても、メシを奢ればチャラにしてくれる。
    「コートを私にかけたら、先生が寒いでしょうが」
    思いのほか、トレンチコートも似合う。誰も知らない一堂零を俺だけが知るのが嬉しくて、俺は笑って返した。
    「気にするな、馬鹿は風邪を引かん」
    「ほんと馬鹿だ、あんた」
    「お前のこと愛しているからな、全部」
    雑な愛の言葉を投げかけて、俺は再び、零の手を握って歩き出した。
    こまつ Link Message Mute
    2019/11/19 7:23:22

    事代先生が教え子の一堂零とデートするお話

    #奇面組 #一堂零 #腐向け #事代作吾

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