1章 15話「やっと.....帰ってこれた.....」
あの後、イナバを先頭にストーリアの城下町まで行き表世界と裏世界を繋いでいるという専用の扉を通り表世界まで戻ってきた。
「.....ていうか、あの時通った扉に出るんだな」
「うん、一応そういうことになってるかな」
“あの時通った扉”って言うのは裏世界に行く前にイナバに連れられて行った扉の事。
あの時は周りをよく見てなかったからわからなかったけど扉.....
「非常用扉じゃねぇか」
「ちょっと慌ててたから.....」
そう言いつつ、イナバは気になることがあるのか携帯の画面を確認する。慌ててたからって理由で非常用の扉使っていいのか.....?
そう思うけどまぁ過ぎたことだし、気にしても仕方ないか.....そう思ってその場を離れようとする。が.....
「あれ?焔と陸奥じゃん!?」
.....よりによって今一番会いたくない奴に会ってしまった。正直、最悪だ.....
こんな場所に居たことをこいつはきっと聞いてくるだろう。そんなことになる前にここから離れたかった.....
「なんでこんなとこにいるんだよ?」
やっぱり聞いてきた。そう思いつつも「あー.....あれだ、この辺に用があったんだよ」と、咄嗟にそう嘘をつく。
実際この辺に用なんて何もないんだけどな.....
「.....ふーん、そっか」
俺の言葉に岡本はそう返すとそれ以上追及はしてこなかった。
なんか意外だな.....
「それよりさ、二人とも」
「「?」」
追及してこなかったと思ったら今度は何か別のことを言おうとしてくる。
一体何を言おうとしてるんだ.....?
「特に焔にはさ、すっごい言いづらいんだけど」
そう前置きした上で「あとテストまで一週間もないぞ?」.....と、そう伝えられる。
なんだ、テストまであと一週間も.....ない.....?
「う、嘘だろ.....?」
「嘘のようなほんとの話なんだ.....」
「こればっかりは受け入れるしかない」と首を横に振りながらポンっと肩に手を置かれる。
「俺何もわかんねぇんだけど.....?」
「大丈夫だって、俺が教えてやるし!」
肩に手を置いた状態のまま、岡本は俺に対してそう言う。
「.....まぁ、わかんねぇし教えてもらえるのはありがたいけど.....」
こいつに勉強を教えてもらった方がいい事は知ってる、けど今は高校で中学の時とは訳が違う。
だからどうしようかと迷っていると.....
「ホムラ、今回私は教えられないし、それだったら岡本くんに教えてもらった方がいいと思うよ?」
そう言うイナバの言葉にここぞとばかりに岡本が「そーそー!俺だったら教えられるし、損はないって!」と少し調子に乗ったかのようにそう言う。
それに俺は少し溜息をつきつつも(まぁ、教えて貰った方が良いしな.....)と心の中で思いながら「......じゃあ、頼む」と二人に聞こえる声の大きさで言う。
「任せとけって!焔でもわかるように教えてやるよ」
「言い方うざいな」
思わずそう言うと隣でイナバは「まぁまぁ怒らないで.....」とまるで宥めるかのようにそう言う。
「別に怒ってねぇけど」
「言い方が怒ってるように聞こえるから.....」
「そう言う言い方は良くないよ」と軽く注意され、少し不本意ながらも「分かった.....」と返事をする。
「んじゃあ、今から俺ん家で勉強しようぜ!」
「今から.....?」
それは流石に急過ぎるだろ.....そう思って今からは無理だと言うことを伝えようとすると.....
「それじゃあ私は家に帰って勉強しようかな」
「じゃあまた明日ね」とだけ言ってイナバはその場を立ち去る。
明日.....って言ってたけど明日は平日で普段通り学校があるのか?
「.....なぁ」
「んー?」
「明日、って.....」
「明日?学校だぜ?」
「っだよなぁ.....」
確認のために岡本に聞くと、“明日は学校がある”というのを聞かされる。
こっちに戻ってきてすぐにイナバが携帯を確認してたのはそれか.....それならそうと言って欲しかったよなぁなんて思いつつ「学校.....行くしかないか.....」と、小さく呟く。
「普通は行くしかないけど.....嫌なら休んでいいんじゃね?」
「そんな簡単に言うけど.....お前なぁ.....」
俺の家ではそう簡単に学校を休ませてくれるような人はいない。
.....だから今回の報告無しの休みは、許されるのかどうか.....
「まぁそういうのは気にしないでさ、さっさと家行こうぜ!」
そう言いながら背中を力いっぱい押され俺はそれに特に逆らう事も無く押されていく。
非常用扉から進んでコンビニやスーパーを過ぎ、暫く歩いた所で岡本の家に着く。
「今は多分誰もいないと思うんだよな〜.....」
そう言いながら玄関の鍵を開け確認してから岡本は「今妹いるけどいいか.....?」と片手でドアを押さえたままこっちを向き聞いてくる。
それに俺は「別に気にしねぇし」とだけ返す。
「よし、なら早く中入って勉強しようぜ!」
「ちょっ、引っ張るな.....!」
早く勉強を始めたいのか妹に見つかりたくないのか.....どっちかはわからないがとりあえずグイグイと服を引っ張られる。
.....制服が破けたら親に怒られるのは俺なんだよな.....そう思いつつも今までの事で抵抗する気も起きずそのまま引っ張られた状態で二階にある岡本の自室に辿り着く。
「じゃあ俺飲み物取ってくるから。あ、適当に座っといていいからな!」
.....とだけ言い残し颯爽と飲み物を取りに来た道を戻っていく。
「.....相変わらず思い付いたら即行動、だな.....」
扉から少し進んだ場所に荷物を置きその近くに腰を下ろす。
「.....特に何も聞いてこないのは、有難いよな...」
表世界に帰ってきた時、普通なら『連絡も無しに今まで何処に行ってたのか』とか『親が心配してたからすぐ家に帰れ』とか、そんな事を言われるだろうと少なからず思っていたのに。
.....あいつは、優しいままなんだな。
心の片隅でそう思いつつ俺は部屋の主が戻ってくるのを待った。