1章 17話岡本の家を出てから数十分。
俺は自宅前にまで帰ってきていた。
「はぁ......」
正直、この扉を開けるのが嫌だ。
開ければ次に家を出るまで親がいるという状態を耐えなければならないから。
「いやでも、入らなきゃ駄目だしな」
そう呟き鍵を開けて扉を開く。
そして中に入り鍵をかけてから靴を脱いで二階にある自室に行こうと階段の一段目に足を踏み出したところだった。
「今帰ってきたのは誰だ?」
「......俺、です」
そう言って少し開いていたリビングの扉を開くといかにも不機嫌そうな表情をした両親がこっちを見ていた。
「何故帰ってきたのに挨拶をしないんだ?」
「鞄を部屋に置いてからにしようと思って......」
「そんなのは後にして先に『ただいま』って言えば良いだけでしょう?」
「なんでそんな簡単なことも出来ないの?」とか「玲桜と比べてお前は......」とか、好き勝手に言ってくる。
......玲桜って言うのは俺の五つ年上の兄で親のお気に入り。性格は似ても似つかなくて兄弟だと言うと少し疑われる。
っていうか、今ここにいない兄さんと比べられるのは嫌だよな......
「焔聞いているのか!?」
「えっ、あ......すみません聞いて......」
「聞いてなかったの!?」
「そんなのだからっ......」と、さらにしつこく怒ってくる。......ここまで来たらもう適当に受け流すしかないな......
そう思いながら俺は親の気が済むまで怒られ続けた。
◇◆◇
「やっと......解放された......」
親からの説教を聞き終えた俺は鞄を置くために今度こそ二階にある自室へ行く。
「はぁ......兄さんと俺を比べるなって話だよな......」
大学に推薦で入学した兄と特に取り柄も無いような弟を比べるのがまずおかしな話だと思うんだよな。
後ろ手で扉を閉めつつふと思う。
......そう言えば、ここ数日学校を休んでた事に関しては何も言われて無いな......
まさか学校から連絡が来てないのか......?でも普通はそんなことないだろうし......
一人そう考えているとさっき閉じた扉を声も掛けられずに勝手に開かれる。
「そう言えば焔、あなたこの数日間どこで何をしていたの?」
......勝手に部屋に入ってきて第一声はそれか......
「......実は......」
俺はどうせ言っても信じないだろうと思いながらもここ数日間の間にあったことを話した。
すると信じたのか信じていないのか......どっちかは分からないけれど母親は「ふーん......そう」とまるで興味などないかのように言い父親はと言うと「まぁそんな事は数日前に陸奥さんたちから聞いたんだがな」と言って扉も閉めずに部屋を出ていく。
「......聞いてたんなら別に俺が言わなくても良かっただろ」
開けっ放しにされた扉を閉めにいきつつ、小声で呟く。
こういう独り言にでもいちいち突っかかって来るからな......気を付けないと......
「あぁ、そうだ......焔」
「っ......はい」
「分かってるとは思うけど自分の食べる分くらい自分で用意しなさい」
「はい......わかってます」
俺がそう返事をすると今度こそ母親は一階のリビングへ父親と一緒に戻っていく。
「はぁ......もう......面倒臭いな......」
ずっと降ろせずにいた鞄をようやく降ろし中から携帯を取りだし充電する。
そして制服も着替えずそのままの状態でベッドに倒れ込む。
「なんで一回一回あぁいうふうに言ってくるんだよ......そんなに俺の事が気に入らないのかよ......」
誰に言う訳でもない独り言を呟きベッドでごろごろする。
確か......夕飯、自分で作らなきゃ無いって話だったよな......
けどなぁ......別に......
「食べなくてもいいよな......」
そう呟いた時にそれを否定するかのように俺の腹はぐぅぅ...っと音を立てた。
「......適当に作るか」
時間も部屋にある時計を見れば七時半を過ぎたところ。
帰ってくる前に勉強して頭を使ったし、腹も鳴るか......
一人そう考えつつベッドから起き上がり部屋を出てリビングへ向かう。
ガチャっと音を立てつつ扉を開けるといつの間にか両親はどこかへ出掛けていた。
「また自分たちだけで外食か......」
リビングにある台所に向かいつつ、そう呟く。
兄さんが家を出てからさらに料理をしてる姿を見なくなったな......というか、そんなに外食するだけのお金はどこから出てくるんだ......?
心の中でそう思いつつ、冷蔵庫を開けて中を確認する。
一通りの材料はあるし一人分くらいなら作れるか。
「ご飯は......レンジで温めたやつでいいか」
どうせ自分しか食べないし。
そう考えながらも冷凍庫を開け、保存されていた白米をレンジで温める。
その間に使おうと思っている野菜類を冷蔵庫から取り出す。
ピーピーっと音を鳴らし温め終わったことを知らせる。
そしてその白米を触った時に若干の違和感を覚える。もしかしてこれ......
「冷凍焼け......」
これだと普通に食べられないよな......
かと言って捨てるのも......
「炒めれば気にならないか......?」
と言う考えに至り、俺は急遽作るものを変更し炒飯を作る事にした。
◇◆◇
「ごちそーさま」
自分しかいない家の中で一人そう言う。
そしてそのまま流しに行き、使った食器等を洗っていく。
「......これはまだ帰って来なさそうだな」
洗い物を終えて時計を見ると時間は八時半を過ぎていた。
相当遠くに外食しに行ってるか......兄さんに会ってるのか......どちらにせよ俺には関係ない。後は風呂に入って寝ればいつも通り学校に行くだけなんだ。
だから、早く寝よう。
頭でそう考えながら俺は着替えを取るために自分の部屋へ戻った。