ミートピア【閲覧注意】ヒトの――厳密に言ってしまえばMiiだが――顔を奪う『大魔王ケヴィンちゃん』を追いかけて、サイショーの国からはるばるエルフの国まで旅をしてきた。
8月のある晩の4人――盗賊、花、戦士、小悪魔――は、雨のなかをとぼとぼ歩いていた。
グレムリンに引っ掻かれズタぼろのボロを身にまとい、体のいたるところが痛かった。重い足を引きずりながらやっと見つけた宿に向かって歩くだけのボロ人形にすぎなかった。
神さまの魔法によって建てられたたいそう立派な宿だが、無人で、こんな日にも寝るための準備も掃除も料理もすべて自分でやらねばならなかった。
妙な神が世にいたもんだ。
さっきも言ったが、雨が降っており、4人は一帳羅の中身まで濡れすぼっていた。
愛しい彼女は小悪魔で、とてもかわいい見た目をしている。
花はどうか知らないが、2人の男は彼女の隙をみて、愛しい彼女の透けて見えるとんがりを見た。きれいだ。と思ったのは戦士で、恐ろしいグレムリンの爪から愛しい彼女をかばったおかげであった。
グレムリンの爪は無惨にも戦士の肌を傷つけたが、HPバナナをほおばったおかげで支障はない。
たどり着いたころ、時計の針は午前1時を指していた。
戦士は受け付けデスクへ近づき、チェックインのサインをすませた。デニム師匠は、さりげなく愛しい彼女と同室に部屋を割り振った。
††††
「濡れちゃった」
羽のついたアウター、次いでインナーを脱いで、下まで脱ぎおえると、脱いだ一帳羅をマントルシェルフに掛けるためにマントルピースへ寄った。デニム師匠は愛しい彼女のしりにくぎづけになった。服が乗せられた。
ちょっとでいいから、さわりたい。
愛しい彼女と息を弾ませながら、触りあって、抱きあって、口づけをしながらショートケーキの上に寝そべった空想をした。
「へえー、そんな顔するんだ。初めてみた」
ハッと我にかえった。目と鼻の先に潤んだかわいい目がこちらをのぞいていた。
たわわなおっぱいは白く細い腕の下にある。
「もっと見たいよ。ねぇもっと見せて、もういど見せてよ?」
そのでかいおっぱい、あんたのかわいい顔には似合わない。と思いつつ、長すぎるくらい見ている。
「師匠くん!」
「……っさい」
数分のあいだ愛しい彼女はだんまりした。一糸もまとわず。とても魅力的な出で立ちのまま窓辺まで歩いていき、テーブル板にひじを置いて頬杖をついた。エルフの国の景色をながめているが、ビルほどもある草丈の雑草なんか眺めても退屈だろうに。
しりが誘っている。ゆっくりとしたリズムで小刻みに揺れている。
イヤじゃないが、目につくちいさいしりを眺めているうちにベルト下でむすこがくっきりと浮いてきた。
むすこを制するために背を向ける。
愛しい彼女はマントルピースにきびすを返した。
「ねえ、こっちに来て、一緒にあったまろうよ」
「師匠くん?」
デニム師匠は背を向けている。
「顔が、ううん。なんでもない」
赤い?見たい?
「さっきはすごかったよ。わたしをかばってくれたよね?」
「どうもありがとう」
了解の印にひとつ頷いた。
「ちょっと、傷を見せてほしいの。いいかな?」
ちょうど背中におった傷だ。そのくらいならかまわなかった。
傷を見るために立ちあがって、自分のところにきた愛しい彼女は、一帳羅を脱ぐのを手伝ってくれた。好きな女の肌が自分を触わるのは嬉しい。
彼女の息をのむ気配がした。
グレムリンがつけた4本の引っ掻き傷はさぞ醜いにちがいない。耳が、彼女の指が小瓶を扱う音を聞いた。きゅぽんと蓋が開く音。ぴちゃっという水の跳ねる音。
彼女は液体を丁寧に扱い、優しく伸ばして塗っていった。
「なにをしている?それは?」
「ふふ!『エルフの秘薬』よ」
「飲み薬を塗擦したのか?バカだな」
つかのま新鮮な気分を味わった。というのも、ポーカーフェイスの自分が人前で表情をゆがめるなんて普段しないからだ。いまは、あきれ顔を作ったが、そうか、自分は背を向けているのだから、結局。
ひょいと鼻先に小瓶を持った腕が伸びてきた。背中にやわらかい感触がかすめて背中が浮く「くっ」息をのんだ。
「半分もない」その声は少しうわずった。
愛しい彼女はだんまりした。エルフの秘薬を喉に流した。それからの数分間は、彼女は自分の背中をまえにして泣いているのかと思ったほどの長い沈黙があった。
彼は顔を横に向け、顔を彼女に見せた。
「ありがとう。その、心配したんだな」
そう優しく声をかけ、少しだけ微笑んだ。それからは、少々大変なことになった。
ちいさい手が腰を掴んだ。愛撫といっていいのかわからないくらい、ちいさな動きではあるもののなでてきた。その感触を楽しんだ。
「もう、どうにもならない?」
愛しい彼女は自問するように言ってデニム師匠をどきりとさせた。両想いだと気づいた瞬間、思考が停止した。
「だめだよ……もうだめだからっ」
抑えがきかない様子だった。
愛しい彼女の腕が自分を抱こうとした。腕を取って軽く押しのいた。愛しい彼女は彼の手をぎゅぅっと力をこめて握ったが、力はすぐになくなった。諦めたのだろう。背中に愛しい彼女の頬のやわらかさとウェットを感じて胸を痛めた。声を殺して泣いている気配がする。背中に髪の毛がさらさらと流れおちた。
「……だめ」やっと耳に届く声でささやく。
同感だった。こうなった以上は、いい距離感だったいままでの関係を保持できまい。
「ああ……、こうなった以上はな……」デニム師匠は成りゆきに任せることを心に決め、目をつむり、彼女の手の下から薬指を優しく叩いた。