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    FM――いつものヤツら――(推敲公開)03時28分。

     刻限が迫って。
     ナイトクラブから離れたときには強烈な北風が吹いていた。寒々とした風が服の隙間に入り、ゲッタ・セドリックの腕のうぶ毛を逆立てた。
     この北風は幸運をもたらすかもな。俺が婦人を走らせている間じゅう、北風の紳士とやらが彼女の尻を押すんだ。
     さて、かっ飛ばすか。
     そういうわけで俺は稀な悪天候のもと、ハイビームにした自らのヘッドライトを追いかけるように、時速300キロ近いスピードでハフマンハイウェイ2号線を突っ走ってきた。そのあいだじゅう俺と並行していたアイツ、フェニックスのことだが、両側から道路をのぞきこむようにしてのびている、風に吹かれて踊り、身を捩っていたアイツも、いまではずっと背後にある。
     声高に叫荒ぶ風、アイツの葉が擦れ合う音。喪にふくしているか未亡人の咽び――ナイトクラブから盗んだ黒い婦人のエンジンは豪快な音をたてていた。奥深い響きのエンジン音が流れてくるマフラーは、もしかすると次回の車検の時期が来たら不合格と判定されかねない代物だが、俺が心配することではない。
     前にも言ったと思うが、厳しい北風が吹いた。横転する危険はいつもある。だが、運転のあいだじゅう、俺の頭のなかではリーバス・ビクターが『ジャーニー』を歌っていた。彼はずっとむかしはミュージシャンだったという。
     忘れようにも忘れられない鼻唄は地獄の壁隊員の、いいや、だが人によっては頭を煩わせる問題であるはずだ。
     そら、もう着いた。
     コアの木立の陰に駐車スペースが見つかった。ここでいい。路肩の砂利に乗りあげた。
     コアの枝に生い茂る葉っぱの間から目指す建物の5階部分が見える。日本人が建てたまったく面白味のない建物には忌まわしい気配が立ちこめていた。ニルヴァーナ機関は研究所で廃墟ではないが、なにやら知性をもつ脅威の気配をうかがわせる。
     まわりじゅうで水滴が落ちては、小さな音をたてていた。
     ゲッタは軍靴の踵でキックスタンドを立てた。片足をおおきくふりおろすと、黒い婦人から地面へ降り立った。婦人の裾汚れが目についたと同時に、ひと房の髪が額に垂れてきた――風に髪の毛が乱されたせいだった。
     はしたない。
     泥水が後輪の巻き上げによりフェンダーに当たって飛び散り、マフラー、スイングアームのあたりが泥まみれになっていた。 タンブルシートにも跳ねている。
     酷い。
     ゲッタは無意識に手を背中に伸ばして自分のジャケットの背に跳ねたかもしれない泥水を拭った。
     次に自分のヴァンツァー〈無価値〉に思いを巡らせた。あれは、法の番人であるジュリアノスに牽引された――ムーンさんの格納庫にはいったという意味だ――に違いない。
     オレのヴァンツァーでは不可能だったんだ。死者の乗り物のように黒い婦人を――時速300キロという速度で――疾駆させたからこそ時間を短縮できたというもの。
     我らが組織の本部の建物に到着したのは5時半。黒い婦人をその場に残して、どこかおかしな点がある灰色の四角い立方体へ足をむけた。ここで過ごすのも丸2年めになった土曜日。最初にひと目見たときから、それを察していたようにおもう。

     看板もないゲート入口にはスケルトン・クルー――文字通りの骸骨くん――が立ち、ゲッタ・セドリックに身分証を掲示を求めた。確認もせずに通し、ゲッタは兵員宿舎へと足早に進んだ。_通路は薄暗く、ひんやりとしていて、虚ろな雰囲気だった。幽霊かなにかが自分の姿をとらえて離さず、品定めをしているかのようだった。
     ひょっとして、幽霊が怖いのか、なんで怖がったりする。ああ、いいや、わからないでもないかな、大勢の男たちが地下研究所から女の悲鳴を聞いた。一度きりとか二度ではなくて毎夜と聞いた。表にはとても出せない非人道的な実験をしているんだとか。もし、そうだとしたら、あの下には幽霊がいる。きっといる。本当だって。

     6人の隊員が入っている部屋の扉まえに立った。正直に認めよう。びびってる。ここでの沈黙は溜め息に等しい。
     なにか、聞こえる。
     ゲッタはドアノブを握り、一呼吸おいてからまわした。小隊部屋の扉を開け中に入った。誰かが唸った。
     筋骨隆々の野郎共の部屋にセクシー声優が華を添えていた。部屋ではミリタリーアニメ『ニッキー』の主題歌『チェック・ボディ』が流れていた。ティービークラウンなんて誰も観ていないのに、いつもこのチャンネルなんだよな。
    「放蕩野郎め。ホームへ帰ると言っただろう」野太い声。たぶんグリーグ大尉だろう。
     俺がチャールズ・バニスターが経営するナイトクラブにいたのは3時間まえだ。つまり地獄の壁は夜を寝ずに俺を朝まで待っていた。

     俺の頭を煩わせていた賑やかなアフリカ人はアイロンのきいたズアーブ・パンツをはき、ドクロをあつらえた黒いシャツに、カーキ色のオーバー・シャツを肩に引っかけていた。彼が俺に不満を抱いていたかどうかなんてわからないが叱責はボスに任せたようである。
     ここでの沈黙は溜め息に等しい。だから彼が鼻唄を交えながら、フルメタルヨーヨーを操っていたとわかったときはいつもよりは頼もしく思えた。――どうでもいい情報かもしれないけど、彼のものはドイツのジャグリングブランド・ヘンリースのM1というモデルらしいよ。
     ゲッタ・セドリックはジョシーの前を通りすぎる時に心のなかで唸った。ダブル・オア・ナッシングを繰りだした彼のバイオレットカラーの髪は櫛を通したばかりで、あのスタイルはアーバンレンジャーといったかな。ムースで柔らかめに固めてあるけどスモーキーカットじゃないらしい。

     自分の寝台に腰を据えた。態度が悪いかな。長い痩せた脚をぶしつけに放りだした。長靴の裏はミリガン・アシュトン中尉にむけられている。いつ見ても涼しい顔の男は、昔なじみの写真集を見るともなしにながめていた。プラチナブロンドカラー――滝のように流れ落ちる紫色のエクステンション――の長いほつれ毛がかかる左頬と額には、彼のモデル稼業を廃業させたとても深い裂傷痕が目立っている
     その脇にいるデイヴ・スターリング中尉が寝具の縁に座って、長靴をぴかぴかになるまで磨いていた。
     この問題児が__されて一年経った。 結局、こいつには最後まで馴染むことができなかった。胸が痛くなるくらい、私物は綺麗に整頓されているし、同じように左右対称に整えられた見事と称賛するべき筋肉を育ててもいる。
     彼は俗にいう仕事のできない自信家とは違っていて、本当に人間性能が高いよ。自慢話を吹聴したいと思うような人でもないしね。ミリガンが彼から聞いたんだ。どうやら、肉体改造は暇潰しにはじめて、たった4年で世界大会ミスターオリンピアに競えるような身体になったって。
     彼はミリガンのようなモデルとか、連続ドラマの俳優の甘ったるい美しさはなく、どうでもいい顔でもない。美男子で、人混みのなかでも目立つ。ただ、彼には欠点がある。
     大変な自信家でもある彼は、他者から嫉妬されていると思っている。俺とジョシーから。
     正直に言って、彼のスチールグレーのガレージバンドにも慣れそうにない。
     俺はお前に嫉妬などしていないぜ。お・れ・は。
     明日の日課を隣人ジョシー・ダリン伍長からおさらい。彼は東洋人の血を引いているらしいが、チビの黒ペンギンというふうでもなく、ここにいる純血の誰のものよりも旧アメリカ人のものらしいといえばらしいゴールドブロンドの髪の毛をもっていた。彼の蒼い眼は――鋭すぎるが――誰のものよりもずばぬけて素晴らしい色合いだった。蒼すぎるのは本当だ。
     鍛え上げられた体つき、えらの張った顔にがっしりとした鼻。

     ジョシーがシャギーを掻いた――もっとも旧アメリカ人にブロンドなんて不自然だったよな。いつもの軽い歓談が行われたらしく、ジョシーが話したそうに身動ぎをした。
     ちょっと茶化すような口調で言った。
    「160戦隊んとこのジェイクが、ハイウェイで――破棄されている。黒い陰を見るんだと。ハッ、やれ空中を舞っただの、やれ飛び跳ねるだの、ジェイクの阿呆、『あの部隊』がハイウェイの偵察から戻らないのは、『WAPの亡霊の仕業』だと信じちまった」と言ったが、その冗談ににやりとしたのは本人だけだった。
    〈バイオレット・ムーン〉の隊員5名は数日前から消息を絶っていた。エンジンかけっぱなしの5機のヴァンツァーを、ジェイクの信じるその幽霊が神出鬼没するというハイウェイに残して。いまのところ不気味なくらい深い謎に包まれている。
     アニメ予告のジャックがバイクを宙に飛ばす。ゲッタはテレビのほうにあごをしゃくって言った。「宙を舞うとか、飛び跳ねるとか、『ジャック』じゃないのか?」
     この手の話は誇張されて伝わるのが常だし。
    「どうやら流行りに置いてきぼりみたいだな、俺たちは。誰もバット・ポッドなんて見ていないよな」ジョシーが首をひねった。
    「ラ・ピュタン・エノルムに居たのか?」と唐突にデイブが尋ねたから、かぶりを振った。
     近場の戦場でたびたび目撃される物騒なオートバイを乗りまわしている小隊規模のコバエども。俺たちが『ジャック』と呼んでいる一般人。一般人だ。もし市民武装したミリシアだとしたら。連中の頭は活火山になってしまった。いつ噴火してもおかしくはない。財力もある。
     彼らの乗り物の走行速度はWAPより速く、小回りが利き、ボディは古くから愛されている映画『バットマン』のバット・ポッドのようだと聞いている。国籍、何処の組織の者かは相変わらず不透明のまま2年が過ぎた。
     戦場にしゃしゃりでてきては、常にUSN勢に加担し、OCNを蹴散らしてきた。映画的な演出が一部の民間人に親しまれている。
    ――チッ、気に食わねえ。だって、そうだろ。対人狙撃は国際条約で禁止されてる。

    ――あ。

     ジョシーの心地いい声を聞きながら、美人が話題にだした『誰かの物語』を思いだしていた。
    「お前、寝ているのか?」ジョシーの見解をさえぎってデイヴが言った。無表情な目。彼は口数が少ない。その顔に浮かぶ笑みなど、想像するのは難しい。まして俺に口を開くのは希だった。""ラ・ピュタン・エノルム""に通いつめているのがバレてしまったか。
    「おめえら、ここは託児所じゃねえぞ、俺に大人の子守りみてえなことさせやがる、甘ったれた口を閉じねぇと、おめぇーらが大人しくねんねするまで、俺が付き添ってやるからな」
    『寝かしつけてやる』と低音でグリーグが言った。――ベビー用のバンド式丸サングラスをかけたオッサンと添い寝なんかしたくないな。
     裂傷やら被弾痕だらけのブートキャンプだが、ホワイトブロンドの口髭やら顎髭やらで口元が覆われている。とても清潔でとても綺麗に。
     ボスの子供たちは大人しくなった。しかし、静寂もあっという間に破られた。それがこの部屋だ。
    「女に添い寝してもらったか?女がついてないと眠れないのか?」またしても、デイヴだ。くつろいだ姿勢でスチールの目を細めて説教かよ。
    「やめないか、俺は――」
     ジョシーが茶化すような口調で口をはさんだ。
    「そんなこと言って、ボスぅ、マグスにむしゃぶりつきたいじゃないっすか?」
     ジョシーのいまの言葉が隣人に対してではなく、ボスに向けられた言葉だということは地獄の壁隊員であるなら誰しもがわかるはずだ。グリーグの頬が紅潮した。いつもはどやしてる。おっと、色恋沙汰の噂になにがあった?
     そうか、うちのボスは――USN軍に転属したイラン系アメリカ人だったかな。彼女に唾をつけているのか。確か、マグスといったな。
     女の評判は悪いよ。ひとを近づけないからね。
     リーバスはマスター技グラインド・ツイスターを決め、ヒューと口笛を吹いた。デイヴはなにも聞いていないというふうにやり過ごした。ミリガンの口角が一瞬あがった。ジョシーは真顔に戻っていた。
    「ジョシー、いまのはまずかったと思うぞ」ゲッタは寝不足を補うかのように目を閉じ眠った。

    『昭和レトロポップだな』それがこのモンスターマシーンを自分の誕生日にアルフレッド・バニスターから贈られた時の彼の率直な感想だった。
     ツァディロ・ブランドの高級車はブレーキライトを赤く輝かせ、始点のゲートと終点の『チャールズ・バニスターの豪邸』とを隔てる300本の樹木『チャイニーズトゥーン・フラミンゴ』だから、「フラミンゴの森」の終わりかけたあたりの路肩に近づいて停止した。
     黒く塗装された高級車のエンブレムは獅子の紋章を真ん中に据え、円は獅子の鬣と黄金で編んだブレスレットをイメージしている。基本色はもちろん一族を象徴する金を使った。

    『ダーク・レディ』の唸り音が停止した。あの『黒い婦人』のことではない。
     ツァディロ社のチーフエンジニア、マクシム・ゼンセンは、彼女に焦れ込みすぎて失敗した。情熱的な恋とでもいおうか、いいや、熱狂的な愛か、もちろん経営会議が新車開発の出発点だという現実はいうまでもない。
     マクシムは既存車にはない車を提案した。それが、このモンスターマシーン『ダーク・レディ』だった。レトロポップで(だだし、極彩色は抜き。極めて信用のある、とてつもない馬力に噛み合うトルクとサスペンション。だからスピードはモンスター級ってわけ。ほんっとポイント高い。エンジンやトランスミッション、プラットフォーム全部オリジナルって凄い。

     ジョリー・バニスターはきちんと手入れの行き届いた『彼女』の中に座ってシートに頭を預けていた。
     内装もレトロな雰囲気こそ醸しだしてはいるが、最高級で贅沢な作り、すなわち、無駄がなく優美さを兼ね備えた完璧な逸品。それでも、彼からしてみれば、当初の彼女はまだ完璧とは言えなかった。私物を保管する金庫がなかったからだ。そこで、グローブボックスの改造をマクシムに頼んだ。
     ジョリーの眼は『ウォッチボックス』のロック式ドアの中央にある、透明な覗き窓のついた金庫に保管された『金の懐中時計』を愛しそうに眺めた。懐中時計の蓋の裏に長女ズーイーと髪を長くのばした自分が写っている。



     動かずに、路肩に止めた車のなかで影のように座ってまどろんでいるのは気分がよいが、急がなくてはいけない理由が2つある。だが、今はとても目が痛む。眠気を追い払おうと、わずかに窓を開け冷たい北風を入れた。

     マクシムは設計部門や生産部門の理解を得るのに多大な労力を要したことだろう。晴れて企画の概要がまとめあげられ、開発予算の算定ができあがると、経営陣にあげられ承認を得る。エンジンやトランスミッションまで新規に開発し、プラットフォームも一から開発する新規投入車ともなると『彼女』は__億円とかかっただろう。

     商標の出願目前に、中国のブランドが『ダーク・レディ』と商標登録をしたせいでツァディロ社は『ダーク・レディ』を使用できなかった。
     マクシムは半狂乱に陥り、諦めるつもりなどないといった勢いで、直談判をするつもりで単身中国へ飛んだ。誰だって頭のイカれた奴を真面目に相手するわけがない。ツァディロ的には新しい名前をつければ解決する話である。マクシムはツァディロと揉めた。彼の首が飛ぼうかというところにアルフレッドが話を持ちかけた。
     アルフレッド・バニスターが限定100台の新規投入車を買いとり、ダーク・レディの名前を彫らせた。マクシム・ゼンセンが彼女に固執するあまり『彼女』は市場にでることはなかったかもしれないが、代わりにダーク・レディのロゴが彫られた彼女がジョリー・バニスターの誕生記念に贈られたというわけだ。
     100台ね
     長男であるチャールズ・バニスターは29歳だというのに29回目にして200ドルもするアンティークウォッチを贈られていた。チャールズは屈辱的な皮肉を理解したうえで、兄弟であるジョリーに見せた。

     ジョリーは肉感的な唇を引き結んだ。マクシムから連想したのだろう、彼に続いてジョリー・バニスターの頭に繰り返し浮かんできたのは母の私室で不審な影を見た日の事故死した両親のことだった。


     イタリアの中西部ラ・スペツィアから南フランスのコートダジュール付近までは「リヴィエラ海岸」または「イタリアン・リヴィエラ」とも呼ぶ。このリゾートエリアが点在する海岸では、湾岸街ジェノヴァ、美しい海岸線やアールヌーヴォー式建築で有名なサンレモ、ポルトフィーノなどの高級リゾート街がある――ポルトフィーノの定住者は600人ほどだ――、高級ホテルも多く点在している。
     そのなかでも世界遺産に指定されいる『チンクエ・テッレ』と呼ばれる村々が異彩を放っている。「5つの土地」という意味だ。その名の通り20kmほどの険しい海岸線に、それも
    断崖に寄り添うように点在する5つの村で――未来永劫「街」へ発展することはないだろう。それぞれ東からリオマッジョーレ、マナローラ、コルニリア、ヴェルナッツァ、モンテロッソ・アル・マーレと呼ばれている。

     これらの村はもともと1000年前に要塞として造られたが、複雑な海岸線のおかげで長らく村の行き来は船のみという環境にあった。鉄道が開通してからはようやく外界と繋がった。いまでも村と村を繋ぐ直通道路がないため、通勤などで隣村へ島巡りをする人たちは、いまでも列車か船を利用している。


     ジョリー・トーマは窓を開けて、穏やかな春の空気とコロンボ通りの物音を部屋に招き入れる。
    『リオ・マッジョーレ』。1400人ほどの村人が毎日のように観光客とすれ違っている。ジョリー・トーマの使っている部屋から、観光で賑わう人びとの『コロンボ通り』を歩く姿が見える。人びとは「__」「__」へ向かうところだろう。石を見るような目で若い夫婦を見て、親子連れを見た。それから8つのバラに目をとめた。
     わたしの癒し。 
     たくさんの蕾をつけたサフィニア「ブルームーン」を撫で、ハチミツの香りで鼻孔を満たすべく鼻を近づけて「スン」と鼻を鳴らして嗅いだ。それから部屋を横切って小さなマホガニー製の机に向かった。
     16歳を迎える彼の手と脚はすらっと長く、白いカットソーと糊の効いたスラックスという出で立ちの彼は長身で、椅子に尻を乗せると椅子は悲鳴をあげた。
     長い指をした白い手でほおづえをつきながら、四方の壁に並ぶ書棚――大量の白い本やニコラが置いていった学術論文の束を眺めた。

    ――白い紙

     ニコラは私が私室でマホガニーの机に座り、熱心に勉強しているのだと安心しているほうがよかったのだ。古い論文雑誌に挟まれたパソコン――暗い画面に目を向けると、学術論文――学術雑誌などに掲載される原著論文のことだ――を引き寄せて手に持った。1トピックを読み終える。シャープペンシルを持ち、紙の上を走らせる。
     ジョリー・トーマは過保護な環境で育っていた。ニコラは徹底的に私を守ろうとする。監禁というやりかたで。
     ニコラの会社は__に本部を置き、リオ・マッジョーレに研究所を持っている。家族はその家に住み着いてだいぶ経っていた。

    『コロンボ通り』から。観光客の聞き慣れてもう頭にすら入らない外国語が耳に入ってくる。
    『美しい景観だわ、素敵ね』どこがだ。頭に入らないとは言ったものの時おり、旅行者には頭を煩わせられることもある。
     カラフル?どこがだ――我が家の外壁はくすんだイエローだけど――街並みの新旧の建築物の外壁はどこもかしこもズタボロでひびがはいっている。朝の潮風は冷たい、ベランダに置いてある花壇の花も、朝に葉っぱに付着した塩を洗い流しておかないと枯れてしまう。夏のあいだは強烈な西陽を受ける。そのため熱がこもりやすい。毎日が熱帯夜だから。
     それに、カビ臭い。
     愚かなニコラの頭に「カビ臭い壁紙を棄てて新しいものに貼り替える」なんて言葉は思いつかない。だから、朝、起きて目を開けるとズタボロになった天井を見て、溜め息を呑み込む。それから、『仕事中には宿題をする時間がたっぷりあるからね』と念を押すニコラの笑顔が甦る。

     部屋で紙を見つめるより、外にいたかった。ニコラは私の外出は許してくれない。映画を観に行くのも買い物をするのも駄目だ。
     私室にはオーディオ機器はもちろんのこと、ラジオやテレビ、キャラクターグッズのひとつすらない。あるのは、学術雑誌、ニコラから贈られた大量の図鑑や学術書、学術論文、論文の束。パソコン。

     ジョリー・トーマは、ニコラの監視に耐えた。というのも、ニコラが別室、職場にいながら、ニコラとは監視カメラ付きパソコンを通じて「つきっきり」で過ごしていたから。
     ニコラからは学術の基礎を教わったし、テーブルマナー、__を使った__も教わった。
     
    『進学していないの?友達はいないの?』と架空の人が口にする――そんなものとは縁がない。
     ジョリー・トーマの勉強と研究以外の自由な時間といえば、論文で見つけた歴史、文学、生物学、医学、数学、ありとあらゆる雑学を時折ニコラの相手をしながら、いまそうしているように、読んだぶんだけのトピックを白い本に写して、写した分のレポートを書くことだった。
    退屈は嫌いだ。

     自宅の一階にある広くて__なニコラの研究所でひとり過ごしているときが、一番幸せだった。この部屋は、たぶん以前は居間として使われていたのだろう。
     ニコラが家を開けている間、私は部屋と研究所とを律儀に往復した。
     私はこうしたルールに逆らったことがなかった。ひとりでいるほうが好きだった。それが自分の育った環境であり、そのなかでなんとなく暮らしていた。
     
     玄関まで行き、磨きこまれた玄関のテーブルの上にどさっとレポートを放り出してダイニングへ続く廊下を歩いた。

     母が使っている私室のドアはニコラが取り払ってしまったから。ドアのあった場所の縦の穴はいまでは動く絵画を入れた額縁のような役割を果たした。いま母はなにをするでもなく、椅子に腰掛けている。ニコラの説教を聞く専用の椅子を眺めている。
     ときおり、額縁越しに彼女の顔を見ながら、きっと彼女は私の__のことを考えているのだと感じて嫌気がさすこともあった。
     ニコラの鼻につくことを彼女がすれば始まる「ニコラの説教を聞く人」にすぎなかった。彼女から目を逸らした。

     母の接しかたは他人行儀で、自分に無関心ではなかったが、どこか戸惑ったような雰囲気がいつもつきまとった。
     彼女には腰を押さえる癖があった。会話はないも同然で、母とはひとつの部屋にとどまり時間を共有して過ごすこともない。
     用を足しにいく途中で、床に母の小説であろう残骸を見つけたり、祖母が孫のために置いていったぬいぐるみ――赤い牡牛だった――も、その例に漏れず、手紙やハガキの類いに至っては何度か車内の床に散らかっていたのを見つけた。明らかに母や息子宛のものであっても、だ。ふたりに怒りや要求を面と向かって言う勇気はなかった。

     ただの古びたダイニングテーブルの上に白い腕を置いた。いつもバスケットが置いてある。
    ジョリーはバスケットを引き寄せた。中にはイチジクやアプリコット、桃や梨が入っている。その中から桃を取りあげて口元にあてる。ざらり。昼食の準備に取りかかるまえにとりあえずは果実まるかじりだ。これはスティッキーノ。

     イタリア料理では、アンティパストからドルチェまでの流れが決まっている。
     
     アンティパストになにを食べるかは決まっていた。カリカリに焼いたバケットの上にガーリック、トマト、野菜などをトッピングしたブルスケッタ。
     さて、プリモピアットはどうしよう。パスタ、リゾット、スープなど前菜と主菜の間に出る料理のことだが……今日は魚介とチーズのラヴィオリを食べよう。
     つづいてはセコンドピアット。肉や魚などを使ったメインディッシュ。今日はペーシェ『ムニュアイア』。マスのムニエルにしよう。
     食後にいただくドルチェにはマチェドニアを食べよう。

     母の床を踏む音を聞いた。きっと散歩にでもでかけるんだろう。

     ただ、ここのところ制限が緩くなっていた。
    ニコラは浮き足立っている、母への説教も控えるようにしていた。
     一度だけ公園で母とすれ違ったときは、廊下でしたことみたいに素通りするものと思ったが、彼女は珍しくジョリーに体を向けて口を開いた。『あんなにも、ニコラは興奮して、一体なにがそんなに嬉しいのだろう』なにか聞いてないか、と母に訊ねられた。そんなもの、答えはひとつしかないだろう。相当心頼もしい友人ができたにちがいない。公園の屑篭には小説が入ってた。スティーブン・キングの小説『ローズ・マダー』



     自分の私室に戻る途中、もう一度だけ額縁のなかをちらりと覗き見た。

     妙な感じがした。母の私室に不審な黒い影が射していた。いつもは視野に入らないなにか。不自然な影がある。
    ――誰かが母の私室に身を潜めている。
     どうでも良かった。どうぞ、影くん、部屋を好きに見てまわってくれて。

     8時きっかり、我が家に停電が起きた。窓に近づくと、村の灯りは消えていなかったことから察するに、この建物で不具合が起きただけのことらしい。懐中電灯、蝋燭、なんでもいいから灯りを探しにスマホのライトを頼りに部屋を出ると、形容し難い不愉快な臭いが鼻腔を満たした。臭いの元をたどると、ニコラがキッチンで倒れていた。母はニコラの下にいた。
     私の不幸は幕を閉じた。そう思うと心が安らかになった。警察は漏電による感電死と考えている。それがいい。

    ――私を檻から解放した人物

     あの晩は、なにをするでもなくダイニングテーブルの上にあぐらをかいて座り、キッチンの壁紙を見ていた。憎い壁紙を剥がしてしまおうかと頭をかすめもしたが、やめた。母の私室で見た、あの不気味な影の印象が頭に残っていたし、母とニコラについて思うところがありすぎるくらい――

    『パパはダンスパーティーに誘われたんだよ。でも、悪戯だった。上流階級の人間に囲まれて、少し話をした。とても親切な人たちだったけど、吐き気が込み上げてきそうだった。だから水を触ろうと思って……というのも、そうしてると落ち着くから。そこでダイニングに行ったんだ、キッチンシンクの上に女がだらしなく据わっていた。それがだな、その女っていうのは縁に腰を掛けていたんじゃないんだよ。流しの手前と奥に長い脚を乗っけてたんだ。キメてるのかと思ったよ。声をかけようか迷ったんだけど、黙りを貫いてるのに、高圧的な態度に感じてだな、確かに、少々長く見ていたかもしれない、彼女は蛇口を捻って水をだすと、パパにひっかけた。ニースのターラっていうんだ。見初めたよ!』
     彼は、フランスのニース在住の祖母に電話をかけ、だらだらと話す祖母の話を聞き流し、ニコラの悪口を聞き流して自分の番を待った。やっと、ニコラの「資産に頼らないで生きる」と彼女に決意を表明してそそくさと電話を切った数分後には実行に移した。ウェイターのアルバイトを2件手にいれてから部屋に戻った彼は、ニコラの私室の前へと足を運ばせた。ドアノブを回す。母を愛していた一欠片でもいい、証拠を見たかった。しかし、得られるものはなにもないとわかるとがっかりした。自分ひとりだけ幸福だったニコラ・トーマ。画面のなかのニコラはいつも愉しそうだった……
     ズルい。
     ターラはどうしてニコラと繋がったのかはニコラにもわからなかった。



     翌日__頃、家の呼び鈴が鳴った。 
     祖母が資産をあてに訪ねてきたと思い、ドアを開けたジョリーは、驚きの表情を張りつかせた。
     対人恐怖症というわけではないが、この男の前では、誰もがその強い緑をおびた緑、いわゆるエメラルドの双眸に居竦められる蛙になるのではなかろうか。
    ――ああ、蛇がエメラルドを疑視すると目が見えなくなると古くから言い伝えられているんだ。
     雪のように白い頭髪をオールバックツーブロックにして形のよいハートの額を縁取らせている。訪問者の男は年長者だが、エントランスに立つ居様のいい姿は、鍛え上がった舞台役者のそれだ。
     彼の強烈なエメラルドの眼は真っ直ぐ自分の目に注がれている。この双眸から自分の目をそらさずにいることは困難を極めた。
     幻覚魔法でもかけられたのだろうか、厳かな雰囲気を醸しだしていたはずの双眸が細められて三日月の形に変わっていた。極端に薄い唇が緩み、引き伸ばされた。年長の男は笑顔を見せ、にこやかに自分は「ニコラの友人」でアルフレッド・バニスターだと名乗った。
     アルフレッド・バニスター
     それから、彼とは少しニコラの話をしたと思う。彼がニコラの友人であるわけがない。

     彼は手招きをして呼び寄せたふたりの息子をジョリーに紹介した。16歳の長男が6歳の次男の手をゆっくりと引いてエントランスに立つ。こちらもアンティークゴールドの頭髪をツーブロックにしていた。
     チャールズ・バニスター
     チャールズの極端に薄い緑の瞳と唇は、まわりの人びとに同じように、琥珀の、明るすぎる眼で強い印象をあたえていたジョリー・トーマに強烈な印象をあたえた。やんちゃそうなベビーフェイスは彼を見た瞬間、白い頬を赤く染めた。笑顔で誤魔化していたが、ジョリー・トーマの華奢な体をじろじろと見た。胸を。彼は眉を潜めた顔に気づいて目を逸らした。挨拶は極めてシンプルだ。『や、やあ』どうしてこうなったのだろうと困惑してさえいた。
    ――私もだよ。
     幼い息子はというと、父親から受け継いだエメラルドの目を真っ直ぐこちらに向けて、どこか愛嬌があって人好きのする挨拶をした。リアム・バニスターという。
     大きい眼に逆三角形の顔は産まれて間もない恐竜の赤ん坊にそっくりだ。小さく細い手は、高級ブランドで揃えた服を見事に着こなしたチャールズ・バニスターの手――だが、毛深い。を握っている。余った手に贅沢なおもちゃを弄ってもてあそんでいる。
    「貴方を私の息子として一族に迎えたい」というアルフレッドの申し出を断る理由はない。
     それに、それに――
     客人を居間に通した。

     そこで祖母に電話を入れ、事情を話した。ニコラの資産を全額譲渡する旨を伝えて彼女を仰天させた。
     アルフレッドはジョリーの私室を眺めて唸った。チャールズとリアムはキッチンで漏電した家電を見ていた。――影
     ジョリーは銀色のスーツケースに荷物を詰め、サイフ形のポーチを入れた。
     黙って喜びを噛み締めながら、バニスターと並んで丘へ向かった。
     バニスター家が所有する7人乗りヘリが丘で待機していた。操縦士の横、前窓際にリアムが搭乗してシートベルトを手際よく装着し、イヤーマフを頭につけて、心の準備が整い次第、操縦士の一挙一動を眺めにはいった。
     ジョリーはチャールズに勧められるまま後席の窓際に座り、チャールズは後部座席の真ん中に座った。彼からわたされたイヤーマフを頭に装着して、黒いケープを羽織った。アルフレッドが後席に搭乗して間もなくプロペラが回りはじめた。
     アルフレッドの合図ひとつで、ヘリが舞い上がる。

     小さくなる村を眺めた。両親殺しに加担したと自分は思っている。ニコラの死に心は安らぎを覚えた。だが、母については気の毒に思っている。

    ――母が死んだ理由を見つけた。

     ジョリー・バニスターとして生まれ変わろうとしている彼は、ヘリコプターはまず私たちをフランスのニースへ運んだ。

     リアムはお喋りな子だ。チャールズとしっきりなしにお喋りしている。SNSで。


     南フランスにある風光絶佳の保養地として知られる『コート・ダジュール』はトゥーロンを西端、イタリア国境を東端とする地中海沿岸の一帯のことを指す。
     夏季には長期休暇を過ごす地元住民をはじめ、観光客も多数ヴァカンスに訪れる。そのため、リゾート地として世界にも有名なことから沿岸部は都市化が進んでおり、主な都市にはニース、アンティーブ、カンヌ、モナコがある。とりわけ、コート・ダジュール空港を持つニースは、コート・ダジュールの中心的な都市といえる。
     ヘリはチンクエ・テッレからこのニースの空港まで飛んできた。

     アルフレッドがニースに降り立つ。スタイリッシュで一挙一動無駄がない。
     チャールズが先に降りて、あとから降りかかるジョリーの手を取ろうとした。彼の顔にクエスチョンマークがふたつ浮かんでいたのだろう、恥ずかしそうに手を引っ込めた。リアムの降り立つ音が聞こえた。やはりチャールズの顔は赤い。
     ジョリーは、多少はほぐれるかと思って両手を高く上げ背伸びをした。パキッと音が鳴った。

     4人は空港ラウンジで休憩することになった。
     フランスに来た実感が沸いてきた。ニースのターラが生れた街。祖母の住む街。
     チャールズはカウンターで4人のドリンクを注文して戻ってきた。ジョリーは、チャールズはまたしても自分を女扱いしていることに気がついた。
     バニスター一族のホームグラウンドであるモナコ公国へ向かう予定だ。
     親子間では贅沢な会話が繰り広げられた。チャールズに見初められてしまったことに気づいている。あれこれと話題を変え、懸命に自分の気を引くワードを探っている。
     お手上げか、直接ジョリーから聞きだすことにしたらしく話題をふっかけてきた。ジョリーの態度はきわめて淡白だった。
     アルフレッドは面白そうにふたりの会話をじっと聞いていた。
     そして、チャールズはあきらめた。
     チャールズはモナコ公国の説明をすることにした。
    ――パラディ・フィスカル。タックス・ヘイブンをフランス流に言った。
     モナコに住む住人は所得税などの税金がかからない。というのも、国土面積の狭い国では、有力な産業が育ち難いため、税金を下げるあるいはなくして企業を誘致することに力を入れている。そのため世界中から資金が集まり、企業の設立が相次いだほか、富裕層が税金対策のために資産を移すようになった。 
    とか、
    『親父も自分もモネガスクなんだ……』
     モネガスクとは人口3万人ほどのモナコで7000人程度存在するモナコを支配しているセレブだ。モネガスクを名乗れる者は先代からモナコに住み、モナコで生まれ、10年以上住んでいる証だ。
    とか、
     モナコには国内全土に監視カメラが配置されてる、24時間監視してるんだよ。
    とか。
     説明を終え、蜂蜜色の睫毛に縁取られたオレンジカラーの目をひたと見た。それから、チャールズはジョリーの目から目を逸らした。悲しげな目だった。



    北風がバターブロンドの髪の毛をいたずらに持ちあげた。寒かった。細いループタイを締めて――それに見合うように首が長い。窓から外に目を向け、10月の完璧な午前4時の光景を眺めた。

    ――チャールズ・バニスター

     チャールズの問題ある両親はチャールズが3才のときに離婚した。義母が入れ替り激しいせいで、チャールズは義母に対して何の関心も示さなかった。明日にでも義母がとって変わるかもしれなかった。そして、昨今のメリエットは義母と呼ぶには年が近い。近いとはいっても9つは離れている。下の方に。
     ふたりは会ったことなど一度だってなかったし、詮索する気など起こさなかった。

     風に森の木々が葉ずれの音をたてている。ときおり寝ぼけイイヴィの「ピュゥイー、ピー、チョンチョン」というさえずりも聞こえた。
     ジョリーは道路の両方向を見わたした。近づいてくる光はひとつもなかった。まあ、そうだろう。嵐じみた風が吹き荒れた明朝にかぎって出かけようなんて、率先してタガを外しにいくバニスターでも思わない。ジョリーは時折まどろんで意識を休めた。
     まったく、ケーペッド・マウスの豪邸は派手なくせ、この私道は両端がフラミンゴの森で――ここの風景は美しく心を和ませてくれるが――終点につく頃にはいつも眠くなる。
     仕事を終えたら一刻も早く部屋に帰りたいと思っていたから、機嫌が悪かった。

     チャールズの豪邸に呼ばれたからには、自分が処理しなければならない問題が生じたんだろう。チャーリーは私になにをさせたいのだろう。
     エンジンをかけ、彼女を歩かせた。インディゴに澄みわたったハフマン島ならではの夜空に白い満月がぷかりと浮かんでいる。灰色の木々が揺れ、地面にたまって脆くなっている枯葉を北風と彼女が後方へ吹き散らした。


    長い私道を走り終えた彼女がガレージに停車した。ガレージにはチャールズ・バニスターが普段から乗る超高級車――驚くなかれ、3億円の価値がある青いブガッティ・シロン、世界限定20台の全身を覆うカーボンの吸い込まれるような漆黒の輝き!ビモータばかりか、高価な玩具もしまってあった。全地形型車(ATV)、エアロモービル……そして『ジャンピング・スパイダー』特注品だ。特殊な炭素繊維とアラミド繊維で作ってもらった。

     ジョリーは愛車から降り立つと、ガーデニング植物に囲まれたエントランスへと向かった。手入れの行き届いた庭の植木は月光を浴びてどれも銀色に染まっている。花は好きだ。特に薔薇にはこだわりがある。ライトアップされてある、たわわと咲いた薔薇の階段を迂回すると、スタンダード作りの赤薔薇――レッドカスケードがたおやかに枝垂れ、華やかさをあたえている。その下にアイリッシュウルフハウンド――やはり誕生祝いの贈り物だ――が伏せて休んでいた。巨人みたいに間延びした顔をあげ野外時計を見た。
     野外専用の掛け時計の針が午前4時をさしていた。チャールズ・バニスター邸では皆が犬も含めてだが、チャールズ・バニスターを軸にして動いている。明朝の散歩もここでは普通だ。散歩させている執事に手をふった。執事が手を振り返した。
     灰色の愛犬の毛みたいに地毛のくせがひときわ目立っているチャールズ・バニスターがエントランスまで出迎えに来ていた。
     アンティークゴールドカラーの頭髪が捻れあい、もつれあっていた。いつも丹念に頭髪とおそろいの色をしたふさふさの髭を顎に飾ったとしていたとしても、 艶やかな白い肌と、熱を持ちやすい直角な頬や、あの人好きのする、かまぼこの形をした三角眼のせいで、チャールズはいまは二九歳ではなく、8歳に逆戻りしたかのように見えるときがある。
     滝のように流れる多肉植物のエントランスを歩いてくる彼の淡いグリーンの目が見開かれている。
     兄弟の元へ来たチャールズが唇の端を舐め、指で舌とひげをそっとなでる。ジョリーは、チャールズがなにかに悩んでいることを見てとった。
     整った口ひげの下にある極端な薄い唇から酒焼けした声――いいや、わざとなんだ。が聞こえた。「ホームタウンから仕事について悪い知らせがある」
     チャーリーは怯えている。と、ジョリーは思った。「話を聞きに行こう」

     肩を並べて洒落た多肉植物のシャワーのようなエントランスホールを抜け、四方ガラス板の屋内プールへと歩を進めた。太陽の兄弟は白くてまぶしい光のフタでプールを閉じている。

     若い女がはしゃいでいるようだ。
    「お客がいる?」
    「メルシーが」チャールズは手をひらひらと顔のまわりで振って「お星さまキラキラ」を表現した。

    「メリエットの妹か」

    「母親のメアリーはサラブレッド・ビジネスをしてる。立派な牧場だよ」
    「それで、質の良い繁殖牝馬が40頭いる。春に幼駒が産まれるだろ。40頭だ。そのなかには2億超えの幼駒も。人気の種牡馬と牝馬の血統相性が良いんだな。兄弟がロンジンワールドベストレースホースランキングで135をとってる」
    「スゴいな」
    「一番安い幼駒でさえ5千万はする、と」

    「全所有馬頭数は100頭以上。代表馬はブリーダーズカップ・ワールド・サラブレッド・チャンピオンシップに勝ってる。昨年はケンタッキー・ダービーに優勝してるスーパーホース。メルシーが嬉しそうに」

    「是非、お近づきにはなりたくないね。金に呑まれたら一族の恥だもの」

    「それについてだけど、少し話をしよう。リアムが馬主になった」

    「おぅ、うそだと言って」

    「本当だよ、ジョリー…」

    「彼は本格的に動いてるんだ」

    「メアリーから繁殖牝馬と競走馬を3頭ずつ買った」ふぅ……「月毛(milkyの血を引き継いでいる)の牝馬だよ」

    「それから2歳馬をね。ほら、3頭だ」

    ――生産した幼駒を売れば金になる。買う人間がいたらの話だ。

    「それはそうと繁殖牝馬はそのケンタッキーの牧場に預託して、1頭に月15万。競走馬1頭あたり年間700万円前後の維持費がかかるそうだ」
    「種付けが気になるな。リアムは金に糸目はつけない性格だから」

    「やめさせてほしいの?」

    「いや、放っておこう」チャールズがさらっと言う。
    「酒の注文をとって。きっと、喉が乾くよ」チャールズはちらっと白目を向いた。

    「オレンジはある?テキーラ・サンライズを」と、ジョリー。
     歩をすこし進めたところで小さな犬がキャンと鳴いた。

    ――なにかが動いた。ジョリー・バニスターはプールサイドに置いてある自分のスタッキングチェアに目をやった。
     飾り毛豊かな仔犬が肩越しに振り向いた。耳のラメ・ソーダ色をしたキャバプーは――「ドッグディギンデザインズ社」のちいさいぬいぐるみと一緒に――自分のスタッキングチェアに座っている。
    ――チェアは必要ないんじゃないか。
     お皿の上に「かわいいホネのかたち」をした青空色のぬいぐるみ――SNIFFANY――は白いリボンで縦一文字に結ばれている。

     バシャン、バシャン、バシャン……

     音をたてている本人は2つある大人のおもちゃ『ビック・スワンフロート』、『アイスキャンディフロート』のいずれかに隠れて見えない。アメちゃんのほうにキューティーユニコーンのぬいぐるみがちょこんとのっている。

    ――また、ぬいぐるみか。メリエットの執事は一体いくつなのだ。

     かなり若く見えた。ブロンドに染め、重めのパーティッドバングにしている(ちょっぴりセンター分けにして垢抜けた感じにしたスタイルは日本のアニメ『おしりたんてい』に似てるかも)。

     チャールズ・バニスターは、軽やかな足取りでバーカウンターまで行き、椅子を引いて愛しい兄弟を座らせると、手際よくカクテル「テキーラ・サンライズ」を作った。テキーラとオレンジジュースをミックスし、テキーラの特有の苦味をオレンジで柔らかくして飲みやすくしたカクテルだ。カクテルを作らせたら右にでるものはいない。
     朝焼け色のカクテルをカウンターテーブルに置いてジョリーをまっすぐ眺めた。ジョリーはグラスを手に持ち、口をつけ液体を口に流した。爽やかなオレンジの風味がひろがる。

     バシャッ!

     水が跳ねる音を聞いて、ジョリー・バニスターは横目でメルシーを盗み見た。彼女は編み込みバンドゥビキニとクラッシュしたショートデニムの姿で温い湯に浸り、バスボールをほうり投げては、あっちやこっちをギャラクシーカラーに染めていた。
     浮わついた空気。私が心配してやらなくても、きっとこのコは大丈夫な空気。ふたりは「放っておこう」を実践していた。

    「メルシーはメリエットの執事だろ。普段は何をしている?」
    「自分磨きとパーティーを」しばらく、ふたりはホースビジネスに華を咲かせた。

    「」


     ジョリーを見つけると一瞬うろたえだが、たちまち__、ステンレス製のプールラダーに向かって泳いだ。
     ラメ・ソーダの犬と同様にキラキラのラメをまぶし、チラチラさせ、ついでにいうと――腹が立つほど――小さいおしりを可愛く振りながらプールサイドを横切ってふたりのそばへきた。
     そのメルシーがジョリーのほうに身を乗りだしておおきな声で自己紹介をした。ハキハキとした元気のよい声だ。
    「はじめまて。メレシーです。__を努めさせていただいてます」

     ハーイ!、ハート形の瞳孔。

     じっとジョリーを見つめている。

    「中身を見よう」

     メルシーは話はじめる前からタブレットを差しだした。サインしてくれと言わんばかりに。

     反射的に画面を見る。頭が凍りついて動かなくなりかけた。
     バニスターの研究機関『__』で、液体防弾装備「リキッド・パワードアーマー・エクソスケルトン」の開発が進められているのは聞いている。
     噛み砕くと、防弾ベストだ。
     今回の製品は、そのリキッド・パワードアーマー・エクソスケルトンのなかに着る下衣。リキッドタイプの全身防護服。
     すなわち、防弾ベストだ。
     リキッドとは衝撃を与えると硬化する液体素材により作られる布のことを指す。

    「防弾ベストのダブル使いか」

     リキッド・パワード・エクソスケルトンには以下の性能が備わっている。

    1、カメレオンのような迷彩機能。
    2、対気温対気圧能力、着用者の筋力を強化、向上させる補助機能がついた強化筋力装置。
    3、着用者の心拍数や血圧などを計測、表示するバイオ・センサー機能や、負傷した際にダメージを計測表示する機能。
    4、携帯型コンピュータ。装備システムの管理、無線ネットワーク機能、__システム操作機能。


     指がパッドをスクロールし、次にアップロードした画像を目にした。爆弾処理班の着るスーツには敵わないだろう、と思った。やっぱり、この全身防護服も同じような機能が搭載されている。内容を確かめてから顔を上げた。

     メルシーに視線をもどすと、先ほどと変わらずにじっと見つめられていた。 彼がハシバミ色の目をしていることに気をとられ、それにすっかり心を奪われていた。うっすらとゴールドや黄色がちりばめられた、あの心を騒がさせずにはおかない瞳、セクシーな瞳、と。
     ジョリーは一瞬、彼女にとっては信じられないような表情を見せた。簡単に表情を崩したのでメルシーは一瞬ひるんだことだろう。
     額に皺を寄せた。

    「わたしの頭を肩から叩き落とそうとしてないか?」文字通り首が肩についているわけではない。チャーリーと私は仲間からはダブルヘッドと呼ばわれている。

    「それじゃ、この布が弾丸を食い止める仕様だという仮定で話そう。リキッド・パワード・エクソスケルトン(強化外骨格)のなかにボディアーマー(防弾ベスト)を着ていたとしても、音速で飛翔してきた『弾丸』や『弾丸の破片』は、ヒトの体を傷つける。わかるか?」
    「打撲程度ですむなら運がいい。場合によっちゃ怪我ではすまないからな」

     メルシーはひたと見つめていた。

    「ヒトである以上強い衝撃に耐えられないんだ」

    「いま、この布が弾丸を食い止める前提で話をしたね。実際のところ、これらの布が対戦車弾丸を食い止めるなんてことは絶対にない。防護服ごと破壊されて――」空に目を向いた。

    「武器の攻撃力が防御力をはるかに上回っているのが現状だからな」

    「だから私たちは、このリキッドアーマーを着た場合でも、地形や遮蔽物に身を隠して行動し、最大限打撃を避ける」グラスを口に運んだ。液体を注いだ。


    「対人狙撃は国際条約で禁止されています」

     戸惑ったようにチャールズと顔を見合わせた。チャールズは信じ難いというように眉間に皺を寄せていた。片方の手を髭にやり、ぼんやりと皮膚を引っ掻く。

    ――どんなに恐ろしい弾包を『機械人形』が使うか、メルシーはまだ知らない。それに条約破りが当たり前な連中もいる。

     それっきりチャーリーはしばし黙りこんで、あらぬかたに視線をさまよわせた。「俺を殺そうとしている」と言うのは先行開発部門は武器より防護服ばかり流してくるからだ。
     チャールズは__とカーネルとその仕事ぶりには、増悪の念をむけていた。顔にはどうしてこうなる?と書いてある。


    「でも、ここに…ここです。あなた方がご存知のとおり、開発中の試作実験では__より実用に向けて__するなどテストを重ねて改良してきました。市販化にむけてリキッド・パスワードアーマーは__さらなる改良に――」
    「パスワード?」

    「対戦車弾包のどの弾包(じっぽう)を使った?」

     そう、私たちが担うのは兵器、装甲車、防護服の実証実験。なぜって?いまは聞かないでくれ。実験対象が防護服のときは大概口論に発展する。前回はヘルメットだった。エアフィルター・マスク。対NBCR保護装置、通信システムを内蔵。

    ――ゲリラ駆逐を兼ねていた任務だった。連中を相手にして試したが、双子のシャーリー(兄のほう)が任務を放棄した。弟のケヴィンが発見したとき彼は瓦礫の陰に隠れて、頭を抱えてベソをかいた。彼は、逃げ遅れた避難民の額に対戦車弾丸の破片が貫通したのを見てしまった――だから、チームはタブルヘッドが出動を拒むほど隊員ひとりひとりの士気は低い。

    「弾丸を喰らわないのが前提で、この布は、万一のための保証だと言っている」

     メルシーの表情がこわばった。


    「牛に着せて撃ってみな」隣にミサイルが着弾したらどうなると思う?

    「どうしても俺たちを使いたいか?本当にいいのか?こいつを始めたら、一人でも帰還できたら幸運だ。我々の帰還はないに等しい」

    「でも…」
     ジョリーは長いため息をついた。珍しく。「棺を6つ手配してくれ」それから、あの硬い板をゼリー状にしてくれるエイリアンブラスターもくれ。
     メルシーが言った。「もちろん、いいわ。紫檀ですか?」ジョリーはその無邪気な形容に呆れたように白目を向いた。そうだよ。琥珀の釘を打つんだ。



    「よかった!はーい!__!手を貸してくれるそうよ!」
     メルシーは、おしりを可愛く振りながらキャバプーのいるジョリー・バニスターのスタッキングチェアに向かって歩きだした。チャールズがカウンターに置き晒しになっていたグラスに手を伸ばすとサンライズを一気に飲みくだした。

    (横目でチャールズを見る)(詳しく)
    「かなり前からだ」ずっと後回しにしていた。
    「双子を倉庫に行かせてある」
     ローズブロンドのマッシュのしたにある、左右の間隔がひらいた目、かわいい顔立ち、極めて薄い唇が薄笑いを見せ、その隙間から歯を見せ、目には彼の話を信じていない光がのぞいていた。双子は、ただ怯えているだけではなかった。恐怖に震えあがっていた。訓練された兵士でも恐いものは恐い。
     チャールズが口を開きかけたところで、ザブンッという音が聞こえた。極端な唇をまた閉じた。途方にくれるしかないときもある。
    「WAPと戦うのが怖いって?責めないよ」ゴールドや黄色をちりばめた双眸が、ひたとチャールズを見すえた。
    「もっと、近づけろ! 間合いを詰めろ!おい、離れるな!」
     相棒の声が耳に響く。うるさくて、たまらなかった。『耳を相棒の声から解放しよう』といった強烈な使命感に突き動かされた。
     苛ついた手つきでマイクヘッドを頭から剥ぎ取り、操縦席脇へと放り投げた。やった、解放軍の圧勝ね。相棒はやかましい音をひとつふたつ立て鉄の床にぶつかってだんまりした。今度は自分自身の荒い鼻息が、耳のなかに雪崩れ込んできた。
      そうだ。いま、彼女は全神経を集中させている。
     よく日焼けした肌の上からあっちこっちと汗が転がり落ちる。____ヴァンツァーのなかはうだるような暑さだ。
     奥歯が擦れあってギュゥと音をたてた。

    ――勝負に勝ちたい

    一対の『機械猿』間合いをジリジリ詰めている。

     鋼鉄の拳を相手のボディに叩きつける。交わされて、相手からカウンターをもらう。唇色のヴァンツァーに捩じ込む。
     どこかの道を行く人びとが聞けば、事故を疑うような衝突音が響いて、これに続けとモーター音が唸りをあげ煙を吐きだした。パートナーが燻らせる煙草の煙みたい。
     彼女の目には会場のなかのすべてのものがパノラマ式に映って動いた――1000人を超える観客、太陽の兄弟の真下で相手のインドスは、ピカピカになるまで磨きあげた銀色の肌に観客を映している。
     と、あっという間に銀色の肌が迫った。強烈なインドスの体当たりをもらい、彼女の唇色のヴァンツァーは後ろ様に転んだ。ぶざまに脚を放って、だ。
    ――よし、相手はまだそこにいる。
     彼女に迷いはなかった。カミラは両足を縮めておもいきって両足を伸ばした。自分の足首を狙って蹴った一撃を受けた対戦相手は体勢を崩して手を着いた。
    ――行け!飛びつけ!
     カミラは歯を食いしばって、相手に山猫のように飛びついた。相手のヴァンツァーの拒む動作が見えたが__カミラはお構いなしにマウントし、ホールドをかけた。両拳を高く振りあげ、マウンテンクラッシュを仕掛けた。何度も、何度も、何度も、鋼鉄の拳を相手の顔面に振りおろした。顔からガラス破片がアニメの涙みたいに飛び散った。おはよう、スパンク。
    「あなたのヴァンツァーはWAWをこの世に輩出したドイツの老舗WAPブランド、シュネッケのインドス一式よね。すべての性能が高いとよい評判を持つけど、あなたの腕はナマクラじゃないの!」すべてのものがぐしょぐしょに濡れていた。額や頬には濡れた髪の毛が貼りつき、__。





     マルコ・レテリエは安堵のため息をついた。__闘技場通い。未だに勝ち星はないカミラ。

     アルフレッド・バニスターのヴァンツァーはひとつとして存在しない。

     彼女が搭乗しているモデルはニューコンチネント国内最大手メーカー『ディアブルアビオニクス社』の『ヴァリアント』をバニスター流に改造したモデルだ。
     21のモニターを搭載している。――――
     操縦士はひとり。ワンマン主流。
    二人は穴をついた。規定が古い。マルコのモーションキャプチャーデータをデバイスに噛ませてある。
     マルコは
     プログラミング()を持っている。複数系統のシラットを使いこなす。身の回りのものを武器に__はMOWにむいていた。
     MOWに使うデバイス――シラット体術__アルゴリズムを売っている。そしてよく売れた。




     アルフレッド・バニスターの商品は、もっぱらロボテクス・__サービスに特化したもので溢れている。__へのロボット派遣、代行サービス――自宅にいながら海外旅行をしたり、お使いや家事を頼むことも可能となっている――、限りなく人間に似せたアンドロイド版バービー『ジョリ・フィーユ』の販売なども手がけた企業だ。シリには心がなかった。
     彼女の話し方は人を落ち着かせる。彼女は検索サービスに革新をあたえた。AIアシスタント。自然言語処理を用いて質問に答える。
     相手が鬱、自殺、などのワードを話すと__モードに切り替わる。他社の従来のサービスは、陰気なサイトの推薦、対して役に立ちそうもないWebの情報、グッズなんかを見せて自殺志願者を大いに失望させることだろう。言うまでもなく彼女は高価だが、__。通訳、検索アプリも持っているし、彼女を買ってからアプリで貯めたデータを本体にインストールすればいい。それから着せ替えができて、バニスターは改造に寛容ときたら。
    ただし、新しい法律も、ジョリフィーユのような自立型思考のアンドロイドは外出できない。

     
     アルフレッドは自社の自立型アンドロイドMOWを__とした人気格闘ゲームを模した大会(技術__)を開催している。「鉄拳」、「ソウルキャリバー」を再現したようなものだ。
     彼らは無機質なメタルスキンかもしれないが、改造やカスタムメイドに__はない。
     確かに、初めのうちはデフォルトか誰かの顔をくっつけたような不気味なものが多かったかもしれない。アジア勢が再定義し、視聴数は安定した「禿げ頭にカラフルなウィッグをのせた萌えキャラクター」を忠実に再現したアンドロイドは世界中の人々から人気を博し、世界は彼らの真似をした。そういうよいものを広めるのはいつもアジア勢だ。
     そして、こういうものはアジア勢――日本と韓国、中国がもっぱら強かった。
     決勝戦で韓国のアニオタチームとアメリカ陸軍チームが腕を競った。日傘を武器に闘うメイドとプリンちゃんスラッガーを凶器に選んだハーレークイーンが、メイドを日傘ごと、味方の仇といわんばかりにズタボロにぶちのめしてアルフレッドから優勝賞金を受け取った。
     
     アルフレッド・バニスターはWOWもWAPを嫌う発言も目立つ。WOWもWAPもひとつとして市場に登場していない。それに時代はMOWのものだった。それゆえに闘技場では、選手や観客といったWAP大好き人間からの摩擦が激しい。メンタルに弱いカミラは連敗している。

     ところが、彼女はマウンテンラッシュを決めている。

     MOWとWAPどちらにしても熟練者のそれはときに無機質な機械ではなくなる。生命をもつものの躍動感あふれるモーション。『機械猿』は格闘ゲームのカリスマプレイヤーの操るモブとなる。

     銀色の腕が伸び、唇色の頭を掴んだ。余る拳が唇色をした胸部を何度も殴った。くらくらした頭でカミラは懸命に腕を抑えようとするも、掴みそこなう。カミラの機体が横転した。機体は横這いになり、カミラは息をついだ。
     

     カミラは見習いかもしれないが。燻ったカリスマ性があり、マルコは彼女に自信をつけさせたかった。だから__による介入は控えた。
    「ぁあっ、助けてよ」カミラは喘ぐように言った。

    「大丈夫だ」
     金属同士の大きな衝突に顔をしかめた。
     カミラは数字を数えた。5から0まで数えたかったが、今回ばかりは3からだ。

     腰を浮かせ足を絡ませホールドした。



     __がよし!と喜んでいた(仕草)

     それは敗北者のセリフだった。いましがた吐かれた罵声を背の高い女が真似ていった。「俺たちの街が気にくわなければ時刻表をさがすんだな」ジョークに決まっていた。
    「気に入っている」男が答えた。
     __の外にひとりの若者が立っていた。黒いブーツの片足のひざを折って、__に足をひっかけている。マルコ・レテリエ。
    「新しい俺たちを見たご感想は?」敗北者の真似をして女は中指を突き立てた。鼻にシワを寄せたお茶目な女性はカミラ。パーマで大きなウェーブを強めにいれた、かき上げバングが気にいっていた。お互いに見事な赤毛だった。
     うまそうな果実がこぼれおちそうだった。食べてと言わんばかりのご馳走が浮き上がってもいた。


    『ここ__では』
    (次の試合)(カミラから見た対戦相手の第一印象は純白のユニコーン)
     あの眼……ジョリー ・バニスターから睫毛をひっ取ったらあんな感じだろうか?
     ホワイトカラーのヴァンツァーはオシアナ連合最古参のメーカー、ジェイドメタルのジグル11Aで固めていた。他者製品に性能面でおおきく差をつけられ開発と製造は打ち切られた。しかし、あの立ち姿には貫禄ある。

    「今度はヘッドセットを外すんじゃない。わかったな?」
    「試合のことだけを考えろ。いままでやってきたことを台無しにするんじゃない」







     よもや誰の目から見ても__は無機質な機械には見えない。命をもつ肉体どうしの激突。

    「あっッ、あっッ!」
    「きぁあっッ」
     相手は滑るように離れた。
    「離れた打合いに」
    『ロイド、素早く打って、離れた』

    『ここ__では第二ラウンドが始まろうとしています、ロイド対__、会場は一瞬にして熱い興奮に包まれ、ピリピリとした緊張感が漂い……』

    『ロイドの稲妻のような一発、このストレートがカミラのガードを開けました!カミラは成す術もなく打ち続けられています』

    「ハァっッ、ハァっッ……ぐあっ」
    「……っぐ」

    「く、そっ――――」
     アッパーが入る。カミラは後ずさった。意識が飛びそうになった。放心状態
    (相手のパンチがはいった。OCN押しの観客があの作戦の名前を叫んだ。)
    「あ゛っッ」
    『またジャブ、さらに一発、鮮やかな連打』
    『素晴らしいファイターですね――怖がらずに前に出てこいよ――』

    「カミラ、聞こえるか?またヘッドセットをとっ――」

    ――酷い耳鳴り……ヘッドセットがほしい。耳を保護しなくては……。

    (カミラは意地をはる)
     ガードを立て直せない。
    『どうやらカミラは意識がもうろうとしているもよう』

     ニューコンチネント共和国の侵攻によりハフマン島の南端のバリンデンまで撤退したOCNの起死回生の一撃。__の港湾から上陸したOCN――厳密にいえば『キャニオンクロウ』は――メナサ、ニューミルガン、グレイロックを奪還し__ニューコンチネント共和国の__を削った。だがハフマンハイウェイ侵攻中、部隊は突如として消息を絶つ。

    「……っつまえ」
    「どっちの味方なんだ、カミラ」
     プロの格闘術をデバイスに噛ませた__を搭載している。マルコ・レテリエはオートから、遠距離操作に切り替えた。これよりマルコが操縦する。
    『接近戦に持ち込もうとしている、ロイドにぴったりとくっついています。打合いですか』

     そういう新しい技術を見てはOCN側の観客からは「ニューコンチネントかぶりだ」と批難された。――厳密にいってしまえば俺たちのアルフレッド・バニスターはEUの人間だ――おっと、地獄耳のチャールズ・バニスターからお知らせだ。生憎、手が塞がっていてな。電話に出られない。卓上のバイブがやかましい。

     カミラの動きとはうってかわる。


    男の頭を悩ませているのは光だ。光の束。「太陽の兄弟」を睨みつける。
     そして、またしてもフラッシュバックした。
     『脳みそに』仲間たちの死に様の残像が重ね焼きされている。
     あらゆる危険、あらゆる困難、あらゆる殺し、あれほど沢山の友が、命を__その全てが、無駄だった、と――
     全て俺のせいだ……取り返しのつかないことをしてしまった――


     全員の視線が彼に集まった。

    「あう!…おう……なんて乱暴なの!」
    「だめよ!助けて!もう無理!」
     破片が観客席とを隔てる強化ガラスにぶち当たる。今度はカミラが唇色の涙を流した。

     操縦席が模様替えをする__。マルコが手動に切り替えたのだ。手足、首が固定される。ここからは__アトラクションだ。
     やっとのこと__を退かせた。
     ダウンを取る。

     相手は判定勝ち。だが相手は別の意味で勝っていた。
    カミラを下ろす。ふらつく足。「気にいらない」
    ふたりにブーイングの嵐が吹き荒れていた。観客が気に入らないのは、マルコの介入だ。カミラひとりでは負け試合になるのが常だったから。
    「勝っただろ?」
     日焼けした肌の上からたくさんの汗が流れた。
    (カミラはマルコ頼みの展開になってしまったことを悔やんだ)
    「カミラ、まあ、座れよ」
    カミラは意地っ張り。カミラは唸っている。カミラのヴァンツァー、そうじゃないだろ。
    「」カミラはオリジナルにこだわりすぎる。(カミラはヘルメットをもてあそぶ)
    (傷だらけのスマホに連絡がきている。チャールズから)『ニケはドレスアップをする時間だ』
    マルコ?(マルコがニケを前に愕然としている。カミラは恐れに凍りついた。)
    陸軍基地 ハフマン島 

    「__は格納庫に。__時には出発するぞ」「急げ」

     壁にもたれかかるようにして立っている女はマグス。
     機械畑の娘が口をひらいた。その言葉は明らかに彼らを白眼視している様子だった。「各戦線で」
    ――やめてよ。その話。
    (マグス冷笑。)「各戦線で__でしょ」



     何人かは眠れたようだ。ひょっとしたら片目をつぶってボスの__眠ったのかもしれない。
    「本作戦の主任務はグレイロック制圧」(傭兵部隊に__まで進行された。グレイロックを奪還するべく)

     リーバスは、歌を歌いはじめた。__という歌だった。すばやく歩く兵士の足音と上官の罵声。機械畑の息子たち娘たちがせわしなく働いていた。走るもの、__を抱えて__、__方向から__さまはさながら__の横断歩道のようだった。
     動いているヴァンツァーの唸りでにぎやかな雰囲気だった。音から察すると、数十台は動いているようだ。我らボスは〈ビッグハート〉のジャン大尉と話し込んでいた。一台のヴァンツァーがやってきた。ヴァンツァーが近づいてくると、ふたりは__の__という音に負けじと声を張りあげた。ゲッタは無価値に乗りこんだ。
    ジョシーが__。デイヴの肩までの背丈しかなかったが、なに、デイヴの背丈が高すぎるのだ――彼は192センチもあり、低いことを気にしていると言ってもジョシーは174センチはあり、がっしりしてデイヴやグリーグの次に立派な筋肉の持ちぬしだ――
    黒い__のなかに死神が微笑んでいる。(HWのステッカー)「頼む。まだ俺の棺桶にはならないでくれよ」
     整備班の娘が__。(ジョシー好みのブロンドの猫っぽい眼。突きでたしり。リーバスが見つめる。口笛を吹いた。リーバスがジョシーを茶化す。ミリガンの柔らかい声の笑いが聞こえた。)
     ジョシーは__をさっと引き開けると、シートに体をすべりこませた。慣れた片手で__していく。「__発_準備完了」
    __が後退しながら操縦席に発進サインをだした。
    眠りから目覚めたフロストHWは体を起こし、頭をもたげた、ライトを__、__を前進させた。ついでリーバス、デイヴ、ミリガン、ゲッタ、グリーグのヴァンツァーが__。
    「__」

     __は流れるように後方へ去っていく州道__号線を、見るともなしにながめていた。__街にのびている産業道路に乗り換え、丘をひとつ、ふたつのぼる。雲が重くたれこめていた。まわりに広がっている街なみは煤じみた灰色と黒だけで構成されている。

     ヴァンツァー。戦場において重要な存在だ。当時主流だったパワード・エクソスケルトン装備の兵士たちを駆逐したのはヴァンツァーだった。__だが、 通称""WAP""は、まるで人間の様に戦場を疾走する驚異的な運動を誇る戦車だ。


     USN勢では鈍い緑色の__が主流だ__。ボディに盛大に泥が跳ね、あちこちにへこみがあるヴァンツァーを何気なく見やった。
     自己主張の強いチームはWAPも人間も個性的だ。先頭集団をつとめる64機動隊地獄の壁に支給されたフロストHWはどれも叫びたてているかのような鮮やかな赤に塗られていた。灰色と暗緑色の___に際立った。

     __ライフルを担いでいるオレンジカラーヴァンツァーにはボスが唾をつけているマグスが乗っている。彼女が所属する〈ビッグハート〉は今回の任務で地獄の壁に随行することになっていた。その地獄の壁に随行するヴァンツァーの__
    __の荷台には__大量の弾丸やミサイル弾頭などが積んである。

    (日没が近い)
    同時に耳が、近づきつつあるエンジン音をとらえた。ジャックがやってきたのだ。
    「なにかが近づいてくる」ゲッタが呟いた。

     四台ほどのバットポッドが進んできた。バットポットのタイヤが州間高速道路__号線の路面をむさぼる音に耳を傾けた。
    「行かせるな」
    何台ものバットポットがびゅんびゅん走行__のヴァンツァーを縫うようにして通りすぎていった。最初の二台は__で、黒に塗られている。(操縦者は皆一様に背が高いが、ひとり中背がいた。)ひとりはカフェボーイなのかギャルソンエプロンをしている。
     3台めはゴールドの__はいったバッドポッド。 このふざけたふたりはパワードエクソスケルトンの上に更にジャケットを着ていた。西洋妖怪を描いたポップな刺繍が首の下をぐるりととりまいていた。背中には蓮の下を泳ぐ黄金色をした金魚を描いた刺繍が という出で立ちだった。
    (全員が球体の物体を牽引している)四台めのバットポッドの__には《__》と書き込まれていた。____で決めている。__には女が乗っていた。


    (ずいぶんと金持ちだな)
    「ひどい、行かせたのか?」
    臨検はなしか

    (カット)
     リーバスが丁寧な言葉づかいで言った。「見ましたか? あのバットポットはいろんな武器積んでいますね」これにはミリガン中尉の「ふん、__陽動のためのハラスメント任務か? あんなOCNの__を剥きだしの下着で攻めるのは自殺行為だが」の反応があった。また別の__
    な声が言った。「だが、彼らは一般市民で、軍人ではない。なんでこんなところに、わざわざ来た?」これはデイブ中尉だ。彼はジャックの__に__があるのを見た。練度のある傭兵集団。なぜ軍は認めない。

    「ただ傍観してくれるなら……」ジョシーが呟いた。





    ヴァンツァー群れが、蜃気楼に
    __領__近郊
    数件の__所のまえを通りすぎた。__をしている人びとは__を行きすぎるヴァンツァーを、__見ているだけ。抗議している人びともいた。ボロみたいな服を着た若者たち、年齢を重ねたヒッピーたち、反戦運動家の大教授やその配偶者たち。プラカードを掲げ、なにか合唱しているが、なんと叫んでいるのかまでは聞き取れない。

    (ジャック部隊が残した轍)
    「__のデモを轢かないようにしてるところ」







    (ジャック視点の戦闘。)
     この__を中心に工業団地が発展していった。だが、いまや鉄道操車場や倉庫街は閑散として、穴だらけでアスファルトがひび割れた路面には雑草がかなり生えていて__されていないことは明らかだったし、赤錆びたワイヤーや破棄された機械の巨体が転がっていた。交差点の多くは信号もなくなっていたりする。

     各自のスーツ・バイザーに装備された赤外線センサー__からのライブラをもとにして、__や__が駆けまわり、__を追跡中だ。

    「大規模な攻勢の尖兵とみられる敵後続の進軍を確認」

     バットポットから小型の球体が飛びだした。
    (球体の物体から小型の球体が転がる。物体は敵のヴァンツァーの上に浮遊し追跡をはじめた。電磁反発場で浮揚中。




    「九時、九時敵__ヴァンツァー接近!近接戦闘用意!」
    「__ 目標を確認。手すきのものはブルズアイから北西__へ」ジョック(ジョックが随時ブルズアイを設定)
    「確認」「位置0845」
    「目標物を破壊せよ」
     チャールズはジョリーよりも先に、_を走っていった。__のまばゆい光のビームが跳ねていた。__弾を__に投げこみ、頭を低くした。三秒後、__弾が破裂した。


    「なにも問題ない」ワイヤーのみで十分そう。

    サンプルなんてどうでもよかった。


    (オシアナ連合側)
    「どうも__が定時連絡を経っているようで」
    「無線封鎖__?__にやられたか」
    「いいえ、(ジャック)__傭兵でしょうか」
    「アルファ__、__時方向に__あり。」
    「右翼展開中の第三中隊からです。領地内にて走行中の不審車輛を視認」
    「敵の__か?__籍照合を行え。」
    「_籍不明」武装している。民間人だったら国際問題になる。
    交戦国間の領地だ

    「臨検すると伝えろ」敵性市民

    「__。こちらニューコンチネント軍__、第__中隊である。ただちに機関を停止されたし、繰り返す。ただちに機関を停止されたし」
    「こちらニューコンチネント陸軍、_は軍籍を有する人間を乗車させているか。また、軍籍を有する者の指揮下にありか?」
    「正体を明かし、針路を変えなければ、こちらは防御態勢をとる」

    (ジャックをおいかけつつ)
     __のあとを追わせる。
     相手の機体はゼロア。頭部の防弾バイザーをおろしてメインモニターアイを防御できるようになっている。
    「了解。__へ、小官は自己の判断により__に対し、臨検免除資格があるものとは見なさず。したがって臨検を拒否する場合は敵性行為ないし、敵性国家__として撃__のやむなきにいたることを通告する。繰り返す。臨検に応じない場合は__する」
    「_中尉貴様の部隊が行け」

    「フラッシュ!」
    フラッシュのあと、
     __は__で
     宙に浮かんだまま__のビルのあいだを__音もなく飛びつづけた。ヴァンツァーを浮かびあがらせる__ライト。(237p)
     __の弾幕で膜を張り、ワイヤーで横転させる。相手ヴァンツアー地面に手を着いた。火花が散る。
    「民間機から攻撃」
    「衝撃に備えろ」
     ジョリーグッドが(座席が七時に展開する。ペイント弾展開。着弾確認。)

    「あれはなんだ?」
     ビルの隙間を走行。__に掴まってぶら下がっているヴァンツァーを目視で確認。(照合。ニューコンチネント軍。索敵班)
     私たちは__補給車輛を追っている。

    (無駄な戦闘を避け、奥地に、ブルズアイへ到達。以後影になっている。)


    「攻撃を受けている」
    フラッシュ、照明、弾幕、ワイヤー。チャールズ以外は敵を寄せ付ける陽動作戦。

     仲間が陽動にでる間チャールズはジャンピングスパイダー(ベランダに跳び移る。上へ上へ。屋上を走る。目的地ブルズアイにて待避、迎撃、狙撃。敵の機関損傷)

    「準備完了」
     チャールズが装置を設置。奇襲は成功した。
    「__」
     目標に光が照射する、ライブラにすぎない。
    「__」
    つづいて照射された光が最初の光に重なる、まだ眩しくない。麻痺。
    「__」
    さらに重なる光が、これが――
    「各位、300秒後にチャーリーが__予定、離脱にはいれ!」最後の光が重なったとき、だしぬけに直視不可能なほどまばゆい光が__。__は小隊ごと補給車輛を見事にとらえた。__、__がみるみる融けだし、__水蒸気を噴きあげた。電子レンジにいれた猫さながら悲鳴を上げた。
    「目標物は破壊」
    「お疲れ」
    (装置をバックポットに装着。充電しないと使えない)
    「なんだ!?」
     焼き損ねた七面鳥を始末する。照明にてらされる。マルコが携帯式ロケット(爆弾を飛ばす)で仕留める。張りついた爆弾が爆発。__は宙に跳ね散らかされていった。
    「ジョリーグッド、敵中隊規模の増援を確認!」「退路は長くは確保できない」
     奇襲からニューコンチネント軍を巻きこむ小隊での強襲へ展開。
    「(前線をかきまわす)」(敵の退路を塞ぐ手筈だったヘリの登場。弾幕で視界を奪い、「おやすみ!」ケヴィンがワイヤーを飛ばす。プロペラにかかり意図も容易く撃墜)






    (補給が絶たれた?)

    「__してくる敵だ。練度をあなどるな。数の優位をうまく使え!」
    (ニューコンチネント)
    「繰り返すが、目標は__だ」

    __領

    「目立たず、迅速に動けよ」

    索敵班
     奥地はジャックにかき回されてる。_斥候_から無線。バットポットのうねり
    「コマンドポストこちらデルタ班、警戒域の__が小規模な__編隊によるハラスメント攻撃をうけている。ジュリエット、アルファ、チャーリー、キロ。敵の補給線は未確認」敵の足止めだろうか。


    「それはおかしい。」
     グリーグは部下に__のプランを説明すると、各人と武器にとってベストの配置を指示した。
    「よし、デルタアタックを仕掛けるぞ! ジョシーとミリガンは__、デイヴとリーバスは__敵を牽制しろ、ゲッタは俺に続け、続け!かかれ!」了解する五つの声が、暗号化された五つの通信機器から届いた。
    妙な胸の高鳴りを感じる。デイヴの完全勝者とリーバスの幸せの福音は絶えず不審な物音がしないかと耳をそばだてながら、絶えずビルの__に沿って車回しを進んだ。ここはわびしいパネル製の高層ビルが林立していて、最良の交通手段はジープという都市だ。砂漠に__。

     白い閃光とともに左手にある寂れきった__の敷地からニューコンチネント合衆国の小隊規模の真っ赤なフロストが__に乗りだしてきた。__とおもわれる証明に照らされて。浮いているがドローンでもなさそうだ。しかも対象を追跡する。)
    (真っ暗。ジャックのまいたライトに苛立ちを隠せない)「こんな」
    「歓迎できない派手な色をまきちらして!」
    「行くな!待てキャシー!そいつは…!」「ダメだ戻れ!」___。


    から順番にアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ、エコー、フォクストロット、ゴルフ、ホテル、インディア、ジュリエット、キロ、リマ、マイク、ノーベンバー、オスカー、パパ、ケベック、ロメオ、シエラ、タンゴ、ユニフォーム、ヴィクター、ウィスキーエックスレイ、ヤンキー、ズールーです。



    「__だ、背後にまわられないように。デイヴ」(光)
    彼の反応はゲッタより遥かに早かった。〈完全勝者〉はすでに捕捉済みだ。〈完全勝者〉が機関銃を構えていた。彼の名を言い終えぬ間に射撃を終えている。完全勝者はヴァンツァーを__の残骸のほうへと回転させながら滑らせた。(素早い動物のように)__ものフレシェット弾が穿った__の穴から__の煙が噴きだしていた。
    「ふん、愚か者」「単機で向かってくるとは、舐めやがって」
    「はぁっ、ハァ、動かない!」
    「ちくしょう、キャシー!こいつらはネームド部隊だ!」

    __を本街道沿いにヴァンツァーを走らせているとデイヴはこちらに光を跳ね散らしながら向かってやって来る乗り手――____――を目にしたので、__。「(鼻歌を歌いながら射つ)」。

    「誰だ!先走ったヤツは!」OCNのヴァンツァー__が大きく接近してきた。
     __という鈍い音が続けざまに聞こえた。""完全勝者""を狙ったものの狙いがそれた弾丸が、上や左右の煉瓦の壁に命中している音だった。ふたりのほとんどの銃弾は狙いを外さなかった。いくつもの穴を穿った。機体に何度もフレシェットをたたきこんだ。フレシェット弾丸とは狩猟用の散弾だ。先がダーツのようになっているものを指す。
    (それでも相手は素早く動いて素早い動物のようだった)
    (敵のふたりは撤退)



    (前方に中隊。ビッグハートを正面、地獄の壁は三方向から攻略)

     ビッグハートが動いた。
    「このくらいの数ならばこちらで対処可能だ」
    「かかれ!」
    「蹴散らせ!蹴散らせ!」
     ついでビッグハートから__があった。「こちら、ブラボー。小隊規模の敵と接触」突如として激しい銃撃戦がはじまった。

    足並みが乱れている。リーバスの目は_の_に_れ_挟まれつつあるマグスを見た。

    「幸せの福音、後退、__を援護します」
    「了解」デイヴ

    「潜り込まれているぞ!迎え撃て!」
    ビッグハートから引き離され__の マグスの__が__接近されて張りつかれた。
    「追いこまれた」
    「こっちは不味い状況。__に張りつかれた。くる!」〈アポロン〉が_に殴打された。ヴァンツァーの体はおおきく捩れた。
    「距離をとれ!」

    「最悪。__の技術には恵まれなかった。私に代わって何機か吹っ飛ばして」

     __二機が離れた。倒れかけた〈アポロン〉遠距離__が__に止めをかけようとしている。「ちくしょう」
     幸せの福音がアポロンの前に滑り込んできた。彼の____フロントに__発の弾丸があたる。着弾の衝撃で体が捻れたが、幸せの福音はすぐにまっすぐむきなおってライフルを構えた。
     気がついてみれば二機は〈完全勝者〉の勝利の餌になっていた。彼の戦闘のようすから格闘に優れていたのを感じとれた。むしろ、こちらのほうが得意そうに見えた。無線はデイヴの声だ。「距離をとって射撃で迎えろ。絶対に近接距離には潜り込ませるな!」
    地獄の壁は仲間を庇うように__、被弾していた。__。
    「ちくしょう……命中弾をくらっても……ちくしょう……」
    「__」
     リーバスの〈幸せの福音〉ライフルが炸裂し、相手は腕に続き脚を破壊された、右の__は砕け散り、ぽっかりと穴があいた。__唸りがあがる。__は尚も突進しようと__したが__され、ついには完全勝者の__に倒れた。

     _方向から敵規模小隊がきた。ふたりは弾丸の雨を受けながら__
    ビッグハートの三機――ジャン「よし!行くぞ!地獄に突き落とせ!」、キング、「逆撃します!」ピーターの〈ハッピー・ヌーク(楽しき隠れ家)〉――が後退、応戦しつつ合流した。「__?悪かった」
    「さすが、優しいんだから」皮肉
    「さてと……遠慮はいいから……これを受け取りなさい 」彼女の一発の弾丸が__の__に命中、__が粉々に砕け散って、__がぶらぶらと揺れた、次の弾丸が__の頭頂部を削ぎとっていった。__は__の上に倒れ、その力で。_が地面に転がった。

    「撤退しないということは…補給線を失ったな?」ジャン

    「__拠点を確保せよ。速やかに奥地進行」
    (可能なものは敵の補給線を絶て)
    「処理できる範囲を超えていれば泣きつけ。そうでなければ蹴散らせ」
    「了解、ボス」
    〈 野良猫〉の手前に生きているより厄介が障害物と化し行く手を阻んだ。移動のする際、横倒しの機体を棍棒で殴って退かし、ときには飛び越した。〈野良猫〉に続いて〈ダンタリオン〉
    __前方に二機、スペアマン二機捕捉。
    ミリガン中尉の〈ダンタリオン〉が
    「ミサイル4基。発射に備えます。」ミサイルの速度はマッハ12.7
    遠距離弾ドンキホーテを発射させた。__は__弾直撃。ボディに__。破片を四散させながら横ざまにふっとんで地面の上を転がっていったが__。
    変形した機体から炎が吹き、黒煙が高くあがった。


    「その殻がどこまで耐えられるかみてやろう」
     向こう__先ではスペアマンが__機体を修復している最中だった。左のアームはなくなっており、

     一番近くにいたジョシーWAPの〈野良猫〉のトンファに修復寸前の機体は叩き潰され再び再起不能になった。
     なす術がなく棒立ちとなったスペアマンに無慈悲にも赤い〈ダンデライオン〉が滑るように急接近する、そして仲間たちは中尉の我が咆哮を聞けといわんばかりの咆哮を聞いた。
    __に彼の咆哮を聞いた「ぶっ壊す!」
     __はとどめと言わんばかりに硬いアームに跳ねられた。一撃で胸部はへしゃげた。激しく弾き飛ばされた機体は__という音をあげながらかなり遠くまで横転して壊れた。__から兵士から這い出てきた。
    「__二機、スペアマン撃破」

    (補給線視認。すでに走行不能。__も__も__ですら火にあぶられた蝋のように融けてしまっている。

    「こちらミリガン。__を押さえた。これより__の__」ミリガンの声だ。「もはや敵に補給はない」
    「_」(ジャックの痕跡)
    氷上を滑らかに滑るように、二匹の飢えた獅子が散々に逃げる獲物を追うように移動していく。

    「ミサイルを感知。高速で接近中」ゲッタ

    「見事だ」グリーグ戦闘(敵規模中隊の膝を撃ち抜いた)そのとたん、高速の銃弾が肩とひざに命中した。がくりと膝をつき、地面に転がる。

    (敵を撃破)ゲッタが不満を洩らした。「チッ弱いヤツはすぐ…」
    赤いフロストに挟まれた。「挟撃された。……」
    「はは、実に良い。手際の良い敵は歓迎だ」
    「地獄、一個小隊で、あの__大隊、__本土防衛主力軍団__をこてんぱんに叩きのめした、そればかりか、戦場の味方全員を相手にして互角の戦いぶりを見せた」
    (無価値に撃破されたヴァンツァーの残骸)


    「ちくしょう……怪物だ!」
    「びびってんじゃねえ!」つぎの瞬間には__は無価値のロッドに叩きつぶされぐらついた。

    ゲッタは操作用グリップに力を抜いた。ゲッタの搭乗WAP〈無価値〉は格闘に特化している。
    __ように寄った無価値のバトルロッドが敵胸部を激しく打ちつけた。後は血飛沫と一緒に骨が飛び散るのと同じだ。__の下から白い蒸気が噴出してきた。道路になにかが落ちて、がちゃんと金属音をあげた。

     」
    「(死んだか)

    リーバス・ビクターが〈__〉を歌っている最中だった。やたらに注入される""__""や""__""という__のせいで、方向感覚がいくぶん狂ってきた。ヴァンツァーの建物を皓々と照らすまばゆいハイライトの光も方向感覚の敵だった。
    (ヴァンツァーがまだ動いている)
    『死ねよ!』グリーグがなにか言っていた。
    バトルロッドを打ちつけるたびに狭くて熱いコクピット内で揺さぶられて、汗でぐしょぐしょに濡れそぼった前髪が目に刺さる。
    その下で黒く縁塗られた鋭敏な瞳が4つのモニターを確認した。
    ……ん?「おい、はぁ、__にシグナル。はぁ……あ?…………4機こっちに近づいてくるぜ」
    「位置 北緯76.35西経059.58の機に告ぐ。こちらは…」ミリガンが言い直す。
    「4機の不明な機体が(速度)__で接近中」
    「仲間じゃない」
    「ああ。ジャックのバットポッドだ」
    「やっと来たか」
    ジャックの登場だ。
    「お前ら、ヤツらに手を出すんじゃねえぞ。市民であることを忘れるな」
    リーバスは誉めた。
    「どこだ?」どこにいる?
    「警戒しろ!俺たちの頭上を滑空しているぞ!」
    驚きの悲鳴があがった。
    「そんなわけ、だって……」
    DCコミックのバットマンみたいだった。だって、バッド・ポットが宙から落ちてくる、たちまち__な音が聞こえた。それは屋上から落ちたバット・ポットがヴァンツァーの__に到達した音だ。中背が乗ってる。
     なにかが砕けて破裂するような鈍い音があがったと思ったとたん閃光が放たれた。いくつかの影が眩しい光のなか、周囲を囲むように駆けているのが見える。
     衝撃は?マストとタイヤが特殊なのか。爆発自体は小さいが、頭部から肩はドロドロに溶けた。
     エンジンが唸りをあげた。無価値にヘッドライトの光線を浴びせかけ、タイヤを軋ませ、 一瞬、目が眩んでなにも見えなくなった。
     空を滑空するジャックはコミックではジャンピングスパイダーって名前だったな。
    チッ、邪魔してこないといいな!
    「ハハッ、奇襲された気分だな!」この、ジョシーめ。
     戦闘を中断せざる終えなくなる。なぜなら、__破片ですら殺傷できるから。ああ、きっとそれだけじゃない。ミリシアかもしれない連中のお守りをオレが?断る。



    (OCN)
    「敵は__単位で分散している。敵は戦力分散の愚を犯し、我々にとっては各個撃破のチャンスだ」


    「ボス、新手だ。敵の__部隊が。______大隊」
    「野郎ども!セカンドステージをはじめるぜ!」「地獄の壁と正面からぶつかる無謀を教えてやれ!」
    「地獄の壁の__を教えてやる!」
    バットポットが_






    「視認した。__」
    (戦場に足を踏み入れるな、馬鹿が)
    デイヴは虫を払い落とそうとしていた。彼は露骨に嫌がった。__先に__発のフレシェット弾丸を撃ち込んだ。__コンクリートに無数の穴を穿った。
    「来るな」__では危険すぎる。


     男はいつものように一瞬恐怖を味わった。短く焼けつくような戦慄がこみ上げてきた。""フレシェット弾を使われた""被弾すれば_に__に満たない体になってしまう。
    着弾後の弾頭は衝撃で飛散し、その破片が__の繊維を切り裂いた。破片はパワーがあり、至近距離なら飛散する破片だけでスチール缶を貫通できるのに。いましがた、死の破片がもたらす死を間一髪で避けたバット・ポッドは、薬莢や弾丸の被甲ねか破片、細片などが跳ねる地面を__踏み__〈完全勝者〉を追い越した。
    「なぜだ」デイヴは驚きに眉を吊りあげた。
    あのギャルソンエプロン。
    「いつか死ぬからな」
    「標的捕捉。だが、弾を撃ち込めない」弾を撃ち込めない。撃てないのだ。対人狙撃は国際条約で禁止されているし。破片の雨のどれにも当たらず、__なんて不可能だからだ。相手側も同じ思いらしく、ジャックが邪魔で仕方がないといった具合だ。「追い払ってくれ」

     バットポットからワイヤーアンカーが敵へ発射された。敵の足に絡ませた。相手は転倒させまいとロープを掴もうとした。マチェットでロープを断ち切ろうと、ジャックはロープを切り離していた。(バットポットに装備された貫通弾で撃つ)間接部位が吹き飛び、__が敵はマチェットを掴もうと必死だった。

    「こんな状況ではこれを使うのはもったいない」内心では斧のほうがよかったと思ったが
    片手にマチェットを持ち、もう片手に__を握りしめて立っていた。「近接格闘戦で埒をあける」
    完全勝者の手のなかでマチェットを__け、ヴァンツァーにむきなおってビルに凭れたヴァンツァーの肩めがけて振りおろした。金属の破片と__が空中高く跳ねあげられた。鮮血のごとく噴きだした火花は__の__に飛び散っていく。肩で断ち切られた腕が__と音をたてて落ちた。次は首に命中した。。相手はビルの壁で斜めにかしぎ、__の壁が上体を支えたまま__の塵を__。__胸部を壁に(ひっかけたまま)押しつけたまま壁のほうへ地面を這っていたからだ。デイヴはもう一度振りあげた、足が吹き飛んだ。リッパーが地面に埋まってコンクリートを打ち砕き、さらに__の細かい塵が舞いあがった。__を通っていた導線が断ち切られた。いま導線はバチバチと雑音を立てながら、__でのたうっていた。頭部と肩の先が無惨な姿で横たわっていた。__に操縦者は失神したようだった。
    ジャックは__ままだった。 ジャックの目を釘付けにし、__。轟音にぴくりとも動かさないようだ。

    「こいつらミリシアか?民間人にしては不気味なくらい統制がとれている」と、デイヴ。
    「確かにな」無価値の横をなにかが飛びすぎていった。
    無価値が殴るアームに力を込めすぎる。
    〈無価値〉の目の前で金魚が暴れていた。

     あの頭を一度でいいから金属バットで殴ってみたい。お馴染みのモーションでカキーーンッと。
    ふたりの背後から、宙を引き裂くような爆発音が再び起こり、今度は金属の破片がふたりの周囲に落下してきた。降りしきる金属片から自分たちの身を守りながら走った。__物が増えれば増えるほど走行が困難になる。
     破片がバット・ポットのシリンダーブロックを破壊した。__から水蒸気が噴きあがり、
    バットポットをブロックの先まで走らせながら、__は(バットポットから____針のようなものを撃ち込んでいる。そして相手の動きは麻痺してきている。蜂のひと刺し)
    ____翻って拳を振りあげ、中指を突き立ててきた。
    「金魚の糞…」


    「てめぇらおい、進捗は順調だろうな!制圧を続行しろ!」

     野良猫から笑い声
    「そりゃオメエ バットマンだろ!邪魔だ!」
    野良猫 脚で祓う
     こっちでは一対の尖った角を頭に飾ったジャックカップルを見つけた。操縦しているのは男。
     彼の前で二輪車と生身で身長6メートルを越す機体を一機また一機倒していく
    二輪車から発射されたワイヤーが脚部深くに食い込む、次いでワイヤーを建物に撃ち込んだと思ったが、先とのワイヤーと繋がっており、つまり相手は建物に繋がった。__ワンコといった具合に。
    「おいおい、俺を見る喜びをこいつから奪うのか?」破損させるより、行動不能にする__(手柄を軍に譲った?)
    ジャックに気を遣いながらの走行と戦闘に苛ついた。


    「た、ただ繋がってるだけだ! 」
     野良猫のトンファが関係無く相手ボディに何度も打ちつけられた。フロントを激しく打ちすえる音が立て続けに何度も響いた。なにかが砕けて破裂するような鈍い音があがったと思ったとたん、左腕から火花が散った。ねじくれた導線の先に煙をあげている片腕が__からぶら下がっていた。道路一面に破片が散乱していた。
     熱に炙られた人間は、何をする時間もなかった。__を一瞬にして砕き、なおも叩きつけながら自分を殺そうとする赤いフロストの光景に目を釘付けにされていた。
    それ以上を目にする時間はなかった。
    兵士は断末魔をあげながら壮大に__ずれたミサイルを発射させ、相手に確実に精神にダメージ__。頭が凍りついた。


     背後から虚ろな感じのするすさまじい金属音が響きわたり、つづいて爆発の轟音が轟いた。そのあとから形容に絶する熱波が吹き寄せてきてふたりに襲いかかった。同時にバットポットもろともふたりをおおきく突き飛ばした。ついであらゆる思考が吹き飛んだ。
    __は地面に激突し、必死にごろごろと__と音をたてながら__まで転がった。吹き飛ばされた。__と接触して擦りあげられ、金属と金属が擦れあう音が上がった。バットポットは歩道に乗り上げ、車体を右の車道側に傾がせてようやく止まった。
     男は仰向けに地面に倒れたのち、狐につままれたように茫然とした目つきで連れを見つめた。
    (なにがあった?)
    (マルコ?わからないの…)体が動かなかった。暗闇がカミラの目の前でぐんぐんと大きく広がり、かろうじて残っていた力が体から抜けていった。


    「__の救援に向かう」無線越しにジョシーの息遣いと__を外す音が聞こえた。
     ついで目に飛びこんできた光景に、苦しくなっていた息が途中で止まった。思わず背筋を伸ばして、事故現場に目をむける。道路一面に破片が散乱していた。男が一度、地面から立ち上がろうとして、顔から地面に崩れ落ちた。
     ジョシーが__、__から二台のジャックポットが近づいてきていた。かなりのスピードを出している。すでに__ほどまで迫っていた。

    ジョリーは息が切れていた。走ったせいではないと思った。喫煙の習慣はないし、体調は良好そのものだ。息が切れたのは恐怖と狼狽のせいだ。
     近づいてくる兵士に向けて、ペイント弾を発砲した。あれは、対WAP専用だが、知るもんか。
     ジョリーとチャールズはふたりが横たわっている場所に行くと、両腕でマルコを助け起こした。力なく横たわっているカミラの体を両腕で抱えあげ
    「ふたりとも、いまから病院に連れていく。なんの心配もない。大丈夫。安心して」
    マルコの気力が尽きた。兵士は呼吸困難に陥ったらしく__。
    「負傷者がでた」「引き揚げる!」


     ニューコンチネント軍は、__を描き、__を包囲している。__の中心へ__いきつつある。ジャックはもはや街にはいない。


    (OCN)
    「ここまでだ。各区画制圧された」


    (グリーグはコマンドポストに連絡)
    「帰営する」

    「野郎ども!機内で待っていろ」「引き揚げる」
    時刻は__事__分で、メインストリートにはWAPをとめる場所がふんだんにあった。〈__〉の向かいに無価値をとめて__にすわったまま、かつてはちいさな街でおおいに繁盛していたものの、いまではペンキが剥がれかけた遺物になっている建物をみつめる。人間がまだ住んでいることを示しているのは、埃だらけのショーウインドウに飾られた数枚の宣伝プレートだけ。どのプレートもあまりに古色蒼然
    「」」
     としていて、何年も放置されていたとしてもおかしくはなかった。
     大半の__は__に引き返した。地獄の壁に随行したヴァンツァーの被害は軒並み軽微だ。
    〈ビッグハート〉は 降りるところだ。こいつ、俺たちの真似をしていないか?
    「成功を嬉しくおもいます」

    「野郎ども、よくやった。成功を祝ってくれ」
    「ホームに帰るぞ」
    ジョシーにいたっては不愉快な粘膜を顔から爪先まで被ったのだ。ピンク一色の彼はカートゥーンアニメのようだった。__においてはピーがはいるような言葉を連発していた。(けっして落ちない汚れを落とそうとして__)

    〈ビッグハート〉の数名が――ジャン、マグスは髪を顔のまえに垂らしたまま、グリーグのほうへ近づいていた。デイヴが遮る。
    グリーグと話をする。



    「アニメみたいだな」無価値の前に完全に潰されたヴァンツァーが数機転がっている。
    この街は悪臭が立ちこめている。

     ミリガン・アシュトンが__から降りてきて、ジョシーと肩を並べた。 __その下から紫混じりの長髪をたなびかせた。「何があった?」細い髪の毛生えている頭から、汗がおおきの透明な滴になって流れ落ちていた。
     




     視線がジャックが暴れていた現場を見る。
    「流行に__よかったな」
    ゲッタは苦虫を噛み潰した顔をした。""流行""に__
    「かなりのショックだったんだな」
     ミリガンは呆れたように空を見上げ、__。
    仲間は愚痴こそ溢すけど……皆一様にジャックを称賛している。あいつらの目的はなんだ?
    時間を確認。

    「また立ち寄るか?」くそ、デイヴ。
    「今日は行かないよ」俺はこのところ何度かここを訪れている。デイヴは俺がクラブで女と遊んでると思いこんでるらしい。見立ては間違いだ。ゲッタはグレイロックからフリーダムまでの距離を計算した。130キロか。""ラ・ピュタン・エノルム""は戦争で廃れてつつある街にある。フリーダム。ハフマン島のベッドタウンである""フリーダム""はハフマン島中西部に位置し、人口90万人を誇る大都市だ。今日も、いつものヤツらは愚か者に幻想の餌をあたえている。
    ジョリー・バニスターと彼からの贈り物。酒と〈__〉の香り。ともあれ、グリーグの目が黒いうちは彼の__などムリだ。呼び鈴の音がしてゲッタは忌まわしい白昼夢から目覚めた。

     マグスと何人かは秘密めいた雰囲気が漂う〈__〉という名前の80年代バーの中にはいっていった。珈琲の香ばしい、苦い匂いが漂ってきた。
     ゲッタはグリーグのことなど意に介さないというふうにバーへ入って薄っぺらでお世辞にも居心地がいいとはいえない椅子に座り、_に珈琲を注文した。近所の常連と思し年配の客が何人か見えた。痩せこけた紳士たち。
    ""ビッグ・ハート""のジャンとキングは__いる。マグスはクォーターの男とアップルパイ・ア・ラモードを食べていた。彼女の男性的な眼だが、あらぬかたに視線をむけている。顔は細く面長で小麦色、髪はこわく黒い。
     男ほうは牝鹿のような目をしていて、輪郭は西洋人のものだが――顔が小さく細い面長――日本人の血が混ざっているからなのか幼い感じがする。だが、西欧人らしい均整のとれた見ばえのする顔立ちをしている。ジョリー・バニスターに似ていなくもないという感じだ。いや、まったく似ていない。
    頭に入りこんで、忘れようにも忘れられないリーバスの鼻歌。鼻がおもいだした〈__〉の香り。

     箱に対しての愚痴とジャックの話題。

    まったくこの耳は余計な話まで聞いてしまう。
    「___? 誰だ、そんな口をきいてるのは」

    「お前ら、__を見た後でも同じことを言うのか?」「任務が中断された。」
    「いいえ。見ていません。 ___でしたから。_____」
    「あなた、地獄の壁の人?」
    「まぁね。友達をつくるために話しかけたわけじゃないんだ」ゲッタはもう気のない口調になっていた。
    「こっちも馴れ合うために話しかけたわけじゃない。」アップルパイをつつきながら言った。
    「そんなつっけんどんな態度とるから、花としか友達になれないんですよ。あなたは。いい加減、我慢することを覚えなさい」
     ピーターはふたりにじっと見られながらも、にこっと笑った。
    ジャンが介入。「うちのマグスが__なのは__のせいで」詫び。どうでもいいことだけどビッグハートの全員が面長なのか。
    「そうなの?__の鉢を灰皿にしたの?!」
     どうやらマグスは擬花化してるらしい。
    「ああ、飲んでくれ」
    (割勘)ジャンはなにか世間話をしている。その言葉は彼の耳に入らなかった。

    「武装市民団ミリシアの線は?」
    「そうかもな。連中は傭兵だ。俺の見立てじゃ、__。金持ち企業の傭兵部隊っととこだ」ジャン

     キングが引き継いだ。「残骸撤去、残骸を調べる班が新種の弾を発見したそうだよ。これは、企業が荷担している証拠になるね」
    マグス。「そうね。ニューコンチネント押し。OCNやゲリラ__を相手に__してる理由があるはず」
    ピーター「不思議に思うところがあります。軍は彼らが傭兵だと認知していないところから察して、__なのでしょう。証拠に一般市民扱いですから。奇妙なことに__しませんでしたね。仮にミリシアだとしたら」
    「巷ではサカタファクトリーが首謀者なんじゃないかって。彼らは殺人もしかねないって噂ですから。ですが、あなたも御自分の目でお確かめになられたとおり、彼らの商品とはほど遠いのなんの。あの方たちの嗜好って時代錯誤もいいところでしょう?」
    「バニスター一族が怪しいです。ハイセンスで坂田とはまるで嗜好が違う。ジャックっぽい。 いくつらか細かい情報をつかんでいます」
    ――嘘だろう、あの美人が?


     __のあいだ、ゲッタは、昨晩ナイトクラブに自分が出向いた理由に思いをめぐらした。
    ゴールドのヴァンツァー噂はたまにでる
    「ゴールドの……」

     手にはまだ__のコップがあった。(実は、会ってきた)
    マグスはジョリーの素性を聞きたがり、ナイーブな眼差しのピーターがからかった。
    「彼は女性じゃない?」


    ※※※※※


    「 _________」







         ****

    霧雨

     ブラックレディからジョリーとチャールズが降り立った。チャールズは生皮の__コートを身にまとっていた。彼はコートの襟を立てて雨を防ぎ__黒いコートの裾が、膝のあたりで風にはためいていた。
     広い歩道を真っ直ぐ歩いていった。それから総合案内デスクに近づいて行きながら、_

     もしふたりの容体が悪化していたら、いまごろ集中治療室に収用されているはず。ICUは三階。四階は一般病棟
    ""S""経過良好

     マルコ・レテリエは片手にオーヴァナイト・バッグをぶらさげた姿で__。
    ディープレッド
    「あなたたちふたりとも来てくれたのね」フェイスラインの髪と前髪を長く残した健康的で色っぽい雰囲気のウルフがいた。ベッドに横たわってはいたが、
     どろどろに溶けた__の悪臭も____。
    「こんなことになって残念だ」カミラはしばし考えこんでから、笑みに口元をほころばせ、わずかに歯をあらわにした。
    「マルコが体にぶつかってきたし、背中のあたりに痣ができたと思うけど、それ以外はなんともない」
    「それはなにより良かったけど」
     ジャック・ポットの焼け焦げた__の表面に浮いた薄くひび割れた塗料、炎に炙られたのにかかわらず__だったスーツ。
     
    「ボス、何ともない」実際は右のあばらのあたりが痛んでいた。内出血している。

    「怪我をした人が出たのは、君のせいじゃないよ」
    「__のグループはお払い箱にしてやる」
    「__の作戦の発案者だよ」


    チャーリーは目を()

    「行くところがある」

    (ジョリーは寝不足。チャールズの誘いを断る)

    ****

    _は証拠とともに帰還した。
    ジョリーは思わず目を細めた。

    「負傷の程度は?」

    報告
    「欲しければ_までは都合できます。ただし、納期を一週間見てください。」
    「この手の代物は値が張ります。6つだと、お代は__。__精一杯勉強させてもらってです。支払いは現金だけにしてもらいます」
    「そうだな、買うことにするよ」
    そう話す__の口調には後悔がにじんでいた。ふたりでささやかな気持ちのいい科学技術の夢を見ていたのに、その夢が終わりかけているとほのめかしているかのように。
    「で、仕上がりはいつ?」
    「だったら来週の__曜日に来る」


     それでもその言葉を相手に伝えて電話を切った。

    マーティー・ストゥー


    (ブティックで)
     ももから裾にむけて細くなる黒いテーパードパンツ、白スニーカー、デニムシャツ、ヘンリーTに着替え、それから__、__に向け車をを走らせながら、__。__分後には__の喫茶店にいた。
     都会を展望できる場所。
    デイヴは愛人にある疑惑を抱いている。
    ここまで__させたのは怒りだったのかもしれない。こんなことは滅多にないが、
    (デイヴ移動)ミリシア……



    (ジョリーのペントハウスへ)直通エレベーター
    ペントハウス。天井が高い。ルーフテラスがある。


     流行りの型に__スチールグレーの男が__スペースに設置されてある個人用エレベーターに乗り込む。エレベーターは自動的にペントハウスの__階へとデイヴを運び上げた。
     デイヴが入っていった__階の部屋は玄関に隣接した客間だった。(天井や壁の一部分がガラス張り、満開の花をつけた__)ジョリー・バニスター__、、__。
     扉を押し開けて玄関に入り、正面の大きなガラス窓を__。
     愛人愛用の香水の香り
    (天井、テラス側はガラス張り、)
     世界じゅうのモデルを凌駕する顔が見えた。彼は全裸でヌーヴォーに身体を横たえていた。ヌーヴォーの傍と壁には四百輪はあるだろうブルーやパープル、ピンク、イエローなどの巨大な蘭がボヘミアクリスタル製の花瓶に生けられていた。(デイヴ見つめる)
    イタリアでは、オルキデーア・ファレノプシスと呼ぶそうだ。

    「あ、頼む。なにか着てくれ、そんな姿をみていたら…」デイヴはそう言ったが、困っているふうはなく、むしろ楽しんでいる顔つきだった。ジョリーは手を差しだした。
    「さわってくれてもいいんです」そうはいったが、内心では不満に満ちていた。この男は自分の面前で凶悪な弾を使ったのだ。まるで黒い花びらのようだった。そして爆薬の匂い。むっと鼻をつく刺激臭。
    「頼む。俺を困らせないでくれ」普段は超然としていて容易に感情をあらわにしないのに、ジョリーのまえではぱっと顔を輝かせる。
     デイヴは何度かクラブを訪れている。__や__を見るかぎり、昨今の女たちはチャーミングな男よりは本格的に鍛えあげた筋肉の持ちぬしに熱中しているようだった。
     それで現実だった。女を褥へ誘うのに筋肉は大いに役にたった。
     ナイマは特別な女だった。頭ひとつぶん背が低く、豊かな胸、大きく張りだしたしり、背中かからしりのくだり、だのにあれほど気に入っていた黒人女を視野の隅へ追放したのは男だ。彼と__で出会ったその瞬間、女に求める基準もなにもかも変わってしまった。あの一瞬で。
     ナイマに欠けていたもの、持ち合わせてないものを彼はすべて手にいれてきた。ジョリー・バニスターは高嶺の花? 彼はそんなもんにおさまらなかった。
    この男は自分より6センチも高い。デイヴはジョリーの足に触れた。__もとに白い小説が置いてある。しりを触った。しりから腰を撫でた。戦場であんなことをしているのに、傷ひとつないないとは驚いたな。ジョリーの眼、不思議に媚びない眼。
     手を握ってキスをした。肉厚な唇はされるままだったが、答えるようになじませた。__
     なぜ、わたしのことが気になるのか? なぜ、私とデートをしたいと思った?

    「そんなに私のことを知りたかった?」そう、ジョリーは、デイヴの愛人の自覚がなかった。
    「なにをいいだす、こんなふうに誘っておいて。__」
    (怖かったか?)
    ジョリーは本を朗読した。こんなふうに朗読して__ことをする。

    洒落たブティックのようなクローゼット。ロフト。壁にブレゲの時計が飾ってある。

    __に巨大なバスルームがあるのに気づいた。(カーテンが引かれる現れた)壁全体が展望窓で、多分ハーフミラーになっている。
     ライムグリーンの葉をつけた枝に一部遮られた、おおきなガラス窓を__。こんなふうに__を飾る理由。ここで人づき合いをすることがあるということだろう。
     幹には手が届きそうなほどだ。プランツの幹には、この男の突き出たしりみたいに突き出たマズルのハバナ色をした猫が目を細めてこちらを見ている。特別大きな猫が二匹、苦しいのに絡まるとはどういうことだろうと首を傾げている。

    ジョリーの肉厚の唇がデイヴの下着の縁を挟んだ。口を使って下へ、下へ。
     ああ、ジョリー、ルーフテラスに家庭菜園をつくっていたのか。朝、彼がそこに腰をおろし、ルッコラかなにかを収穫しているようすを思い描いた。「何を育てている?」沈黙。自分の下着を歯に挟んだまま上目遣いをしてくる。小説にのみ登場する類いのミステリアスな眼…。小説から抜けてでてきたような娼夫。
     小説を朗読する。

    月と
    太陽(永遠の愛。太陽と月は夫婦。太陽は灯りを月にあて見るけども、月は太陽の顔を見るのは月に一度のみ)


     デイヴの体は、大部分が筋肉でできている。
    筋肉の壁に肌をつけているのは気持ちが良かった。
     美人が好きそうな表現で言うなら彼はポーションクリームで太腿を濡らしていた。ジョリーは半開きの眼でデイヴィーを見た。





    だいじょうぶ、サディスティックには慣れている。

     __も__に至るまでハンスグローエ社のものだった。
     タオルで口を塞いだ。シャワーの水をあてる。美人は挑発的な眼差しを向けた。苦しそうに喉を詰まらせ、よせと首を振り、体をねじらせながら、__は求めている。デイヴはことにおよんだ。


     ベッドの上にはクッションに囲まれて、美人とデイヴがなかば横たわっている。彼は__、__体の線が浮き立つローブといういで立ちだった。やはりこの男は注目願望の持ち主なのか。
     ハニーブロンド、顔のまわりをキャラメル系のハイライトをいれているのがわかった。
    化粧された眼のように見えた。
     キスをした。
    (書面を見ずに朗読できるか?なにか読んでくれないか?)
     美人は__を朗読できた。うつ伏せ
    __の甘い__が部屋に充満していた。猫の__がソファーの__に飛び乗ってきて__の匂いを嗅ぎはじめた。ソファーの前に座っていた。美人はハバナの頭の絹のようになめらかな毛をなでてやった。

     いまでは風に乗って__ミュージックがかすかに聞きとれる。ごくわずかな調べで、とてもいい。__・__を聞いているジョリー、指にマニキュアをした手に__(ジンフィス)のグラス。
    「ところで、立ち入った質問で恐縮なのですが…」ジョリーは淡い笑顔をデイヴに向けたが、その目は真剣だった。「こちらへは__からいらしたのですか? __、__壊れたヴァンツァーが見えたものだから」
     珍しく笑い声をあげた。
    「バットポットを宙に跳ばす人間を見た。すごいことだ。新しいヒーローの誕生に立ち合うことができたことを嬉しく思う」もちろん冗談
    「彼は何者でしょう?」ジョリーは淡い笑顔はそのまま、目の真剣な光もそのまま
    「金持ちだ」ジョリーは魅力的なあいづちを打ちながら微笑んだ。
    「バニスターは、贈り物を持っているのか?」
    「ブルース・ウェインがバットマン、トニー・スタークがアイアンマン、オリバー・クイーンがアローならな。
    「持っていますよ」
    「本当か、だとしたら、DC、マーベル屈指の美人主人公だ」デイヴは首にキスをした。

    「聞かないんですか?」


    「いつか死ぬからな」ジョリーの脈が跳ねあがった。恐怖を感じているせいだ。 また頭が凍りついて動かなくなりかけた。まぶたがわずかに重くなり、呼吸が乱れる。まさか、彼にわかり得るのか?いったいどこまで知っているのか。
    「一体、どういう理由があってあんなところに」 常に不安にさせておくんだな。
    「みっちりと話をするために?」
    みっちり? デイヴは彼が__の被害者であったことを嗅ぎとった。いったい誰が?
    「それは、____ととっていいんだな?じゃぁ事実なんだな。ちくしょう。」
    「なぁ、これだけは言っておきたい、聞いてほしい。」ジョリーは甘えるかのようにデイヴの肩を舐めていた。叱責をただの騒がしい音と認識している猫のようだ。
    「止まるべきだった。俺たちの戦場じゃ破片が__割、鋼鉄の血飛沫が__割を占めている。
    戦場には__余興で__殺せるからという理由で人を殺すやつもいる。簡単に殺してしまう。だから、無駄なでたとこ勝負はやめてくれ、あんたを失いたくはない」嗅いだどろどろに溶けた鋼鉄の匂いが鼻孔にこびついている。
     筋肉質の肩を強く噛んだ。歯が皮膚を裂き、血の味がした。だけど、あんたはフレシェット弾を使ったじゃないか。
    「話してくれなくてもいい……ただ、」デイヴはジョリーの顎を痛くない程度につかまえて自分の面前にむけさせた。きょとんとした純粋な眼。この男は__を演じている。唇の隙間に指を入れて歯をなぞった。

    「あのギャルソンエプロンはなんだか、おかしかったぞ」
     顔の全面が熱くなるのを感じた。顔を一瞥したあとは顔はしたのほうへいったが。
    「エプロンでしたか?」
    「ああ、そいつはバレエで鍛えたしりをそいつで隠してた。あんただ。ほかにはいない」

    が部屋を満たした。このミルク飲み。腐ったミルク飲み。
    この男に__する特殊性癖はなかった。あるはずがない。NPDの多くはチャールズや私のような特殊性癖の持ち主を蔑み軽んじる。ジャックの正体はわかったんだろう?だのに、まだ続ける?
    「デイヴィー」ああ、愛人役だっけ。NPDが一枚噛んでる。性癖こそ特殊ではあるが、権力者の息子だという事実は簡単にそんな恥を覆える。ただの御曹子ではないのだから。

     私はNPDに繋がれている。すべてはニコラ・トーマからはじまった。チャールズ・バニスターはHPD、この男もNPD。私はこの男の延長ぶつとして利用されてはいないか?とうになっている。この男の飾りじゃないが。
    この男にちょっと爪を立てて恥をかかせてやってもいいかもしれない。__したときのニコラ・トーマのように、この男は激怒するだろうか?ジョリーは白昼夢に浸った。

    ジョリーはたっぷりした肉厚な唇を尖らせ、眉間にシワを寄せていた。なかなか見ない表情だ。
    「落ちつかないな」
    「さっきはすごかったな。____注目を浴
    びたくて、そのつまり、悪ふざけの類いじゃないんだろ?」
    (それを聞いて彼は__悪ふざけをおもいだした。)

    「ミリシアか?」

    ジョリーの口からでてきたのは、ちいさなささや声だったが、彼を驚かせるにはじゅうぶんすぎた。



    少女の悪魔とヴァンツァーの亡骸を串刺しにする怪物部隊の伝説に触れた。合挽を要求。



    「私は傭兵です。デイヴィー。_民間軍事会社
    __。(大規模)___所属_傭兵部隊〈ノーティラス〉。階級はありません。______。」デイヴは目を丸くして__
    「なんてこった。ってことは」続いてくる言葉を呑み込んだ。アルフレッド・バニスターの目下。一族の手足となる精鋭軍隊。
    ニューコンチネントでは民間軍事会社の活動は違法だ。

     ジョリーは何回か小さくうなずきながら続けた。「戦地に赴いて、先行開発部のオモチャを我が身をもって検証する。フフッ馬鹿げて聞こえませんか? ええ、実際に馬鹿げていますから」デイヴのパンツを放り投げた。そうして疑問符のついた相手の目をひたと見すえ、目を細めて続けた。「退屈しない魅力に惹かれる」
    疑問符のついた目をむけた「これが必要のあることだと本気でおもっているのか?」ごもっとも。ジョリーは不機嫌な表情を浮かべさせた顔をもたげた。鼻先と顎をつきだして。あればかりはチャールズの業だもの。

    「なんでまたこんなことに首を突っ込む?」
    「でもあんたは、あんたほどのひとがなんで傭兵の仕事を」これに関しては人のことなど言えなかった。デイヴは__と聡明な頭脳を持ち合わせておきながら、安心してひとりで孤独を楽しめない。ひとりでくつろげない。との_軍の門を叩いたのもそんな理由だったからだ。
    「わすれてしまった」幕は降りた。これ以上はききだせないとおもったし、詮索しないほうがいいだろう。
    「ああ、ともあれ、あんたとその話ができてよかった」
     ジョリーは短くフッとため息をついた。「信じてる?」
     ジョリーはアッシュブロンドの悪魔の逸話を彼に聞かせるために体勢を整えた。


    ⚠️FMとメタルワーカーは元々繋がりがない物語を無理やり繋げようとしている。FM主役のゲッタとメタル主役のジョリーがダブル主人公してる。ゲッタの話にはあまり重要性は感じないけどケーペッドマウス潰しに加担する。中盤にジョリーの息子やベビーシッターやヘンリーが出てくるから話がややこしくなる。対策を。
    ⚠️ゲッタは悪い子。良い子させすぎないように!

    ねず Link Message Mute
    2020/01/25 1:15:55

    FM――いつものヤツら――(推敲公開)

    悲しいかな。私は小説を書こうとすると作家様に助けを求めたくなります。冒頭ではスティーブン・キングの『ライディング・ザ・ブレッド』を、ジョリーの物語では『ヒストリアン』から引用したように、作品から拝借しなければ表現できないのです。ここ『frontmission』からは頻繁に引用を使っています。
    物語自体はオリジナルですが――シーンについては悲しいかな。オリジナルとは言えない――、フロントミッションの二次創作物です。(続)の意味は文字通り、『frontmission』は終ってないということ。後日更新します。気が向いたら。1年後かも。
    #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

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    • 地獄の壁 #フロントミッション #地獄の壁
      ねずの小説「Frontmission」更新。書き急いでる。いろいろ置いてきぼり。
      来月の6日まで、ねずはギャレリアお休みします。
      ねず
    • 2ジャパニーズボブテイルとジョシー・ダリン #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      右に同じく「ネコとスーパーモデル」のコピー。
      イラストを描くときに使った口癖「もぉ~やだ」
      ねず
    • 10Metalworker #metalworker #ウォッチメイカーねず
    • 7ジェフ #いつものヤツら #オリキャラ から ジェフ
      ねずのハートのいろは黄色でっスマ!
      そんなことより6枚目の写真に写ってるカーテンダサい。
      ねず
    • 2エキゾチックとゲッタ・セドリック #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら
      右に同じく摸写。
      あなたも猫の気持ちになってみてください。
      ねず
    • 2Twin moon #いつものヤツら#ウォッチメイカー から
      いつものチャールズ・ヴェスパシアン・ヘイルとジョリー。


      ※摸写である。
      ねず
    • 2双子月お絵かきソフトCOLOR'S3dを使って2DSLLで描いたイラストをスマホに落としてからフーディーで加工しました。

      #いつものヤツら #ウォッチメイカー から
      チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイルとジョリー


      摸写です。
      ねず
    • 2Metalworker荒れてるな。誹謗中傷スタンプを貼られたら、そりゃびっくりする、悔しいよな。自分の誹謗中傷を耳にしても「聞かせんな」とはねのけちゃえばいいです。追うのは疲れる。私はそうしてます。だって、そいつ、忘れ、とぼけの天才だから。
      そいつだって骨折や病気をひとつでもしたら普通の人生を歩めなくなります。場合によっては無職にもなりうる。無職は死ねとか簡単に言う人は、自分の頭で考えて言った訳じゃない。
      Webや都合の良い仲間の(愚かな)考え、またはジョーク、皮肉を理解できずに、自分の頭からひりだしたまともな意見だと思って、言っちゃいけないところで使ってるだけ。思考停止脳の持ち主なのでは。
      キモイ、K印などはくだらない引用にすぎない。
      そして、くだらないことを言っても無駄です。言ってやった当人の賢さがアップします。ボーナスの振り分けありがとうございました!と言っちゃってもいいな。
      で、も、気になるものが気になるのが繊細な心を持つヤツなんだよな。はあ。

      っつーのがねずのいまの気持ち。じゃぁ、また6日。
      ねず
    • 3アビシニアンとミリガン・アシュトン #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      右に同じくコピー。
      ねず
    • ハバナブラウンとジョリー #いつものヤツら からジョリー・バニスター

      右に同じく。Pinterestで偶然見つけた「ネコとスーパーモデル」よりコピー。
      ねず
    • ジョジョ。ジョリーとジェフさはい、 #いつものヤツら から いつものヤツです。
      小説、「Frontmission」更新しました。
      荒は気が向いたときに直します。
      まだまだ続きます。

      ※摸写🙇※荒木先生のジョジョとは無関係🙇
      ねず
    • 2シャルトリューとフランソワ・ルタン #ウォッチメイカー #いつものヤツら #チャールズヘイル

      「ウォッチメイカー」よりチャールズ・ヴェスパシアン・ヘイル。右に同じく。摸写。
      ねず
    • 2ピーターボールドとデイヴ・スターリング #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      Pinterestで見つけた写真「スーパーモデルと猫」から摸写🙇
      ねず
    • 3チャールズ #いつものヤツら #ウォッチメイカー からいつものヤツら。ねず
    • 2アリス #いつものヤツら からアリス・アスクウィスさん。

      ※これは模写だね。3DSソフト、カラーズで描いた。
      ねず
    • ハングオーバー #いつものヤツら
      過去絵だけど。
      ねず
    • 2泥棒さん #いつものヤツら から #オリキャラ ジェフ

      ※摸写🙇
      ねず
    • 13いつものヤツら #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら からみんな。
      チャールズ、ゲッタ、ミリガン、シャーリー、ジョリー、ゲーオ、ジョシー、マルコ、トラヴィス、ケヴィン、デイヴ、リーバス、グリーグ
      ねず
    • 5リスナーとシセロ #スカイリム #シセロ #いつものヤツら

      「おまえを見ている」の🖐️を届けたくなる季節。
      ねず
    • チャールズ・バニスター #いつものヤツら からチャールズ。ねずのクソ小説『Frontmission』 にでてきたやつ。ねず
    • 2双子ちゃん #いつものヤツら からシャーリーとケヴィン。

      ※模写だね。Pinterest『つきおばけ🌚』のほうにも遊びに来てね。
      ねず
    • 6ブラックサンタ #スカイリム #シセロ #闇の一党ねず
    • なにか言いたげシャーリーちゃんはい、 #いつものヤツら から いつもいないヤツ。

      さっきのは、新着のお隣さんとミラクルコラボしたみたい。はかってないです。偶然です。
      ねず
    • ジョリー・バニスターはい、 #いつものヤツら からいつものヤツです。ねず
    • 喉が渇いたジョリーはい、しつこいねずです。 #いつものヤツら から はいはい。きみらね。
      #ウォッチメイカー から チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイル

      ※摸写🙇
      ねず
    • 踊らない男 #フロントミッション #地獄の壁 #いつものヤツら

      からゲッタ・セドリック
      ねず
    • 五十代アメリカ人男性を描けない悲劇 #ウォッチメイカー #チャールズヘイル #いつものヤツら
      おお、朝起きて様子見に来たら賑わってるじゃないか。ほかは知らないけど、ここは未明とか、朝に賑わうのかな。昨晩は大人しくて、いろいろ評判とか調べにでかけたくらい心配したよ。
      昨晩から利用させて頂いてます!ってあれ?新着いっぱいあったんだけど投稿したらなくなって…?違うページだったの?なんだか、さっきは何を見たのか、よくわからないけど、賑わえ、ギャレリア。
      ※摸写です。
      ねず
    • 5丸顔の間抜けムーンボーイとか前のムーンボーイ絵を消した。
      目について、ごめんな。

      #氷と炎の歌 #ムーンボーイ
      #地獄の壁
      #スカイリム #声がでかいマーキュリオ

      マーキュリオ「認めろよ!俺がいないんで、道に迷ったんだろ?」
      ねず
    • 4ジョリーパスタパスタを食べにね「ジョリーパスタ」行ったの。
      チーズ臭いとか言われるのはイヤじゃない。
      ジョリーパスタでジョリーがパスタ食べてる『ねずがジョリーパスタ入った』記念イラストを描きたいんだけど、なんかね、面倒くさい。
      だからタイトルだけ。
      かなり古いイラスト。

      #いつものヤツら #ジョリーパスタ
      ねず
    • 5デトロイト #metalworker
      1――デトロイトにお散歩。

      2――フェイスレス。ヘビー級。

      3――フクロウ。肩ごと百八十度回転。

      4――WAW。WOWだったかも。

      5――サファリナンチャーラパクった生きてるアニマルバイク
      ねず
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