そして僕らは死を知る あの人が死んだ。
僕は泣かない。泣けないのかもしれない。不思議と悲しくはない――ただ、胸の奥に風が吹いている。息苦しい、これは重圧だろうか?解放されたはずなのに?
これから僕たちはどうするのだろう。どうなっていくのだろう。
僕らが誤てば国は傾く。人が死ぬ。あの人の生も死も、いや、何もかもが無駄になる。
そうならないために何をすればいい?何が正しい?
唐突に怖くなる。
僕は茫然として視線をさ迷わす。ふと見上げれば、親友の顔。僕を見ないで、空を仰ぐ。その瞳が濡れていた。
悲しいのか、そう思うと、彼は片手で目を覆った。涙、が、彼の頬を伝う。僕は見ている。
溢れる涙を止めかね、彼は歯を噛み締めた。顔を覆ったままうつ向く。
泣くなよ、泣いてる場合じゃない、いいかけて、言葉にならない。口を開いて、また閉じた。息ができない。
心臓を鷲掴みにされた気分だった。
親友の名を呼び、腕にとりすがる。必死にあげた声はかすれていた。
彼は視線をあげる。僕を見る。僕は自分の両頬に流れるものが信じられないままで、顔を歪めた。
そのまま二人で抱えあうようにして泣いた。
僕はその時初めて、胸の中を吹き抜ける風は喪失感だったのだと悟った。