大嫌い 僕なんか、と彼は顔を背けて口走った。
「……馬鹿にするのも大概にしろ。僕は、僕なんか、」
彼は普段のように声を張り上げることもしなかった。形のよい唇から零れる言葉はまるで感情の奔流のようで、グランテールは目を見張った。
僕は美しくなんかない、と彼は言った。グランテールは冗談だと思った。冗談としか思えなかった。だって、彼はまるで大理石の彫像のように美の理想そのものの姿をしていたから。
「アンジョルラス、馬鹿になんて……」
「しているだろう、現に、今!」
彼はグランテールを睨みつけた。凍るようなアイスブルーの瞳がグランテールを射抜く。ああ、まるで宝石のようだ。
「アンジョルラス、聞いてくれ」
グランテールが一歩踏み出すと、彼は一歩引く。ついに彼の背中が壁に着いた。
「僕を美しいだって! 馬鹿な」
彼はそうひとりごちて、視線を落とす。
「君は僕を笑って楽しいか? ふざけるな、僕をなんだと思ってる……」
「君は、美しいよ」
グランテールは繰り返した。は、と彼は声をあげて笑う。
「君は見下げ果てた性格をしているな。これでもまだ……」
「だって、そう感じる心をどうして止められる?」
グランテールはまた一歩踏み出す。アンジョルラスはもう後ろに下がらない。下がれない。彼は顔を背ける。その美しい顔を隠すかのように腕を上げた。
「……隠さないでよ」
グランテールはアンジョルラスの腕を掴んだ。ぐっと腕を引かれて抵抗される。
「アンジョルラス……」
名前を呼んだ。彼は顔を背けたままだ。頬を金髪が覆って、彼の表情は分からない。
「顔を見せて」
そう言って、少しだけ屈む。アンジョルラスは身をよじって嫌がった。白い首が露になる。
「アンジョルラス、好きだよ」
彼の首元に顔を寄せる。彼の耳たぶが赤いような気がする。
「好きだ」
耳許で囁いた。耳の下の柔い皮膚に唇を当てる。彼のからだがびくりと震える。
「好き。好きだよ」
彼の首筋を食み、少しだけ舌を出して舐める。彼の全身が緊張している。
「……は、なせ」
彼は呟いた。グランテールの胸を押し返す。嫌だ、とだけ言って彼の耳朶を愛撫する。
「アンジョルラス、好きだよ」
「……っ、僕は、嫌いだ……」
「そうか。構わない」
ちゅ、ちゅ、と音を立てて彼の肌に吸い付く。少しずつ上気していく肌。
アンジョルラスがとうとうグランテールの手を振り払った。吐息の届く範囲で、彼の青い目がグランテールを捕らえる。薄く涙の膜が張っていた。
「君なんか、大っ嫌いだ……!」