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    第3話 #69 Call 帰宅。無事で良かったと迎えに来れなかった母親に抱きしめられ、回答に困った羅門。まさか悪魔のお兄ちゃん達に助けてもらったなんて言えない。彼はとりあえず、無事に帰れたからご褒美にあとでケーキを買ってほしいと無茶なお願いをして自室に戻った。近所で起きた大ニュースは、テレビでも大きく取り上げられていた。『怪物』の襲来。そして『奇跡』による鎮静。専門家や報道陣の難しい言葉は彼には分からない、ただ未曾有の大事件ということは確かに実感した。もちろんその日から一週間は学校が休みになったし、外にも出られなかった。公園などで遊びにいくこともままならず、
    「にーちゃんたち、どうしてるんだろ」
     ベッドに寝転がり、携帯の発信履歴を見つめる羅門。その間、彼は呼び出しさえしなかったが『彼ら』のことを気にかけていた。どうして自分が、あんなとんでもないことを出来るようになったのだろうか。そもそも悪魔って、どういうことだ?悩んでは忘れようとし、また悩むうちに彼は少しずつ、あの大事件の記憶を薄れさせて不安を小さくしようとしていた。

     一週間後。まだ街の復旧は完全ではなかったが、学校が再開した。いつもの日常が戻ってきた、はずだった。まだ授業は2時間目。先生の呪文のような説明に、ぼうっとしていた羅門。だがその催眠術は、あっさりと破壊された。ガラスの割れる音、悲鳴。
    「何事だ!」
     先生の慌てる声。それもそのはず、触手まみれのタコみたいなモンスターが、階段を登り廊下の窓を次々破壊していたのだ。怪物襲来のトラウマが癒えていない学生は、先生は、恐怖に怯え逃げていく。
    「やっぱり、モンスターかっ!」
     羅門の声には、「そんなまさか」と「やはりそうであったか」の狭間で揺れ動く感情が宿っていた。
    「つまり俺様の出番というわけだ、モンきち!」
     久々に聞いた『内なる声』。羅門ははっきりと分かった。クラスメイトに彼のことをモンきちなんて呼ぶ者はいない。
    「今度は誰っ」
    「フォカロルやフォルニキばっかりじゃないんだぜ、モンきちが呼び出せるのは! スマホの準備をしな!」
     悪戯っぽい青年の声。かつて共闘してくれた悪魔の名前を出され、味方の存在だと分かり羅門は少し安堵した。雑踏に紛れて、ロッカーからスマートフォンを取り出す。
    「とりあえず廊下に行け、便所の近く! 俺様は水源があれば『輝く』能力持ちだからな!」
     兄ちゃんと達と一緒か。羅門の独り言に嗚呼、と呼応する声。しかし、
    「羅門くん! 逃げて!」
     先生の引き止める声。無理もない。水道のあるトイレは、怪物のいる方角に向かわないとなかったのだ。
    「せんせー! ごめん! ションベンしてくる!」
     嘘をついた。怖い。でもおれが行かないと、みんなが危ない。羅門は本当に怖くてちびりそうになりながらトイレに向かって走った。
    「番号は」
    「69!」
    「わかった!」
    「シャープ忘れんなよ」
     悪魔の通りに番号を呼び出し、廊下の壁に魔法陣を展開させた。襲い来るモンスターとの距離は、教室1クラス分。喚起された金髪マッシュヘアの、顔立ちの良い青年と一緒に並ぶ羅門。青年が厚底ブーツを履いていたからか、すこし身長に差があった。
    「よしモンきち、水道の蛇口を開けっぱにしてくれよ!」
     わかった。羅門は承諾するとトイレ前の水道を勢いよく捻り、噴射させた。ごお、と大きな音は魔物の咆哮でかき消される。
    「オーケー、準備はバッチリだ! いくぜ、モンきち、その水をバケモノめがけてぶちまけな!」
     頷いた羅門。水圧で押し切れるとは思えないが、きっとこの青年には隠し玉があるのだろう。彼は青年の言葉を信じ、指で蛇口を抑えモンスターの足元にばら撒いた。青年の方に目を向ける。遠目でも片目を光らせて、構えを取っていることが分かった。モンスターの触手が目の前に来る。それを待っていたかのように、ほくそ笑んだ青年のフィンガースナップが鳴った。一瞬のうちに凍りつく廊下。そして、氷に覆われて身動きの取れないモンスター。触手を伸ばせば羅門を吹き飛ばせる距離であったが、それを青年の展開した低温の環境が防いだ。
    「凍った!」
    「綺麗だろ? ……おい、水止めんなよ。いつ動き出すか分からねえし」
     青年の言葉に従うしかなかった羅門だが、若干不服そうに突っ返す。
    「え、凍らせるだけ? じゃあ倒せないんじゃ」
    「いちいちうるせえな。 ったく安心しな、ああいう魔物は冷気が募れば」
     そんな中でも青年は笑みを崩さなかった。もう一度指を鳴らす彼。冷気が強くなったと羅門が感じたや否や、青年は怪物の触手を思いっきり、そしてあっさりともいだ。
    「こんなふうに破壊できる!」
     まるで冷凍したシーフードのように、ぱきんと折れてしまった腕を羅門は放心して見ていた。
    「何も凍らせているのは表面だけじゃない、こいつの体液組織液も凍らせたんだ。このまま放置しておけば凍死するだろう。尤も……」
    「もっとも?」
     寒くなってきた環境に対し自分を抱きしめるようにして暖を取り、震えながらよく分からない用語を聞き流しつつ青年に尋ねる羅門。
    「こいつは、生き物かどうかすら怪しいんだけどな」
    「それは君だって」
     はは、と冗談めいて笑う青年。そういえば自己紹介もしていなかったなと、彼の方に向き直って青年は名乗った。
    「俺様はデカラビア。……確かに俺様は生き物とは違う、悪魔と『定義されし』モノさ。」
     意味深な笑みを浮かべたデカラビアは、五芒星の埋め込まれた片方の瞳を、ウィンクして閉じた。
    「……とりあえず、お前が生きてて良かったな。そうじゃなきゃあ、」
    「そうじゃなきゃ?」
     氷漬けになった空間で、唇を青くして尋ねる羅門。
    「なんでもねえ。とりあえず、後でここちゃんと水拭きしておけよ。後片付けは俺様の仕事じゃねえから」
     なんだよ、と怒る相手をよそにデカラビアは魔法陣を展開し、消えていってしまった。一人、凍ったモンスターと共に廊下に立つ羅門。嗚呼おれは何をしていたんだろう。とにかく先生に謝って、廊下を拭かなきゃ。非日常と日常の落差に困惑しながらも、彼は小学生特有の無知さと好奇心と、恐怖心のなさによって『悪魔』という存在を許容しつつあった。
    濃霧 Link Message Mute
    2020/05/26 7:17:02

    第3話 #69 Call

    ##ソロモンの5人艦隊 #オリキャラ #オリジナル #一次創作 #創作 #小説 #悪魔 #現代ファンタジー
    第3話

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