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  • 茶田智吉 Link
    2020/01/18 7:27:16

    【BSR】政小パラレル4本詰め

    #戦国BASARA #伊達政宗 #片倉小十郎 #政小 #腐向け #パラレル ##BASARA ##同人誌再録
    イベントで配布した小咄詰め。
    『竜神様のお気に入り』
    ・政宗が竜神、小十郎が少年のパラレル。(※捏造成実注意)
    『ハロウィン小ネタ』
    ・政宗が竜王の子息、小十郎がブラウニー(家付き精霊)のファンタジー風パラレル。
    『満足ベッド』
    ・現パロ。政宗と佐助の会話で成り立っている政小。
    『喜多のかまど』
    ・某えねっちけーの某スイーツ料理番組のパロ。
    (約1万5千字)

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    しおり
    【BSR】政小パラレル4本詰め竜神様のお気に入りハロウィン小ネタ満足ベッド喜多のかまど竜神様のお気に入り 違う、これじゃない、と献上された品々をろくすっぽ見もせず脇へと押しやる竜神に、そうと気づかれぬよう成実は溜め息を逃がす。
     退屈を嫌うこの竜が「俺の欲しいモノを寄越したらひとつだけ願いを叶えてやるぜ」と邑の者に告げたのは三日前。
    「この邑のモノだ」とご丁寧に手掛かりまで教えるも未だ正解には至らず、かく言う成実も彼がなにを欲しているのかは知らないのだ。
     問うたところで素直に口にするとも思えず、また、成実の口から邑の者に漏れてはつまらないと、口角を吊り上げるのも目に見えていた。
     更に三日が経ち、もしや『物』ではなく『者』なのではないかと邑で一番と謳われた娘が参るも、竜神は一瞥くれただけで、用はない、と言わんばかりに気怠く手を振って帰らせた。
     いよいよもってお手上げであると項垂れる邑の者は、同時に恐怖にも駆られていた。いつまで経っても望みのものが届ぬことに対し、竜神は機嫌を損ねているのではないかと。それは誰が言い出したわけではなく、強大な力を持つ者に対しての根源的な恐怖と言えた。
     当の竜神はと言えば邑人の様子に気づいていながら何を言うでもなく、ただ、にやにや、と愉快そうに口端を曲げて厭らしい笑いを浮かべるのみだ。
     本当に退屈してるんだな、と成実は呆れの溜め息を飲み込み、邑人を不憫に思ってか「大丈夫だ」「安心しろ」「無体はしない」と言って回るのだった。
     この竜神が人前に現れるのは今回が初めてのことではなく、むしろ頻繁に人の形を取っては神社の奥に作らせた自分の庵で、だらだら、と時を過ごしている。
     さすがにだらけきった姿を人目にさらすことはないが、常に共にいると言っても過言ではない血族であり従者でもある成実からすれば、弛みきっているとしか言いようがない。
     今回、竜神──政宗が言い出したことの期日は二週間。
     一日に訪れる人数は減ったとはいえ、やはり望みが叶うというのは大層な魅力らしく、毎日なにかしらが届けられる。普段は静寂に支配されている敷地内が今は昼夜問わず人の蠢く気配に満ちており、正直、成実は落ち着かないのだった。
    「なに欲しがってんだかなぁ」
     己の発言一つで右往左往する邑人の姿は、一時とはいえ政宗の退屈の虫を満足させているらしい。基本的に臍曲がりだが、悪気のない竜神の退屈凌ぎにまともに付き合っては馬鹿を見ると、成実は気分転換に庵を離れ、敷地内を流れる細い清流に沿って、ぶらり、と足を延ばす。
     途中で人為的に作られた支流沿いに進めば、小さいが手入れの行き届いた畑に行き当たる。その更に先には田があるが、今は時期ではないため水は張られていない。
     畑に立ち手桶から柄杓で水を撒いている童の姿を目に留め、成実は笑みを浮かべると「小十郎」とその名を呼んだ。
     顔馴染みではあるが打ち解けているかと言えばそうではなく、小十郎は一旦動きを止め軽く頭を下げるも、そのまま水撒きの手を止める気配はない。
     彼はこの神社の息子ではあるが一度訳あって他所へやられたことがあるせいか、歳の割に口数が少なく表情が乏しいというのが成実の率直な感想だ。
     だが、別段嫌われているわけではないので、姿を見かければ声を掛け、手持ちの菓子があれば分け与え並んで口にしたりもする。
     柄杓で掬えなくなったか最後に桶の中身を直接畑へ撒き、空になったそれに柄杓を差した小十郎は支流を、ぽん、と跨いで成実の元へとやって来た。
    「お饅頭あるよ」
     食べよう? と声を掛ければ「ありがとうございます」と頭を下げる。以前、同様に手持ちの菓子を、食べる? と問うたときに「いいえ、結構です」と間髪入れずに断られ軽く凹んだことがあるのだが、それを何かの折りに政宗に話した際「それじゃあダメだ」としたり顔で言われたのだった。
    「選択を委ねるな。言い切れ」とその自信は一体どこからくるのかわからぬまでも、政宗は間違ったことは言わぬとわかっているため、成実は翌日に即実行し思い通りの応えを得ることが出来たのだ。
     その事があってから成実は注意深く小十郎を観察し、例え些細なことであっても彼は決して自分からは請わぬのだと知った。あれは小十郎のことをよく見てるなぁと感心し、そう言えば小十郎も政宗にはほんの僅かではあるが気を許していると思い至る。
     切欠はなんだったかと半分に割った饅頭を口に運びつつ、成実は隣に腰を下ろしている小十郎を横目に見やった。
    「そういや小十郎は政宗ンとこになにも持ってこないよね」
     お願い事はないの? と首を傾げて見せれば、別に、と全く興味のない声音で返された。欲のない子だ、と成実が僅かに目を眇めれば、それに気づいたわけではないであろうが、小十郎はなにか思い当たったか一瞬動きを止め、あ、と小さく掠れた声を漏らした。
    「こめ……」
    「うん?」
    「今年も病気しないで育ってくれれば、いいな、と」
     そう言って顔を巡らせた小十郎の視線の先を追えば、そこにあるのは今は名も知らぬ草に支配されている田で。
     小十郎ひとりで耕し、水を引き、苗を植え、収穫されるそれは、竜神へと捧げられる神酒となる。醸造も彼ひとりの手で行われており、子供には荷が勝ちすぎていると思ったものだがなかなかどうして。筋が良いのか要領が良いのか、齢十五の三年目にして政宗から合格点をもぎ取ったのだった。
     何度も政宗にダメ出しをされたときに小十郎が一瞬見せた表情を思い出し、成実は「そうは見えないけど負けず嫌いなんだよなぁ」と改めて思う。
     政宗は恐らく小十郎の本質を見抜いており、わざと発破を掛けるような物言いをしたのだと、今ならわかる。小十郎は小十郎で無意識であろうが、己を理解してくれる者であると政宗を認識したに違いない。
    「あ、これか」
     先の疑問に対する答えが、するり、と導き出され、間の抜けた声を上げる成実を小十郎は訝り、黙って首を傾げた。
    「いやいや、こっちの話」
     なんでもない、と軽く手を振り成実は空を見上げる。近年は天候も安定しており、それは即ち政宗の心が穏やかなことを示している。破天荒さと思いきりの良さで代々の竜神の中でも特に気性が荒いと言われているが、彼とて訳もなく暴れることはなく、血族の贔屓目を差し引いてもどちらかと言えば思慮深く、義理堅く、律儀な方だ。
     そんな彼が大暴れをしたのは確か、小十郎が他所へとやられた日だ。当時は顔すら合わせたこともなく、政宗が一方的に小十郎を覗き見ていたような状態であったが、あの子供を見ていたときの政宗は非常に満ち足りた顔をしていた。
    「あれは、俺の右目になるぞ」
     一度だけ政宗はそう口にしたことがあり、成実は訳がわからないと首を傾げるだけであった。
    「それじゃ、そろそろ行くわ」
     じゃあね、と手を緩く振り立ち去る成実を送るように、涼やかな笛の音は彼が庵に戻るまで響き続けたのだった。


     すとっ、と庵の戸を開ければ、政宗は窓辺に置かれた文机に肘を突き、隻眼を閉ざしていた。障子を閉ざしたまま小十郎の奏でる笛の音に耳を傾けていたか、その旋律が途絶えると同時に、ゆうるり、と瞼を持ち上げ、気怠そうに口を開く。
    「やっぱりいいな、あれは」
     眠気を誘われたか、どこか蕩けた表情で言葉を紡ぐ政宗の姿に、成実は軽く肩を竦めて見せる。
    「間違ってもそのだらしのない面、邑の者には見せるなよ。なけなしの威厳が跡形も無く消し飛ぶからな」
     幼少の頃より共に育ったが故に成実から気安さは抜けぬも、公私を弁えていることもあり、政宗は全く気にしていないためお咎めはない。よいせ、と人一人分の間隔を保ち成実が腰を下ろせば、政宗は彼の言葉を特に気に留めることなく、菓子皿から饅頭を一つ取り上げた。
    「そろそろネタ切れらしいぞ」
     くつり、とひとつ喉を鳴らし囓ったそれも、邑人が持ってきた物だ。どうせ違うとわかっていたからか、お茶請けにとそのまま置いていったのだ。
    「あー、間が悪いなぁ。こんなことなら丸々一個くれてやるんだった」
     お前も喰え、と押しやられた皿を前に成実がぼやけば、政宗の片眉が、ぴくり、と上がる。
    「餌付けしてんじゃねぇよ」
    「そんなんじゃないっての」
     わけわかんねぇ、と嘆息混じりに饅頭を口に運ぶ成実を暫し半眼で見やっていた政宗だが、ふと、相手が難しい顔をしたことに気づき、なんだ、と言わんばかりに緩く首を傾げて見せた。
    「いや、今更言うのもなんだが、四年前の流行病……お前は関わってないんだよな」
     綺麗な歯形の付いた饅頭に落としていた目を、すっ、と正面に据え、真剣な眼差しを向けてくる従者に、竜神は一瞬瞠目するもそれは瞬き一つの間に感情を映さぬ眼へと変じた。
    「あぁ。一切関わっちゃいねぇよ」
     他所へとやられた小十郎が今現在ここに居るのは、四年前にこの邑で流行病があったからだ。
     跡取りにと育てられていた長子を病で亡くし、巫女であった母も既に他界しており、代々受け継がれてきた正統な神官の血筋はここで途絶えた。
     実際のところ小十郎もこの母の子であるには違いないのだが、父親がわからぬのだ。身籠もった本人が頑なに口を閉ざしたことに加え、神に仕える巫女が不貞を働いたと邑の者に知られるわけにもいかず、この件に関しては皆揃って口を閉ざしはしたが、小十郎に対するよそよそしさは隠し切れていない。
     だが、小十郎を正式な跡取りとすることに難色を示していた者達も、背に腹は替えられぬとやむなく彼を呼び戻したのだった。
     いらぬからと他所へやられ、大人の事情で再び呼び戻される。そのようなことがあれば幼心に傷付き、感情を押し込めてしまうようになってもなんら不思議ではない。
    「血に拘るのはどこでも一緒か。めんどくせぇよな」
     するり、と己の右目を覆う眼帯を一撫でし、ぽつり、漏らした政宗はそのまま立ち上がるや障子を開け放ち、すぅ、と目を細めた。その視線の先にあるのは立ち並ぶ木々のみだが、恐らくそれらを擦り抜け神眼は更に先を見ているのだろう。
    「目ん玉ひとつで済んだんだからいいじゃねぇか。もしおまえに両の目が揃ってたら今頃、誰も手が付けられねぇくらいの荒神になってたんじゃねぇの?」
     命がいくつあっても足りねぇよ、と戯けた仕草で肩を竦める成実に、うっせ、と短く返し、政宗は僅かに眉尻を下げる。
     幼い頃から望まぬうちに継承者争いに巻き込まれていた政宗は、裏表無く率直に意見を述べるこの男が血族であり近しい間柄であったことに、何度感謝したか分からないのだ。
     愚かな振る舞いをすれば殴ってでも止めてくれる、何者にも変えがたい存在だ。
    「それよりもいつまで続けるんだ? いい加減、騒がしいのにはうんざりなんだが?」
    「二週間って最初に言っただろ。おまえだってそれで了承したんだから我慢しろ」
    「はいはい。全く、ひでぇ神様に好き勝手振り回されて邑の奴らもかわいそーに」
     これっぽっちもそうとは思っていない口調で笑い声を上げる成実に合わせ、「俺もそう思うぞ」と政宗も戯けた笑い声を上げたのだった。



     今日も今日とて運ばれてくる品を、あっさり、と突き返し、政宗は退屈そうに大欠伸を漏らす。
    「だーれも気づいてねぇのな」
     落胆の呟きかと思えばその瞳は喜色に満ちた輝きを放っており、成実は僅かに眉根を寄せる。変わり者だとは思っていたが、欲しいモノが当てられないことを喜ぶなど理解に苦しむ。
    「そろそろなにが欲しいのか、教えてくれてもいいんじゃね?」
    「Ah? おまえもわかんねぇのか。それじゃ他の奴らにわかるワケねぇよなぁ」
     くつくつ、と喉奥で低く笑う政宗は心底嬉しそうで、やはり理解に苦しむ、と成実は隠すことなく更に眉根を寄せた。
    「それとも、当たり前すぎて今更だからか?」
     謎かけでもしようというのか、要領を得ない問いを発する政宗になにか言いかけるも、成実は、はっ、と口を噤んだ。彼よりも一瞬早く、目の前の政宗の隻眼が不快感もあらわに細められたからだ。
     瞬間的に膨れ上がった不穏な気は、嫌な空気を辺りに撒き散らし、やがて消えた。
     無言で立ち上がった政宗の表情は先までの柔和さは一切無く、柳眉を吊り上げた険しい物へと変じている。
    「今のは……」
     知らず漏れ出た成実の声など耳に入っていないのか、政宗は開け放たれた戸口の向こうを、じっ、と凝視する。ややあって近づいてくる小さな足音に気づいた成実がその姿を視界に納める前に、
    「小十郎」
     と、鋭い声が政宗の唇から発せられた。
     ぴたり、と止まってしまった足音は、外にいるのが小十郎であると告げている。
    「どうした、小十郎。入って来い」
     逡巡の気配はあるものの有無を言わせぬ強い口調に観念したか、そろり、と忍ぶように小十郎が姿を見せた。その面を目にした刹那、政宗のひとつしかない眼はこれ以上はないほどに見開かれ、わなわな、と拳が震え出す。
    「Hey、そのツラぁどうした」
     入り口で立ち尽くす小十郎に向けられた声音は、ぶすぶす、と燻る怒りが抑え切れておらず、地を這うように低く恐ろしい。だが、それは小十郎自身に向けられた物ではないことを、成実はわかっていた。
     左頬を腫らし、黙って俯く小十郎は唇を引き結んだままだ。
    「なにが、あった」
     未だ抑えきれぬ怒りに震える声音ではあるが、先よりは落ち着いているそれに成実は内心で胸を撫で下ろす。互いに動こうとしないふたりに代わって腰を上げ、小十郎に静かに歩み寄ると上がるようにと促し掌を背に添えた。
     だが小十郎は、ふるり、と首を横に振る。どうしたのかと成実がよくよく見れば、その足は何も履いておらず土に汚れていた。庵の畳が汚れることを懸念しているのだと気づき、水桶と手拭いを持ってこようとするも、それよりも早く政宗が動いた。
     無言で伸ばされた腕に小十郎が反射的に身を竦めるも政宗は意に介さず、歳の割に痩せぎすな身体を抱え上げる。なにが巻き起こったのか思考が付いてきていない小十郎は、大股に戻る政宗に横抱きにされたまま、ぽかん、とその顔を見上げるばかりだ。
     どかり、と胡座をかいた足の上に下ろされ、ようやっと事態を把握するもそこから抜け出せるはずもなく。
    「暴れたら土が落ちるぞ」
     更に先手を打たれては身動きひとつ取れるわけがないのだ。
     腫れた頬に掌を宛がい、伝わる熱に政宗の眉が寄る。
    「全部話せ」
     ゆるゆる、と癒すように頬を撫でながら促せば、小十郎は逡巡の気配を見せるも目を伏せたまま薄く唇を開いた。
    「籾が、持ち出されました」
     震える唇が紡いだ言葉に、政宗も成実も絶句する。更に続けられた内容に政宗は、ぎり、と奥歯を鳴らした。
     神酒を造るための種籾は、神域である神社から持ち出すことは固く禁じられている。一度、外界へと出てしまえば世俗の垢がつき、穢れたそれを神に捧げるわけにはいかないからだ。
     邑の者なら決して犯さぬ愚行であるが、事の重大さを理解していない子供であれば、話は別だ。
     同年代の子供からすれば、神社からなかなか出てこず滅多に口を利かない小十郎は不気味な存在で、得体の知れない相手はいつしか気にくわない者へと変じ、更にはそこはかとなく大人達から疎まれているのを感じ取っていたか、彼に対する嫌がらせのためだけに神酒を造るための特別な種籾を盗んだのだった。
     常であれば特別な用がない限り足を踏み入れることのない神社は、ここ数日頻繁に邑の者の出入りがあり、子供達が敷地内に入り込んでいようとも誰も気に留めていなかった。
     子供からすれば他愛のない悪戯であった。
     それでも例え悪戯であっても事が事なだけに、咎めを受けるのは邑の子供であろう。
     だが、叱責を受けたのは小十郎の方であった。
     おまえの管理がずさんだったのだと、問答無用で頬を張られた。小十郎はそれに反論することなく、申し訳ありません、と静かに頭を垂れ畳に伏した。
     小十郎の几帳面さ、真面目さを政宗と成実は充分すぎるほど知っている。朝昼夜、毎日欠かすことなく倉の様子を確かめ、掃除も欠かさない。
     なんと理不尽な、と成実が拳を震わせれば、小十郎は諦めたように首を横に振った。
    「経緯はどうあれ、大切な籾を失ったことに変わりはありません。如何様な罰も受ける所存にございます。この身ひとつでどうにかなるのであれば、どうぞお気の済むようお使いください」
     そのために参りました、と真っ直ぐに見上げてくる小十郎の瞳に迷いはなく、政宗は瞠目するも瞬く間に、やわり、と眦を下げた。
    「おまえを、くれるのか?」
    「そう、なりますか……?」
     政宗の問いの意味がわからないのか、小十郎は助言を求めるように成実を、ちら、と見やる。だが、その動きが気にくわなかったか、政宗は頬に添えたままの手に力を込め強引に小十郎を己へと向けさせると、「おまえの意志で、俺の元へ来たんだな?」と重ねて問うた。
    「はい」
     それには迷うことなく即答し、小十郎は竜が言葉を続けるのを黙って待つ。
    「そうか。小十郎、おまえの願いを叶えてやる」
    「はい?」
     またしても意味のわからぬことを言い出した竜神を見上げ、小十郎は、ぽかん、と年相応の幼い顔を見せる。
    「と、言ってもこの状況じゃ欲しい物はひとつか」
     くつり、と喉を鳴らし己の懐をまさぐった政宗は、呆気に取られている小十郎の目の前に、掌に乗るほどの小さな巾着袋を、ぷらん、と下げて見せた。
    「俺のお宝だけどな」
     ほら、と促され小十郎が恐る恐る受け取った袋の口を開ければ、そこに詰まっていたのは黄金色の籾で。
    「毎年、収穫前に少しずつ貰ってた」
     これは去年のだ、と目を細める政宗に悪びれた様子は欠片もなく、そもそも彼のために米を育てている小十郎が怒るわけもなく。
    「でも、なんで俺の願いを……?」
     そこまでして貰う理由がわからず戸惑う小十郎に、成実はどう説明したものかとこめかみを押さえる。先のやり取りで政宗が欲しがっていたものがなにであるか、ようやっとわかったのだ。
    「あーうん、灯台もと暗しだった」
     当たり前すぎて今更、と政宗が言った時点で気づいて然るべきだったのだ。
    「小十郎の作る米も酒も、奏でる笛も舞も、そして小十郎自身も全部俺のモノだ」
     やっとやっと俺のモノになった! と喜色を隠しもせずそう宣言するや政宗は、ぎゅう、と膝上の子供を抱き締め、突然のことに小十郎は、ぎゃあ、と声を上げることも出来ず、ただただ、足に付いた土が政宗の着物を汚さぬようにと石になるしかなかったのだった。
     すっかり舞い上がっている竜神を眇めた目で見やり、成実はひとつ嘆息を漏らす。
    「じゃあ、籾のこと話してくるわ。どうせ小十郎が言ったってこじれるだろうし、おまえが言ったら更にこじれそうだからな」
     聞いているのかは定かではないが、一応断りを入れてから庵を出ようとした成実だが、これだけは言っておかねば、と肩越しに振り返った。
    「元はと言えばおまえのせいで小十郎が痛い思いしたんだからな。それはわかってるよな」
     ぴしゃり、と言い放てば政宗の全身から放出されていた陽気が、まるで頭から冷水を浴びたかのようにみるみる消え失せていく。その様に成実は小さく鼻を鳴らし、それ以上はなにも言わず出て行った。
     残された政宗は小十郎を放しはしなかったが、耳元で小さく「Sorry」と漏らしたのだった。



     すっ、と極自然に寄せられた主の顔に、小十郎は、ふい、と顔を逸らす。
    「政宗様……」
    「An?」
    「いい加減このようなお戯れはおやめくだされ。小十郎はあの頃のような童ではありませぬぞ」
     今ではすっかりと成長し政宗の身長を追い越したにも関わらず、小十郎は未だ事ある毎に政宗の膝に誘われ続けている。
    「なに言ってんだ。俺からすれば人なんて、いくつになっても童と同じだ」
     くつり、と喉を鳴らし眼前に晒された小十郎の耳たぶを柔く食めば、うぐ、と咄嗟に声を飲み込んだ色気のない呻きが漏らされた。懐かしい話を聞かされただけで顔から火が出そうだというのに、これ以上醜態を晒すのは小十郎にとって拷問に等しい。
    「なんだよ、昔はもっと素直で可愛かったのによ」
     不満を示す言葉とは裏腹に政宗の口角は、にゅっ、と上がっており、ともすれば肩を揺らして笑い声を上げそうな雰囲気ですらある。この状況を楽しんでいるのは誰の目にも明らかだ。
     なんだってこう妙なところで意地が悪いのか、と小十郎は溜め息を吐き、どこか疲れた声音を漏らす。
    「ですから、小十郎は……」
    「わかってる。もうガキじゃねぇって言うんだろ」
     不意に潜められた声に小十郎は息を飲み、そろり、と顔を政宗へと戻せば、そこにあった竜神の顔は声音同様、真剣なものであった。
    「おまえ、早く嫁娶って子供作れ」
    「は?」
     突然なにを言い出すのかと小十郎が目を丸くすれば、政宗は暫し口を噤んだ後、再度、ゆるり、と薄い唇を開いた。
    「おまえの子供なら俺は愛せるし、おまえが選んだ女ならそいつも愛せる。血を残せ、小十郎。お前の血が代々ここを守るんだ。そうすれば、俺は安心してお前を連れて行ける」
     唄うように紡がれる政宗の言葉に小十郎は瞠目し、記憶の中にある若々しい姿とまったく変わらぬ目の前の男を、ただただ見つめるしかない。
    「そうすれば、ずっとずっとおまえを俺だけのものにできる」
    「俺は……既に貴方だけのものですよ?」
     今更なにを、とまるで幼子をあやすかのような、齢を重ねた柔い声音で小十郎が告げれば、政宗は笑みながらも瞼を伏せ、ふるり、と頭を振った。
    「おまえの生真面目さを何年見てきたと思ってんだ。俺と邑のことどちらかを選べって言われても、どっちも放り出せないくせによ」
     そういうところもひっくるめておまえのこと気に入ってるんだけどな、とどこか誇らしげに言葉を落とす政宗の頬に手を伸ばし、小十郎はそのまま、ゆるゆる、と撫でさする。
    「普段は俺の都合などお構いなしなくせに、妙なところで律儀な方だ」
    「ばーか。俺を祀ってくれる神社が無くなっちまったら困るんだよ」
     本当ならば今すぐにでも、常世から神世へと連れ去りたいのだ。
     人はすぐに老いて死出の旅路についてしまう。例え神であろうとも、人の生き死にを己の都合で変えることなどしてはならぬのだ。
     だからだから、一日でも早く人の世の因果を断ち切り、此方側の者にしたいのだ。
    「……考えておきます」
     心中を口には出さずとも、聡い男は政宗の痛切な胸の裡などお見通しであるのか、表情は真面目そのものであったが、触れた指先から伝わるぬくもりと、そこに込められた愛しい愛しいという思いに、政宗は、くしゃり、と相好を崩したのだった。

    ::::::::::

    初稿 2011.06.25
    加筆修正 2011.09.07
    ハロウィン小ネタ「Trick or Treat」
     帰宅するや否や主の口から流麗に滑り出た言葉に、玄関の扉を開けた格好のまま小十郎はこれみよがしに盛大な溜め息をついて見せた。
    「ノリ悪いな」
    「全く、毒されるにも程があります」
    「身をもって体験する。これもこっちの習慣を知る立派な『勉強』だろ」
     さらり、と言い放った政宗に、口が減らない、と内心で溜め息をつきつつ、『後学のため』と称してこちらへとやってきた竜王の息子の鼻先に小袋を突きつけてやる。
    「なんだよ、お前だってやる気満々じゃねぇか」
     ニィ、と鋭い犬歯を剥き出しにした凶悪極まりない笑みを見せる政宗に、小十郎は再度溜め息を漏らす。
    「俺が一体どれくらいこっちに居ると思ってるのですか?ご近所付き合いは莫迦に出来ぬのですぞ、政宗様」
     実態はブラウニー(家つき精霊)だが、人としてすっかりこちらに馴染んでいる変わり者は、急速に広まった異国の行事に相当苦い思いをしたようだ。小十郎は政宗の前では険しくなりがちな顔を更に険しくする。
    「なんで悪戯する側が菓子を用意して人間を待たなければならないのかと、以前は悶々としていましたが、気にしても仕方がないと最近になって悟りが開けそうです」
     ハロウィン以上に厄介な案件が転がり込んできたのだ。それにくらべれば人間に菓子を振る舞うなど些末なことであると、嫌な開き直り方をしたらしい。
     厄介な案件とは説明するまでもなく、目の前でパラフィン紙に包まれたクッキーを早速囓っている政宗のことだ。大恩ある王の頼みでなければ即お帰り願っているところだと、小十郎の眉間に深いしわが刻まれる。
     それまで居た家で唐突に綺麗な服を渡された。衣服に大した執着のない小十郎であったが、大半のブラウニーにとってそれは即ちお役御免であるということだ。
     寒風吹きすさぶ中、途方に暮れていた小十郎を拾ってくれたのが、政宗の父である輝宗であった。
     どうにも片付けが苦手でね、と苦笑混じりに通された部屋は汚いとは言わないが確かに雑然とした印象を受ける部屋で、片付けの傍らたまに顔を見せる政宗の相手も、いつの間にか小十郎の役割になっていた。
     幼少期の政宗は引っ込み思案で口数も少ないおとなしい子で、跡継ぎがこのような頼りない様で大丈夫かと、城内では密かに囁かれていたものだ。
     暫くはこれといった問題もなく小十郎も充実した毎日を送っていたのだが、輝宗に重用され、更には人見知りな政宗も懐き始めたとあっては日々外野の声がやかましくなり、本質的には気性の荒い小十郎は「主に迷惑を掛けてはならぬ」と己の緒が切れる前に、自ら輝宗の元を去る決心をしたのだった。
    「こじゅ、行っちゃうの?」とつぶらな瞳を潤ませて見上げてきた政宗の姿は脳裏に焼き付き、人間界へ来てからもたびたび思い出してはその身を案じていた小十郎である。
     そんな『お可愛らしい政宗様』が後学のためにこちらへ来たがっているとの話が先日、輝宗からもたらされ、「ちょっとの間、面倒見てやってくれないかな?」とお願いされれば小十郎が二つ返事で引き受けないはずもなく。
     かれこれ十年は経ったであろうか。大きくなられただろうなぁ、と内心ソワソワと政宗の到着を待つも、実際に現れたのは横文字を織り交ぜた珍妙な言葉を発する、昔の弱々しい面影などキレイサッパリ吹っ飛ばした政宗であった。
     どうしてこうなった、と記憶にある『政宗様』と目の前の『政宗様』の差違に固まっている小十郎などそっちのけで、エンジン全開な政宗は再会の挨拶もなおざりに玄関先で相手を押し倒すという暴挙をやらかし、当然のことながら小十郎をドン引きさせたのだった。
    「なんだよ、そんなCuteなツラしてっとまた押し倒すぞ?」
     世間一般的に言われる『Cute』と政宗の口にする『Cute』はもはや別物であると、再会一日目で小十郎は学習し、寝食を共にする中で受け流す術も覚えた。
     ムキになって否定すればするほど政宗は愉快そうに目を細め、「そういうところがCuteだって言ってんだよ」と小十郎には理解不能なことを、肌が粟立つほどの甘い声で口走るのだ。
     逆に言えば小十郎には流す以外に選択肢がなかったとも言う。
    「阿呆なこと言ってないで早く入ってください」
     立ったまま菓子を食べ終えた政宗に呆れ声を返せば、おとなしく一歩を踏み出しかけるも、何を思ったか政宗は、ニィ、と口角を吊り上げた。
     これはまた阿呆なことを言うぞ、と小十郎が身構えれば、本日二度目の「お菓子くれなきゃ悪戯するぞ」がその形の良い唇から飛び出した。
    「なに言ってるんですか。先ほど差し上げたでしょう?」
     ほら早く、と突っかけていたサンダルを脱ぎ小十郎が先に上がれば、その背に向かって政宗は両手を、ひらひら、と振りつつ「俺はなーんにも持ってないぜ?」と笑み混じりに答える。
     は? と小十郎が振り返るのが早いか、「お菓子がないなら悪戯だよなぁ」と、弾んだ声と共に、ぱたり、と扉が閉じたのが早いか。
     結果、固い廊下と小十郎の親密度が不本意にも上がったのだった。

    ::::::::::

    ウィキペディアより→『茶色(ブラウン)を基調とした容姿から、ブラウニー(茶色い奴)と呼ばれる。』片倉さんにピッタリwww

    2011.10.29
    満足ベッド 出遅れた、とトレー片手に少々渋い顔で賑わう店内を見回した佐助は、窓際に見慣れた横顔を発見し、迷うことなくそちらへと足を向けた。
    「相席いいかい?」
     問いと同時にトレーをテーブルへと置いた佐助を呆れた眼差しで見上げ、政宗は軽く肩を竦める。
    「座る気満々のくせになに言ってやがる」
    「いやぁ、すみませんねぇ。ちょっと会社出るの遅くなったらこれでしょ」
     空席のない昼時の店内に困り笑いを浮かべてから佐助は次の言葉を待つも、政宗の口はそれ以上開かれることはなく、その様子に佐助は内心で、おや? と首を傾げるも表には出さず、軽く礼の言葉を口にしてから椅子を引いた。
     二人掛けの小さな席とはいえ、必要以上に身体を小さくしているように見える政宗を前に、佐助は適度に盛ってきたサラダを突きながら、そういや朝から元気なかったなぁ、と職場での姿を思い返す。
     常に堂々と胸を張り自信に満ち溢れたこの男が、しょんぼり、と肩を落とし、回ってきた書類を眺める姿もどこか上の空で、その場にいた者達は口にはしないもののお互い顔を見合わせ、何事かと囁きを交わしていたのだ。
    「どーしたの、朝から元気ないじゃない」
     午後もあんな調子じゃ困るし、とお節介を焼くことに決めた佐助は、ぼんやり、と窓の外を眺めている政宗に意識的に軽く声を掛ける。
    「なんか悩み事? それとも愚痴? あ、お金のことだったら言わなくていいからね。言っても聞かないよ!?」
    「なんだそりゃ」
    「親しい間柄でも金の貸し借りはするな、ってのが家訓でしてね」
     本当か冗談か判断に難しいことを真顔で言ってのけた佐助に程良く力が抜けたのか、政宗は、ふっ、と軽く息を吐き、だらしなく背もたれに身体を預けた。
    「小十郎のことだ」
    「片倉さん? あ、あー、一緒に住むとか言ってたっけ?」
     あの人がどしたの? と堅物が服を着て歩いているような男を思い出しながら問えば、政宗は、ぐっ、と喉を低く鳴らした後に、ぽつりぽつり、と事の顛末を語り始めたのだった。

     ■   ■   ■

     良い物件にも恵まれ、さぁ家具を揃えるぞ! という段になって事件は起きた。
     現物を見て買うのが一番なのだが、時間的にもそれは無理であるため政宗はネットで、小十郎は冊子カタログでそれぞれめぼしい物をチェックしており、大半の物は双方異議なく順調に決まったのだが、たったひとつ、意見の一致を見ない物があった。
    「一緒だしやっぱキングサイズだよなぁ。おまえ結構体格いいし」
    「あまり寝相がよろしくないので政宗様はセミダブル以上がよろしいかと」
     それぞれがそれぞれの考えを口にしながら、見せ合ったのはベッドであった。
     互いが指し示す物を見やりつつ、共に発せられた言葉を脳が処理をし、同時に「え?」といった顔になる。
    「別々……?」
    「一緒……?」
     なんで別々? と素でポカーンとなっている政宗よりも早く気を取り直した小十郎は、今回の『同居』に関して双方の考えが根本的に食い違っていたことに、ここにきてようやく気がついたのだった。

     ■   ■   ■

     結局、寝室は一緒だがベッドは別々ということで話はついたと締めくくられ、佐助は軽く額を押さえた。
    「……つまり、独眼竜は『同棲』のつもりだったのに、片倉さんは『同居』としか思っていなかった、と」
    「やけにすんなりOKが出たと思ったら、そういうことだよ」
     ははは……、とどこか遠い目をしながら乾いた笑いを漏らす政宗を少々気の毒に思いつつ、佐助はベーグルにかぶりつく。
    「まー、そのなんだ。あの人がそういう人だってのはアンタが一番わかってるじゃないの」
     色恋に疎いと言うより、小十郎自身が政宗のそういう対象になるとの意識が薄いのだろう。
    「同性ってのはさておき、元はお父さん同士が仲良くて、というか社長と部下で? 片倉さんとは十年前にそれで知り合ったんだっけ? 年もちょっと離れてるし、兄弟感覚なのは仕方ないでしょ」
    「兄弟感覚でKissはOKって方がおかしいだろ。期待するなっつー方が無理だ」
     ぶすくれた顔での爆弾発言に、ぶふっ、と佐助は噴出する。
    「あー、いやー、そういうのに偏見はないつもりだけど、改めて聞かされるとさすがにびっくりするね」
     口許を拭いながら半眼で笑う佐助に、うっせ、と返し、政宗は冷めてしまった珈琲を啜った。
    「でもさー、俺様が思うにどうせそのKissも、昔っから無理矢理ねだってたんじゃないの?」
     政宗の幼少期など知る由もないが、無駄にアメリカンナイズされている今の姿を鑑みれば想像も容易いというものだ。
     何気ない口調での指摘に反論はなく、図星か、と佐助が半笑いを浮かべれば、ひとり空回っていた事実が更に重くのし掛かってきたか、政宗はじわじわと項垂れ、ついにはテーブルに額をつけたまま動かなくなってしまったのだった。

     ■   ■   ■

     あらかじめレイアウトは相談して決めてあったとはいえ、政宗は休みの都合がつかず家具の受け渡しは全て小十郎任せとなってしまい、全てが揃った新居に政宗が足を踏み入れるのは本日が初であった。
     うっかり忘れていたスリッパは来客分も含めて用意されており、小十郎の細やかな気遣いに政宗の顔が少々だらしなく弛んだ。
     一室だけの和室は小十郎の私室として割り当てられ、ベランダには小さいながらもすでにプランターが置かれている。
     いよいよ新生活が始まるのだとの実感に胸を高鳴らせ寝室へと向かうも、ベッド選びの際に発覚した不幸なすれ違いのことを思い出し、僅かに歩みが鈍る。政宗は正直、自分でなにを選んだのか覚えていなかった。寝られればもうどうでもいい、と半ば投げやりになっていたのだ。
     最終的に決めたのは小十郎なのでハズレではないであろうことが、唯一の救いと言えば救いなのだが。
     現実を目の当たりにするのは少々、寂しくもあるが、くよくよしたところで事態は変わらないと腹を括り、そっ、と寝室の扉を開けた政宗は目の前に広がる光景に、二度、三度と瞬きをした。
     空気の入れ換えのためか開かれた窓から入り込んだ風がカーテンを柔らかく揺らし、部屋のほぼ中央に置かれたベッドは皺ひとつ無くキレイにベッドメイクされており、大きな枕がふたつ並んでいる。
     ごしごし、と何度目を擦ろうが部屋にあるベッドの数はひとつで、枕はふたつ。
     その大きさは小十郎と住むと決めてから、政宗が思い描いていた通りの物だ。
    「……でけぇ」
     呆然、と唇から零れ出た言葉は間抜け以外の何者でもないが、それが現実であると脳みそに浸透した素晴らしいタイミングで背後から名を呼ばれ、政宗はなんだかんだで自分に甘い男に、これ以上はない最高の笑顔と共にKissの雨を降らせたのだった。

    ■   ■   ■

    「やだ、独眼竜キモい」
     翌日、出社してきた政宗を見るなり、佐助は思いをそのまま口にした。憚ることなくそう口にしてしまうほどに、今日の政宗は上機嫌を通り越し締まりのない顔をしていたのだ。
    「なんなの? そんなにイイコトあったわけ?」
     先日の落ち込みようはなんだったのか、と遠回しに佐助が仄めかせば、政宗は口端を、ニィ、と吊り上げ「It's a secret.」とだけ返したのだった。

    :::::::::
    喜多のかまど「Hey,小十郎。どうした難しい顔して」
    「政宗様、これを……」
     そう言って小十郎が目を向けたのは壁に掛かった黒板で、そこは小十郎の姉の喜多が『要望』を書いていく場所であった。
    「なになに……『シンプルなイチゴケーキが食べたい! byキタ』」
     無駄に渋く読み上げてくれた政宗に小十郎は僅かに渋面を作るも、それは重々しい溜め息に取って代わられる。
    「和菓子ならばこの小十郎、多少、腕に覚えはございますが、洋菓子となるとからきしでして」
     ほとほと困り果てている、とデカデカと顔に書いてある小十郎の眉間に刻まれた深いしわすらもが愛しいと、政宗は胸を熱く滾らせる。かまどに胸はないという野暮なツッコミはナシだ。
    「そういう時こそ俺を頼れよ、小十郎」
    「政宗様……」
     ドヤァ、と書き文字が見えそうな声ではあるが小十郎は素直に感激し、「ありがとうございます政宗様。不甲斐ない小十郎になんとお優しい」とちょっと目を潤ませている。
    「だが、スポンジから作るのはハードルが高いな……」
     なんと言ってもこの小十郎、しっかり者かと思いきやとんだドジッ子属性を持っており、これまでにも何度も政宗をヒヤヒヤさせているのだ。
    「よし、スポンジは市販の買ってこい。ちゃんと二枚に分かれてるヤツな」
    「それで良いのでしょうか」
    「いいんだよ。その代わり生クリームは気合い入れて混ぜろよ!」
    「御意!」
     力強く頷くや財布を鷲掴み一目散に飛び出した小十郎の背中に政宗は「イチゴも忘れず買ってこいよー!」と叫んだのだった。

     ■   ■   ■

    「気合いを入れつつ丁寧にだぞ」
    「お任せあれ」
     氷水を張ったボウルに生クリームの入ったボウルを重ね、かしょかしょ、と混ぜていく。最初は泡立て器を左右に動かすのだが、この時点で、びしゃびしゃ、とボウルから飛び出す量がハンパ無く、政宗は思わず「Jesus……」と呻く。
    「Stop! Stop!!」
    「は……」
     素直に手を止めた小十郎をよくよく見れば、生クリームは作業台だけでなく小十郎の顔にまで飛んでおり、若干とろみがついただけのそれは絶妙に卑猥な物体と化していた。
     急に無言になった政宗を訝り、小十郎が「政宗様?」と名を呼べば、唐突に、バンッ! とかまどの口が吹き飛ぶ勢いで開き、驚いた小十郎の手からボウルが滑り落ちそうになる。
    「うぉッ!?」
     咄嗟に持ち直そうとするも更に手が滑り、ついでに体勢をも崩して足をもつれさせてすっ転んだ挙げ句、見事なまでにお約束的にボウルの中身を自分自身へとぶっかけてしまった。
    「あー……」
     前髪から滴る出来損ないの生クリームが鼻先を打つ。エプロンの胸元やジーンズを伝う白い筋に、がっくり、と項垂れる小十郎の上に影が落ちた。
     なんだ? と顔を上げれば『隻眼のかまど』が目の前におり、小十郎は、ぶふっ! と噴出する。
     月一回と制限はあるが実体を持てる都合の良いかまど様は、貴重なその一回をここで使ってきたのだ。
     否、白濁まみれの小十郎という美味しい状況を前に、ここで使わずどこで使うというのか。
     座り込んだままの小十郎に覆い被さるように政宗は身を乗り出し、べろり、と小十郎の頬を伝う白を舐め取る。
    「ちょ、政宗様……ッ」
     ふざけないでください、と肩を押す小十郎の手を取り、甲に付いた流れ落ちそうなほどに緩いクリームをわざと見せつけるように舐め取った。そのまま、ちゅっちゅっ、と順番に指先にキスをしていけば、気恥ずかしさからか小十郎の目元が赤く染まり、やや俯き加減になる。
     よーしこのままイケる……! と政宗が内心でガッツポーズをしたその時、

     ピンポーン……

    「あ、姉上」
     はーい今開けますー、と簡単に政宗を押しのけ玄関へと小走りに向かう小十郎の背を見ることなく、政宗は「喜多ぁぁぁぁぁッ! なんつータイミングだぁぁぁぁ!!」と床を転げ回って悔しがったのだった。

    ::::::::::

    2012.09.12
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