イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    血塗れのタルサの花

    「ザーリアスの旦那!!」
    「ん……?」

     別に、このザーリアスにとって、最近はそれほど剣を振るうのが楽しい訳でもない。

    「ナルディアの軍隊が、攻めてきた様子でさぁ!!」
    「ホウ……」

     慌てた様子が見てとれる、ここの大規模山賊団の使いっぱしり、ザーリアスは彼に一瞥も与えず、そのまま。

    「フン……」

     カシャア……

     そのまま、彼は飲んでいた安酒の瓶を床に投げ捨て、傍らにある。

    「仕事か……」

     1振りの剣、幅広い刃を持った片手剣を、その手に掴む。

    「先生、早く!!」
    「……うっせえな」

     その剣、片手剣にしては大ぶりなそれの柄元の根から。

     キィ……

     透明の素材で出来た、何かのお守りのような物。

    「さて……」

     それが、洞窟の松明の灯りに反射して、中に詰まった。

     シィア……

     おそらくは押し花のような物、それを小さく照らし出す。

    「行くか……!!」

     スゥ……

     その立ち上がる挙動にすら隙がない、熟練の戦士だけが持つ、持てるしなやかな動き。

     ユゥ、ラ……

     その彼、傭兵剣士ザーリアスの、豹のような身体の動きに呼応して、剣の柄が「お守り」ごと軽く揺れた。

    「……なんて言ったっけな、この花の名前は……?」

     まあ、別にそれは今の彼にとってはどうでもいい、単なる剣の飾りなのだが。



    ――――――



     ザーリアスに、血塗れの彼にとっては良き過去などない。ただ。

     サァ……!!

     大きく、橙色の空の中で揺れる夕陽、それになびく麦の海、それだけが、彼の子供の時の良き想い出である。

    ――綺麗だな――

     証拠こそないが、ザーリアスの父はどこかの国の貴族、ないし騎士であったらしい。

    ――つねに、誇りを失うな――

     と、ほざきながら、酒に溺れて、家族に手を上げ続けた、情けない父親。

    ――フン――

     だが、その男の息子であるザーリアスは、すでに6歳の頃には、すでに父の手から母と妹達を守れる位、その腕力と身のこなしは強く、逞しく成長していた。

     ボグゥ!!

     生まれつきの素質もある、そして、父親の身体が重度のアルコール中毒で衰弱しきっていた事もあるだろう。

    ――助けて下さい、もうしません、ザーリアス!!――
    ――その言葉、忘れるなよクソ親父――

     そう、こういう人間は暴力で威圧し、支配するしかない。
    すでに幼い時分で、ザーリアスはそれを学んでいた。

    ――さ、畑の様子を見てくるか、いいなお袋?――
    ――ハ、ハイィ……!!――

     そして、ザーリアスは幼くして、この「一家」の支配者となった。

    ――さて、仕方ねぇが、働くか――

     とはいえ、彼は別に家族を手酷くは扱わなかった。

    ――ほら、都で買った菓子だ――
    ――ありがとう、お兄ちゃん!!――

     特に、幼い妹たちには。

    ――どうせ、あの親父はもうこのレイピアは使わねぇんだ、これの訓練をしてみるか――

     その父が酒の毒によって、勝手に死んだ後に、残された母と妹達の食い扶持はザーリアスが見る事となった。

    ――戦働き、やってみるか?――

     父親の、酒乱のあのヤツが行った迷惑所業のせいで、村では誰にも頼れない、自分達を助けてはくれない。

    ――はたして、俺の剣が実戦で通用するか?――

     確かに、戦いへの恐怖はある。しかし畑仕事だけでは、こいつらは養えない。ならば。

     ス、ズゥ!!

    ――グワァ、ア!!――

     おそらくは、完全なる天性の素質。すでに彼ザーリアスは、少年のこの頃から、剣を自由自在に操る程の素質、それがあったようだ。

    ――よし、敗走する部隊だけを狙えば、俺のレイピアでも通用する――

     しかし、まずはもともと身体、そして心が丈夫ではなかった母が、病に倒れて、そのままあっけなく死んだのを初めとして。

    ――お兄ちゃん、これあげる!!――
    ――……こんな花束を作る暇があったら、村の奴等と遊んでいろ――

     ヴェリアとラーズの間で起こった「高貴なる聖戦」とやらによって、妹達が幼いまま「屈辱」を受けた後に、ゴミのように斬り捨てられた事で。

    ――なぜ、こんな目にあっても――

     戦争によって、破壊しつくされた村の真ん中、奴等に刈り取られた、麦の波。

    ――夕陽というのは、綺麗なんだろうな……?――

     丸裸の、無惨な麦畑跡のその光景には、あまりにも似つかわしくないほど。

     サァ……!!

     美しく、大きな夕陽が放つオレンジ色の陽光の中で。

    ――俺は、一人になっな……――

     ザーリアスの、彼の「まともな」人生は終焉を迎えた。



    ――――――



    ――ギャアァ、ア!!――

     その終焉の後に、彼は天性の剣の腕を頼りにこのラズベリア、この大陸各地を放浪し、金で仕事を請け負う、いわゆる「まとも」な道を踏み外した人生を送るごとに。

    ――ちっ、手応えのねぇ――

     相手を斬り倒した時、その時に上げる相手の断末魔の叫び、金切り声、上げる血飛沫、そして。

    ――なんだよ、たったそれだけの身代金かよ?――
    ――た、助けてくれ!!――
    ――ああっ、知るかよ!?――

     ズザァ!!

     そして、もちろん戦利品。それらを獲る快感という物を覚えた。

    ――さて、次にいくさが起こりそうな所は、とっ……――

     その、斬り捨て、突き刺し、血と軟骨の肉塊とすべき相手は、野盗山賊から。

    ――へっ、これでも正規兵なのかよ、歯応えのねぇ!!――

     規律のとれた兵士、騎士へ、そして。

    ――や、やめてくれぇ!!――

     普通の、善良な人々へと矛先を変えるのに、さほど時間は掛からない。

    ――へっ、こんな金しか持ってねぇのか――
    ――そ、それは家族の病気を治す為のお金!!――
    ――フンッ、知るかよババア……!!――

     ズゥウ、ア!!

     もともと、剣士としてかなりの素質、天性のそれがある彼である、それはすでに、少年であった時から、ザーリアスは自分でも気が付いていた。

    ――おおっ、てめえ、やるなァ!!――
    ――この、下種なハイエナがぁ!!――
    ――そのハイエナに、あんたのような騎士様は殺られるんだよ!!――

     で、なければ昔の、村にいた頃の12歳にもならない歳であった彼が、たとえ勝てそうな、傷つき、そして弱った相手だけを選んで「家族の食い扶持」を得る、それを獲る事は出来なかったはずだ。

    ――さて、今日は何人斬れるかなァ!!――

     そして、もはや今では自分の事だけを考えていればいい、人を殺し、奪う、その繰り返しを、ここまで徹底出来るほど。

    ――フン、雑魚が!!――

     すでに人の心、良心などは。

    ――ふむ、さすがにもうレイピアは俺の手には合わんな、せっかくの俺の腕力が無駄になる……――
    ――くっ、殺せ……!!――
    ――ああ、そうするよ女騎士様よ!!――

     ザーリアスには、彼には人の誇りなどはない。

    ――へえ、今日は妙に、女の捕虜が多いな……?――

     もちろん、このように「ケダモノ」と化した彼は、戦場で男が女に対して行う非道、それにも手を付けている。しかし。

    ――お願いです、助けてェ!!――
    ――……フン――
    ――あたしには、婚約した人が!!――

     自分より明らかに歳が下、少女とも言える年頃の女だけには、ザーリアスは手を出さない。

    ――……チッ!!――

     そのような女を目にすると、ザーリアスの脳裏には昔の、どうにか養ってきた「邪魔者」の、彼女達の顔。

    ――お兄ちゃん、もう全くだらしのない!!――

     彼女達の明るい、純朴な笑顔が脳裏に疾り、襲う気も萎える。

    ――まあいい、これで勘弁してやる――

     そして、そんな女に対しては、しかるべき金さえ奪えば、後は放っておく。

    ――ずいぶん若い、いや幼いガキだな、誰に駆り出された……?――

     いや、それどころか、時おり。

    ――ほら、ここからはテメエで帰りな……――
    ――あ、ありがとうございます!!――
    ――これだけ金があれば、少しは生きていける、後は勝手にしろ――

     そのような女には妙な、すでに彼には無いはずの慈悲、その心を見せてやる事もあった。そんな彼を、同じ傭兵が。

    ――ヘッ、テメエは甘ぇなあ……――

     と、茶化す事もあったが。

    ――ああ、俺はガキは好みじゃねぇんだよ――
    ――ヘヘッ、歳上好きって事かい?――
    ――そんなもんだ――

     と、ザーリアスは適当にあしらっていた。

    ――俺は甘いのか、まあいい――

     所詮、金が仲立ちした「絆」で、そして「信頼」でもある、傭兵の信頼関係だ。彼ザーリアスにとっては、彼らに。

    ――……昔、か――

     ときおり脳裏に浮かぶ、邪魔者の事を話す必要もない。

    ――そらァ!!――

     それでも、剣を携えた獣である彼は、基本的に無辜の人間、真人間をその手に掛ける事には、躊躇いはない。

    ――……ヒック!!――

     そして、人を斬り、血と肉の悲鳴で稼いだ、その汚い金で、酒と女、それを買い、再びその剣を血に染めるべく、戦いに赴く。

    ――ふむ、新しい剣でも買うか、大金が入ったしな――

     それが、彼の人生。人間を辞めた、人間の生き方。

     サァ……!!

    ――……夕陽、か――

     だが、それにも飽きた。

    ――このガラクタの中に詰まっている花、なんて言う名前だったかな……?――

    もはや、疲れて、しまった。



    ――――――



    「斬っても、斬っても……」

     その手に愛用の剣、幅広の片手剣を無造作にダラリと下ろしつつ、彼はそのまま。

    「斬りたりねぇ、殺したりねぇ……」

     そう、斬り足りない、そしてもはや、この渇きは決して癒せない事を、ザーリアスは無意識ながら、自分でも承知している。

    「どっからでも掛かってこい……」

     ザァア、ア……!!

     この大山賊団達が支配する山脈、そしてその麓の森に響く、怒声罵声歓声、悲鳴。

    「近づくやつは、皆殺しだ……!!」

     それが戦場、人の形をした獣達の祭り。血祭り。

    「……よし、まずはアイツから!!」

     相手の数、ナルディアの軍勢のそれは、決して多くはないようだ。

    「しかし、この軍隊……」

     ザァ、シュウ……!!

     「軟弱なナルディアにも、このような強力な兵隊がいたのか?」

     今、森の木々を震わせながら振るわれたザーリアスの剣、その剣圧に、その装備からして、明らかに身分が低いと思われる兵士は、三合も持ちこたえた。

    「……次!!」

     シャア……!!

     ザーリアス、彼の剣の腕前は本当に並みではない、目前にいた弓兵、その兵が放った矢を寸前でステップを踏み、かわした彼は、そのまま一気に木々を潜り、神速の速さで距離を詰め。

    ――キャアァ……!!――

     その女弓兵を、一刀の元に切り捨て、そしてさらに次の。

    「……勝負だ、そこの戦士!!」

     相手が、見つかる。

    「ホウ……」

     綺麗な優男の顔、高貴さを漂わせるその若き騎士。

     キォ……

     そう、森から降る木漏れ日を弾き、光る、そのなかなかに上等な甲冑を纏えるのは、騎士だけと見ていい。

    「お前が、俺の相手か!!」

     ギィア……!!

     抜き打ちのザーリアスの一撃、彼の得意技である、鋭く強い剣。今まで幾多の相手を、ザーリアスが瞬時に仕留めてきたその剣の技。しかし。

    「……くぅウ!!」
    「フン、受けたか!!」

     長髪のその騎士、対峙したその騎士の剣の腕は決して悪くはないのであろう。ではあるが。

     ギィン!!

     猛烈な第二撃、それだけでザーリアスの剣は、その騎士を押している。

    「そらぁ、そら!!」
    「おのれ、野盗め!!」

     あきらかに、ザーリアスとこの騎士とは場数が違う。幾多の血にまみれた男の剣と、気品の剣の、その差だ。

     キィイ、キィイン……!!

    「どうした、騎士さんよ!?」

     ガァ!!

    「くぅウ!?」

     そして数合、さらに剣を合わせる内に、もはやザーリアスが圧倒的に優勢に立っている、しかし。

    「フン、それでも、流石にしぶといな……!!」
    「……なめるなよ、野盗が!!」
    「そうかい!!」

     ギィ、ウ!!

     完全に防戦一方となっている長髪の騎士、しかし彼はそれでも、その剣、そして小さな盾を使い。

     ジャ、キィイ!!

     ザーリアスが必殺の念を込めた残撃、その厚い剣圧を反らし。

    「ホウ!?」

     クゥ、キィ……!!

     僅かに勢いが落ちてしまったザーリアスの必殺剣、それはさすがに騎士の甲冑を砕けない。

    「……まあいい!!」

     ならば。

    「こうやってみるか!!」

     スッ、ア……!!

     ザーリアスは、僅かに剣の軌道を変え、そしてそのまま、わざと。

    「むっ!?」

     自分の体勢を崩し、相手の騎士に隙を見せてやる。

    「もらった!!」
    「そうかい!?」

     そのまま、ザーリアスの左手は腰へ、瞬時とも言えるほどに素早く回り。

    「うっ!?」

     シュウ!!

     突如として、ザーリアスの逆手から放たれる「線」、その投げナイフは、騎士の露出した頬を強く、引き裂く。

    「くっ、卑怯な!!」
    「ハハッ、そうかよ!!」

     傭兵に手段を選ぶという考えはない、卑怯は敗者のたわ言だ。

    「しかし、咽を狙ったはずだがな……!!」

     腕が鈍ったか、そう思いながらもザーリアスは再び剣の先を。

    「これでも、くらえ!!」

     ザァ!!

     やや、捨て身にも近い程に、猛牛の突進を思わせる程の勢いで、相手騎士のみぞおち、僅かに甲冑が薄いと思われるその箇所へと向けて、身体ごと突きだした。

     ドゥ、ウ!!

    「クッウ、ウ!?」

     グ、ラァ……

     どうやら、その剣の一撃は完全に相手の体勢を崩したようだ。ここぞとばかりに。

    「ここまでだな、騎士様よ!!」

     グゥ……

     いったん、ザーリアスは剣と身を、僅かに引き、そしてそのまま腰と利き脚のつま先、足の親指に、強く力を入れ。

     ニィ……

     何か、その足の裏に、僅かな違和感を感じながらも。

    「ハァ!!」

     彼は、最後のとどめを、相手の喉に目掛けて突き付けた。

     シャ……

     が、しかしそのとき、どこからともなく。

    「何!?」

     スァ、ズゥ!!

     飛来した矢が、僅かに彼ザーリアスの利き腕の肩、革の肩当てを貫き、引き裂き。

    「……クソォ!!」

     ガォウ!!

     そのまま、グイと食い込む。

    「チィ……!!」

     矢じりが鋼鉄という、上等なその矢を放った者の姿、それを苦痛にうめくザーリアスは、左の目の端に捉える。

    「……どこかで見た女だな、あれは?」

     赤い髪を無造作に束ねた、見るからに「同業者」と思われる弓使いの女。彼女のその身のこなしと、この距離からでも解る、猛禽を想わせる鋭い双眼からも、相当な場数を踏んだ、ベテランの傭兵であると解る。

    「ふん、そうか……」

     戦いとは強い者が勝つのではない、状況と数で勝負が決まる。それはザーリアスが身をもって知っている事だ。

    「エルバート隊長!!」

     グゥウ、ア!!

    「チッ、さらのナルディアの新手か!?」

     その、新しい相手方の声と共に放たれた投げ槍、しかしその槍の勢いは。

    「ヘッ!!」

     先の矢とは比べ物にならないほどに、未熟。

    「馬鹿めッ!!」

     スゥオ……

     その投げ槍を、ザーリアスは簡単に身を捻ってかわし、そしてそのまま己の剣を対峙している騎士に向けて、肩の痛みも気にせずに再度、強く突き出す。

     ズゥ、キィ……

     いちいち、この程度の傷など気にしては、彼はここまで生きてこれては、いない。

    「……しかし、これは」

     とはいえ、目の前の騎士、弓使いの女、そして手助けに駆けつけた、二人の若い騎士。

    「一対四、か……」

     シュウ、ガ!!

    「そうそう何度も!!」

     再度の女弓戦士による支援射撃、ザーリアスはその矢を幅広の剣で即座に叩き落とし、続けて軽く、幅広剣の柄を握り直し。

    「斬るのに力が入らなければ、突けばいいだけの話ってもんだ!!」

     グゥ……

     その、二人の若い騎士の槍に向かって、鋭い剣先をユラリと動かし、威嚇をしてみせる。が。

    「手助け無用!!」
    「……しかし、エルバート隊長!!」

     だが、その弓による支援、そしてこの目前の騎士を助けるつもりらしい二人組の若い騎士、彼らを長髪の騎士は、盾を付けたままの手で遮り。

    「手を出すな、コイツは俺が倒す!!」
    「……ヘッ!!」

     ふん、騎士の誇りというやつか。ザーリアスはそう、この騎士の身の程をわきまえない態度に、心の中で軽く毒づいたが。

    「俺も、舐められたものだ……」

     しかし、ザーリアスは別にそれほど、この騎士に対して悪い気持ちは抱いていない。

    「……昔の」

     なんだかんだ言って、この騎士の剣捌きは、いわゆる「お上品」ではないのだ。何回か剣を合わせてみれば解る、戦士の哲学。むしろ。

    「昔の、俺に似ているな、コイツは……」

    ――常に、誇りを失うな――

    「……クソ親父が」

     ふと、脳裏に浮かんだ忌まわしい記憶、だがザーリアスは、何か。

    「……フム」

     はるか以前の、レイピアを得物として使っていた時代のように、己の幅広剣、ブロードソードと一般には呼ばれている大振りの片手剣、それを彼は。

    「さて、再び……」

     正眼に。

     キリィ……

     正眼に構え、本当に「形」だけの。

    「……勝負だ、騎士様よ!!」

     「敬意」を相手に見せ、いまいち幅広の剣では様にならない、いわゆる「レイピア流」の剣の構え方する。

    「そらぁ!!」
    「むぅ!?」

     キィ、ン!!

     その騎士が目前に突き出した小盾、しかしそのような小さな盾では、相手の攻撃を受け流す事しか出来ない。

    「甘いんだよ!!」

     そして、その盾を潜り抜ける方法など、ザーリアスにはいくらでもある。

     スゥア!!

     もともと、ザーリアスの得意技は突きである。レイピアの使い方を大振りの、肉厚の剣に応用した強烈な刺突。

    「ハァ!!」

     グゥ、ア!!

    「う、うわ!?」

     その威力は上品な細剣、レイピアでは到底真似出来ない程の威力。なおかつ。

    「念仏を唱えな、騎士様よぉ!!」

     ギィ、ウァ!!

     相手に盾を構える隙も与えない、レイピアの速さとブロードソードの威力を合わせ持つ、彼が独学で産み出した「必殺」の剣。

    「……貴様、それほどの剣の腕を持ちながら、なぜ山賊風情に!?」
    「ハハッ、てめぇら騎士様、貴族様が言う台詞か!?」

     その長髪の騎士の台詞、それに対して、ザーリアスは嘲笑いつつも、次の剣。

    「そらよ、騎士様!!」
    「うおぅ!?」

     ドゥウ!!

     正規の騎士すら圧倒する剛剣、時と機会に恵まれれば、名のある騎士にすら、いや英雄にすら成れたかもしれない、外道の男の牙。

    「とどめ、だ!!」

     ガォ、ウ!!

    その「牙」は、その恐るべき渾身の刺突は、完全に相手の胴体をふらつかせる程に強打し、騎士の脚にブザマなステップを踏ませた。そして。

    「く、ぅう!?」

     騎士の喉笛、それが刃によって破壊されようとする。

    「終わったな、騎士さんよ!!」

     が。

     ギィ、グッ……!!

    「なに!?」

     本当に僅かな油断、普段であれば、いちいち己の剣の刃こぼれなどは気にするザーリアスではない。

     キィ……!!

     剣など、いや武器などは、刃こぼれが起きるのはしょっちゅうの事だ。なのだが。

    「隙、あり!!」
    「……!!」

     しかし、何故かこの時だけは、その欠けた剣の端が。

     キィ……

     彼、ザーリアスの目を捉えてしまう。日の光を帯びた、輝くその破片へと、向けさせてしまった。

    「クゥ!?」

     ザァ、クゥ……!!

     そして、騎士の剣を利き腕に受けてしまった、彼の些細な不運は続く。

     グ、ニュウ……!!

    「!?」

     彼の、ザーリアスの鉄鋲のブーツが、妙な音を立てて軋み。

     ズゥ……

     靴のかかと、それが低く沈む。

    「く、クソッタレが!!」

     もしかすると靴の底、それの分厚い皮の下敷きが腐っていたのかもしれない。

    「お、おのれェ!!」

     グゥオ!!

     慌ててザーリアスは、己の剣を大振りに、横凪ぎに払ったのだが。

     ズゥ、ギ!!

     激しい、先程の矢による肩の傷が、強く悲鳴を上げた。

    「むん!!」

     クゥ……!!

     騎士の、彼の左手の丸盾によって彼ザーリアスの、大きく軌道がブレた、だんびらは。

     バァ、ン!!

    「く、クソォー!!」

     簡単に弾かれ。そして。

     ズゥア……!!

     そして、この殺人鬼の胸に。

     ズゥ……!!

    ――カッ、ハァ……!!――

     革鎧を貫き、彼ザーリアスの胸にと、騎士の剣が吸い込まれた。

    ――ウ、オゥ……!!――

     その胸から吹き出る、人殺しの血。

     シ、シャアァ……!!

    ――……や――

     他の「まとも」な人間と同じ、赤い鮮血。

    ――やるじゃ、ねえか……――



    ――――――



     サォ、ア……!!

     遠くで、真っ赤に輝く夕陽の暁光の中で、この大山賊団の拠点が、盛大に煙を吹き出している光景が、彼には見える。

    ――……やはり――

     彼の、夕陽の閃光にも負けぬ、鮮烈な色合いをした、深紅の血溜まり。己れのそれに沈んだ彼ザーリアスの、傭兵の姿を省みる者は、誰もいない。

    ――最期に見るのは、自分の――

     ゴ、スゥ……

     彼の、その口から深紅が吹き出る。赤く黒い、何度も自分が他者にもたらした、生命の赤。

    ――血、か……――

     そして、彼は休息を始める。

    ――そうだ、確かこの花の名前は――

     傍らの、剣と共に。

     キィ、ラ……

     傍らの剣の柄元、それの夕陽を浴びて輝く、美しく咲く、花のお守りと共に。

    ――タルサの、花と言っていた……――

     その血溜まりの彼、そして彼の血塗れの心を。

    ――ダメだな、アイツらの顔を、思い出せねぇ……――

     シャ、アァ……

     現実の、輝く「今」の夕陽と。

    ――お帰り、お兄ちゃん――
    ――おう、メシをくれ――
    ――ねえ、あのお守り持っている?――
    ――……ああ、あの不出来な、1ディナールにもならねぇ安物か――
    ――お兄ちゃん、ひどーい!!――

     過去の、黄金色に麦畑を、強く優しく、なびかせている「今」の夕陽が、優しく照らす――


    早起き三文 Link Message Mute
    2022/09/13 16:53:33

    血塗れのタルサの花

    #ベルウィックサーガ
    #ベルサガ
    #ザーリアス

    #ビターエンド
    #ビター
    #傭兵

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    OK
    クレジット非表示
    OK
    商用利用
    OK
    改変
    OK
    ライセンス改変
    OK
    保存閲覧
    OK
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    OK
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品