Karaage Loyalガヤガヤと賑わう店内の一室で悲痛な声が聞こえた。
「あー!?!?今、最後の一個食べちゃいました!?」
「え?もうお腹いっぱいって言ってたんで…すみません。食べちゃいました。」
「もぅ!楽しみに取ってたんですぅ!んもぅ、安室さんのバカァー!!キライ!」
米花商店街の飲み会の席でアルコールの入った彼女の言葉がストレートパンチのようにクリティカルヒットして安室は座敷に座っているがその場に跪いた気分だ。
「う、え、あ…す、すみません。そ、そんなに唐揚げ食べたかったらまた注文しますね」と動揺を隠し、直ぐ様「すみません」と手を上げ店員を呼び唐揚げを注文しようとしたが生憎本日は大盛況にて唐揚げは売り切れてしまったと詫びられた。
「えっと、売り切れみたいです…代わりに焼き鳥はどうですか?」と同じ鶏肉で代替案を出してみるが
「か・ら・あ・げがいいんですぅ!お口は唐揚げだったんです!安室さん全っ然わかってない」
とほんのり赤い頬をハリセンボンみたいに膨らませている。
安室が梓の目の前にあった大皿に残っていた最後の一つの唐揚げを食べたばかりに積み上げきた彼女への信頼度は急降下してしまった。
「ホンット、安室さん勝手なんだから~おまけにニブチンだし」とそっぽを向かれた。
「食べたかったとは知らずにすみません…」
と謝るが普段の梓なら「もぅ仕方ないですね~いいですよ。」と笑顔で許してくれるがこちらを向いてくれず梓からの『キライ』の言葉が小さな針のようにチクチクと胸に刺さっている。更に追い討ちをかけるように近くに座っている看板娘狙いの商店街の若い男性陣が「じゃあ梓ちゃん、こっちおいでよー。まだ唐揚げ残ってるから」と肉々…いや憎々しい誘惑の言葉をかけているのを見て面白くない。
「食べてしまったのは悪かったと思ってますが先日、夏に向けてそろそろダイエットしなきゃって言ってた梓さんがまさかここまで食い意地が張ってたとは思いませんでしたよ」
とアルコールが入っているが職務上体質的にも酔わない安室も六歳歳下の女の子相手につい意地悪な物言いをしてしまった。「んな!?安室さんデリカシー無さすぎ!!」
「梓さんこそ人の気も知らないで…!しかも誰それと愛想振り撒いてそんなんだから勘違いされるんですよ!看板娘なのに人の気持ちに全っ然気づいてないじゃないですか。」
「ちょっ、安室さんに言われたくありません!愛想振り撒いてるのはそっちじゃないですか!?上はご婦人から下はJKまで虜にしているくせに!!しかも愛想笑いして誤魔化したりするし…安室さん自体が歩くフェロモンじゃないですか!!」とお互いにヒートアップしている。
普段ポアロで恋人同士と見紛うほどに息ピッタリの二人の見た事ない険悪な雰囲気が流れており周りのテーブルの女性陣や男性陣も「え、何?大丈夫?」とこちらを心配そうに見る。
目の前で見守っていたマスターが「まぁまぁ二人ともそこまでにして…」と宥めている。
「僕これでも探偵なんですよ!?人より洞察力はあると思ってますが梓さんはいっつも予想外の行動するんですよ。お腹いっぱいって言っていたのにまた唐揚げ食べようとしているなんて…読めるわけないじゃないですか?」
「ひっどーい!探偵なのに女性は好きな物に対して別腹ってあるんですよ!?そんな事も気づかないなんてデートも失敗しますよー?もっと女性の気持ち勉強した方がいいんじゃないですか~。そんなんじゃ好きな人にも振り向いてもらえませんよーだ」
ムッと口をへの字に曲げる。
今目の前にいる好意を持っている女の子に振り向いて貰えなければ意味ない。
「もぅー!!私のこの(唐揚げへの)気持ちどうしてくれるんですかぁ!?」
とアルコールの効果も相まって瞳をウルウルさせながら訴えてきた。
(梓さんへの気持ち?そんなの決まっている)
と梓を真っ直ぐ見つめ両肩をガシリと掴む。
「そんなに唐揚げ食べたいなら僕が毎日梓さんの為に唐揚げ作りますよ!ついでに味噌汁と白米もつけますけど!?」
珍しく声を荒げた安室に対して彼の唐揚げに対する圧に負けずと
「そこまで言うなら一生分作ってもらいますからね!」
とケンカ腰な物言いをしている二人に対して周りがザワつく。
(なんだ?)とふと自身が発した言葉を脳内で素早く反芻し勢いとはいえプロポーズ紛いの言葉を発していた事に気づいた。
褐色の肌でも分かる程に耳まで赤くなった安室。
マスターから「公開プロポーズだね」と言われ梓もその一言でアルコールの酔いが覚めたのか青くなったと思ったら首まで真っ赤になった。
「おめでとう!」「安室さんよかったね!」「おめでとう!」「梓ちゃん、お幸せにー」「安室さんじゃ仕方ないか…ぐす」「やっぱりそうだったのねー!おめでとう!」と店員も含め拍手と共に祝福の言葉が送られる。
その後は前祝いとばかりにグラスに酒を注がれながら「うちの看板娘泣かせたら承知しないぞ」とマスターに肩を組みながら圧をかけられ「みんな陰でお嫁さんにしたいって思ってる梓ちゃんをかっさらうとは…っかぁー!安室さんは幸せ者だな」と酒を煽っている小倉さんから背中をバシンと叩かれた。
女性陣は梓を囲んで「結婚式呼んでね!?やっぱドレスかしら?白無垢もいいわねー♡絶対綺麗よ!」「未来の旦那さんに唐揚げ沢山作って貰いなさいよー」と盛り上がっている。
「「あ、アハハ…ハァ」」と苦笑いを浮かべる二人。
店を退店する時にも「後は若い二人でね!」と拍手で見送られた。
まだ付き合ってもない二人の間に気恥ずかしい空気が流れながら帰路に着いた。
次の日米花町では光の矢の如し速さでポアロの二人がゴールインしたという噂で持ちきりとなりあちこちで阿鼻叫喚とSNSが大炎上することとなった。
END