炎の弾丸「私のすべきことは終わった。私は自分の罪を償う。」
何もかもが綺麗さっぱり片付いたみたいに立ち去ろうとするあいつの態度が気に入らなくて、俺はとっさにあいつを引き留めた。
炎の弾丸
「待て!」
ソウルバーナーの声に、リボルバーは足を止める。
私はこれ以上彼と言葉を交わす必要など無いと考えていたが、どうやら彼の方はそうではなかったらしい。
想定外の展開に目を丸くしながらも、リボルバーはソウルバーナーに向き直る。
「それは俺が許さねえ。」
ソウルバーナーは不服そうに噛みつく。リボルバーはソウルバーナーの発言に戸惑いを見せる。
“許さない”とは、私の決心のどこに不満があって発した言葉だろうか。やはり懲役や禁錮程度で許されるものではないと、彼自ら私を裁かねば気が済まないということか。今度こそ、彼の怒りと憎しみを正しい方法で受け止めよう。そう思っていた矢先、ソウルバーナーは予想だにしていない提案をしてきた。
「俺はお前が法に裁かれ罪を償うなんて許さねえ。お前はこれからもネットワークの監視者を続けるんだ。」
「……どういうことだ。」
彼が私刑によって私を断罪するのを望んでいることはわかっていた。しかし、その内容があまりにも生ぬるいゆえに彼の真意が掴めない。彼は一体何を考えているのか。
リボルバーは鋭い眼つきでソウルバーナーを見つめる。ソウルバーナーは目を伏せて静かに答えた。
「俺は今の件に片がついたら故郷に帰るつもりだ。俺はそこで以前のように暮らす。」
ソウルバーナーは顔を上げ、リボルバーをまっすぐと見据えて言葉を紡ぐ。
「きっと時が経てば、ロスト事件を知っている人々の中でその記憶は薄れていく。俺も、そうなるだろう。もしかしたら、事件のことなんて忘れて生きられる日がくるかもしれない。」
全てに決着が付いたあと、綺久と一緒に過ごす穏やかな日常が俺の背負う悲しみも痛みも緩やかに奪っていくだろう。いずれは俺の心がこの苦痛から完全に解放されるに違いない。リボルバーが裁判を受け罪の償いを終えれば、あいつも平穏な時間を過ごして、同じように良心の呵責もロスト事件被害者への想いも忘れていってしまうのだろうか。それだけは、どうしても許せなかった。
償いを終える頃にはあいつは老い先短い老人になっているかもしれない。だとしても、過去を清算して心が安らいだ状態で死を迎えるなんて、あいつには贅沢すぎる。ロスト事件首謀者の息子であり、その遺志を継いで世界に混乱を招いたあいつには。
「だからこそ、お前が罪を償い事件を忘れるなんてことは許さない。たとえみんなが事件を忘れても、……俺が事件を忘れても、お前はずっと覚えていてくれ。あの事件の苦しみを、あの事件の悲しみを。」
鴻上聖の分まで、あの残虐な実験の被験者と家族に想いを馳せること。そして彼らに与えた苦痛を胸に刻み、二度とこんな悲しみを味わう人が現れないよう人々を守ること。それがあいつの果たすべき責任だ。
「それが望みか。」
つまり、私が一生私自身と父の罪を背負い、誰にも罪を許されぬまま生涯を閉じること。それこそが彼の望みか。しかし仮にも重大な犯罪の主犯である私を野放しにしたうえ、これ以上悪事を働くまいと信用するなど何とも楽観的で青臭いことか。罪人が正当な裁きも受けずのうのうと生き延びるのに、民衆は恐らくいい顔はすまい。それを彼は理解できているのだろうか。
リボルバーはゆっくりと目を閉じ、思考を整理する。
ああ、もしかしたらそれもまた彼の下す罰であるのかもしれない。いずれ私が父の元へ旅立つまで、あるいはそれ以降も、私は「大罪を犯しながらその責任も取らず逃げ回る卑怯者」として過ごすのだろう。なるほど、確かにこれはある意味法の裁きよりも厳しい罰だ。甘んじて受けようじゃないか。
リボルバーは目を開け微笑む。視線の先には晴れやかな表情をしたソウルバーナーがいる。
「リボルバー、お前に会えてよかったよ。」
お前のしてきたことは到底許されることじゃない。けれど過去に囚われ成すべきことを見失っていた俺の目を覚ましてくれたことに感謝している。お前と本気でぶつかり合う機会が無かったら、きっと俺はまた前に進むことができずにいただろう。だから俺はお前を忘れずにいよう――敵であり恩人であるお前を。
「私もそう思う。」
父の実験によりどれほど苦しんだかを正面からはっきりと伝え、擁護することなく私たち親子の罪の重さを示したのはお前だけだ。そんなお前と死力を尽くして戦ったから、私は自分の呪縛から解放されたのだ。父の遺志という呪縛を解いたお前の燃ゆる魂こそが、私にとって救いであり煉獄の炎である。私の心臓を貫く炎の弾丸は
永久にこの身を
灼き清めるだろう。今はただ前を向いて、自分にできることを着実にこなしていこう――我が胸に宿る炎とともに。
――終――