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    第一章:英雄の復活②-1 マジェスペクター編[前編]竜剣士ラスターPについての妄想を綴った小説です。
    次回、竜剣士物語②-2 マジェスペクター編[後編]。
    ++++++++++
    ☆遊戯王OCGモンスターのカードストーリー及び世界観に関する二次創作です。
    ※遊戯王カードの対戦描写はありません
    ☆登場人物が試練に立ち向かい成長する物語であるため、劇中で登場人物が不幸な目に遭いますが、原作(遊戯王OCG)やそのキャラクターに対する誹謗中傷の意図は微塵もありません。「一言一句ハッピーな展開の物語」や逆に「憂さ晴らしもしくは作者・読者の欲望を満たすため思う存分登場人物へ暴力を振るう・思いつく限りの絶望を味わわせ救いのないバッドエンドを導く物語」、「現代日本から転移・転生したオタクが俺TUEEE無双して原作アニメ・マンガキャラにざまあする物語」をお求めの方は開く作品を間違えていますのでブラウザバックをお願いいたします。
    ☆原作(遊戯王OCG)の「竜魔王」及び「アモルファージ」カードにおいて、公式に遺伝子組み換え及び感染に関連する特殊能力が登場するため、原作に倣い遺伝子組み換え及び感染に関連する特殊能力の描写があります。
    ☆竜剣士、竜魔王、マジェスペクター、アモルファージ及び一部のジェムナイトモンスターに関する独自の解釈を含みます。
    ☆読者が上記テーマのカードを知っている前提で書いているため、登場人物の外見に関する描写は一部省略されています。
    ☆主人公と動物がふれあう描写がありますが、現実世界において野生動物へみだりに触れることを推奨するものではありません。
    ++++++++++
    ジェムナイト・ファントムルーツのカードイラストが竜剣士ラスターPと似ていることから竜剣士=ジェムナイト・クリスタの生まれ変わり説を前提として話が進みます。加えて、竜剣士と竜魔王のOCG上でのシナジーから両者は実は敵対していないものとして作劇しています。
    なお、竜剣士ラスターPのフレーバーテキストから、彼は記憶喪失後に自らの種族を人間と誤認している描写があります。
    以上を踏まえて当作品をお楽しみください。
    Language: Japanese version only (there is no English version).
    **Do NOT translate my novels. **
    **Do NOT execute machine translations on my novels. Machine translations such as Google, DeepL, etc. are NOT wise enough to translate my Japanese sentences into western languages. **
    「あの後ろ姿……。」
     上空から降り立った、竜の翼と尾を持つ人間の姿を狸は捉えた。一週間ほど前、正体不明のキメラ生物が村を襲い始める直前に、鷲と竜の合体したようなキメラ生物を左腕に乗せて近くの茂みから村を見渡していた、あの黒い鎧の男と同じ翼と尾を持つ人間を。昨日イグナイトからこの村の村長に連絡が入り、例の黒い鎧の人間はかのキメラ生物をイグナイトの居住地とこの村に放った張本人・竜魔王ベクターPであると判明した。全体的な色合いや服装こそ違えど、あの特徴的な翼と尾は見間違うはずもない。目の前にいるこの人間は、竜魔王に違いない。そう確信した狸は、意を決して物陰から飛び出した。

    「おい。そこのお前、竜魔王だろ? 変装したぐらいじゃ騙されないんだからな。今日という今日はお前を次元の彼方へ吹き飛ばしてやる!」
    「待て、人違いだ……って、ええっ⁉」
     唐突に物陰から飛び出して言葉を発した所々に黒い装甲を纏う臨戦態勢の狸と、言葉を失って立ち尽くすわたしとが見つめ合うこと数分。狸は何かに気付いたのか、表情を緩めて尻尾を下した。それと同時に狸の背に載っている黒い壺に集まっていた風が凪いだ。
    「ああ、ごめん。人違いだ。アイツは仮面をつけたり体の色や服を変えたりしたくらいでボクらを騙せるだなんて思うほどバカなわけないし、ボクが喋ったくらいで頓狂とんきょうな声を上げるようなアホでもないや。」
     狸はそう言うと、臙脂色を基調とした飾り付きのマントを翻してわたしの足元をぐるぐると歩き回りつつわたしのことを観察し始めた。
    「にしてもお前の翼と尻尾、アイツのとよく似てるよね。ここまでそっくりそのまま同じ翼と尻尾が生えてるヒューマノイドなんて見たことないから勘違いしちゃった。お前さ、実はアイツの兄弟だったりする? それとも種族単位でこういう翼と尻尾が共通して生えてるのかな?」
    「きみは翼と尻尾が似ていることだけを根拠にわたしに疑いの目を向けたというのか、心外だな。……生憎だがわたしは今記憶喪失中で、自分の正体すらもわからないんだ。わたしが半竜になった経緯も定かではない。」
    「はあ、使えねーヤツ。アイツの関係者だったらアイツの弱みを聞き出すとかで少しは役に立つと思ったのに。」
     仮にも初対面の相手に何て無礼な奴だ、と狸の発言に苛立つわたしの正面で立ち止まり、狸は追い打ちを掛けるように続けた。
    「ねえ、もしかして竜魔王の手下なんでしょ? 自分の正体をばらすわけにはいかないからって記憶喪失のふりしてんじゃない? その見た目で潜伏先の住人がお前をアイツ本人だと誤解して殺してくれれば、そいつらが『憎き竜魔王を倒した』ってぬか喜びして油断してるところを無傷のアイツが楽々侵攻できるもんね。それに別人だと見破られても他人の空似ってはぐらかしとけば安全に偵察できるって魂胆なんでしょ。今正直に申告したら通信機器を没収してこの村に幽閉するだけで許してあげてもいいよ?」
     狸のあまりにも荒唐無稽な言いがかりに、わたしの思考が止まる。このまま言い返せなければ、狸はわたしを言い負かしたのだと思い込んで更なる無礼を働くことは目に見えている。あの時の彼らと同じように
     不意に脳裏に浮かんだ情景に――わたしを取り囲み激しい剣幕で怒鳴りつける獣人たちや、わたしとわたしの仲間たちを見下し都合のいいように利用しようとする人間たちの幻影に――わたしは底知れぬ不気味さを覚えた。
     あの時の、彼ら? わたしは以前にも、こんな状況に置かれたことがある? いや、そんなことはどうでもいい。どう説明すれば誤解が解けるかを考える方が先だ。だというのに、頭はまともに回らない。それどころか、血の気が引いて、思考が、溶けて。
     狸が黙りこくる青年を前に勝ち誇ったかのように口角を上げた矢先、青年の体が淡青色の光に包まれ辺りを照らした。その直後、唐突に発光した青年に目を丸くする狸に向かって、青年を包んだ光と同じ淡青色の輝きを帯びた長剣が振り下ろされる。間一髪攻撃を避けて狸が青年を見上げると、青年は先ほどまでとは打って変わって声を荒げる。
    「貴様に私たちの何がわかる! このような風貌に生まれたゆえ不当に受けた迫害も、それでも周囲からの理解を得んがため逆境に挑み続けた覚悟も、貫き通した信念も! 何一つ知らぬ身で軽々しく罵倒するな!」
     狸は青年の怒鳴り声に全身の毛を逆立て凍り付いた。目の前の人物の豹変ぶりに呆気にとられる狸を見て我に返ったのか、青年は剣を納め落ち着いた声で詫びる。
    「……頭に血が上って大人げない行動に出てしまった、すまない。ただ、半竜のヒューマノイドだとかの薄弱な根拠だけで他人に疑いの目を向けるのはやめてくれないか。キミに疑われた者も、キミ自身も、双方が無意味に傷つくのが関の山だからな。」
     狸は青年に背を向けて、しばらく思考を巡らせる――記憶喪失ってのはやっぱり嘘だったんだ、しかもさっきまでのアホっぽい言動も無くなってるし……ついに化けの皮がはがれたか、と。
    「……前言撤回。記憶喪失だなんて嘘ついてまでボクらを騙そうとするやつをそう簡単に許しちゃいけないよね。とりあえずお前が悪さを働く前に村長に引き渡す。痛い目に遭いたくなきゃ大人しく付いてくるんだね。」
     狸は青年に背を向けたまま冷たく言い放ち歩き出した。青年はその場で立ち止まったまま狸に反論する。
    「待て、嘘を吐いた訳では……は本当に記憶を無くして……。」
    ? お前、いつの間に体を分裂させたつもり? ボクの目には半竜のヒューマノイドなんて一人しか映ってないんだけど。」
    「あ、いや。……すまない。」
     わざわざ引き留めて文句を言ってきた割に煮え切らない態度で引き下がる青年にため息を吐いて、狸は再び歩き始めた。マジで何なのこいつ、もしかしたら悪党じゃなくて知能か精神に異常があるだけのかわいそうな人なの? どちらにしろ村長に預けた方が良さそうだしまあいいか、などと脳内で愚痴を言いながら。

    「おい、竜魔王モドキ。着いたぞ。お前、体大きいんだから入口通る時はかがんどけよ。」
     狸が振り返り青年に呼びかけるが、青年はどこか上の空といった様子で前へ歩き続ける。次の瞬間、狸の忠告も虚しく青年の仮面と集会所入口の木枠がぶつかり、青年のうめき声とともに鈍い音が聞こえてきた。一部始終を見た狸は舌打ちをし、苛立ちを帯びた声で吐き捨てる。
    「だから言ったのに。」
    「え?」
    「え? じゃないよ! ホントにアホだなお前! いや、やっぱボクらを油断させるための芝居? どっちだ、どっちなんだ⁉」
     目の前で急に混乱しだした狸を見つつ、青年は仮面越しに顔を押さえながら思った。いつの間に自分たちはこんな場所へ移動していたのだろうか、と。
     この奇妙な狸に言いがかりをつけられ反論しようとしていた辺りでわたしの記憶が途絶えている。しかし、過去だけでなく現在のことすらも忘れるとは。アモルファージ感染の後遺症はよほど強力なようだ。竜魔王、許すまじ。
     そんな具合に竜魔王を恨みつつ、青年は狸に問いかける。
    「ところで、きみは何故そんなに慌てているんだ?」
    「はあ⁉ ……いや、もういい。無事集会所まで不審者を連行できたことだし、とりあえず入るよ。入口の高さ、ちゃんと確認しとけよ。」
     狸が再び前を向き、建物の中へ駆け込んだ。不審者呼ばわりされ少々不愉快さを覚えながらも、青年は黙って身を屈めて入口をくぐった。

    「村長、不審者を捕まえたよ! さっさとコイツを牢屋に入れて!」
     村の集会所に足を踏み入れるや否や、狸は自慢げに宣言して青年を尻尾で指し示した。ところが〈村長〉と呼びかけられた、狸と同様に臙脂色の飾り付きマントと部分的な黒い装甲を身につけている大型のカエル――マジェスペクター・フロッグ――は狸の言い分をまるっきり無視して青年を歓迎した。
    「おや、おぬしは例の助っ人ではないか。ラスター、といったな。イグナイトの連中から話は聞いておるぞ。」
    「こいつが助っ人? 本気で言ってんの村長?」
     狸の抗議を遮るように、ラスターは村長の前へ歩み寄ってひざまずき挨拶する。
    「いかにも、わたしはアモルファージの脅威からこの地を救うべくイグナイト基地より派遣されました『ラスターPペンデュラム』です。しばらくの間お世話になります。」
    「うむ、儂はここの村長のマジェスペクター・フロッグじゃ。よろしく頼むぞい。」
    「何だよ、そういうのは先に言ってよ。」
     カエルとラスターのやり取りに納得がいかない様子の狸に、ラスターは振り向いていささか低い声で言い放つ。
    「あれだけ執拗に疑われてはこれ以上きみに何を話そうと無駄だと思ったんだ、悪く思うな。」
    「ケッ、やっぱボクお前のこと嫌い。」
    「ほれほれ。そんなこと言わずにおぬしも挨拶せんか、ラクーン。」
     村長はラスターの発言に腹を立てる狸をたしなめる。すると狸はいかにも不本意だといった様子で、ラスターへ棒読み気味に挨拶する。
    「はあ。ボクはここに暮らしているマジェスペクター・ラクーンでーす。さっきはラスターサンをむやみに疑ったりしてすみませんでしたー。」
     この日の夜、わたしはマジェスペクター主催の歓迎会に参加した。途中、集会所内を見渡していてふと気付いた。マジェスペクターたちは皆一様に臙脂のマントと黒い装甲を纏っているようだ。そして、総出でわたしの歓迎会を開いてくれたとは言っても、全員がわたしに心を開いているわけではないらしい。マジェスペクター・ラクーンとその隣にいる白馬、マジェスペクター・ユニコーンは不機嫌そうにわたしから目を逸らしている。ラクーンの方は昼間の件でわたしと顔を合わせるのが気まずいのだろう。しかし、それ以外のマジェスペクターの機嫌を損ねるようなことをした覚えはないのだが……。やはり、半竜と化した人間は――竜魔王のものと似ているらしい翼と尻尾が生えたわたしは――信用に値しないということなのか。
     水を片手に考え込むわたしを心配してか隣にいる黄色い狐、マジェスペクター・フォックスがわたしに声をかけた。
    「ヒトが何を食べるのかわからなくて、とりあえず焼き魚と果物を用意したんだけど、村長やクロウのと同じく虫の方が良かったかな?」
    「え? いや、料理はこのままでいい。お気遣いありがとう。」
    「そっか。あっ、もしかしてユニコーンに嫌われてるの気にしてる?」
    「多少は。」
    「あー、あれは気にしないで。ユニコーンは初対面のオスにはめったに懐かないんだ。つまり、ラスターは悪くないからほっといていいよ。」
    「はあ。それにしても、ただの動物に見えるきみたちが喋るのは未だに信じがたいな。しかも、建物も全体的にきみたちには大きすぎやしないか。」
    「やっぱそこ気になる? ねえ、何でだと思う?」
    「……きみたちは魔法が使えると言っていたな。確か、様々な種類の動物が魔法使いの相棒、俗に言う『使い魔』として飼われるそうだな。」
    「そだねー。」
    「相棒の魔法使いを失った使い魔がこの地に取り残されたのか、あるいは――変身魔法が何かしらの理由で解けなくなって、そのまま動物の姿で過ごす羽目になった哀れな魔法使い。そう考えると納得がいく。」
     わたしの導き出した仮説を聞いていたフォックスが、そこで唐突にカラカラと笑い出した。笑いすぎて零れた涙を前足の甲で拭いながら、フォックスは口を開く。
    「アハハ。魔法が解けなくなったなんて、そんなマヌケな魔法使いがいるんなら見てみたいよ。ま、ウチらはどっちかっていうと使い魔かな? 正確に言うと、使い魔に〈なり損なった〉動物だけど。」
    「なり損なった?」
    「うん。昔、その辺の茂みに住んでたウチらに興味を持ったヤツらがいてさ、しょっちゅう食べ物をくれたり遊んだりしてくれてたんだ。そいつらはその度に話しかけてきたり仲間内で喋ったり、時々地面に文字を書いたりしてたもんでさ、しばらくしてウチらもヒトの言葉がわかるようになったんだよね。で、ラクーンなんかは頭が良いから言葉だけじゃなくてそいつらの使う魔法まで理解して実演しちゃったんだ。……あとからわかったことなんだけど、そいつらは他人に聞かれたくない話をしたくて人通りの少なかったウチらの住処を使ってただけだったみたいで、ウチらをめでてたのはついでだったんだよね。ヤツら、ウチらの学習能力を目の当たりにした途端に慌ててアレコレしだして、そしたらウチらは鏡の世界に閉じ込められたんだ。樹だとか川だとか建物だとかはそっくりそのままだけど、ヒトだけがいない世界にね。ムカつくことに相当複雑な術式の高位魔法みたいでさ、今のウチらが束になっても解除できないくらいのシロモノなんだ。ほら、見て。鏡の向こうに映ってるでしょう、ラスター以外にも、ヒトが!」
     フォックスのやたらと真剣な口ぶりに勢い良く顔を上げたわたしを見て、フォックスは再びカラカラと笑った。
    「なーんて、子どもだましを本気で信じちゃうんだ! ピュアなんだね! ウケる!」
    「あのなあ。」
    「ホントは単に魔法が得意な動物が廃村に身を寄せてるってだけだよ。ヒトと言葉が通じてんのもそーゆー魔法を使ってるだけだし。だからウチらは別にヒトを嫌ったりしないから安心しなよ。ま、ラクーンだけは昔色々あったせいでヒューマノイド不信らしいけど。」
    「……そうか。」
     話が一段落して料理をつまんでいると、紫色のカラスと浅葱色の猫がこちらに駆け寄ってきた。
    「チョット、フォックス! さっきからラスターをひとりじめして、ズルい!」
    「そうよ、あたしも久々にニンゲンが来て興味津々なの!」
    「あー、ゴメンゴメン。わかったから落ち着きなよ、クロウ、キャット。」
    「あっ! このヒト、もしかして英雄じゃない? 爺やが持ってる本に『災いを鎮めんがため、竜の力を宿した神の子が剣を携え地に降り立つ』ってあったでショ? ほら、ドラゴンで、剣持ってる!」
    「英雄? こいつが? ふーん。こいつ、英雄にしちゃ随分と頼りないけど。」
     わたしを取り囲み盛り上がるマジェスペクターたちへ離れた場所から冷たい目線を向けながら、ラクーンが口を挟んだ。
    「ラクーン、いい加減にしなさいよ! あなたがニンゲン不信だからってひどいじゃない!」
    「事実を言ったまでだよ、キャット。こいつせっかくボクが忠告してやったのにボーっとして建物の入り口に激突してたくらいにはバカだし。」
    「そ、そんなの誰にだってあるわよ! そんなことで悪口言うなんてかわいそうよ!」
     ラクーンの発言に一瞬言葉を詰まらせながらも、キャットはラクーンの態度を非難した。しかし、ラクーンは相変わらずこちらを白い目で見つつ悪態をく。
    「そんなにこいつに頼りたきゃ勝手にしなよ。ボクはこんなアホと手を組む気はないけどね。」
     青い竜と一体化した巨大なイカが悠然と泳ぐ水槽の前で、竜魔王としもべの鷲が佇んでいる。水槽に設置された温度計や溶存酸素計、塩分濃度計に表示された数値に異常が無いことを確認して記帳する竜魔王の傍ら、鷲は水槽のろ過機材から発せられる騒音を聞きながら、イカの泳ぎとそれによって生じた水流に乗って揺れる水草を眺めている。水槽に見惚みとれている鷲を放置して竜魔王は水槽の周囲を歩き回り、イカの様子を確認してこれまでの実験記録をパラパラとめくるとため息を吐いた。
    「キャヴムは兵器としちゃイマイチだな。防衛反応こそ強力だが自発的に攻撃も威嚇もすることは無く、淡水でも地上でも生きられない。オマケに水温が摂氏三十度を超えても、摂氏五度を下回っても活動できないと来た。」
    「アンタの〈魔法〉でもイカを海から出せなかったわけか。」
    「そりゃあ遺伝子工学だって万能じゃないからな。努力しても実現しないことはある。」
     実験記録を閉じて水槽脇の棚へしまうと、竜魔王は飼育部屋の扉に手をかける。主人の動きを察知した鷲は翼を大きく羽ばたかせて水槽から離れ主人の傍らへ移動し、その場で旋回しながら話を続ける。
    「ふーん。でも海なら行けんじゃねえか。海にあのイカ放ってドドーンと侵略すりゃいいんじゃねえの?」
    「バカなこと言うな。これを海に放り込んだところでせいぜい生態系が乱れるだけだ。」
    「そしたら漁獲高が減って海辺の住人が飢えて、弱ったところを侵攻すりゃ……。」
    「ヒュペル!」
     階段の真ん中で立ち止まり、竜魔王は振り返って鷲を睨みつける。
    「な、何だよ〈魔王様〉。」
    「余計な口出しをするなと言ったはずだ。それにな、オレは外道に成り下がった覚えはない。オレはな、ラスターを一人前の勇者にするためにあいつの敵になったんだ。土地だの資源だの労働力だのの奪い合いなんぞに興味はない。」
    「……。なあ、アンタよくそれで魔王を名乗れるな。」
     主人の態度に縮こまっていた鷲は、主人の言い分に拍子抜けした様子で苦言を呈する。対して、主人は鷲を真っ直ぐに見据えて再び口を開く。
    「何がおかしい? 勇者の敵は魔王と相場が決まってるだろ。」
    「はあ。やっぱり高貴な方の考えってのはオイラにゃわかんねえや。」

     マジェスペクターの集落では魚や植物を乾燥させ保存食を作る文化があり、食料が並べられた台や紐で吊るされた果実があちらこちらに見受けられる。その内のいくつかの乾燥が終わったため、ラスターは昼頃からマジェスペクターに同行し取り込み作業を手伝っていた。ラスターへ指示を出しつつ、フォックスは鼻歌まじりに乾燥済の食料を瓶に詰めている。
    「やっぱり背が高いヒトがいてくれると便利だねー。」
    「別に、今までだって他の誰かの背中に乗ったりクロウが飛んだりして取ってたんだし、ラスターがいるからって特別便利なわけじゃないだろ。」
    「ラクーンってばまたそうやって!」
    「何さ、フォックスがこいつを過大評価してるだけだろ。」
    「チョット、やめなよ二人とも。」
     作業途中でケンカを始めたフォックスとラクーンを宥めている最中、クロウは背後に迫る数多の気配に振り向く。クロウの視線の先、数メートル離れた茂みから十匹ほどのアモルファージ――イグナイト基地周辺に出没していたものの他に、黒い熊を取り込んだ黄金色の竜もこの群れには見受けられた――がこちらに歩を進めている。クロウはアモルファージに向かい合ったまま、フォックスとラクーンに呼びかける。
    「二人とも、マジでケンカなんかしてる場合じゃないみたいだヨ。」
    「……そうらしいね。仕方ない、あいつらから片付けようか。」
     そう言って敵へ向き直り身構えるラクーンに続き、フォックスとクロウが臨戦態勢に入る。ほどなくして隣の建物の軒先で作業していた残りのマジェスペクターたちも事態を察してこちらに駆けつける。そして瞬く間にマジェスペクターたちの周囲に気流が生じ、空気が渦巻く。マジェスペクターたちが攻撃準備をしているのに気付き、ラスターは叫ぶ。
    「待て、闇雲に攻撃しても――」
     しかしマジェスペクターたちの攻撃は止まることなく放たれ、次の瞬間、アモルファージを一掃した。警告を言い終わる前に事態が収束してしまい茫然ぼうぜんと立ち尽くすラスターへ、ラクーンは振り返って不機嫌そうに吐き捨てる。
    「何、ボクらにアドバイスでもしようとしてたの? 上から目線も大概にしてほしいね。生憎だけど、ご覧の通りボクらは自力でアモルファージを追い払えるし、剣士サマの助けなんていらないんだよ。いてもいなくても変わんないし、いっそイグナイトんとこに帰れば?」
    「チョット、ラクーン! せっかく遠くから助けに来てくれたのにそんなこと言ったらラスターがかわいそうデショ!」
    「かわいそうだったら何? ボクらがこいつを必要としていないのは事実だよ。」
     ラクーンは仲間に非難されようとも彼なりの正論を曲げる気配はない。そんな彼を見かねてフロッグは彼をたしなめる。
    「これ、ラクーン。先ほどから無礼が過ぎるぞ。それに、イグナイトたちも最初は困窮していなかったが次第に戦況が苦しくなっていったと聞く。油断は禁物じゃ。」
    「はあ? 『老害』みたいなこと言うのやめてよ、村長。」
     けれどもラクーンは聞く耳を持たなかった。彼は瓶詰めの入った桶を背中に集めた風で持ち上げると、一同に背を向けてスタスタと歩み去っていく。彼の言動に、フロッグは眉間に皺を寄せてうなった。
     確かにマジェスペクターの戦闘能力は高いし、今のところ助けなど必要としてはいないかもしれない。だが、イグナイトたちも最初はそうだった。マジェスペクターも、イグナイトの時と同様に、突然アモルファージの襲撃が激化して苦境に立たされることも十分考えられる。ゆえにアモルファージの無力化方法を平和なうちに伝えておくべきだとは思うが……。
     当面の住居として与えられた空き家の居室で、昨日の出来事に頭を悩ませつつ、ラスターは梁に括り付けた先端に葉のついているつた目掛けて剣を振るう。いまいち集中できていないのか、素振りの度に葉は大きく翻り、一向に剣に触れそうにない。数十回続けても葉を斬れず、彼はとうとう諦めて剣を下ろした。大きく息を吐いたちょうどその時、コツコツと軽くガラスを叩く音を耳にして彼は窓へ歩み寄る。窓の向こうにはクロウがラスターの目線ほどの高さでホバリングしているのが見える。彼が窓を開けると、クロウは心配そうに彼へ声を掛けた。
    「ラスター、大丈夫? 昨日はあの後ずっと行方不明だったし、今朝も集会所に来なかったデショ。」
    「別に大したことじゃないんだ。心配はいらない。」
    「そうは思えないけど。」
     会話の途中で聞き覚えのある声が割り込む。ラスターが窓からやや身を乗り出して声の発生源を確認すると、壁のすぐそばでフォックスとキャットがこちらを見上げている。フォックスの足元にはリンゴが一つあり、フォックスがキャットの尾にリンゴを載せるとキャットは尾に集めた風を器用に操りリンゴを彼の手元に飛ばした。彼がリンゴを受け取ると、二人は機嫌よさそうに微笑んだ。
    「それ、ウチらからの差し入れね。おいしいもの食べたら少しは元気が出るでしょ?」
    「ありがとう、フォックス。」
    「悩みがあるなら聞くよ。別に今すぐ話せってワケじゃないけどさ。村長も心配してるし、その気になったらでいいから一度集会所に顔出しなよ。」
    「わかった。」
    「んじゃ、今日はこの辺で……。」
    「ねえねえ、何でもいいから遊ぼうよ!」
     キャットは言うや否や、帰ろうとするクロウとフォックスを尻目に、勢い良く飛び上がり窓から部屋へ入り込んだ。それに気付いたフォックスが慌ててキャットに呼びかける。
    「あっ、こら! キャット!」
    「構わない。二人も上がっていくか?」
    「……へ?」
     家主が見せた予想外の反応にフォックスは目を丸くする。しばし俯き右前足を口元に当て逡巡するも、フォックスは再び顔を上げ、意を決して口を開く。
    「そ、そこまで言うなら仕方ないね。キャットのお守りに付き合ってあげるよ。」
    「フォックスったら、そんなにカッコつけないで素直に『うん』って言えばいいノニ。」
    「や、やかましいわよクロウ!」
     フォックスがクロウに背を向けたままそそくさと窓の向こうへ飛び込んだ。そんなフォックスの姿に笑みを零しつつ、クロウはフォックスの後を追い家の中へ入った。

    「ねえねえ、何して遊ぶ?」
    「そうだな、その前に……。」
     そう言いかけて、ラスターは床に座っている三匹のマジェスペクターたちから一歩下がってリンゴを軽く投げ上げると剣を抜いた。窓から差し込む日差しを反射しながら右腕の動きに合わせて刃が煌めいたかと思えば、瞬く間にリンゴは櫛形くしがたに四等分され彼の左手に収まった。彼の剣技に目を輝かせ嘆息する三匹へ、ラスターは跪いてリンゴを差し出す。
    「せっかくだからみんなで食べよう。」
    「いいの? ラスターの食べる分が減っちゃうケド。」
    「そうだよ、元々ラスターに全部あげるつもりで……。」
     心配するクロウとフォックスへ微笑みながら、ラスターは言った。
    「ああ。食べ物は仲間と分け合って食べるとより美味うまく感じられる、とライオットが言っていたんだ。」
    「ふーん。そういうことならいただくけど……いい人すぎて損しそうなタイプだよね、ラスターって。」
    「一言余計だぞフォックス。」
     ラスターの反発を聞き流してリンゴに前足を伸ばすフォックスの傍らを素早く通り過ぎると、キャットはラスターの膝に飛び乗った。
    「知ってるよ、ニンゲンはねこをなでると幸せになるんだよね! いくらでもなでていいからね!」
    「あっ、もう! キャット!」
    「ははは。ありがとう、キャット。」
     時を同じくして、村長ことマジェスペクター・フロッグは川のほとりに佇むマジェスペクター・ユニコーンを訪ねていた。フロッグを視界に認めるとユニコーンは脚を畳んでフロッグに目線を合わせ、おもむろに口を開いた。
    「何用ですかな、村長。」
    「やれやれ。おぬし、少しは愛想よくできんのか。」
    御託ごたくは結構。私は来訪の目的を尋ねているのですが。」
    「はあ、まあよい。では単刀直入に聞こう。昨日、干物作りの後ラスターと会って話をしたそうだな。」
    「ええ、まあ。居たたまれなくなってあてもなく彷徨さまよい歩いていた彼に夕刻の静かなひと時を邪魔された、という方が正確ですがね。」
     いささか不機嫌そうに吐き捨てるユニコーンの態度に、フロッグは額を押さえて大袈裟にため息を吐いた。話はそれだけか、と問いかけるユニコーンに、フロッグは一転険しい表情で尋ねる。
    「それで、おぬし一体あやつに何をしでかした? 黄昏時たそがれどきに儂を訪ねてきたかと思えば『しばらく一人になりたい』と言ってそのまま帰っていったのだぞ。」
    「私の責任だとでも? 心外ですな。彼が対話を求めたゆえに私はそれに応じ、彼の問いへの答えを述べただけだ。」

    ≪ 涼やかな風が木々を吹き抜け、やや赤みを帯びた黄金色の日差しが川の水面に散乱する。ざわざわと揺れ動く木陰につられてあちらこちらへ移ろう木漏れ日を浴びつつ、ユニコーンは目を閉じ、周囲に響き渡る小鳥のさえずりに耳を傾けて体を休めていた。しかし次の瞬間、静寂は招かれざる客の手であっさりと壊された。がさがさと無遠慮に茂みを搔き分け、くだんの人物はユニコーンの元へと近づいてくる――仮面で常に顔を隠している半竜の男、竜剣士ラスターPだ。きょろきょろと辺りを見回しながら歩を進めていた最中、ユニコーンと目が合うとラスターはやや気まずそうな調子でユニコーンへ声を掛けた。
    「や、やあユニコーン。……とても落ち着くいい場所だな。」
    「ええ。あなたが足を踏み入れるまでは。」
     ユニコーンは馴れ馴れしく近づいてきたラスターを横目で見つつ容赦なく拒絶の意思を示したが、そんな冷ややかな視線にたじろぎながらもラスターはユニコーンの傍らへ腰を下ろした。するとユニコーンはサッと立ち上がって歩き出し、ラスターから数歩離れたところで伏せ直した。ラスターはユニコーンの行動に驚いてしばし固まっていたが、歓迎会で見聞きしたことを思い出し、納得したように落ち着いた声で再び話しかける。
    「そういえば、きみは面識のない男が嫌いだったか。しかし、そうも邪険にされては仲良くなるきっかけすらも作れないだろう。」
    「生憎、私はあなたと馴れ合う気はないので。それと、一つ訂正させていただこう――私は男という存在が嫌いなのだ。これまでに関わりがあったかどうかには関係なくな。」
    「そ、そんなに……? 一体何故そこまできみは男を憎むんだ。」
     信じられないとでも言いたげに動揺するラスターを鼻で笑い、ユニコーンは子どもを諭すかのような落ち着き払った声で、そっぽを向いて目を閉じながら語り始めた。
    「簡単な話だ。男というのは傲慢で、誰しもが『自分は全ての存在から無条件に最大限の敬意を払われて然るべき存在なのだ』『世界は一分一秒自分の意のままに回るべきなのだ』と錯覚する愚か者であり、自らの快楽のために善良な他者を袋叩きにすることも、さらには自分の力量に見合わぬ大層な要求をもいとわない。そのような愚かしい存在、愛せという方が無理な話だ。」
    「全ての男がそうというわけじゃないだろう。第一、わたしには性別一つでそこまで性格が決まってしまうとは思えない。」
     半竜の男の必死な訴えに、ユニコーンは深くため息を吐き、瞼を半分ほど持ち上げて呟く。
    「あなたのおっしゃることももっともだ。けれども、果たして近づいてきた男が無害か否かを、危害を加えられる前に正しく判断する術などあるのかね? その男が愚か者であるならば、うだうだ考えている内に不躾に接触を試み、私たちを傷つけるのは目に見えている。少しでも躊躇ためらいを見せれば、奴らにとっては隷属の意思を示したも同然。だからこそ、はなから全ての男を忌み嫌い遠ざけておくのが最も安全なのだ。」
    「……少なくとも、わたしはそんな酷い奴じゃない。」
    「確かに今のところはそのように見えるが、のちに豹変しないとも限らん。それに、今日アモルファージと対峙した時あなたが言いかけていた助言にもどれ程の価値があるものか判断しかねる――男というのは往々にして自らを賢く偉大な存在なのだと主張したいあまりに、他人が皆その男より知能が劣り知識が欠けていると信じ切って、誰もが当然知っていることをさも重要で有難い〈隠された真実〉であるかのように語ったり明らかに間違っていることを〈腹黒い権力者がひた隠しにする不都合な真実〉であるかのように喧伝けんでんするものであるゆえ。」
    「わたしはそんなつもりでラクーンたちに声をかけたわけじゃない!」
     ラスターが声を張り上げるとユニコーンは煩わし気に鼻を鳴らし、ラスターを睨みつけて言った。
    「信用してほしいのなら行動で証明することだ、口では何とでも言える。」≫

    「なあ、ひょっとして儂らに対してもそのような猜疑心さいぎしんを抱いておるのか?」
     恐る恐る尋ねるフロッグに、ユニコーンは穏やかな笑みを浮かべて答える。
    「まさか。あなた方が誠実で仲間想いであることは存じておりますし、もはやあなた方を『男』と見做みなしてはいません。ですが、彼はつい先日こちらへやって来た部外者でしょう? 疑うな、というのは無理が過ぎる。」
    「しかし、かの青年を信用しないというのは、彼を遣わしたイグナイトの連中をも信用しないということだ。違うか?」
    「正直なところ、私は彼らのこともあまり信用してはいないもので。例の半竜が彼らを陥れた可能性も否定はできかねるゆえ。」
    「おぬし、あやつの何を見て……。」
    「いずれにせよ、我々はあの半竜の本性を見定める必要がある。彼が本当に信用に足る人物であるのかを。」
     そう言って、ユニコーンは南中しつつある陽の光を浴びながらざわざわと揺れる木の葉を見つめた。
    ≪続く≫
    月城 衛@月光城塞 Link Message Mute
    Jul 9, 2022 9:26:43 AM

    第一章:英雄の復活②-1 マジェスペクター編[前編]

    #二次創作 #小説 #二次創作小説 #遊戯王OCG #竜剣士 #竜魔王 #マジェスペクター #アモルファージ #10001~20000字 #英雄のキセキ ##ノベルス
    本文:約1万2千文字
    ++++++++++
    ――いずれにせよ、我々はあの半竜の本性を見定める必要がある。彼が本当に信用に足る人物であるのかを。
    ++++++++++
    竜剣士ラスターPについての妄想を綴った小説です※同シリーズの話を飛ばして当作品から読むと一部理解不能な描写に出くわすおそれがあります。
    次回、竜剣士物語②-2 マジェスペクター編[後編]。
    ++++++++++
    Language: Japanese version only (there is no English version).
    **Do NOT translate my novels. **
    **Do NOT execute machine translations on my novels. Machine translations such as Google, DeepL, etc. are NOT wise enough to translate my Japanese sentences into western languages. **

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