5月3日【5月3日】
宇宙人が地球にやってきた。
私の通う学校にも、例外なく宇宙人が襲来した。リーダーらしき、セーラー服を着た少女の見た目をした宇宙人は、校内放送を乗っ取るとこう言った。
「何も考えなくていいのです。天の神から与えられる"良い事"をひたすらやりましょう!」
気付けば、生徒も教師もその思想の虜になっていた。正気を保っている一部の人間達は、見つからないように空き教室に隠れた。
窓を覗くと、ぞろぞろと体育館に向かって歩いていく人々が見える。友人と先生がそれを見て顔を顰めた。
「いつの間に、こんな気持ちの悪いことになったんですか」
「分からないけど、気付いたらみんなこうだったね」
話し合って分かったのは、操られていないのは何らかの特殊能力を持っている人間であることだ。
例えば、教室にいた双子の男子生徒なら瞬間移動、友人なら気配遮断といった能力を使うことができる。それらの能力が宇宙人の能力を弾いたのではないかということだった。
ほとんどの人が体育館に集まったのを見計らって、空き教室から脱出した。階段を駆け下りて、体育館前の階段にスペースを作る。私の能力である壁抜けと、先生の能力である他者の能力の強化を同時に発動させて、正気を保っている生徒達を逃がす。
全員無事に逃げ切ったのを確認して、私は一人で運動場に向かった。
神の使徒である宇宙人に従え。異能を持った人が上に立って、そうじゃない人は何も考えず従うのが「良いこと」だ。
そんな宇宙人の思想に、一言でいいから文句を言いたかった。
体育館ではなく運動に来たのは勘だった。けれど、それはしっかり当たったようだ。
「あれ、もしかして効いてないでありますか?」
「そうだね。だから文句を言いに来たんだよ」
振り向いた宇宙人はさも驚いたかのような顔をして見せた。
「そもそもこれが良いことですよ、なんて誰の基準で決めてんのさ。押し付けられたって迷惑なだけだよ」
「神様がそうしろと仰っておりますし、こちらとしては善意なのですよ。そう怒られると辛いものがありまして……」
しくしくと悲しそうな顔をする宇宙人を一瞥する。宇宙人が端末を取り出す。そして、静かにカメラをこちらに向けた。まずい。逃げようとした瞬間にシャッターの切られる音がした。
「勘違いしていたみたいでありますね。小生の能力は、写真に撮った相手を操るものであります。放送の方は別の人に手伝ってもらったものです」
こっちにおいでと腕を広げられれば、体は勝手にそこに収まった。強く抱きしめられる。宇宙人にも体温はあるのだな、とそんなことが頭をよぎった。
嬉しそうな宇宙人の笑い声が耳元で響いた。