12月6日【12月6日】
少年が川に入って何かを探している。
少年の育ての親である女性は子供を産めないのだという。川に流れてくる魚の卵を口にすれば妊娠できるようになるというおまじないを知って、こうして川に通っているのだという。
卵は橙色をしているから、一目見ればすぐにわかるらしい。
しかし、一緒になって川を探すが、卵らしきものは見つからない。それどころか、魚の一匹も見えない。横を向くと、今にも泣きそうな少年の横顔が見えた。
すると、河原に一人の女性がやってきた。彼女は迷いなく川にざぶざぶと飛び込むと、少年を抱きしめた。
「あなたがいれば、お母さんはそれでいいのよ」
艶のある髪を右肩の辺りで結った女性はそう言って、少年の頭を撫でた。少年は声を上げて泣いていた。
川にこぼれ落ちた少年の涙は、小さな橙色の球体になった。
魚の卵だった。