3月20日【3月20日】
友人と共に、部室に荷物を取りに来ていた。
近頃は部活に顔を出していないので、顧問に顔を見られれば何やら説教を垂らされることだろう。やることが終わったら早めに逃げようと2人で話し合った。
部室を出て廊下を歩きながら何気ない会話をしていると、ふと友人から尋ねられた。
「最近どんな夢見た?」
夢、という言葉が引っかかった。
それと同時に、昼過ぎの電車に乗って帰ったはずなのに、どうしてまた学校にいるんだろうとも思った。
そうして、パズルのピースが当てはまるように理解した。
「違う、ここが夢だ」
気づいた瞬間声に出ていた
「明晰夢だよ。なんで気づかなかったんだろう」
「本当に?すごいじゃん、現実の私にもよろしく伝えておいてね!」
理解の良すぎる友人に驚きつつ、とにかくお礼を言う。試したいことがあると伝えて屋上に上がる。
物を作ってみたり、竜巻を起こしてみたり、ひとしきり遊んで満足した。真っ白な柵にもたれかかると、バキッという音を立てて真後ろに倒れた。もし現実だったらという考えが頭をよぎった。
それはそれでありだと思った。
落下する私を見て、知らない人達が悲鳴を上げていた。
上に引っ張られるようなイメージで空を掴むと、そのまま浮遊することができた。そうして飛びながら遠くを目指す。
段々と集中力が持たなくなってきて、土手の上に降りる。河原を別の友人が歩いているのを見つけた。彼はしきりにきょろきょろと周りを見回して、何かを探している。
「おーい。そっち行くよー」
土手を降りる階段は三つあった。
一番近いものはチェーンと御札が貼られていて進めなくなっている。
真ん中はやけに段差が高く段数が多い。
最後は距離こそ長いがスロープに近かった。
三つ目を選んで走り出した瞬間、こちらに気づいた友人が叫んだ。
「そっちに行くな!やめろ!」
気付いた時にはもう遅かった。
階段の一段目には、真っ黒な御札がびっしりと貼られていた。力が抜けて倒れ込んだ体に、何かが巻き付いてきた。痛みに目を瞑った。
目を開くと、赤黒い空が見えた。
全く同じ風景なのだが、人の気配はない。
金縛りにでも遭ったように体は動かない。蛇が指に齧り付いている。右手からゆっくりと飲み込まれる。その感覚が嫌にリアルで気持ちが悪い。
起きろと強く念じてみるが、目は覚めない。その間も、蛇は体を食い尽くしていく。気が狂いそうだった。
足まで呑み込まれて、ようやく意識を手放すことができた。