1月18日【1月18日】
初めて見る駅から電車に乗った。
冬の早朝の、陽の昇りきらない時間だというのに、車内の明かりは一切ついていない。
見渡す限り、どこの席も綺麗に埋まっているのに、自分の目の前に一人分の空間が空いていた。わざとそうなっているようにも思えた。荷物が重かったので、諦めて腰を下ろした。
行き先は知らなかった。
漠然とした不安が胸を占める。降りようか。しかし、乗ってきたはずの扉は姿を消していた。他に出入りできそうな場所もない。それどころか、駅に着く様子もみられなかった。
ただ電車に揺られることしかできない。
きっとどうにかなるだろう。そう自分に言い聞かせて思考を止めた。落描きでもすれば、気が紛れるだろう。ノートを取り出して、ペンを走らせる。揺れる車内では描きづらいかと思ったが、線は歪まなかった。
そうして、ひとつ描きあげた。お世辞にもいい出来とは言えないが、気は楽になった。
目の前の絵を見つめて、瞬きをした。ノートが手元から消えていた。
代わりに、人影があった。
驚いて顔を上げると、少年がいた。ついさっきまで自分が描いていた人物によく似ていた。
「何してるの」
「わからない」
「だろうね」
少年が自分の後ろを指さした。
「降りなよ、駅着くよ」
少年の後ろで扉が開いているのが見えた。
あんなところに扉はあっただろうか。見落としてただけなのだろうか。
「行こう」
少年に手を引かれる。ついていくと、見覚えのある駅だった。空には太陽が昇っている。
後ろを振り向くと、今まで乗っていたはずの電車は消えていた。
「降りられて良かったね」
少年の声が聞こえた。