2月9日【2月9日】
見知らぬ車に揺られながら、道の脇に積み上げられた雪を見つめている。
私達の住む土地は、雪とはあまり縁がない場所である。こんなに降り積もった雪を見たのはいつぶりだったろうか。
運転手のおじさんが、ゆったりとした速度で車を走らせる。これはアトラクションか、観光の為の車か、なんだったろう。一番後ろの座席で、イヤホンから流れる音楽に身を任せながら考える。
積もりに積もった雪とは対照的に、雲一つない空が綺麗だった。太陽を反射した雪が眩しく輝く様は、さぞ写真映えするだろう。
山頂に辿り着いた。ガードレールの張られていないそこからは、眼下の海と小さな島を一眸できた。
弟達が元気よく飛び出して行く。私は音楽プレーヤーを置いて、スマホを手に取った。
落ちないように気をつけてと注意して、自分は海の上の島を見下ろす。
山吹色の着物の女性達が、何かを舞っているのが見える。仙女のようだった。雪の上に足跡を残しながら、クルクルと同じ動作を繰り返している。
すぐに見飽きてしまって、戻ろうと振り返る。
崖の際に居た弟が、足を滑らせたのが目に映った。
走るより先に咄嗟に目を閉じた。弟の滑り落ちそうな位置を瞼の裏に浮かべて、目を開いた。その瞬間、私は弟の傍へと移動していた。自分がなぜこんな力を使えるのか、自分自身でも余り理解できてはいなかった。
「さっき気をつけろって言っただろうが!」
弟を抱きとめて叫んだ。落としかけたゲーム機もしっかり捕まえる。
何が起こったかは分からないけれど、弟を助けられた。それだけで十分だった。
腕の中の弟を抱きしめた。