1月23日【1月23日】
どこかの施設に引き取られていた。
お世辞にも金銭的に余裕があるとは言えない施設であるのに、成人している上に病気も患っている自分を置いていてくれるものだから、感謝のしようがない。
施設の建物は一つ一つが古い。手入れをする金もないらしい。私が使っていた建物は昔ながらの木造建築で、板張りの天井にはところどころ穴が空いていた。
ある日、天井裏に見たこともない生物が住み着いてしまった。早く駆除しなければ、他の人間に危害が加わりそうだった。片付けるから任せてくれと申し出た。職員は心配しながらも道具を貸してくれた。
天井の穴に向けて刺股を突き立てると、何かの叫び声が聞こえた。ゆっくりと下に下ろすと、真っ赤な毛布に目玉が沢山ついたような生物が刺さっていた。
手元にあった洗剤を片っ端から混ぜて洗面器に入れ、それを謎の生物にかけた。耳が痛くなるほどの断末魔を上げて、段々萎んでいったかと思うと、仕舞いにはぱちんと消えてしまった。
部屋に戻ると、職員の女性と、見知らぬ男が二人いた。先程の生物と目を合わせてしまったがために、錯乱しかけていた職員を落ち着かせてくれていたようだ。
黒髪の男と金髪の男は、自分のことを私の父親だと名乗った。二人とも父親とはどういうことであろうか。男達の間に座って話を聞こうとすると、一瞬視界が歪んだ。
いつの間にか、座っていた場所の下が海になっていた。浅い海の中で、色とりどりのサンゴが揺らめいている。白いサンゴから泡が立ったと思うと、小さなクラゲになってどこかへと漂って行った。
海を眺めながら、父親を名乗る男達と言葉を交わす。最近は体調は大丈夫か、何か困ったことはないか。真剣に問いかけてくる瞳がいたたまれなくて、目を逸らした。不器用ながらも気遣ってくれる黒髪の男にも、努めて優しく話してくれる金髪の男にも、少しばかりの好意を抱いた。
ひっそりと抱いた喜びに蓋をして、何食わぬ素振りでその場を凌いだ。そうして自分の部屋に帰って一人になったのを見計らって、まとめてあった荷物を背負った。
この幸せは、身の丈に合わない。
周りから優しくされるほど、気遣われるほど、喜びを上回る焦燥感に駆られていた。本心を悟られない内に、誰にも気付かれない場所に消えようと思った。
「お前、置いていくつもりかよ」
振り返ると、明るい髪の少年がいた。困ったように笑うと、抱き締められた。
「じゃあバレない内に行こうか」
少年は私の手を取って笑った。この先、どうとでもなるような気がした。
あの父親達は心配してくれるだろうか。
遠くに見える施設を振り返って、子どものようなことを思った。