1月25日【1月25日】
山の上にある小学校に通っていた。
この学校は何者かに乗っ取られていた。教師も生徒も寮生活を送ることを余儀なくさせられているため、違和感を持ったときにはもう手遅れだった。逃げることも、疑問を持つことも許されない状況に置かれていた。
皆一様に、小さな耳飾りを着用させられている。これひとつで、位置情報をいつでも監視できる上に、洗脳が解けないようにすることができるようだ。
そうしてすっかり傀儡のように生かされていた、ある日のことだった。ふとした拍子に耳飾りが壊れた。
逃げなければ。
正気に戻った瞬間にそう思った。気付くと、自分よりも幼い少女が心配そうにこちらを見ていた。長い黒髪の隙間から、変色した耳飾りが見えた。おそらく、機能を失ったのだろう。少女を抱き上げて、草むらの中を走り出した。
山の上から、お囃子の音が聞こえている。ぐるぐると、脳にこびりつくような音だった。
「あっちに行っちゃダメだよ」
少女がそう呟いた。
走っている内に山の下の道路に出た。きっとまだ追っ手が来ているだろう。昔、祖母が住んでいた家なら。あの家の天井裏から繋がっている、謎の部屋なら見つかることなく過ごせるだろう。
神社の近くまで来たときに、後ろから黒い服を着た男達がやってきた。
追いつかれた。
この子だけでも逃がさなければ。左腕を掴まれた瞬間、女の子を神社の境内に描かれた転移用の魔法陣に投げ込んだ。少女が魔法陣に吸い込まれて、光が溢れた。安堵した瞬間、注射器で何かの薬を打たれた。
目を覚ますと、元の学校だった。何かに操られてた被害者だったということになったらしい。同情の目を周りから向けられながら、記憶喪失のフリをして日々をやりすごした。
夜になって部屋で休んでいると、見知らぬ女性がやってきた。味方を名乗る彼女は、何かして欲しいことはないかと尋ねてきた。信じても大丈夫だと、直感でわかった。だから、ひとつだけ頼み込んだ。
「三つほど先の山の奥に、祖母の家がある。そこに幼い少女を避難させているんだ。その子の面倒を見てほしい」
まっすぐ見つめれば、彼女は諦めたようにため息をついた。
「君を逃がすために来たんだけど、仕方ないね。分かったよ、その子のことは任せて」
無事で居てね。その一言だけ残して、彼女は消え去った。
憂いも晴れたところに、黒い服の男達がやってきた。何も知らないフリをしながら、再び注射をされるのを見ていた。
視界が霞んで見えなくなった。