おれにこういうの着せて楽しい?「おれにこういうの着せて楽しい?」
不機嫌な顔に不機嫌な声。いつもなら冷や汗をかくけれど、今日の研磨はちっとも怖くない。なぜならパステルカラーでうさみみ付きのふわふわジェラピケを着ているから。かわいいものに包まれた研磨なんて、どんな顔しても怖くない。とはいえ、素直に楽しいよ! というほど命知らずではないのでニコッと笑って誤魔化しておく。
研磨は口をへの字に曲げるとこちらに背を向けてゲームをし始めた。その背にはうさみみのついたフード。せっかくだから被って欲しい。そうっと耳の部分を掴んで頭に被せる、がすぐさま手で払われてうさみみは背中に逆戻り。めげずにもう一度被せてサッと研磨を覗き込む。うさみみが片方研磨の顔にかかり、SPSの画面は一時停止中。ジロリ、と睨み下ろされても、うさみみ効果でちっとも怖くない。
「かわい〜」
「あっそ」
「写真撮ってもいい?」
「絶対に嫌。早く脱ぎたい。一刻も早く」
「えー、でも着心地はいいでしょ?」
「良くない。なんかキツいし」
「うっそだぁ〜」
ペタ、と薄っぺらい肩に触れると、私が着ている時ほどのふわふわ感はなかった。肩の部分に余裕はなく、生地は伸び切って縫い目がわかるくらいになっている。あれ、研磨と私ってそんな体格に差、あったっけ。肩、背中、脇腹。どこを触っても布の緩みがある部分は見当たらない。おかしいな。
体の前面も確認しようとして手を伸ばすと、急に視界が反転した。遠くの壁のポスターに、ゆっくり動くエアコンの送風口、うさみみフードを被った研磨。パサリ、とフードを脱いで、研磨はうっそり微笑んだ。
「〇〇、なんかおれのこと勘違いしてない?」
してないよ。だって研磨は華奢で細くて、ジェラピケが似合うくらいかわいくて。
押さえられた肩と手首はビクともしない。予想外の力強さ、急に部屋が寒くなったように感じる。ゴキュ、と唾を飲み込む音は研磨にも聞こえたのか、目がすうっと細められる。そのままゆっくり顔が近づいてきて、斑らになった金髪が頬をくすぐる。
「かーわい」
掠れた声の囁きの、想像すらしていない色にブワリと全身に鳥肌が立つ。ぬるり、と生ぬるい何かが耳を這って、まるで私のものじゃないみたいな悲鳴が部屋に響いた。