【サンプル】敵は夢の中の俺【おそ一】 パチリと目が覚めた。
時計を見ると朝? 深夜? どっちでもいいけど4時半。
毎日この時間になると目が覚めるようになった。
両隣のチョロ松とトド松を起こさないように、一応気をつけてそっと布団から抜け出す。そんでまた音を立てないように、一番端で寝ている一松の所まで移動。揃えて立てた両膝に手を置いて一松の顔を覗き込む。
この時間になると、一松は寝笑いをする。
それはそれは幸せそうな顔をしてクスクス笑う。そんなに大きな声じゃないから隣のカラ松は目覚めない。いやカラ松は一回寝ると朝まで熟睡するタイプだけど。
俺がそれに気付いたのは半年くらい前。たまたまトイレにと思って起きた時、一松が寝たまま「ふふっ」って笑ってた。寝笑いって。ちょっとびっくりしたけど、顔を覗き込んだらあまりにも幸せそうな顔して嬉しそうに笑ってるから俺も幸せな気持ちになった。
それから笑ってる一松を眺めるのが日課になっちゃった。
だって可愛いんだもん。
起こさないように、笑ってる一松の頭をそーっと撫でる。普段ならわしゃわしゃ撫でるんだけど、この時間はなんとなく。そうすると気のせいかもしれないけど幸せオーラが強くなる。
起きてる時にこんな闇がない顔、絶対見せてくれない。
一松の頭を撫でて、寝笑いが収まったら定位置に戻って寝直す。
多分、何か夢を見てるんだと思うんだけど、どんな夢を見てるんだろう。きっといい内容なんだろうな。
----- 中略 -----
二階でダラダラと横になって漫画を読んでいた。部屋には俺とチョロ松、それから一松がソファで昼寝している。
チョロ松も「資格」と書かれた本を眺めていて、会話はあまりない。たまに雑談しても一松に気を遣って小声で話してた。
そんな静かな部屋で、一松が「ふふっ」と笑った。いつもの寝笑い。俺とチョロ松は顔を見合わせる。小声で「笑ってるね」と言い合って、ほわっとした空気が流れた。そりゃ可愛い弟が幸せそうに笑ってたら和やかな空気になるでしょ。暫くして一松はまた「くふふ」と笑い声を出したかと思うとガバッと起き上がった。俺とチョロ松は一松を見上げた。なんだ? どうした?
「……今、誰か笑った?」
一松が俺たちの方を見て聞く。
「いや、僕たち笑ってないけど」
「一松が笑ってたんだけど」
それを聞いて一松がちょっと驚いた顔をした。
「いちまっちゃん、自分の寝笑いの声にびっくりして飛び起きちゃったの?」
ちょっと面白いな、これ。笑いを堪えながら告げる。俺は身体を起こして胡座をかいた。
「……おれ、寝笑いしてたの?」
一松は少しだけ呆然とした感じになってる。
「一松、毎日明け方に寝笑いしてるよ」
あ、チョロ松も気付いてたのか。
「……うわ、そうなんだ……ごめん、うるさいよね」
「いや、うるさくはない」
「うん、うるさくはない」
チョロ松のフォローに俺も乗っかる。
「でもどんな夢見てるのかは気になる」
「うん、そこ凄く気になる」
体育座りをして小さくなった一松の横に座って、頭をわしゃわしゃ撫でながら追い討ちをかける。
「どんな夢を見てたの? いちまっちゃ〜ん」
一松が迷惑そうに俺を見たから俺は撫でるのを止めてじっと一松を見た。一松の方は右上を見てちょっとの間何か考え事をしてから下に目線を下げて
「……覚えてない」
と言った。
絶っっ対、嘘。これ嘘ついてる時の目の動きだったよ〜。でもこの感じだと問い詰めても言ってくれなさそう。
「覚えてなくてもさ、すげーいい夢だったとか、幸せな気持ちになったとか笑える夢だったとか、なんかこう、あるだろ」
概要から埋めて行く作戦に出る。
「寝笑いするくらいだもんね」
チョロ松と二人で一松の反応を見る。
「……えっと……うーん……うん、凄い幸せな夢なんだけど、幸せすぎて」
二人でうんうんと頷く。余計な言葉で遮らないようにして、一松がゆっくり喋るのを待つ。
「……おれ、ニートだし童貞だし、ゴミみたいな存在じゃん?」
お、おお……なんか一気に悲しくなっちゃったよ……。こっちは何かいい話を聞けるかと期待したのに悲しい現実を突然突きつけられた。フォローするより続きの言葉を待つことにする。
「……えっと、だから、寝てる時幸せな分、目が覚めた時クソみたいな現実を思い出して辛くなるんだよね」
一松は膝の上に顎を乗せて、さらに小さく固まった。俺はまた一松の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「いちまっちゃんには俺たちがいるじゃん」
「そうだよ、皆といると楽しいじゃない? たまに鬱陶しいけど」
「そうそう、辛い時はお兄ちゃんに甘えてくれよー」
俺とチョロ松の必死のフォロー。一松は眉をハの字にして口だけでちょっと笑った。
「……二人ともありがと。我慢できなくなったら頼らせてもらうね」
そう言ってるけど、多分頼ってくるつもりは無いだろうな。一松が最近よく昼寝してるのは現実逃避なのかもしれない。
辛いなら俺のところに来てくれればいいのに。思いっきり甘やかしてやるし、可愛がってあげるのに。