乍要SS 不機嫌なキス診断メーカーのお題から。
「20分以内に5RTされたらひのの乍要が不機嫌そうに頬に親愛、厚意、満足感のキスをされるところを描き(書き)ます」
大学生の要くんと社会人の乍さん設定。キスは親愛でも厚意でも満足感でもないです&されるではないです
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──テスト期間中は絶対に駄目、週末でも。
そう言ったのは要の方だった。確かにそうではあったのだ。だが。
「なんで一切何もなくなるんですか」
「なぜ、と言われても。お前が言ったのだが」
朝からなかなか面白いことを言うな、とばかりに眺められて、リビングを出るばかりになっていた要はぐっと拳を握りしめる。
「行ってらっしゃいのハグくらい、してもいいのに」
「…『してもいいのに』…?」
からかうように復唱して、驍宗は腕を組んだ。
「期間中は『絶対に駄目、ちょっとも駄目、軽くも駄目』と」
驍宗がそれを言い渡されたのは直前の週末。テスト期間=禁欲期間が来ることを見越して、少しハードに夜を過ごしてしまったためである。だが、完全に動けなくなった要が悔しく半べそで突き付けた約束事に、彼はとてつもなく嬉しげに同意したのだ。
その喜びようをやや不可解にも思ったのを、要は今更のように思い出す。
「たった二週間ほども耐えられないと、見くびられては困る」
それともうぬぼれか、と笑われて、唇を噛んだ。
こうなることが、きっと分かっていたのだ。そして、…楽しまれている。なんでそんなに余裕があるのか。要には到底手の届かない差を、実感させられるように思えてしまう。
悔しい。分かっていて、笑っていて、それを見せられた要を見てまた笑うのだ。
「行っておいで、気をつけて」
そんなことを言って、手も振られない。
「ああ、もう…!」
要は引き返すとキッチンにいる驍宗の前まで、ツカツカと歩み寄った。
「確かに、僕はそう言ったけれど」
彼の組んだ腕に手をかけて、精一杯の背伸びをして、その頬へキスをする。
「僕からする分には、いいことにしますね!」
少し乱暴なキスは、音がしてしまった。自分でしたくせに、それで一瞬怯んだ要は、けれど相手が一切の反応を見せないことに急速に赤くなって、それでも睨むように見上げる。
「僕、そうしますから」
「…一方的なルールの変更には、同意しかねる。…と言いたいところだが」
いいことにしようか。そう告げてから驍宗が浮かばせた少しの笑みと、悠然とした、けれど獣のようにも見下ろしてきたその目つきとに、要は別の意味でびくりとする。
「ルールの変更については譲ることにしよう、だが譲った分だけ後で取り返させてもらうぞ」
「…っ……」
なぜか、はめられたような気がした。でも、どうしてか、半分嬉しいように心臓が跳ねる。それを必死に隠して、要はしかめっ面をした。
「…いいですけど。あと数日ですし」
「テスト後にレポート提出もあると聞いたが、耶利から」
奨学生なのだからいい評価が取れるものをきちんと書きあげるように。そう言う驍宗のまだ組まれたままの腕を剥がすように解かせて、その手を握ってもう一度背伸びをする。
「言われなくても、全部ちゃんとやりますし!」
…この間の週末にあんなことになったせいで提出が遅れ、再レポを課されたのだとは、絶対に言えない。
ああもう。
「行ってきますねっ」
気をつけて、遅刻しないようにな。そう言って細められた紅の目が朝の光にきれいで、…負けたように要は思うほかなかった。
ああもう。 (了)