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    祝福(2)

    心を殺してしまえば日々は何の悩みも迷いもなく過ぎてゆく。
    私は時が満ちるまでジョンと面白おかしく暮らしていけたらそれでよいと自分に言い聞かせていた。
    新横浜に来て一体何年経ったのだろう。吸血鬼は時間の経過に疎い。
    カレンダーを8回取り替えて、ロナルド君の確定申告用の書類作成をジョンが8回手伝った。あと親族の新年会もそのくらいやった。

    相も変わらずこの町に不思議なくらい吸血鬼が集まってくるせいで事務所の経営状態は良好だし、まずまず利益も出しているらしい。
    私たちがここに来た頃から活躍している退治人たちもすっかりベテランの風格を漂わせるようになり、新しいメンバーも増えてますます賑やかだ。
    ロナルド君と近しい退治人たちや吸対メンバーにもプライベートでいろいろあったようだが、それは彼らの人生であり、ここでは割愛することとしよう。
    特筆すべきは、今年カズサ氏に異動の辞令が下りて空席になった本部長職にヒヨシ隊長が就任し、ヒナイチ君が副隊長から隊長に昇進したため、ロナルド吸血鬼退治事務所の床下から引っ越したことだろうか。
    ヒヨシ隊長とヒナイチ君の昇進を祝って吸対のヒヨシ隊と有志の退治人たちを事務所に招いて食事会を開いた日、ヒナイチ君が私を見て顔を曇らせたのが気になって話しかけてみた。

    「やあ、ヒナイチ君おめでとう。今日は腕によりをかけてご馳走をつくったからたくさん食べていってね」
    「…ありがとう。でも、ここにすっかり慣れてしまって離れるのが寂しい」
    「時間があったらいつでもおいで。クッキーを焼いて待っているから」
    「ドラルク…」
    すん、と鼻を鳴らしてヒナイチ君は目元を拭った。
    「ヒナイチー、さっさと食わねえとなくなっちまうぞ!」
    ロナルド君が口にものを詰めたまま手招きをする。
    「あっ、待て!私の分まで食べるな!」

    食事会は始まったばかりで、そんなに早く用意したものがなくなるはずはないのだが、食欲魔人の腕の人がいるから油断はできない。
    人の影になってよく見えないけれど、大皿からなんだかんだヒナイチ君に取り分けてあげているのはロナルド君だろうか。
    彼女などはロナルド君にお似合いではないかと思っていたこともあったが、お互いに兄妹のようにしか感じられないらしい。
    ロナルド君は兄が本部長になったことがよほどうれしいらしく、終始ニコニコしてみんなと歓談しながらホスト役をこなしていた。
    全員が帰ってから早起きして疲れた私を筆頭に、ロナルド君もジョンもソファに沈み込んでしまった。

    「あーあ、疲れたけど楽しかったね」
    「アニキも喜んでくれたみたいだ。…ありがとな、ドラ公」
    「急にどうしたんだロナルド君、具合でも悪いのか?」
    「お前なあ、俺だってたまには礼を言いたいときくらいあるんだぞ」
    「いや、すまない。びっくりしたから…」
    不意打ちに胸が高鳴り頬に血が上るのを感じた。
    気づかれないように横を向いてジョンを抱え、動悸が治まるのを待った。
    「あれ?お前さ…」
    ロナルド君が腰を浮かせてこちらに近づくのを感じて息が止まりそうになる。
    今度は何なのだろう。
    この甘い責め苦のような状況から早く逃げたかった。
    「こんなに髪長かったっけ?」
    彼の指が私の後ろ髪を摘んで軽く引っ張った。

    …ついにこの時が。
    ぎゅっと掴まれたみたいに心臓が苦しくなり、固く目を瞑る。
    最近少し邪魔になってきた自分の意志で変えることのできる数少ない部分。
    多分伸ばし始めてから5年くらい経っている。
    無意識に髪に手をやりおよそ5センチほども長くなっているのを確認した。
    何か理由を言わなければと焦るが言葉が出てこない。
    「なんか、親父さんぽいな」
    「そ…そう、お父様みたいにしてみたくてね」

    ロナルド君が図らずも助け舟を出してくれる形になって一気に緊張が緩んだ。
    予想外のことが起きて何もまともに考えられず、いつボロを出してしまうかわからないので疲れを理由に先に休むことにした。
    まだ何か言いたげなロナルド君を見て、殺したはずの心が鈍い痛みを訴える。
    「…お休み。片付けは起きてからするので気にしないでくれ」
    「ああ、うん」

    私の髪の変化など気づくはずもないと、思いを押し隠した3年前の封印を今夜彼が解いてしまった。
    あれから伸びた部分は私がロナルド君を想っていた月日そのものだ。
    1年でたったの1センチ。誰が気づくというのか。
    起こらないから奇跡なのに、起こってしまったら現実になる。
    彼が私をちゃんと見ていてくれた喜びよりも、また更に手に入らないものがある虚しさに襲われておかしくなりそうだ。
    この先のことを考えるのはやめにしろと危険信号が点滅するのに、頭の中のロナルド君は私に優しく語りかけ誘惑して抱きしめる。
    欲望には限りがなく一つ満たされても、もっともっとと強く求めてしまう。
    自分の内にこんな衝動があったことが信じられなかった。
    棺の中で眠れずに何度も寝返りを打ち、自分の気持ちを騙すことには限界があるのだと半ば諦めのような心境に達してようやく眠りに誘われたのは床に就いてから何時間も経った後だった。


    この数年間、ロナルド君に女性の影が一切なかったかというとそうではない。
    誘われて合コンに参加したり、ギルド仲間に教えられたマッチングアプリなどで、女性と会って食事に行ったりすることが何度かあった。
    なぜ知っているのかその理由は、ロナルド君がソワソワしていつもと違う服装で出かける時、半田君にRINEして確かめると大概その日はデートだと教えてくれるからである。
    もし半田君が私に少しでも興味を持っていたら、私のロナルド君に対する気持ちなど48時間以内に暴かれていただろう。怖ろしい男だ。

    たまにお持ち帰りでもされてくれたら私もすっぱり諦められたかもしれないのに、あの男ときたら絶対12時前には帰ってくるし、夜食まで要求する始末だ。
    全く何を考えているのかわからない。
    一度「デート、楽しかった?」と聞いてみたら怒りもせず気の毒なくらいうろたえて赤くなり、口ごもって「ま…まあ」と目を泳がせていた。
    さすがに可哀想になってそれ以降は詮索するのをやめてしまった。
    あれはまだ脱童貞できていないだろうな、とそちら方面に疎い私ですらわかってしまう慌てぶりにこのままでいいのかとロナルド君にビンタして喝を入れてやりたいくらいだ。
    彼だって30歳を過ぎたのだから結婚を考えていない訳がない。
    私ももう自分の気持ちにケリをつけてしまうべきだろう。
    告白などという愚かしい行動をしなかったおかげで、好ましい相手に嫌悪されず一緒に暮らすことができたし、たくさんの思い出ももらった。
    最後は笑ってお別れしたい。


    <(3)に続く>
    tenn Link Message Mute
    Aug 9, 2022 1:00:01 PM

    祝福(2)

    #ロナドラ #吸死 #小説
    ド→ロ片思い
    30年後に繋がる話
    捏造多数
    ドラさんの代謝速度は人間のおよそ1/10の設定

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