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    祝福(3)

    ロナルド君が結婚するしないに関わらず、私とジョンは事務所を出ていくつもりだ。
    だが、近々結婚を考えているかどうかくらいは聞いても許されるのではないだろうか。
    いつ話そうかと迷ってなかなか決心ができず、一日伸ばしにしている間に半月以上も過ぎてしまった。
    ロナルド君の本業も忙しいが、オータム出版からロナ戦の新しい執筆依頼があり、フクマさんとの打ち合わせで出かけたり、休みの日は調べものに費やしたりと吸血鬼のたわごとに付き合わせるには人間社会の職務が多すぎた。
    今日も事務所の営業が終了した後でロナルド君はパソコンに向かっている。
    このままでは埒が明かないと思い、嫌がられるのは承知の上であえて原稿の邪魔をしに行くことにした。
    事務所のドアが開いた音にもロナルド君は顔を上げず黙々とキーを叩いている。
    応接セットのソファに座って何も話しかけず、しばらく彼の様子を眺めてから私はおもむろに口を開いた。
    「…時にロナルド君、きみ結婚を考えている相手はいるのかね?」
    「へあっ!けけ結婚!?」
    さすがに彼もパソコンの画面から顔を上げてこちらを見た。
    「うん、君もいい年だしそろそろ結婚したいんじゃないかなと思ってね」
    「年は関係ねえだろ。そりゃまあ、したいかと聞かれたらしたいけど…」
    「そうか、よかった。実はジョンとも話していたんだが、君が人間と結婚するなら私とジョンはここをお暇しようと考えているんだ」
    「ちょ、ちょっと待ちやがれください!いきなりなんだよ!」
    「だってここ狭いし」
    「狭くねえ!」
    「もちろん今すぐじゃないからもう少し住まわせてもらいたいが、結婚式には出られないな。先に謝っておこう」
    「おい、なんでサクサク話進めてるんだ?そりゃ昔出ていけとは言ったけどもうそんなこと言わないから!」
    「その言葉が聞けてうれしいよ」
    「いやだから、まだそんな相手いないんだから勝手に出てくなよ!」
    「ありがとう、でももうここにはいられないんだ」
    「だからなんで…えっ?」

    私は笑顔を見せてソファから腰を上げた。
    ゆっくりとロナルド君の前まで歩いて彼の右手を取り両手で包む。
    片膝をついて跪くと、ロナルド君の不思議そうな顔を見上げてから視線を落とし、思いを込めて彼の手の甲に触れるか触れないかのキスをする。
    立ち上がって、私が見ることのない昼の世界の空や海のような色だと評される彼の瞳を覗き込んだ。
    驚きの感情を浮かべた碧眼はやはり美しく、見るだけで胸が甘く締めつけられる。
    固まったロナルド君の口から罵声が聞こえないうちに踵を返してキッチンに逃げ込んだが、彼は追ってこなかった。
    私はようやく終わりにできたことに安堵して床の片隅で静かに砂になった。


    「ジョン、前に言った引っ越しのことだけど、そろそろどうかな?」
    「ヌンヌ?」
    「わかってるくせに…水に映った月は取れないのさ」
    「ヌヌッヌヌイヌーンヌイヌヌンヌッ!」
    「いいんだよ。ねえ、もしロナルド君がいいと言ったら近いうちに遊園地にでも行かないかい?」
    「…ヌン」
    「決まりだね」
    「ヌンヌ、ヌンヌンヌアヌヌイヌイ」
    「そうか、私も乗りたいよ」
    次はどこに住むのがいいだろう。ここから遠く離れたところを探そうか。
    私がいなくなった後のロナ戦新刊はそこで読むことにしよう。


    感情が大荒れでも常に私の料理は完璧なおいしさを提供する。
    なぜならジョンがしっかり味見をしてくれているからだ。
    いつもの夕食はどこかしら不穏な空気を醸し出しているが、当然それを話題にすることもない。
    私のあの胡乱な行動についてもロナルド君に未だ追及されていなかった。

    「おい、ロナ造」
    「ホアアッ!」
    「なにそのリアクション…一番近い休業日っていつ?」
    「あ、えーと、あさってかな」
    「原稿の進捗状況は?」
    「わりと大丈夫…なはず」
    「じゃあ、どこかに出かけないかね?遊園地とか」
    「…え」
    予想しない展開だったのか、ロナルド君はハンバーグを口元に持っていったまま固まった。
    「日が沈んでから、遊園地行こう」
    「ヌオォー」
    「あ…ジョン、ジョンも行きたいんだな」
    いいよ、とロナルド君はスマートフォンでスケジュールを確認し始めた。
    「うん、予定はないな。行き先決めてんのか?」
    「私たちジェットコースターは無理だからねえ…まあ観覧車は乗りたいかな」
    「観覧車?」
    「ジョンが夜景を見たいんだって」
    「そっかージョン、でっかい観覧車のあるとこに行こうな!」
    そのまま関東方面の遊園地やテーマパークを検索し始めたロナルド君の口の横にはデミグラスソースが付いていたが私は黙っていた。
    「あっ、ここ観覧車でかいぞ」
    「待ち時間とか大丈夫なのかい?」
    「平日の夕方からならそうでもないと思うぜ」
    「じゃあ、そこにしようか。ジョンは?」
    「ヌン」
    「えーと横浜駅で乗り換えか、40分くらいで着くな」

    数日ぶりにロナルド君と普通の会話をしたような気がする。
    だがこれは関係性の修復のための誘いではなく、思い出の中に彼を閉じ込めるための自己満足的なイベントだった。
    そろそろクローゼットの中やキッチンも整理して不要なものを片付けていかないと、急に出ていくことになったら困るだろう。
    棺桶もジョンの寝床もなくなってガランとした部屋にいるロナルド君を思うと決心が鈍ってしまう。あれで彼は繊細だから、君には何の責任もないのだと教えてやらなければならない。


    当日は雲が低く垂れ込めていたので日没を待たずに出かけることができた。
    最寄りの駅から徒歩5分、すでに観覧車やジェットコースターの鉄骨が見えている。
    「風が生温かいね」
    「秋とは言ってもまだ感覚的には夏だよな」
    「そういえば営業時間いつまでなの?」
    「10時まで…ってお前全然人の話聞いてねえよな」
    「ああ、ごめん」

    ロナルド君の言った通り、平日夕方の遊園地にはそれほど人出がなかった。
    待たずに遊べそうなアトラクションを探してキョロキョロしていると、ロナルド君が目ざとくカートのコースを見つけた。
    「カート乗ろうぜ」
    「おっ、ヴァリカーで鍛えたドラドラちゃんに勝てると思うなよ」
    「抜かせ、無免許おじさんめ」
    懐にジョンを隠した私とロナルド君とでカート2台に乗り込み、ギャーギャー騒ぎながら2kmのコースを1周して降りるとなぜか足がガクガクしていた。
    「…やっぱりゲームと本当の運転は違うんだね」
    「お前、こんなの全然本物の車じゃないからな」
    「疲れた、死にそう」
    「何言ってんだよクソ砂、時間ないからな、次行くぞ」
    「私、しばらく無理だからジョンと行ってきてよ」
    「そうか?ジョンあっち行ってみようぜ」

    ジョンを頭に載せてロナルド君が駆けていく。
    辺りが薄暗くなり始めたが、園内はどこもかしこもライトアップされていて明るい。
    クマやウサギの着ぐるみが帰っていく子どもたちにバイバイと手を振っていた。
    ベンチに座ってアプリゲームで時間を潰していると30分くらいで彼らが帰ってきた。
    ロナルド君の足取りがフラフラしていて顔色が悪い。
    「君大丈夫か?どこに行っていたんだね?」
    「スピニングって、回りながら進むヤツ、高さはないし速くないけど目が回った」
    「私は行かなくて正解だったな、ジョンは平気なのか?」
    「ヌンヌーン!」
    「ジョンは丸まって転がるのが得意だからな」
    「今度は俺がだめだ…ちょっと休ませて…」
    「待てここで寝るな、あそこに休憩所があるぞ」
    フラつくロナルド君に肩を貸して少し離れた休憩所に移動する。
    「何か飲み物でも買ってこよう、おいでジョン」
    「…わりィな」

    コーラとメロンソーダとアイスティーを買って戻るとロナルド君の顔色が幾分ましになっていた。
    「今日なんで遊園地に来たかったんだ?」
    「観覧車に乗りたかったから」
    「そういう意味じゃなくてさ」
    「意味は、日頃忙しいロナルド君の息抜き」
    「それはどうも」
    「そういえば昨日の仕事、吸対と合同だったんだね」
    「ヒナイチは隊長になってからしっかりしてきたぞ」
    「知っていたらクッキーでも持って行ってもらったのに」
    「アイツは食いたくなったら勝手に来るさ」
    「ふふっ、そうだね」
    「アニキの方は俺も全然会ってないな。ほら、あの昇進祝いから電話でしか話してない」
    思い出したくない日のことを話に出されて、プラカップを取り落としそうになってしまった。
    「そうか…お兄さんも忙しいんだろうな」
    「立場が上になるといろいろあるんだろう。俺はフリーでよかったのかもな」
    「君は性格的には宮仕えの方が向いてそうだがね」

    ロナルド君という大荷物を運ぶ手伝いをしたのと夕刻になっても生ぬるい湿った空気のせいで蒸し暑く、私は珍しく汗をかいていた。
    後ろ髪が張りついて不快だが、コーラを飲んでいるロナルド君は全く暑そうではなかった。
    体温が高いと暑さにも強いのかもしれない。
    ハンカチを出して顔と首の後ろを拭き、パタパタと振って風を送っているとロナルド君が私をじっと見ているのに気がついた。

    「なあ、髪切らねえの?」
    「…切っている」
    「切ってねえだろ?俺あの時気がついたみたいに言ったけど、本当はもっと前から思ってたよ」
    「今、なんて?」
    「あれより前から髪長いの気になってたんだよな。あとお前が親父さんの真似って、らしくない感じがしてさ」
    「…そうか、さすがに作家先生は観察力があるな。完敗だ」
    「勝ち負けじゃねえよ」
    「うん、あの時私は嘘を言った。どう説明したらよいかわからず、君がお父様みたいだと言ったからそれに乗っかっただけだ」
    「今なら理由を聞いてもいいのか?」
    「君は人間で、年を取ると皺もできれば腹も出てくる」
    「まだ腹は出てねえから…」
    「でも私たち吸血鬼は何百年経っても同じ姿でいることができる。ゆえに時間を年月の経過として捉えるのが苦手なのも事実だ。ただ爪や髪の毛は伸びるから、どのくらいの月日が経ったのか思い出せるような変化が自分にもあればいいかと思ったのが最初の動機だ」
    「普通じゃん」
    「最初、と言っただろう。ただ私は他の吸血鬼と比べても代謝速度が極端に遅いから、ほんの少し髪が伸びたところで特に君なんかは絶対気がつかないと思っていたよ」
    「なんで?」
    「君私のこと家事マシーンみたいに思ってるところあるだろ?興味のない対象をじっくり観察なんてしないものだ」

    少々意地悪な言い方をしたせいかロナルド君は黙り込んだ。
    「でも君といるのは楽しかった。あの城でジョンと暮らしていたままだったら経験できないことがたくさんあったな。初めて人間と生活したからなのか、感情が暴走してしまった。自分の記憶のためではなく、君が気がつくまでの時限装置みたいになっていたよ」
    「…意味がよくわかんねえ」
    「簡単に言うとね、このわずか数センチの髪におよそ4年分の気持ちが込められているのさ」
    「…えっ」
    私は自分の隠しごとをさらけ出すのに耐えられなくなり突然立ち上がった。
    「さあ、もうこの話はやめにしよう、ジョンが困っているじゃないか」
    「ま…待てよ、まだ話終わってねえぞ!」

    感情をかき乱されて歩く速度が自然と早くなる。
    「…もう話すことなどあるものか」
    ひとり言を言いながらさっきの会話を思い出して顔が熱くなる。
    喋るつもりはなかったのに、ロナルド君がずっと前から知っていたみたいなことを言うから全部ブチまけてしまって恥ずかしいったらなかった。
    きっとあとで思い出したら恥ずかしさで何度でも死ねる。


    <(4)に続く>
    tenn Link Message Mute
    Aug 12, 2022 12:46:14 PM

    祝福(3)

    #ロナドラ #吸死 #小説
    ド→ロ片思い
    30年後に繋がる話
    捏造多数
    ドラさんの代謝速度は人間のおよそ1/10の設定
    あと1回

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