怪談たちの命は短いプロローグ監督生(性別不詳/16歳/日本人)は怖がりだった。
特に駄目なのはいわゆる怪談、つまり都市伝説や洒落怖、禍話などと呼ばれるものだ。
なお都市伝説とだけいうと範囲が広くツチノコなどのUMAや陰謀論、幸せになる系なども含むがそれらは別に怖くないのでこの場合は除外する。
古い妖怪や幽霊の話も半分くらい物語として見れるから、語り口にもよるが聞けないことはない。
実在の事故事件、つまり生きている人間や動物・自然が怖い系の話も普通にめちゃくちゃ怖いがまだ行ける。
だが怪談は『得体の知れなさ』と『身近にいそう感』が両立してるのが駄目。
小学生の頃は下校中に口裂け女に話しかけられないか本気で心配していたし、高校生になった今は絶対にリゾートバイトなんかしないぞという強い気持ちを持っている。
さてそんな監督生だが、異世界の学校で監督生となってからしばらくは怪談にビビっている暇はなかった。
クソ忙しかったからである。
常識の違う世界に慣れ、人間社会に疎い魔獣に教育を施し、基礎知識が皆無な魔法とかいうファンタジーの勉強をし、廃墟同然の住居を修繕し、謎に絡んでくる生徒たちをいなし、加えて学園長の無茶振りにも対応していればそうなる。
だからそれらが落ち着いてタイミングでやっと本来のビビリが顔を出してきたというわけだ。
八尺様「このあたりの薔薇は全部赤くできたんだゾ!」
「グリムも色変え魔法慣れてきたな」
「もはや毎回なんでもない日のパーティーに来てるからな~」
「最低限の食費は渡されてるしバイトもしてるけど甘いもの買う余裕はあんまないから……」
「リドル寮長も自然に頭数に入れてるし、こうして準備から手伝ってんだからいんじゃね」
なんでもない日のティーパーティーに招待された監督生とグリムは、エーデュースとともに薔薇の色塗りをしていた。
二人と一匹は魔法だが魔力のない監督生はペンキを使っている。
ちなみにリドルに首を撥ねられれば寮生でもペンキを使う必要があるので監督生専用というわけではない。
さて一段落したところで、監督生は薔薇を塗るのに使っていた脚立から降りた。
そのままなんとなく迷路の生け垣に目を向け。
「ギョワァァァアア!!??」
「ど、どうした監督生!?」
「なんだなんだ」
「びっくりしたんだゾ」
悲鳴を上げて監督生が固まってしまったので、二人と一匹は視線の先に目をやった。
生け垣の上の方にちらりと帽子が見えている。
あれはトレイの帽子だろう。
その帽子はほどなく引っ込み、迷路の切れ目からトレイとリドルが姿を見せた。
トレイの手にも監督生が使っていたのと同じ備品の脚立があるので、生け垣の上の方で何か作業があったのだろう。
「クローバー先輩がどうかしたのか?」
「ト、ト、トレイ先輩か……よ、よかった……八尺様かと……」
「ハッシャクサマ?なんなんだゾ、それ」
「おばけっていうか怪異っていうか都市伝説っていうか」
「都市伝説?」
「なんの話をしてるんだ?」
「色塗りは終わったのかい君たち」
「ウス!終わってます!」
「子分がトレイのことおばけと間違えた話をしてたんだゾ」
「俺を?」
先輩たちも興味が湧いたようなので監督生は八尺様の都市伝説を語って聞かせた。
特徴的な声を出し、子供を好んでさらい、ワンピースと帽子姿の女性であるのに身長が八尺、つまり240センチほどもある妖怪だと。
監督生は自分が特別ビビリである自覚があったので、みんなが自分と同じくらいまで怖がるとは思っていなかった。
だが周りの反応は監督生の想像とはいささか違っていた。
彼らは怖がる怖がらないではなく、妙に……戸惑った表情を浮かべていたのだ。
「えっと……怖くなかったですか?」
「怖くないというか……」
「それって……」
「普通に妖精族じゃね?」
「えっ」
「妖精は体のサイズがピンキリだからな。240センチの女性も普通にいると思うぞ」
「え、いるんですか」
「むしろもっと大きい種類もいるよ。古い文献では巨人族という名で呼んでいることもある」
「子供をさらうっていうのもいかにも妖精って感じしますよね」
「えっ」
「妖精によるチェンジリングはよく知られているね」
「妖精族は独自の言語を使うことも多いと聞くからな」
「声というより楽器や他のものの音のように聞こえると読んだことがあるよ」
「やっぱり妖精族じゃないか?その、なんとか様っていうやつ」
「子分、妖精怖いんだゾ?リリアとかも妖精族だって言ってたんだゾ」
「クソ迷惑な妖精族が自分の都合で子供をさらっていくのを被害者側の人間が妖怪として伝えただけじゃね?」
「そう……言われると……怖くない気がしてきたな」
「ハハ、俺をそんなのと間違えないでくれよ」
「すみません……もう大丈夫です……」
ここで監督生が大丈夫だと言ったのは八尺様だけに関してのことだった。
だがこれは始まりに過ぎなかったのだ。
メリーさん「お疲れ様です。グリム迎えに来ました」
「子分~!オレ様今日ゴールシュート決めたんだゾ!」
「すごいじゃん親分!」
「まーお膳立てあってのことっスけどね。シシシッ」
とある放課後、監督生はマジフト部の練習に参加していたグリムを迎えに部室に来ていた。
片付けをしていたラギーと、特に何もせずダラダラしていたレオナもいる。
じゃあこれでとグリムと帰ろうとした時、突如監督生のスマホが着信音を鳴らした。
「ギャッッッ!!!知らない番号!!!!」
「そんな悲鳴上げてどうしたんスか」
「詐欺やセールスだったら切ればいいだろ」
「万が一メリーさんだったらどうするんですか……!ええい死なばもろとも、スピーカーで取りますよ!……もしもし?」
『お世話になっております~!バグズリフォームのフリックスです!ユウ様のお電話番号でお間違いありませんか?』
「あ、はい!水回りの!」
『はい~!お見積りさせていただいた内容で問題ないとのことで、具体的な工事の日付を居住者のユウ様と決めてほしいとクロウリー様から連絡先を頂戴してお電話差し上げております~!』
「あ、いつでも大丈夫です!平日の昼間は校舎の方にいますがゴーストさんたちがいるので、何かあったら彼らに聞いてもらえれば」
『承知いたしました~!では一番早い日付ですと……明後日の朝10時からはいかがでしょうか?』
「大丈夫です。ゴーストさんたちに伝えておきます」
『ありがとうございます~!クロウリー様にはこちらからお伝えしておきます!それでは明後日の朝10時に工事の者が伺います!』
「はい、よろしくお願いします」
『では失礼します~!』
そうして電話は切れた。
監督生はちょっと気まずい気持ちでスマホをしまった。
「リフォームの業者っスか」
「で、死なばなんだって?」
「メリーさんって誰なんだゾ」
「電話で接触してくるおばけです……」
「おばけぇ?」
そこで監督生はメリーさんについて説明した。
突然かかってくる電話に出ると、メリーさんと名乗る少女が自分の居場所を伝えてくる。
それがだんだん近づいてきて……というものだ。
「近寄ってくるだけなんだゾ?子分そんなの怖いのか?」
「あなたの後ろにいるの、の次は殺されるって言うけど……そうじゃなくても正体の分からないものがだんだん接近してくるの、怖くない?」
「名前は分かってんのに正体は分からねえのか」
「メリーさんの正体というか、元になったものは人形って説が一般的です。粗末に扱われて捨てられた人形が恨みを抱いて持ち主を殺しに来るっていう……怖いですよね……」
「そうか?」
「人形なんて怖くねーんだゾ!」
「ええ……人を模したものが意思を持って動いてるだけで怖くない……?」
「んー、木彫りの人形に命が芽生えた奇跡の話とか、子供のおもちゃが夜寝てる間に動くって伝承とかあるんで、特に」
「あ、割りと普通のことなんです?」
「あくまでお話とか伝承なんでその辺のおもちゃが動くわけじゃないっスけど、概念として馴染みはあるね」
「ちと考えてみたんだが捨てた人形が動いて報復に来るって場合、考えられるパターンは2つあるな」
「というと」
「まず奇跡か妖精のいたずらかで人形に命が宿ったパターン。次にたちの悪いゴーストが人形に入り込んで動かしてるパターン」
「どっちもなくはないっスね」
「どーせ人形なんだろ?オレ様が燃やしてやるんだゾ」
「おばけだよ。そんな簡単にいかないよ」
「それがそうでもない。人形に命が宿ったパターンならどれだけ憎悪の感情に満ちていようが人形は人形、サイズと材質に見合った戦闘能力しかねぇはずだ」
「え、そうなんですか」
「妖精の魔法で命が宿ったとしても人形に魔法の力が宿るわけじゃないっスね」
「人形に負けるやつなんているんだゾ?」
「でかめの人形で相手がガキならあるいはってとこだがカレッジ生なら片手で転がせるだろ。武器持って奇襲されるくらいしか負けルートが思いつかねぇ」
「じゃあゴーストが入り込んだパターンは……?」
「その場合でも十中八九雑魚だろうな」
「なんでそう言い切れるんですか」
「まずゴーストが物質に入り込んでそれを動かせるということは、そこは魔力濃度の高い場所だ。それが大前提になる」
「ああ……どんな場所でもゴーストが見えるわけじゃないんですよね」
「その上でそんなところでも自力で暴れずに人形に入り込む必要があるって時点でそのゴーストは雑魚でしかありえねぇんだよ。多少は魔法も使えるかもしれないが」
「強いゴーストが悪意を持って暴れるんなら普通に自分のパワーでどうにかしますよね~」
「勝てるってことだな!」
「グリムくんは火も吹けるし楽勝でしょ」
「グリムはいいかもしれないですけど自分は魔力なしですよ?勝てますかね」
「勝てるだろ。魔力あったってNRC生以下だぞ」
「子分、別にオレ様がいなくても絡んできたやつやっつけてるんだゾ」
「……そう言われると勝てる気がしてきたな。そっか、メリーさん倒せるのか……」
メリーさんの不気味さが薄れたわけではないが、勝てる相手だと思えば怖さは減った気がする。
こうしてメリーさんの電話も克服されたのであった。
赤い紙、青い紙「ではそういうことでよろしくお願いします」
「了解っス!」
「分かりました」
閉店後のモストロ・ラウンジにて、監督生はラギーとともに居残ってアズールから来月のシフトについて説明を受けていた。
この二人はオクタヴィネル寮生ではないため個別にシフトが組まれているのだ。
他にも他寮の生徒がいないわけではないが、バイト戦士のラギーとバイト戦士見習いの監督生は別のバイトとの兼ね合いもあって調整が必要なのである。
「じゃあオレはこれで~!」
そう言い残してラギーはさっさと帰ってしまったが監督生はそういうわけにはいかなかった。
「コバンザメちゃんまたね~」
機嫌よくラギーに手を振るウツボの片方が頭の上にのしかかってきていたからである。
理由は多分なんとなく。
「あの、フロイド先輩」
「あ?」
「なんでもないです」
書類をまとめているアズールも小エビを拘束するウツボに特にコメントはないらしい。
助けてほしいという監督生の無言の訴えは完全にスルーされた。
そこへ。
「レストルームの点検終わりました。おや監督生さん、まだいらしたんですか」
「お疲れ様ですジェイド先輩。自分はそろそろ帰りたいんですけど」
「おやおや」
おやおや(笑)ではない、この愉快犯め。
「そーいえばさあ、トイレってなんで名前いっぱいあんの?レストルームとかバスルームとか、ウォッシュルームとかラバトリーとかもあるんだよね?」
「陸の文化じゃないですか?」
「あー……生きていく上で必須の場所ですけど、汚さもあって歪曲表現が増えたんじゃないでしょうか。あと国によって言い方が違ったり」
「あまり海にはない考え方ですね」
「てかトイレないもんな、海」
「えっ、垂れ流しなんですか」
「垂れ流しといえば垂れ流しですが、出したそばから消散していくので陸の垂れ流しとは感覚が違います」
「陸でトイレが必要なのは分かるけどぉ、あんま好きじゃねえなオレ」
「分かります。無防備な感じがソワソワするんですよねぇ」
「僕も食事と睡眠以外にも緊張しなければならない時間があるというのは嫌ですね」
「海っぽい意見ですね……自分も学校のトイレは怖いですけど」
「学校のトイレ?ずいぶんピンポイントですね」
「自宅のトイレは慣れ親しんでるし明るいからいいんですけど、学校のトイレってなんか無機質で薄暗いし……あと先輩たちのいう無防備な瞬間ってのも多分理由の一つで怪談が多いんですよ。トイレの花子さんとか紙をくれとか……赤い紙、青い紙みたいな確定死都市伝説もあるし」
「トイレで死ぬんですか!?」
「やっぱり危ないんじゃん!!」
「なんですかその紙の話は!!!」
無意識だろうがウツボ二人が牙を剥いて威嚇してきたので監督生は慌てた。
アズールがキョロキョロしているのは隠れられる場所を探しているのだろうか。
人魚は生命の危機に敏感なのだ。
「や、これは学校の怪談……つまりおばけの噂なので実際にトイレで確定死イベントが起きるわけではないです。基本的に小学校で出現するおばけだし」
「……NRCには出ないんですね?」
「多分……自分ツイステッドワンダーランドの怪異には詳しくないんで別のものが出る可能性はありますけど」
「監督生さん、その赤い紙とやらについて詳細を話してください」
「そうですね、今のうちに対策を立てましょう」
「はい、ええと……」
赤い紙、青い紙にはいくつかバリエーションがある。
赤い紙と白い紙であるパターン、紙ではなく手やマントなど別のものであるパターンなどだ。
だがどれも流れは同じなので、監督生は紙のパターンで説明した。
基本的にシチュエーションは学校のトイレ。
個室に入って用を足したあと紙がないことに気づいたタイミングで「赤い紙が欲しいか、青い紙が欲しいか」と声をかけられる。
赤と答えれば全身から血が吹き出して真っ赤な血まみれになり息絶える。
青と答えれば体中の血を抜かれ真っ青になって死ぬ。
どのように赤く/青くなるかにもバリエーションがあり、助かる方法が示されるパターンもある。
だが大体の場合は死に方が変わるだけだ。
基本的に話しかけられた時点で詰んでいる怪異なのだ。
できることといえば出くわさないよう祈ることだけ。
全国の子供たちを震え上がらせた学校の怪談なのだ……!
という気持ちを込めて監督生は語ったのだが。
「それって……」
「つまり……」
「犯罪者じゃね?」
「えっ」
「その、血まみれとか血を抜くとかはどうやるんですか?物理?」
「え、知りません……物理かも知れないしおばけパワーかも……」
「おばけパワーってつまり魔法ですよね」
「えっ」
「なんかの武器を持った犯罪者か魔法士崩れの犯罪者のどっちかじゃん」
「犯罪者なら普通に対処できますし、そもそも警察の担当ですよね」
「赤い紙、青い紙は刑事事件だった……?え、生きてる人間じゃなくておばけでも警察なんですか?」
「それこそ魔法機動隊の出番でしょう」
「そうなんだ……」
「負ける気しねえわ。ビビって損した」
「フロイド先輩はそうかもしれませんけど小エビは普通の犯罪者でも怖いんです」
「エレメンタリースクールのトイレに出るのでしょう?ということはつまり無防備な子供しか相手にできない弱者狙いだと思いますよ」
「そもそもこのNRCに入り込めるとは思えませんね」
「小エビちゃん弱っちいから怖いのかもしんないけど、フツーに知り合いとかセンセー呼べば一発だよ」
「そ、そうなんだ……」
じゃあ怖がらなくてもいいかな、と監督生は思った。
確定死に陥るのが非力な小学生限定だと考えれば確かにそんなに強くない気がする。
よく考えてみれば海の中を超高速で追いかけてくるウツボの人魚の方がよっぽど怖い。
「飽きた。部屋帰って寝るわ」
「あ、じゃあ自分も帰りま~す……」
コトリバコ「監督生!グリム!いっぱい食べてるか?」
「はい、カリム先輩」
「相変わらずジャミルのメシはうめーんだゾ!」
「当たり前だ」
その日オンボロ寮の二人はスカラビアの宴に参加していた。
飛び入りではなく事前申告し準備も手伝ったのでジャミルの機嫌も悪くなく、残り物をタッパーで持ち帰ることも許可されている。
「この宴、カリム先輩の妹さんの誕生日記念だって聞きました。おめでとうございます」
「ありがとな~!」
「オレ様知ってるんだゾ、誕生日はプレゼントがもらえるんだ!カリムはなんかやったのか?」
「もちろんだぜ!」
「彼女はからくり仕掛けやパズルが好きだからな。職人に宝石細工のパズルを作らせたんだ。俺が手配して」
「宝石細工」
「また高そーなプレゼントだな」
「プレゼントボックスもパズルにしたんだぜ!」
「ああ、また別の職人に作らせた寄木細工の箱だ」
「寄木細工……」
「ん?どうした監督生、顔色が悪いぜ」
「いえ、ちょっと思い出しビビリをしているだけです」
「思い出しビビリ」
「また子分の世界の怖い話か?」
「あーうん、有名なやつでね……」
「怖い話?」
「あ、いえすみません、お祝いの席にはふさわしくない話で……えっと、あくまで都市伝説であって実在の事件があったわけじゃないんですけど、その……結構血なまぐさい話なので」
「興味あるな。聞かせてくれ」
「えっ」
「寄木細工についての話なら聞いておきたいな!」
「えー……じゃあ話しますけど、気分が悪くなったら言ってくださいね。コトリバコという都市伝説です」
そこで監督生はその有名な都市伝説の話をした。
動物の血や水子を使って作った寄木細工で、女と子供の命を取るための呪物である。
それによって一族を根絶やしにする呪いの箱。
コトリバコとは子取り箱なのだ、というわけだ。
グリムは料理を食べながら話半分に聞いていたがカリムとジャミルは真面目な顔で、けれど遮ることなく監督生の説明を聞いていた。
「……というものです。すみません、誕生日に不吉な話を」
「大丈夫だぜ!よく聞く話だったし!」
「ええ、よく聞く……よく聞く!!?コトリバコあるんですかこの世界!?」
「コトリバコという名前は聞いたことがないが女子供をターゲットにする呪物はよくあるし、誕生日のプレゼントに紛れ込ませて送りつけるというのもよく聞く」
「物騒!!!!」
「どーせカリムの周りだけのことなんだゾ」
「あ、そっか。熱砂の闇さん」
「誰が熱砂の闇だ。だがまあ確かに一般的に出回っているものではないな」
「やっぱり!!」
「そういう呪物ってさー、宝物庫があれば2、3個は入ってるもんだよな!」
「えっ」
「そうだな。スカラビアの宝物庫もそろそろ掃除しておくか」
「えっっっ、ある可能性があるんですか!?ここスカラビアにコトリバコが!!?」
「あるかないかで言えばあるだろう。カリムはアジーム家の長男だぞ」
「ヒュッ……」
「大丈夫か監督生?深呼吸しろ~」
「そんなもん近くにあって平気なのか?」
「宝物庫に入っている分にはな。そもそも宝物庫というものはそういった呪物を前提に作られているものだ。盗賊に備えて宝物庫の主がわざと呪物を入れておくこともあるからな。スカラビアの宝物庫はアジーム家が直々に作らせたものだし、呪いが外に漏れ出すことはないと思っていい」
「あ、平気なんですか……」
「おう!ピンピンしてるだろ、オレ?」
「そうですね……」
「監督生もそういう呪物見かけたら教えてくれな!」
「見かけることがあるんですか!?コトリバコを!!?」
「その辺に落ちてるようなものじゃない。古くからある強力なものはアジーム家なら把握してるし、新しいものだって専門の呪具士が作って金持ちに売りつけるものだ。道端を歩いていて見かけるって可能性はごくごく低いだろう」
「でもあの、嫌な想像なんですけど……自分がカリム先輩とこうして近づく機会があることを知られて、自分でも知らないうちに運ばされてたり……とか……」
「そういったことはあるだろうな」
「あるんじゃないですか!!!ウゥゥ……」
「おい子分泣かすな!」
「わっ!ごめんな監督生、泣かないでくれ!」
「落ち着け、ほらハンカチだ。そういう場合はカリムまで届かないと意味がないんだから君の手元にあるうちに呪いを振りまいて死ぬことは考えにくい」
「カリムに届けちまったらどーすんだ」
「は?俺が適切に処理するに決まっているが?」
「お、おう」
「見かけただけで即死のやつはどうするんですかぁ……ズビーッ」
「そんなのが封印もなくそのあたりに転がっているとは考えにくいが、もしそうだとしたら周囲の動物がバタバタ死んで植物も軒並み枯れているだろう。君がそんなところに考えなしに突撃するやつなら庇いようがないが」
「それは……しないと思いますね」
「だろう。そんなのは魔法機動隊が出る案件だし、即死級のものでなければ俺が対処できる。個人的には毒物よりよっぽど処理しやすいね」
「あ、そうなんですか」
「威力が高くて隠蔽能力もあるやつは発動条件が設定されていることが多い。知識があれば発動前にどうにかできる」
「そんな感じなんだ……」
「この前見た映画に出てきた時限爆弾みたいなんだゾ!」
「同じようなものだな。呪いか火薬かの違いだけだ」
「な、なるほど」
「監督生、もう泣いてないか?呪物見つけたらジャミルに知らせればいいからな。怖くないぞ」
「そうですね……なんか……暗器とか毒物みたいに実在の暗殺用の道具だと思うと……怖いは怖いけどホラー的な怖さは薄まったというか」
こうしてコトリバコも、仕込みナイフやヒ素と同レベルに落ち着いたのであった。
口裂け女「なんか流れが掴めてきました。口裂け女の話をしても?」
「口が裂けている女性の話かい?」
「今この場でする話なの?」
「順番としてはそうかなと……」
ポムフィオーレの談話室である。
ヴィルに書類を手渡すという学園長のちょっとしたお遣いをこなした監督生は、ちょうど談話室でお茶を飲んでいたヴィルとルーク、エペルに誘われ同席することになった。
最近立て続けに都市伝説をクラッシュされている監督生は、ここポムフィオーレなら『美しさ』に関するこの都市伝説だろうと思って言い出したのだった。
「どういう人なの、かな?」
「えっとね……」
そこで監督生は口裂け女のよく知られたエピソードを話した。
マスクを付けた女性が己をきれいかどうか尋ねてくるのできれいだと答えると、「これでも?」と言いながらマスクを取って耳まで裂けた口を見せつけてくる。
きれいじゃないと返したり怯えた表情を見せると激高し、包丁やハサミなどの刃物で斬り殺されるというものだ。
このメジャーで伝説的な都市伝説が流行し社会現象にまでなったのは過去の話だが、監督生は口裂け女を本気で怖がった子供時代を過ごしている。
さすがに今では本当に道端にいる女性が、などとは考えていないが、それでも顔の見えない相手に対する根源的な恐怖というものがあるのだ。
監督生がここTWLに来る直前に世界的なパンデミックが起きたばかりだったからマスクというものは以前より身近になったが、そこで親しみを持つのではなく逆に悪い想像ばかりして不安を募らせるのがビビリというものなのである。
それで今回も、これはとっても怖い話ですという調子で話したのだが。
「監督生サン、えっと……」
「不幸な事故や事件で傷を負った女性の容姿を揶揄するのはあまり褒められたことではないね」
「美しくないわ」
「いやこれ実在の被害者がいる話じゃなくてそういうおばけなんですが!?」
「あらそうなの」
口裂け女のネームバリューが通じないことを失念して説明不足であった。
うっかりうっかり。
「有名な説では整形外科手術に失敗して口が裂けた女性が、とかその女性が自殺した怨霊が、とかいうのもありますが。自分の時代にはすでに殿堂入り状態の都市伝説でしたが、流行り始めた当初は全国で警察まで動くような社会的パニックになったそうですよ」
「一人の女性が全国各地に?」
「いやだから都市伝説というか噂なので。もし本当に全国各地に出没したんなら女性というか女性のゴーストですね。分裂能力のある」
「たちの悪いゴーストだね」
「その言葉前にも聞いたな……もしかして口裂け女も雑魚ゴーストとか魔力なしでも勝てるとかいう流れですか?」
「それはどうかしら。流れというのはよく分からないけれど」
「はっきり断定するには情報が少ないがおそらく強力なゴーストだろうね」
「え!?ここに来てとうとうやばいやつが……!」
「そもそも人を殺せるゴーストってそれだけでやばい……かな?」
「そうね。ゴーストと言ったら普通は生者を驚かせて楽しむくらいのものだもの」
「なんかそもそもゴーストに対するイメージが違いますね……」
ゴーストが実在する世界だとそうなるのか、と監督生は自分の寮の陽気なゴースト3人組を思い出した。
イデア・シュラウドの命を奪いかけたゴーストも、結果的にそうなりかけたというだけで悪意はなかったし。
イデアが姫の理想通りでさえなければ例年通り無視でよかったのだろう。
「悪意を持って人を傷つけようとするゴーストっていないんですね、ここ」
「いるわよ?」
「えっ」
「未練の残った魂はゴーストになりやすいからね。口裂けのレディのような状況でゴーストになったのなら悪意に満ちた危険なゴーストが生まれるのでは?」
「えっ!?じゃあ出くわしたら『死』ですか!?」
「出くわしたらそうだと思う……かな」
「ヴヴヴーッ!もうひとりで出歩けない……!」
「落ち着きなさい、取り乱し方が美しくないわ。あくまで出くわしたらの話よ」
「ヴィルの言う通りさ!実際に出くわすことはそうそうないから安心したまえ」
「……本当ですか?」
「本当だとも!いいかい?まず、生者に危害を加えることができるほどゴーストがはっきり実体化できる土地は限られる。ここはいいね?」
「はい」
「アンタは異世界から来たから知らないでしょうけど、そういう土地っていうのは普通一般には開放されていないのよ」
「え、そうなんですか」
「ほぼすべてが国の管理下にあるね。例外の場合も国際的な団体が管理している」
「僕もNRCに入るまでそういうところに行ったことなかったよ」
「ここ賢者の島のように学術や研究、あるいは魔法士育成の土地として利用されているか、貴重な魔法生物の生息する保護地区になっているかよ。嘆きの島なんかは世間から隠されていたけど、内実は大きな研究所があってスタッフが大勢いたわけでしょ」
「確かに……」
「そういった場所というのは例外なく結界が張られているものだし、警備員だって当然存在しているよ。我がNRCが襲撃を受けた以上絶対とは言えないが、野良の危険なゴーストとそう簡単に出くわすことはないと思っていい」
「確率はゼロじゃないけど限りなく低い、かな」
「でも自分、レア度高いらしいオーバーブロットに立て続けに出くわして普通知り合うはずのない王族とも複数人交流があるんですけど」
「ゼロではないからね」
「ヤーーーッ!!!」
「オーララ、泣かないでくれたまえトリックスター!オーバーブロットだっていつも一人で解決してきたわけではないだろう?」
「うぅ……それは……そうですね……」
「そんなゲロヤバ、んんっ、危ないゴーストが本当に出たなら動ける人みんなで対処すべきだと思うし」
「そうね、さっさと周りに知らせなさい」
「分かりました!でもひと目見て即死みたいな相手だったら……」
「それはもうゴーストだとか口が裂けてるとか関係ないわよ」
「きれいかどうかみたいな問答があるんだよね?だったら子連れのヒグマに出会うよりは即死じゃないと思う、かな」
「それもそうか。ヴィル先輩だったらそのくらいの相手なら勝てますか?」
「アタシがもしその女に出会ったら、まず顔を見せてもらってから彼女に合うメイクやファッションを考えるわ」
「あ、はい」
「口が裂けてるなんてなかなかない個性よ。隠すよりむしろそこをチャームポイントにしていくコーディネートをしたいわね」
「さすがヴィル!その美に関する姿勢、トレビアン!」
「あ、はい」
「大丈夫そう、だね」
「うん……なんか初手で逃げさえすればもう問題ない気がしてきたよ……」
紫の鏡「先輩そっち一人行きました!」
「おけ把握してる」
「兄さんも監督生さんも頑張れ~!」
監督生はその日、イグニハイドはイデアの部屋にゲームをしに来ていた。
ごく普通の高校生であるのでごく普通にゲームは好きだがこちらのゲーム機やソフトを買う余裕がない監督生は、いろいろな騒動ののち親しくなったイデアのところで遊ばせてもらうことが増えたのである。
今プレイしているのは4vs4の三人称視点シューティングで、ハートの国のトランプ兵を模したキャラクターたちがカラフルなペンキを塗り合うどこかで見たようなゲームである。
一本のソフトで二人まで同時プレイでき、イデアは当然のように複数モニターとコントローラーを所持しているため一緒に遊んでいるというわけである。
こういう繊細な照準合わせが必要なゲームはオルトでは正確すぎてチートと化すため彼は応援役に徹している。
「やったーまた勝利!先輩強いですね~」
「おめでとう!」
「ヒヒ、まあね。これで拙者ランクアップなんでいったんロビー戻りますわ」
「りょ!です」
地球の似たような海産物のゲームは設定が未来のためデザインも近未来的だが、このゲームはハートの女王の国をモチーフとした奇妙ながらクラシカルな雰囲気のゲームである。
ロビーのデザインもそれに準じていて、古城っぽい石壁の部屋が重圧なカーテンに彩られている。
その部屋の中にはテーブルが1つ、大きな扉と大きな鏡が2つずつ。
テーブルの上に置いてある小瓶の中身を飲むと体が縮むので壁際の異様に小さな扉から外に出ることができる……という設定で、テーブルを調べるとロビーから出ることができるようになっている。
扉と鏡はゲームステージに向かうためのゲートだ。
大きな扉はどこでもドアのような感じで扉だけデンと部屋に置いてあるし、鏡もふわふわ浮いている。
赤い扉がオーソドックスルールのステージ、白い扉がそのルールをフレンドと遊ぶ用。
緑の鏡が上級者向けルールのステージ行きで、紫の鏡が同じくフレンド用ゲートである。
「次こっち行きません?ペインティングナイフも試し撃ちしてみたくて」
「kk、あーなら拙者もちょっと試してみたい組み合わせあるんで……ちょい装備整えてから向かうでござる。先行っといてくだされ」
「はーい、じゃあ紫の鏡の前集合……で……」
「監督生さん、どうしたの?」
「む、む、紫の鏡……」
「なになに鏡がなに」
「うううっ、せっかく忘れてたのに……!」
「だからそれはなに」
「紫の鏡とか紫鏡っていう……シンプルな怖い話でぇ……でもこれ話すと二人にも影響が……忘れてくださいぃ……」
「いや無理。気になりすぎるが?」
「紫の鏡や紫鏡で検索してみたけど怖い話はヒットしなかったよ。僕も気になるなぁ」
「うう……もう名前言っちゃったなら同じか……」
そこで監督生はしぶしぶ二人に紫の鏡の話をした。
怪談としてはとてもシンプルで、紫の鏡という言葉を二十歳になるまで覚えていたら死んでしまう、というものだ。
地域や話し手によって違う言葉だったり、死ぬのではなく結婚できなくなるのだったり、あるいは打ち消す言葉がセットになっていたりする場合もあるが基本は同じ。
その性質上大人にはまったく効果はなく、子どもたちの間でのみ流布される噂である。
「兄さん、これって……」
「感染系の呪いだよね。伝播力が高いわりには強力すぎるけど……オルト、ちょっと監督生氏スキャンして」
「うん!監督生さんのスキャンを実行します……あれ」
「なんか呪いかかってた?」
「うん」
「は!?」
「でもこれ死ぬような呪いじゃないよ。かかっているのは『クローゼットの角に足の小指をぶつける呪い』だね」
「は?」
「うわ地味に嫌なやつ。解呪できる?」
「え、あの、待ってください。最近タンスの角に小指ぶつけた覚え特にないんですけど」
「だろうね。解呪はしなくていいと思うよ!無効化されてるから」
「は?」
「無効化って監督生氏そんな魔力ないんじゃなかった?」
「監督生さんの魂の周りが薄く魔力のカバーで覆われてる状態みたい。これが呪いを無効化してて、少しずつその力を抜いてるみたいなんだ。放っておいてもそのうち自動で解呪されるよ。もしかしたら今までにもこうして知らないうちに解呪された呪いがあるかもね」
「は?」
「ちなみにこの魔力、98.6%の精度でマレウス・ドラコニアさんの魔力と一致するよ!」
「は?」
「草。てかその様子だと監督生氏知らなかった?祝ハラじゃん」
「しゅくはら?」
「祝福ハラスメント」
「祝福ハラスメント???」
「妖精そういうとこあるよねー。呪いと祝福は本質的に同じものだし、良かれと思って不老不死とか与えてくることあるからちゃんと言っといた方がいいよ」
「……言っておきます」
「てかマレウス氏にしては控えめな祝福でござるな。フルオートで倍返しくらいつけられそうなもんだけど」
「あんまり強力な祝福をかけると魔法耐性のない監督生さんの方に悪影響が出ちゃうんじゃないかなあ」
「ありそう~」
「ええぇ……まじできつく言っときます。ツノ太郎……」
「マレウス氏にきつく言っとけるのはさすがっすわ。で、結局紫の鏡の呪いはかかってないと。監督生氏にかかってない以上さっき程度の話で新規発生して拙者らにかかることもないでしょ」
「うん。一応スキャンしてみたけど兄さんにも僕にも何もないよ」
「よかった……いえ、自分も本気で信じてたわけじゃないんです。自分の世界でも紫の鏡で死んだって人はいないし。ただ二十歳になるまで本当のところは分からない、もしかしたら、っていうのが怖いんですよね。瞬間風速は弱いんですけど今日みたいにふとした時に思い出してゾッとする持続時間の長い怪談というか……あの?」
監督生はイデアとオルトが戸惑った表情を浮かべているのに気づいて口を閉じた。
「何かおかしなこと言いました?」
「いや呪いは信じるとか信じないとかじゃなくない?」
「えっ」
「怪談って作り話だよね?確かに紫の鏡は感染の容易さに対して強力すぎるから創作の呪いの確率が高いけど……」
「えっ、あっ、あー……呪いが実在する世界だとそういう反応になるのか……」
「そもそも拙者の髪が呪いで燃えていることをお忘れで?」
「そっすね……」
呪いに対する態度が違いすぎるせいで紫の鏡の本質である『嘘だと思うけど聞いてしまって怖い』『嘘だと思うけどふと思い出して怖い』というところが完全に消えてしまっている。
というかいつの間にか紫の鏡のような呪いが本当に出回っていたらどう対処するかという技術的な話に移っている。
呪いにもワクチンあるんだ……へえ……感染症と似てますね……あ、体にかかるか魂にかかるかの違いなだけでほぼ同じなんだ……。
だったらもう怖がらなくてもいいな、と監督生は思った。
感染症が怖いのと同レベルにはまだ怖いが、それはホラー的な恐怖ではない。
なんか知らんけど自分にはオートガードもついてるみたいだし。
ていうか小指ぶつける呪い送ってきたのは誰だよ。
ホッとしたら改めてムカついてきたな。
なんとか犯人を炙り出して仕返ししてやろう、と監督生は予定を立てるのだった。
エピローグ「医学用の献体というものは故人及び遺族の同意に基づいて提供されるものだ。最大限の敬意を持って扱われるからアルバイトに死体を洗わせるなんてことは起こらないよ。そもそも一体一体個別に管理するから死体の浮かんだプールなんてものはない」
「首なしライダー?ああ、デュラハンね。ところで監督生氏はパンプキン・ホロウは履修済みで?」
「自分の生首でサッカー?オクタヴィネルの2年に死者の街出身者がいるけど、そいつがたまにやってるよ」
「ってことがあってね」
「ヒトの子はゴーストが恐ろしいのか?元廃墟で同居しているだろうに」
「……知らないゴーストが怖いんだよ、ツノ太郎。知り合ったゴーストや在り方がホラーじゃないものは怖くないよ。いやまあ危険なものはそれでも怖いけど、怖さの質が違うというか」
「よく分からない感情だ」
「ツノ太郎は強いから分からないかもしれないけど、そうじゃない民草は『知らない』『分からない』ものが『怖い』んだよ。たとえそれがゴーストじゃなくってもね」
「そういうものか?」
「そういうものだよ。妖精だってよく知らない人間のこと怖いだろうし、人間だってよく分からない妖精のこと怖いんだよ。だからお互いを知ることが大事なんだ」
「……なるほど」
「でも!知らない人は知ればいいけど!知らないおばけは正体を知って未知への恐怖がなくなっても普通に怖いです!自分は弱いので!野生動物が怖いのと同じ!」
「単純な身の危険の恐怖か。それなら僕にも分かるぞ」
「まじで言ってる?」
「リリアの……手料理から逃げられない状況は怖いからな……」
「ああー……」
「だがそれ以外ならゴーストだろうがモンスターだろうが相手になるものではない。僕を呼ぶといい、ヒトの子」
「ツノ太郎、理不尽系ならともかく戦闘能力があるだけ系なら完全に上位取れるもんね。頼りにしてる!」
「うむ、頼りにすると良い」
「ありがとう!あっでもさっきも言ったけど勝手に祝福つけるのは無しね」
「分かった」
「ヒィ……ヒィ……クルーウェルのやつ魔獣使いが荒いんだゾ……」
「やーっと帰ってきた!おかえりグリム。グリムが居眠りさえしなければ薬草整理の手伝いも発生しなかったんだよ」
「うう、分かってるんだゾ……待たせちまって悪かったな、ツノ太郎!」
「全くだ。この僕をパーティーに招待しておいて待たせるなどお前たちくらいのものだ」
「ごめんごめん、さあ二人とも!張り切ってタコ焼くよ~!」
ワンダーランドの怪談たちの命は短い。
おしまい