海神と迷子 番外編2※※ご注意※※
・キャラ崩壊(特に長兄様)
・オリジナル設定がスコールの如く
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「ポセイドン。お前さん、千栄理ちゃんにプレゼントとかあげとるんかのう?」
「なんだ突然」
ギリシャ神同士で来月の予算についてリモート会議をしている時だった。主神であるゼウス、ハデス、彼らの兄弟であるポセイドンで話し合う会議にて、話がまとまったところで突然、ゼウスが冒頭の台詞を言い出した。本神は「ちょっとした雑談じゃよ」と言っているが、表情からそちらが本題のようにしか見えない。意外にもこの話題にハデスも食いついてきた。
「なんだ、ポセイドン。いつも連れ歩いている割にはそんなこともしていないのか。必要なら、カタログを何百冊か……」
「要らぬ。またしても多過ぎるぞ、貴様」
「あの娘の好みが分からぬ故だな、許せ」
「……いきなりそんなことを言われても、何を送ればいいのか……」
「何じゃ、そんなことか。女の子へのプレゼントって言ったら、そりゃあもちろん……」
「服じゃろ」
「土地だろう」
「……どちらだ」
ゼウスとハデスの意見が全く異なることに、困惑を隠せないポセイドン。そんな彼を置いて二柱はそれぞれの意見を戦わせていた。
「お前さんはいちいち重いんじゃよ! ちょっとしたプレゼントなら、服の方が千栄理ちゃんだって嬉しいじゃろ!」
「ふっ……やはり、末弟だな。貴様は。服を贈る意味を考えたことはあるか? 下心が前面に出ている物など、あの娘は受け取りはしまい。ポセイドン。土地にしておけ。土地なら、資産になる。好きなように使えるだろう」
「多少の色気も必要じゃよ! そもそもお前さんらは潔癖過ぎるんじゃ!」
「お前が好色過ぎるからだろう」
「何じゃとー!?」
「全く……我が弟ながら、思慮が足りなくて困る」
火花を散らす二柱を置いて、ポセイドンは千栄理のことを考えていた。彼女が喜びそうな物。彼女は何でも贈ると、必ず遠慮をする。それは美徳ではあるが、自分からの贈り物でも、すんなり受け取ってくれるかは正直なところ、分からない。では、逆に断られると困る物にすれば、彼女は素直に受け取ってくれるのではないか。そこまで考えて、ポセイドンはあることを思い出した。神として自分が最初に授けるべきものをすっかり忘れていたのだ。これはいけない。
「これでは姉上達も苦労して当たり前というものだな。もう少し自制するということを知らんのか」
「うるさいわ! お前さんこそ、若い頃は全くモテなかった癖によう言いよるわい」
「おい、止めろ、貴様。言って良いことと悪いことの区別も付かんのか、大愚かめが」
決めた。そうとなれば、今すぐにでもヘパイストスに連絡をしようと、ポセイドンは未だに喧嘩をしている二柱に声を掛けること無く、通信を切った。彼はすぐにプロテウスを呼びつけ、ヘパイストスに電話を入れるように言った。
翌日、ヘパイストスから送られてきた物を確認し、ポセイドンは口元を緩める。彼の手には細長い水色の箱が握られており、その中には水晶のペンダントが入っていた。水晶の中には松の葉を入れてある。千栄理は何と言うだろうか。受け取ってくれるだろうか。神らしくもなく、そんなことを考えそうになったが、自分は神であると思い直し、ポセイドンは千栄理が帰って来るのを今か今かと待ち侘びていた。
後日、ゼウスの号令でまたリモート会議だと聞いたポセイドンは開始五分前に通信を繋いだ。しかし、画面にはずっと待っていたらしいゼウスとハデスが映り、そこで漸くこれは会議でも何でもない、雑談の場にまんまと呼ばれたのだと理解した。やられたと思うも、間髪入れず、ゼウスにプレゼントのことを訊かれる。
「で、ポセイドン。千栄理ちゃんには何あげたんじゃ?」
こいつら暇なのか? 表情でそう訴えてみるも、そんなことお構いなしだ。期待の眼差しを向けてくる二柱に、とうとうポセイドンは観念した。
「…………余の加護を込めたペンダントを贈った」
「………………おっも」
「それでこそ、我が弟だ」
「千栄理ちゃん、困ったじゃろうなぁ」とぼやくゼウスに、ポセイドンは「貴様が何か贈れと言ったんだろうが」と怒りを顕にするも、当の本神はどこ吹く風だ。そんな二柱の様子を黙って見ていたハデスは、ポセイドンにも守るべきものが増えたのだなと、どこか懐かしいような、嬉しいような、寂しいような複雑な思いを胸に秘めていた。