海神と迷子? 5※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル設定の満漢全席
・オリキャラが調子乗ってる
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は、次ページへどうぞ
「そういえば、ヘルメスさんは何か武器持って来たの?」
入り組んだ迷宮の中を走りながら、ロキが隣を走るヘルメスに素朴な疑問をぶつける。ヘルメスは「ああ、それなら」と内ポケットを探り、一本の万年筆を取り出して見せた。
「生憎と執務の途中だったものですから、こんな物しか無くて……」
「逆によくそれだけでここに来ようと思ったね」
「ふふ。お恥ずかしい限りです」
言葉とは裏腹に全く恥じ入る様子の無いヘルメスに、ロキは彼の真意が分からず、「へぇ〜」とだけ返事をしておいた。元々、あまり興味も無い。そうこうしているうちに、出し抜けに扉が現れ、ハデスの合図で一同は止まる。少し広い場所に出た三柱の前には、松明の灯りに照らされた二つの扉があった。二つ共同じような赤い扉で、装飾もノブも全く同じ物だ。いきなり現れた選択肢に、一同は少し考える。
「ふむ……さて、どちらを行くか」
「こういうのって案外どっちも一緒だったりするんだよね」
「そうですねぇ。わざわざ全く同じ扉を設定するとは、お相手の方は随分と意地悪な方のようです。扉からは判断材料が拾えませんし」
「どうする? どっちもぶっ壊そっか?」
「待て。相手は悪魔だ。余が彼奴らなら、こうする」
そう言うと、ハデスは槍を持っている腕に力を込め、扉に向かって真っ直ぐ投げつける。神速の槍は扉と扉の間に突き刺さり、壁を崩す。しかし、ハデスの槍でも破壊できたのは扉の間の壁のみで、その真っ暗な空間からにゅう、と大きな手が伸び、壁を割り開いた。中から出てきたのは、牛頭人身の背に翼を生やした悪魔だった。その姿に閃いた様子のロキは溜息混じりにはっきり言う。
「なんだ、雑魚じゃん」
「貴様ら、我が用意した選択肢を無視するとは……。やはり、神は傲慢なものよ。通りたくば、我が問いに……」
牛頭人身の悪魔ハーゲンティの顔の真横を何か細長い物が掠って行く。
「あ……」
見ると、ヘルメスが何か投げたような格好になっていた。ハーゲンティが振り返ると、穴の向こうに続く通路の壁には、キャップの外された万年筆が深々と突き刺さっていた。人の話も禄に聞かず、迷い無く殺そうとしてくる神に、割と温厚な性格のハーゲンティは震えた。
「すみません。次はちゃんと当てますね」
「ちょっと〜。何してんのぉ、ヘルメスさ〜ん。今の外すとか、わざとでしょ〜?」
「全く、血気盛んで困ったものだ。それで、何だったか。そこの畜生よ。生憎と聞いていなかった。もう一度、申せるものなら、申してみよ。わたし達は急いでいる」
「やだ……何この人達怖い」
惜しみなく殺気を放ち、武器を構えて威圧してくる三柱に、思わずオネエさんのような口調になってしまうハーゲンティ。本来なら、ここで謎かけの一つでも仕掛けて足止めをと考えていた彼だったが、三柱の欠片すら残すことを許されぬ程の威圧感に早くも心が折れそうになるが、悪魔の矜恃を保つ為、何とか持ち直し、謎かけをしようとした。しかし、間髪入れず飛んで来た槍に、彼の心は一瞬で折れた。
「ひぃいいっ……! お、お許しをぉおお……!」
身を縮こまらせたかと思うと、ハーゲンティは一瞬で姿を変え、一枚の紙になった。すかさずロキが拾ってまじまじと見る。それはゴエティアのページをコピーした書類だった。ハーゲンティのページのようで、彼について召喚方法からシジルまで事細かに記してあった。
「やっぱりね。何かあるとは思ってたけど、ベルゼブブのやつ、悪魔のコピー体なんて入れてたよ。ソロモン王のやつ」
ロキの背後から彼の手元を覗き込み、「やはりな」とハデスは呟く。そこでヘルメスは不思議そうに小首を傾げた。
「ハーゲンティがいたということは、あまり守りに重点を置いていないのでは?」
「だって、これあの子に掛けた呪いでしょ? たかが人間に掛けるやつにしては手が込んでるけど、所詮、遊びの域だよ。あいつにとってはね。いつもの事だけど」
「そのくだらぬ遊びに余も付き合わされているということだ。不快以外の何物でもない。よりによって千栄理に……許せぬ」
普段の態度から、ハデスがそんなに彼女に興味があるようには見えなかった。だから、彼の口からそんな言葉が出てくることが意外だったロキとヘルメスは、同時に虚をつかれた顔をする。
「え。ハデスさん、千栄理に興味あったの?」
「当たり前だ。……あの娘は我が弟が選んだ人間だぞ。少なくとも、他の有象無象とは違う。我らの血族に迎え入れるなら、尚更だ。守ってやらねばならぬ」
「血族……ねぇ」
何事か考えていたロキだったが、すぐに振り払い、手に入れた書類を折ってポケットに入れる。
「取っておくんですか?」
「まぁ、何かに使えるかもしれないし」
「行くぞ。全く……時間を食った」
槍を回収する為、ハデスは穴の向こうへ姿を消す。ヘルメスも後に続き、神妙な顔をしているロキも付いて行った。
「あーあ、やっぱり心弱いね。彼」
モニターを見つめながらポップコーンを口に含み、カフェラテを飲むベルゼブブとハーゲンティの無様な様子に、くつくつと嗤う救破。いくらか機嫌が良さそうに翼を動かし、心地良い振動をベルゼブブに伝えている。
「ま、しょうがないんじゃね? 元々金属を金に変えるとか、水をワインに変えるとかいうショボイ能力しかねぇやつだし」
言いながら、救破は壁に貼られた幾つもの女性の顔写真に、ダーツのようにフォークを投げつける。真っ直ぐ飛んだフォークは、一人の女性の顔に強く突き立てられた。刺さった写真を見て、彼は「マジか〜!」と至極楽しそうに笑った。
「でも、フォークは絶対だからなぁ。もうちっと寝かせたかったけど、仕方ない。次下界行った時はあの子食〜べよ」
「ふふ。その子、君のお気に入りじゃないか。遂に彼女の運命も尽きたようだね。……僕は結構好きなんだけどね。そういうの。だって、可哀想でしょ? 使い道が無くて」
「ははは。言ってやるなよ、ベル。……うん。まぁまぁ面白ぇから、これ観てから仕事行くわ」
「そう言われると今すぐに行って欲しいって思うなぁ」
「おお? なんだ、バアル・ゼブルちゃん。ヤキモチってやつ? オレが居なくなったら、寂しかったりして〜? ま、オレを待ってる女の子はいっぱいいるけど、大丈夫だって……」
「ねぇ、救破。焼き鳥って料理知ってる?」
「すぐ殺そうとする癖治せよ」
「殺したってすぐ治るじゃないか、君」
「治るけど、痛ぇからやだ」
救破の不愉快極まりない冗談に、ベルゼブブは思わず、どこからか取り出した巨大な鉄串を構える。そんな物騒なやり取りも、この二人にとっては日常茶飯事のようで、救破に言われたベルゼブブはすぐに鉄串を仕舞った。
「君が反吐が出るような冗談言うからだろ。それに今の僕はベルゼブブだ」
「はいはい。にしても、何か順調じゃね? このまま呪い解かれちまうかもな」
救破の言う通り、画面の向こうのハデス達は次々と現れた悪魔達をページに変えていた。温厚な悪魔だろうが、何だろうが、容赦なく無力化している。その様を見ながら、ベルゼブブは人差し指でポップコーンを口内に押し込み、咀嚼しながら笑みを浮かべる。
「そうだと良いね」
ハデス達が呪いの防壁を攻略している間、本体は着実に根を広げ、千栄理の首から下全てを覆う蔓の締め付けは強くなるばかりだ。ギチギチと嫌な音をさせる千栄理の体を、ポセイドンは両腕に抱き、少しでも彼女の苦痛が和らぐようにと、自分の腕に蔓を巻き付け、移そうとしていた。しかし、あまり褒められたことではないようで、「手を出すな」とゼウスに窘められる。
「千栄理……死ぬな」
「ポセイドン、あまり千栄理ちゃんとくっついとると、お前さんもただでは済まんかもしれん」
「構わぬ。……できるなら、余が代わってやりたい」
苦しそうな呼吸の千栄理を抱いたまま、ポセイドンは蔓を引き抜こうとしたが、少し抜くと、後から後から生えてくる。抜く前より多くなってしまう現象に、ポセイドンは歯噛みし、兄に祈るしかできなかった。