海神と迷子? 7※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル設定が隕石群
・オリキャラはちょこっとだけ
以上を踏まえて、それでも大丈夫という方は、次のページへどうぞ
窮地かと思われたハデス達だったが、ロキの短剣があったお陰で辺り一面を焼き尽くすことにより、夢幻の世界から戻って来ることができた。意識が現実に戻ると、起き上がって千栄理の様子を見る。千栄理の体を覆っていた蔓は殆どが萎れて剥がれかかっている。彼女の胸の上にある花ももうじき枯れるだろう。後は千栄理の体から根を抜き取れば、解呪は終わる。千栄理自身は痛みと苦しみに耐えかね、ポセイドンの腕の中で気絶しているようだ。息はある。ほっと一同が安堵の溜息を零した時、不意に花が頭を擡げた。
その花の中心には深い闇があり、闇の中から二つの黄色い光を帯びた目玉が覗く。迷宮の最深部にあったものと同じだ。じっとこちらを見ていたかと思うと、しわがれた声ではっきりとそれは呟いた。
「コノ娘ハ悪魔ノ手二カカリ、死ヌ」
それだけを言い残すと花はみるみる萎れ、やがて枯れた。何とも後味の悪い最後だ。ポセイドンは僅かに怒りを顕にして花を根元からぶちぶちと引きちぎり、床に投げ捨てる。
「今の何?」
「……予言のつもりか。悪趣味なことを」
花が引き抜かれると、千栄理の顔色もいくらかましになった。それでも万が一を考えてアスクレピオスに診てもらう。その間にハデス達はそれぞれ座れる場所に座り、休憩していた。
「何はともあれ、これで一安心というところですかね」
「流石にちょっと疲れたぁ〜」
「これに懲りたら、二度と千栄理とベルゼブブを会わせるな、ロキ」
「……そーする」
少しして、アスクレピオスの診察で問題なしと分かり、今度こそ神々は安堵した。大丈夫だと分かると、ハデスは「仕事に戻る」と言い、ポセイドンにも言うが、言われた本人は返事をしない。
「ポセイドン」
「……」
「聞こえているだろう。仕事に戻れ」
「…………知らぬ」
「知らぬではない。よもやずっとここにいる気か?」
返事の代わりに眠っている千栄理を少し強く抱き締めるポセイドンに、ハデスは溜息を吐いた。
「千栄理の呪いは解けた。もう心配は要らぬ。何が不服だ?」
「……此奴の返事を聞いていない」
『返事』という単語に疑問符を皆浮かべる。誰も心当たりが無いので、ポセイドンに直接訊くしかなかった。代表としてハデスが訊くと、彼から返ってきたのは
「……千栄理に、好いていると……言った」
ポセイドンの答えをそれぞれが理解した頃には、病室は祭りのような騒ぎになった。ゼウスはその場で小躍りし、ハデスは満足げに頷きながら、「式の日取りはいつだ?」と言い、ヘルメスは手帳を取り出してハデスと打ち合わせを始めようとし、ロキは何やらスマホを弄り、アスクレピオスは気疲れで騒ぐ神々を注意する気も起きないようだった。そんな中、唯一騒ぎから取り残されたポセイドンは、ハデスとヘルメスを止めにかかる。神々が騒いでいるというのに、千栄理は余程疲れているのか、目を覚ます気配は無かった。
「喧しいぞ、貴様ら」
「ポセイドン、お前さん……! やったのぉ!」
ゼウスがばしばしとポセイドンの背中を叩く。結構強く叩かれたので、ポセイドンは一瞬、息が詰まった。と、ロキのスマホが連続して通知音が鳴りまくる。「え、ヤバ。通知止まんない」と慌て出すロキにヘルメスがどうしたのかと訊くと、ポセイドンのことをSNSに投稿した途端、あっという間に拡散されていったようだ。
「何をしている」
「ごめんって! 良いじゃん、この機会に知らしめとけば。そっちの方がポセイドンさんとしても良いんじゃない? 千栄理は自分のだって他の奴らに知らせとけば、今回みたいなこともそうそう起こらないって!」
怒りの表情でロキに迫るポセイドンだが、そう返されて少し納得しかけたが、それでも勝手に投稿される筋合いは無いと、槍を持ち出す。誤魔化されないと分かった途端にロキは「じゃあ、ボク帰るねっ!」と言い残し、あっという間に病室を出て行った。
「待て」
風より速く去って行くロキの背中を追いかけるポセイドン。もうこのまま仕事に戻ってもらおうと後でロキに上手く言っておくよう決めて、「では、後は頼んだぞ。アスクレピオス」と言い、ハデスは悠々と出て行った。
「さて、ワシらも戻ろうかのう。アスクレピオス、千栄理ちゃんを頼んだぞ」
「はーい。爺様もお疲れッス」
ゼウスとヘルメスも去り、静かになった病室に千栄理と二人きりで残されたアスクレピオスは、疲れた溜息を一つ吐き、千栄理が眠っているベッドに近付く。少し乱れた布団を整えてやり、顔色を見る。顔色はまだ少し優れないが、もうだいぶ落ち着いている呼吸に彼も安心してチェストに飴を一つころんと置いた。
「頑張ったね、千栄理ちゃん」
そっとカーテンを閉めて、アスクレピオスは仕事に戻って行った。
千栄理のベッドカーテンが閉め切られると、それまで記録をしていた蠅もどこかへと飛び去って行った。
「この回路とエネルギーを生物学にも応用できたら、もっと耐久性のある個体もできると思うんだけど、それには人間より頑丈な素材も必要だな……。救破、今日は予定変更してゴーレムの捕獲に当たって」
映像記録と同時進行で行い、収集していた呪いのデータを整理しながら、ベルゼブブは試作品に必要なものを救破に頼む。しかし、さっきまでだらけて映像を見ていた救破からは全くやる気が感じられない。
「えぇ~? やだ。ダーリン達に会いたいぃ~」
その言い草にやれやれと溜め息を吐き、ベルゼブブはぽつりと呟いた。
「……そう。これが完成すれば、もっと美味しいご飯を食べさせてあげるんだけど」
「…………ゴーレムだっけ? あれ運ぶのすっげぇ苦労すんだからなっ! ちっ、待ってろよ」
「はいはい。行ってらっしゃい」
ばさばさと部屋を出て行く救破を背中で見送り、ベルゼブブは引き続き、無表情でキーボードを叩いていた。
二時間程だろうか、ふと顔を上げて時刻を確認したベルゼブブは「あ」と独り言を零し、急いで軽くテーブルの上を片付ける。最後に何かコードを入力してモニターの電源を落とすと、携帯型のキーボードを持って部屋を出た。真っ直ぐ伸びる通路の先にはアダマンタイトで作られた門、地獄の門がひっそりとある。一見搬入用の通用口にも見える門の前にベルゼブブが立ち、いくつかの認証をクリアすると、重苦しい音を立てて門が上下に開く。足を踏み入れる直前、救破に連絡をしそびれたことに気付いたベルゼブブだったが、少し考えた後、「まぁ、いっか」と自己完結し、門の中へ歩みを進める。内側から門を閉めて目の前にある螺旋階段を下っていく。その階段はどこまでも下へ続いているように見え、赤い光で包まれている。ベルゼブブは階段の降り口に設置してある昇降機のような物に乗り、持って来たキーボードを開き、昇降機にアクセスする。操作パネルにキーボードを認証させて下へのボタンに触れると、殆ど振動や音を感じることなく、昇降機が下り始めた。
一番下まで着くと、パネルとの同期を切断し、昇降機から降りて目の前の扉を開ける。彼はいつもこの扉が重くて嫌だなと思っているが、軽量化しようとすると怒られるので、仕方なくこのままにしている。扉の先には真っ黒な糸杉の森が広がり、森を抜けると彼岸花の花畑が広がっている。その中に敷かれた真っ白い石畳の道をベルゼブブは無表情で進んで行く。相も変わらず飾り気の全く無い景色に特に何を思うでもなく、ベルゼブブは道の先にある真っ白な城の中へ入って行った。
銀の仮面を付けた召使いに案内され、ベルゼブブが通された先には一柱の神が待っていた。
「来たか、ベルゼブブ。今回は少しやり過ぎだったのではないか?」
眉根を寄せるその神に、ベルゼブブは微かに口端に笑みを乗せて言った。
「あなたが試練を与えよって言ったんじゃないですか、ハデスさん」