海神と迷子? 8※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル設定盛り放題サービス
・オリジナル扱いの悪魔と神様
・オリキャラが調子に乗っている
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は次ページへどうぞ
用意された椅子に座り、ベルゼブブは今回の成果について報告する。呪いは正常に作動し、千栄理とポセイドンの障害として機能したと。それを聞くとハデスは少々表情を険しくし、「やり過ぎだ」と零す。
「いや、遊びが過ぎる。余が出向かなければ、千栄理はとうに死んでいたぞ」
「責任を取ると言ったのもキミだよ。やりたいようにやって良いって言ったから、僕はその通りにしただけ」
「…………確かにそうだな。どちらにせよ、貴様が直接手を出すことは無くなった。次の手だが……」
「おやおやぁ〜? お二人共、ぼくを仲間外れにするなんて、酷いじゃないですか」
唐突にハデスとベルゼブブの間の空間が歪み、小さく裂ける。その中から這うようにしてずるりと現れたのは、いつか見た真っ白な天使のような悪魔ベリアルだった。コピーと全く同じ姿形でくるりと一回転して降り立つと、ハデスとベルゼブブに向かって芝居がかった礼をする。
「皆大好きデビルアイドル、ベリアルくんが力を貸してあげましょうか? ハデス様」
「……どこから聞いていた」
呆れるハデスに、ベリアルは馴れ馴れしくデスク越しに近付いてにっこりと天使の笑顔を浮かべる。
「やだな〜。それはハデス様が一番分かってるでしょ? それよか、ブブく〜ん。ぼくの許可無く、ぼくのコピーを作ったってほんとですか〜?」
「ああ、キミのコピーね。試作品の呪いに使ったから、劣化コピーだけど」
その瞬間、ベリアルの纏う空気ががらりと変わる。全身から滲み出る純粋な怒りにベルゼブブは眉一つ動かさない。まるで興味が無さそうに目線すら上げていない。そんな彼に構わず、ベリアルはベルゼブブの顔を覗き込む。その目には光など一切無く、代わりに怒りの炎が灯っていた。
「イケない悪魔ですね。よりによってぼくの劣化コピーなんざ、作って顎で使おうなんて。しかも、なんです。あの粗末な出来は。お前、殺されたいんです?」
それまでじっと画面を見ていたベルゼブブは不意に目線を上げると、不気味な笑みを浮かべた。
「…………やってみる?」
彼にしては珍しく分かりやすい挑発に、ベリアルも同じように笑みを返した時、ハデスが止めに入る。
「無駄な戦闘をするな。やるならば、外でやれ」
追い出されるかもしれないと分かった途端に、ベリアルは殺気を消し、ベルゼブブに抱きつく。
「やだな、ハデス様ってば。ぼくら、こんなに仲良しなのに〜! ね? ブブくん」
「気持ち悪いから離れて」
「わーい! 死んでくださ〜い!」
「はぁ……。ベリアル、貴様が考えているようなことは無い。この計画は対象を殺すことではないからだ」
ベルゼブブから離れて自分のデスクに頬杖をつくベリアルに、ハデスは簡潔に結論から入る。
「アムピトリテを復活させることが目的だ」
「……アムピトリテって、ポセイドン様の技のです?」
「その名もあるが、わたしが言っているのは、女神の方だ」
女神を復活させる。この一文だけでは最終目標は分かるが、具体的なことが何も分からないベリアルはどういうことかと先を促す。アムピトリテとは、かつて実在していた女神のことだ。元々は下界に伝わる神話通りにポセイドンの妻として迎えられた女神だったらしい。らしいというのは、ベリアルの記憶にあまり印象に無い女神だったというのもある。どうして彼女の席が空いたのかは知らない。
「そもそもぼく、なんでアムピトリテ様が居なくなったのか全然知らないです」
「そこからか。良かろう。そもそもアムピトリテはポセイドンと違い、温和な性格の神だった。我が愛弟は腕は立つが、王たる故にか、ああいう性格だろう。アムピトリテが結婚を拒んだ。元々、ポセイドンもあまり乗り気でない婚姻だったせいで、結婚してからも二柱の仲は変わらず……。ある時、ポセイドンが帰るとアムピトリテが毒を飲んで死んでいた」
そこまで聞いて、ベリアルは隠し切れない笑みを零す。大抵の悪魔は人や神が死ぬ話を笑うものだ。彼も例に漏れず、にやりと笑って「それで? それで?」と先を促す。悪魔と話すことに慣れ切っているハデスは、ベリアルの笑みに特に何を思うこと無く、続ける。
「神が自らの命を断つというのは相当のことだ。同時に、ポセイドンは顔に泥を塗られたと怒り狂い、それを抑えるのにも苦労した。それが原因かは分からぬが、ポセイドンは今まで妻を迎えること無く、アムピトリテの席は空いたまま今日に至る。……彼奴がこの話に一切触れようとしないせいか、末弟もアムピトリテの名を口にしない」
「はあはあ」
「だが、千栄理が現れたことでポセイドンは変わろうとしている。今回のことで予感が確信に変わった。余は千栄理をアムピトリテとして迎え入れ、我が愛弟の妻とするつもりだ。あの娘の魂の純度は非常に高く、女神に相応しいそうだな。それがどこまで通ずるか、真に神に相応しいのか。余は試練を与えている」
話は終わったらしいハデスはベリアルを見つめる。視線を受け取ったベリアルは興味があるのか無いのか、よく分からない「へぇ〜」という声を発していたかと思うと、ひょいと顔を上げて笑みを深くする。
「弟の為なら人間だろうが、悪魔だろうが、何でも利用しちゃうんですね? うふふ、恐ろしい兄上様。正に勝つ為なら何でも使う御方で、ぼくは非常に好感が持てますよ。なかなか面白そうです。その話、ぼくも一枚噛みたいです。自分の手で神を生み出すなんて、わくわくしますし」
「ならば、くれぐれもポセイドンと千栄理には気取られぬようにせよ。千栄理を殺すことは禁ずる」
「分かってますよぅ。さ〜て、どうしよっかな〜?」
「ベルゼブブ。引き続き、監視をしておけ。此奴がしくじった時は好きにして良い」
「分かったよ」
「ブブくんの前でしくじる訳無いですし、監視なんていりませんよぉ」
「ならぬ。貴様らは少しでも目を離すと、余計なことをしでかすからな」
「ちぇ〜……」
不満げに唇を尖らせるベリアルに、ベルゼブブが少々勝ち誇った笑みを返すと、彼は仕返しとでも言うように舌を出してみせた。
翌日の朝九時。いつもより遅い時間に千栄理は目覚めた。限界まで体力を消耗したせいか、まだ本調子ではない為、怠さと目眩が抜け切らないが、起き上がるくらいはできる。昼近くなり、様子を見に来たアスクレピオスには少々驚かれたが、彼を通じてポセイドンに連絡がついた。
報せを受けたポセイドンは直ぐに駆けつけてくれた。仕事はどうしたのかと千栄理が問うたが、彼はその問いを無視し、真っ先に千栄理を抱き締める。それからは言葉を発すること無く、ただ無言で抱き締められたまま、千栄理はどうしたらいいのか分からず、困惑していた。
「ぽ、ポセイドンさん。あの……」
「……変わりないか?」
「あ、はい。ちょっとだけ体が怠くて目眩がしますけど、それ以外は大丈夫です」
「そうか」
それきりまた無言の時間が続く。千栄理にとってポセイドンとのこうした時間は珍しくも苦でもないが、いつまでも密着した状態というのは、慣れない。
「ポセイドンさん……あの、もう大丈夫ですから……」
「そうか」
「あの、腕を……」
「…………」
そろそろ放してもらおうと腕でポセイドンの胸板を軽く押してみた千栄理だが、案の定びくともしない。それどころか、千栄理の額に頬を寄せて更に密着するポセイドンに、千栄理はいよいよ抗議の声を上げた。
「ポセイドンさん。私はもう大丈夫ですからっ」
「む……。もう少し、このままでいろ」
彼の腕の中で抵抗を試みるも、あっさり完封され、千栄理は観念するしかなかった。
「もうすぐ先生が来るので、それまでですよ」
「分かっている」
以前の彼はこんなに甘えん坊だったろうかと苦笑しつつ、千栄理もポセイドンの厚い胸板に頬を寄せるのだった。