海神と恋人 2※※ご注意※※
・キャラ崩壊
・オリジナル扱いの悪魔と妖精さんがいる
以上のことを踏まえて、それでも大丈夫という方は次ページへどうぞ
何度も逃げ回る妖精達を一匹でも捕まえようとする千栄理の姿に、ベリアルは必死に笑いを押し殺していた。
「こらっ、待ちなさい! 麺棒はそうやって使う物じゃないの! きゃあ!!? ガラス瓶を落とさないで! 危ないでしょ!」
「あ……あんなんで……くっくっく…………捕まえられる訳無いじゃないですか……!」
ベリアルが窓辺に頭を預けて笑い転げる寸前の状態になっても、そんなことは一切知らない千栄理は相も変わらず、妖精達に振り回されている。一匹を捕まえようと構っていると、その隙に別の一匹が何かやらかす。一人の千栄理に対して妖精は五匹。一つ一つの悪戯は大したことではないが、段々千栄理の手には負えなくなってきた。ふと、気が付くと厨房の惨状に頭にきた千栄理は絶対に捕まえてやると、辺りを見回す。何か罠を仕掛けて捕まえるしかない。その一心で使えそうな物を探していると、そういえばと閃いた。
小麦粉の入った箱を床に落とし、粉が広がる様を見て喜んでいる妖精達を放っておいて、千栄理は罠を作るべく道具を集める。大きなボウルに箸、ナイロンの紐を手に取った千栄理はごく簡単な即席罠を作った。彼女の予想が当たっていれば、彼らは砂糖が大好きで必ず飛びついて来る筈だ。妖精の知能がどれ程のものか分からないが、思いつくことは片っ端からやってみようと床に紐を付けた箸を立てかけ、その上にボウルを乗せて中に砂糖の入った小皿を設置した。
急いで妖精達から見えない位置に隠れると、千栄理は手拭き用のタオルを手にする。すぐに砂糖の甘い香りに誘われて罠に寄って来た妖精達は砂糖が入った皿しか目に入っていないらしく、殆ど無警戒にボウルの下へ入って行く。五匹全員入ったと見るや、千栄理は紐を引いて箸を倒し、ボウルの上にタオルを敷いて押さえ付けた。漸く罠に気付いた妖精達は途端に暴れ出し、奇声を上げてボウルを押し上げようとする。しかし、千栄理も全体重をかけて押さえたまま、床に蹲るようにしてボウルを抱え込んだ。
しばらくそうして暴れていた妖精達は段々疲れてきたようで、ボウルを押し上げようとする力も弱まってきた。少し心配になった千栄理は、そっとタオルを退けてボウルを上げてみる。妖精達は彼女の顔を見ると身構え、一斉に飛びかかって来た。
「わっ、わっ……! ちょっと! 待って!」
咄嗟に手に当たった物を盾にしようと、彼女は手元を碌に見ずに差し出した。それを見て、妖精達は今度こそ動きを止める。襲って来る気配が無いと分かると、千栄理は閉じていた目を開けた。彼女が持っていたのは砂糖入れだった。妖精達は砂糖入れの口を開けて中に入り、大人しく砂糖を手で掬っては舐めていた。このまま蓋を押さえてしまえば、今度こそ捕まえられる。一瞬、そう思った彼女だが、それは少し可哀想だと思い、話しかけてみようとそのまま顔の位置まで持ち上げる。
「お砂糖、美味しい?」
「ぎゃう」と一匹が答える。機嫌の良さそうな態度に、案外話せば分かってくれるのかもしれないと思った千栄理は、そのまま続ける。
「じゃあ、そのお砂糖あげるから、片付けを手伝ってくれない?」
彼女の提案に妖精達は互いに顔を見合わせ、少し迷っていたようだが、やがて全員が了承するように頷いた。
「本当? ありがとう。閉じ込めちゃってごめんね」
まだ綺麗な調理台に砂糖入れを置いて蓋を開ける。砂糖と別れを惜しむようにして出てきた妖精達は、全身にべたべたと砂糖を塗されており、千栄理は可笑しそうに笑いつつも、タオルを濡らして一匹ずつ優しく丁寧に拭いてやった。
「私が掃除するから、あなた達は悪戯したところを直して欲しいなぁ」
千栄理の言うことを理解したらしい妖精達はまず電子レンジの裏へ回る。ひょっと覗き込むと、妖精達は自分達が齧ったところをどうやって直そうかお互いに相談しているようだった。齧られた時にコンセントからは抜いておいたので、感電する心配は無い。中の銅線は完全に切れている訳ではなく、妖精達の小さな手で繋げて貰えれば、何とか使えそうだ。
「あ〜あ、折角面白かったのに、割とあっさりクリアですか。つまんないの」
千栄理と妖精達が仲睦まじく片付けをしている光景を見ていたベリアルは、退屈そうに溜息を一つ零す。
「いいですよ。今回は挨拶ですし、そいつらはくれてやります。都合の良い手足が増えたことに関しては、ぼくに感謝して欲しいくらいですね。でも、次からはも〜っと難しくしてやりますよぉ」
窓越しにそう独り言を残し、不気味な笑みを浮かべるベリアルは一人亜空間へ消えた。
後片付けが終わり、妖精達にお礼として大きめの皿に砂糖を山盛りによそってやると、妖精達は大歓喜して砂糖山へ頭を突っ込ませたり、登頂したりする。残った砂糖を砂糖壺に入れ替え、千栄理は今度こそお茶の用意をする。お湯を沸かすところからやり直していると、興味があるのか、妖精達はじっと彼女の動きを観察しているようだ。それに気が付いた千栄理は、彼らが見やすい調理台の上にティーポットやカップを並べてやる。
「これはね、紅茶っていう飲み物を作って飲む為の道具だよ」
これは茶葉を入れる物、こっちはできた紅茶を入れて飲む物と一つ一つ丁寧に教えてやると、妖精達は興味津々に千栄理の説明に聞き入っていた。どうやら、彼らは千栄理というよりは人間のすることに非常に興味があるようだ。所構わず悪戯をされるよりは、こうして大人しくしていてくれた方が助かると、お湯が沸くまでの間に彼女は身の回りの物の名前や使い方などを妖精達に教えていった。
お茶が入る頃には妖精達は千栄理に懐いたようで、彼女の持っている盆や彼女の腕、肩や頭の上などそれぞれ居心地の良い場所に座って大人しくしていた。この子達には普通の砂糖より角砂糖の方が良いかもしれないと考えつつ、千栄理はポセイドンの部屋へ戻った。
「すみません。遅くなってしまいました」
「遅かったな、千栄理。一体何を……」
入って来た千栄理の姿にポセイドンは暫し静止した。それはそうだろう。ついさっき身一つで厨房へ行った筈の恋人がお茶を淹れるのに十数分掛かった上、腕やら肩やらに妖精を乗せて帰って来るとは思わなかったからだ。妖精達はすぐそこにいるのがポセイドンだと分かると、途端に千栄理の背中に集まってしがみつき、がたがた震え出す。その様子に安心させようと、千栄理は声をかけた。
「大丈夫だよ、みんな。ポセイドンさんは優しい神様だよ」
「グレムリンなぞ、どこで拾ってきた?」
ポセイドンの疑問にお茶を渡し、ソファに腰掛けた千栄理はありのままを説明した。いつの間にかグレムリン達が入って来たこと、悪戯をしたこと、後片付けはきちんとしてきたことを言うと、ポセイドンはプロテウスとちら、とアイコンタクトを交わし、出された紅茶を飲む。
「あの、この子達、ここに置いては駄目ですか?」
「……何故だ」
「追い出すのは可哀想ですし、それに人間の生活に興味がある子達なので、他所に行って悪戯をしたり、虐められたりするよりはここでお手伝いをして貰えれば良いと思うんです。私が面倒を見ますから、どうかここに居させてあげて下さい」
頭を下げる千栄理にポセイドンは少し考え、グレムリン達に視線を投げる。見つめられたグレムリン達は砂糖山を食べる手をびくりと止め、一様にこくこくと頷いた。教養も何も感じない醜い妖精に、一瞬嫌悪の感情が湧き上がったポセイドンだったが、彼らが電気系統に明るいことも思い出した。きちんとした教育を施せば、いくらかは役に立つかもしれない。そんな考えから、彼は許可を出すことにした。何より愛しい恋人の頼みだ。
「本当ですか!? ありがとうございます! 良かったねぇ、みんな。これから沢山のこと、教えてあげるね」
無邪気に喜ぶ千栄理とグレムリン達に静かに近付いたプロテウスは、千栄理にも相応の教育と指導が必要だと伝えると、彼女は「え゛っ!?」と素っ頓狂な声を上げた。