海神と恋人 3※※ご注意※※
・キャラ崩壊甚だしさ史上最高
・オリジナルの妖精さんがいる
以上を踏まえて、それでも大丈夫という方は、次のページへどうぞ
それからの時間、プロテウスの指導の下、千栄理は美しく歩く練習や他の神々の顔と名前や神格を覚え、ギリシャ語とラテン語の勉強をして流石に疲れてしまったようだった。プロテウスの指導はきっちりとしており、千栄理の様子を見て適度に休憩を挟んでくれるものの、如何せん覚えることが多過ぎる。
疲れてソファに凭れる千栄理をポセイドンは隣に座って抱き締め、頭を撫でて労ってくれた。
「疲れたか」
「ちょっとだけです。ポセイドンさん、私の勉強ってポセイドンさんに相応しい人になる為にってプロテウスさんに聞きました」
「……嫌か?」
「いいえ。そう思ったら、頑張らないと! って思うんです。けど……今日は疲れちゃいました」
疲れを多少誤魔化すように笑う千栄理の額に「初日にしてはよくやった」とポセイドンは褒美だとでも言うように触れるだけのキスを送る。千栄理も返そうと立ち上がりかけたところで、不思議そうに小首を傾げ、こちらを見ているグレムリン達の視線を感じ、さっと何事も無かったかのように少し離れてふいと顔を反対方向に背けた。見られていたことに対する羞恥心で顔を赤らめる千栄理とそんな彼女を寂しげに見つめるポセイドン。もう一度千栄理を抱き寄せたポセイドンは、尚もじっと見つめ続ける。その意図を汲んだ千栄理はふるふると首を横に振った。
「だめですよ、グレちゃん達が見てます」
「朝はプロテウスがいようとしてきただろう」
「それは……プロテウスさんは大人なので」
「彼奴らも子供ではないが?」
「そ、そう、かもしれませんけど……でも、だめです。恥ずかしいですし、グレちゃん達の教育に悪いので……」
「ほう。口付けのみならず、お前は余と教育に悪いことをするつもりだったのか?」
「そ、そういう意味で言ったんじゃありません! ……もうっ! ポセイドンさんのエッチ!」
今まで言われたことの無い衝撃の一言に、それまで余裕の笑みを浮かべていたポセイドンは、ぴたりと静止した。その隙に立ち上がった千栄理は「プロテウスさんのお手伝いしてきます!」と厭に声を張って退室してしまった。後に残されたポセイドンは先程の千栄理の一言に至極真剣な面持ちで考え始めた。
「…………余が、えっち……?」
慣れない単語に思わず平仮名発音になってしまう。今までの自分のイメージとかけ離れた言葉に、ポセイドンは自分にはそういう一面があったのかと疑問に思うも、未だ確信が持てないので、後でプロテウスに訊こうと決めた。同時にプロテウスは妙な悪寒を感じたという。
それから夕食を済ませ、千栄理がグレムリン達と入浴している間、ポセイドンは先程の疑問をぶつけてプロテウスを困らせるなどして時間は過ぎていき、就寝時間となった。グレムリン達をプロテウスに預け、いつものようにベッドに入る千栄理にガウンを着たポセイドンは、神妙な表情で見つめる。彼の視線に気付いて千栄理は「どうしたんですか?」と訊いた。
「共寝をするのか」
「そうですよ? どうしたんですか? いつも一緒に寝てるじゃないですか」
今更何をと言いたそうな千栄理に、ポセイドンはベッドに腰掛け、千栄理の髪を一房指に絡めて口付ける。
「余は良いが、お前は本当に良いのか? 余とお前は恋仲になった。共寝をするということがどういうことか、本当に分かっているのか?」
ちゅ、と頬にキスをして目を合わせるポセイドン。その熱を帯びた視線に、漸くポセイドンの言わんとしていることが分かった千栄理は、それ以上言葉を紡ぐことができずに両手で赤くなった顔を覆って少し身を引いた。
「……その反応は止めろ。そんなに余とは嫌なのかと思うぞ」
「……今日のポセイドンさんは意地悪でエッチです……」
「余はえっちではない。お前に対してだけだ」
何気なく放たれたポセイドンの一言に更に赤面した千栄理は「うぅ〜……」と意味不明な呻き声を上げながら、近くにあったクッションを抱き締め、ころんと横になる。ベッドを横断するように寝転がった為、ポセイドンに起きるよう言われるが、まだ赤い顔を見られたくない千栄理は「ポセイドンさんのせいです」と言い返す。炬燵に入った猫のように丸まる千栄理を、仕方ない奴だとでも言うように、ポセイドンは軽々と抱き上げて方向を変えるついでにそのまま押し倒した。
突然の行動に思わず千栄理はクッションから顔を離す。間近にはポセイドンの一部の隙もない眉目秀麗な顔がある。石鹸の匂いに混じって香る彼の匂いと色を帯びる瞳の中に獰猛な光を捉えて、千栄理が覚えたのは羞恥と少しの恐怖だった。心臓がときめきに高鳴っているのに、その衝動のまま、彼に身を任せるのは怖い気がして、千栄理は少し怯えた目でポセイドンを見返す。
「まだ……怖い、です」
「……そうか」
あっさりと身を引いたポセイドンに、意外そうな視線を向ける千栄理だったが、その意味を介したポセイドンは付け加える。
「お前が嫌なのならば、しない。お前が余と交わっても良いと思う時が来るまで待つ」
「で、でも、ポセイドンさんは大丈夫なんですか……?」
「このポセイドンが肉欲に任せてお前を襲うとでも思うのか? その辺りの雑魚と同等と思うな」
「……ポセイドンさんが大丈夫なら、良いんですけど……」
少し気まずい雰囲気が漂う中、少しの沈黙の後にポセイドンが呟いた。
「余は……お前を……お前を粗雑に扱いたくない。だから…………分かれ、愚か者め」
「なっ、なんですか、急に! 失礼ですよ!」
腹いせにと千栄理はポセイドンを引き寄せ、唇に一瞬だけキスするとさっさと布団を被ってしまう。
「………………おい」
「知らないですっ。ポセイドンさんなんて」
千栄理が布団の中から出てくるのを待っていたポセイドンだが、やがて中から寝息が聞こえてくるのを、複雑な表情で見つめていた。昂った感情とか昂った諸々をどうしようかと、暫し途方に暮れたともいう。
翌日から千栄理はまた仕事に復帰し、ロキと瞳の他にグレムリン達も一緒に連れて行くことにした。昨日と同じように肩や頭にグレムリンを乗せている千栄理の姿は、ロキにとっては少々面白かったらしく、スマホで写真を撮られた。一頻り遊んだ後、「あ」とロキは何か思い出したようだった。
「ポセイドンさんにはもう許可もらってるんだけどさ、キミってまだヘルメスの靴乗れない雑魚ちゃんじゃん? だから、配達の道中でボクがセンセーになったげるって話、聞いた?」
「え、そうなんですか? まだ聞いてなかったです」
「じゃあ、今言ったから良いね。言っとくけど、ボク、スパルタだから。日頃のストレス発散ついでにビシバシいくからね」
「日々のストレスは他のことで発散して欲しいですよぉ」
「だってキミ、ムカつくんだもん。じゃあ、ほら、さっさとヘルメスの靴履いて」
急げと言葉と動きで急かすロキに、突然だなと思いながらも、千栄理はヘルメスの靴を足首に嵌める。毎日練習はしているが、ロキ曰く、練習量が足りないから未だに乗れないままなのだという。最初は手を繋いで空中を歩いてみることから始めると、ロキは少し浮いた千栄理の両手を取った。
「不意打ちで手放すから上手くバランス取ってね」
「ええ!? それじゃあ、頭から落ちちゃいますよぉ!」
「だから、自分でバランス取ろうとすんのが大事なんじゃん。ほら、行くよ」
荷物を瞳に持たせてロキは千栄理の手を取ったまま空中を滑るように進む。その間、お喋りな彼は色々な話をして千栄理の気を紛らわせてくれた。
空中散歩を始めて少しした頃、千栄理は少し顔を上げてロキに微笑みかけた。
「あの……ロキさん」
「何?」
「ありがとうございます。練習もですけど、気を紛らわせてくれて……お陰様であんまり怖く……えっ!? ちょっ!! ひやぁあああっ!?」
目の前で突然ぱっと手を放され、千栄理は丁度すぐ隣にあった池に落ちた。その様を見ても、ロキは嗤うこと無く、代わりに頬を膨らませて「やっぱ、お前きらい」と零した。