ご旅行は計画的に※※キャプション必読です※※
それから暫く経ち、ある日突然、アズールから監督生へ一通のメッセージが送られてきた。マジカメを通して通知されたそれは「リベンジデートをしましょう」というものだった。
「……………………何のこと?」
当然の疑問だった。監督生にとっては本当に心当たりが無かったからだ。これだけのメッセージで一体誰が交流会のことだと思うだろうか。詳しく聞こうとやり取りを繰り返すと、どうやらアズールはもう一度、今度は個人的に花の街へデートに行きたいということだった。嬉しい誘いに監督生の口元は自然に緩む。もちろん行きたいと応えると、「では、明日の昼休みに予定を詰めましょう」とメッセージが来たが、少し無理を言ってこれからラウンジに行って予定を詰めたいと言うと、アズールは快く了承してくれた。
「やった! ……ごほん。ふふ。監督生さんから色好いお返事をいただきました」
「じゃあ、小エビちゃん来んの?」
「予定は明日詰めましょうと言ったんですが、今すぐでもいいかと。ふふふ。せっかちな方ですねぇ」
などと口では言いながら、口元はにまにまと嬉しさを隠しきれない様子のアズール。もう閉店間際なので、客は少なく、支配人である彼は奥のVIPルームで今日の分の書類整理をしている。監督生が来ても、忙しくて相手ができないなんてことはないだろう。早く来ないかななどと恋する乙女のような気持ちで密かに待っていると、ルキーノが入ってきた。
「寮長、可愛い恋人が来てますよ」
突然のからかう言葉にもう一度咳払いをして、悪戯好きな後輩に注意する。
「ルキーノさん、最近調子に乗ってません? ピーノさんから聞きましたよ。また他寮生に迷惑をかけたらしいですね?」
「あーっと、僕、今日ホール担当なので、戻りまーす!」
「あっ、待ちなさい!」
逃げ足の早いルキーノを追いかけるアズールの背中を見送り、ウツボの双子はニヤリと笑った。
「紫ヒオウギちゃん、働きモンだねぇ」
「ええ、そうですね。あのまま監督生さんのところに行ってくれるでしょうし。今度、好きな料理でも作って差し上げましょう」
そもそもアズールと監督生が付き合うまでに至ったのは、あの三つ子の協力が大きかった。普段、格好ばかり気にしてなかなか彼女にアピールできなかったアズールを上手く乗らせ、監督生の許へ連れて行っては二人きりの時間を故意に作ってきた実績の持ち主だ。アズールを連れ出すなど、もう手馴れたもの。その辺り、ジェイドとフロイドは面白がりはするが、基本的に協力はしない。欲しいと思ったものなら、自分の力だけで奪い取るのが捕食者の人魚の特徴だ。しかし、貝の人魚達はまた違う。いつ、どこで、誰かがいつの間にかいなくなってしまう被捕食者の彼らは今ある時間を大切にする。生きている時間の儚さを知っているせいか、後悔の無いように振る舞うことが多い。かといって、ジェイドやフロイドのように強者らしく、自分の心のままという訳でもない。むしろ、自分本位に見えて周りをよく見て行動しているのが彼らだ。ただ一人、ロランドを除いては。
「はい、監督生ちゃんとアズちゃんの分」
そう言って二人分の飲み物をカウンター越しに出すジョット。礼を言って受け取る監督生の飲み物には氷で出来た蛸の人形、アズールの分にはエビの氷人形が入っていた。
「わあ、可愛いですね」
「でしょう? 私から監督生ちゃんとアズちゃんだけにサービスよ」
「ふむ……魔法で氷を削って作ったんですか。これは追加オプションで料金を上乗せできそうな……」
それまでの監督生と時折、見つめ合う甘い雰囲気から一転して商売人になってしまうアズールに、ジョットは困ったように苦笑して釘を刺す。
「やあね。彼女と一緒にいるっていうのに、仕事の話なんて。アズちゃんったら、野暮な男」
「なっ……!? よ、余計なお世話です! ジョットさん。僕はいつ、如何なる時でもビジネスチャンスを……」
「仕事熱心なのももちろん良いけど、ルキーノちゃんが呼びに行かなかったら、ここで監督生ちゃんのこと、終わるまで待たせてたでしょう? 後のことは私達に任せて寮に帰った方が良いわよ、支配人」
「飲み物は持って帰っていいから、さっさと帰りなさい」と言うジョットに、最早アズールは何も言えず、――野暮な男と言われてしまった手前、抵抗する気にもなれず――大人しく従うしか無かった。
「監督生さん。……その、一緒に夕食でも、どうです?」
「行きたいです!」
「では、こちらに」
自分の片腕を差し出して、監督生をエスコートするアズール。そのまま仲睦まじくラウンジを後にする二人をジョットは見送った。
「アズール、行ったぁ?」
奥からジェイドとフロイドが来て、フロイドはカウンター席に就く。それに「行ったわ」と返してジョットは傍にいた三つ子のうち、ピーノとティーノにロランドとサミュエルを呼んで来るように言う。了承の返事をして二人は店の奥へ引っ込んだ。
「それで、今回の作戦ですが」
アズールが去った後のモストロラウンジのカウンター席には、ウツボの双子、ヒオウギガイの三つ子、サミュエル、ジョット、ロランドといういつもの面々が集まって何やら秘密の相談をしていた。場を仕切るのは、副寮長であるジェイドだ。それぞれリラックスした姿勢で集まっている一同の真ん中には、一台のスマホが置いてあり、そこから何やら会話する音声が聞こえてくる。
「監督生さん、また花の街へ行きませんか? 今度は個人的に、二人で」
「いいんですか? 嬉しいです! 誘ってくれてありがとうございます。アズール先輩」
「ユウさん、二人の時は……?」
「あ、そうでした。…………ありがとう、アズール」
「……どうやら、アズールはまた花の街へ行くつもりのようだね。それも、僕らに内緒で」
ロランドの言葉に一同は、ニヤリと笑う。その笑顔は「そうはさせるか」と全員が表していた。このスマホは昼間のうちにジェイドが巧妙に仕掛けた盗聴用のスマホの片割れであり、もう一つはアズールの自室に隠されている。現在聞こえてくる監督生との会話はリアルタイムのものだ。
「一回目は小エビちゃんとデートはできなかったけど、なんか、舞踏会で踊った? って聞いたしぃ」
「交流会の時は丁度、花の街でお祭りがあったそうなので、その日に合わせたようです」
更にアズールと監督生の会話は続く。
「ユウさん、今度、花の街でまたお祭りがあるそうですよ」
「お祭り! 何ていうお祭りなの?」
「ふふ。この祭りは絶対に外せませんからね。今の僕達に非常にぴったりな、その名も『愛の祭り』! どうです? 僕達のリベンジデートにはもってこいではないですか!」
「あ……『愛の祭り』……」
「そこで照れないでくださいよ。…………僕も、恥ずかしくなるだろ」
まさか、この甘い会話を聞かれているとは二人は思わないだろう。それも、聞かれた挙句、声も出せないレベルで笑われているとは夢にも思うまい。
「………………むり…………むり…………」
「アズールの口から…………あ、あ、あいの……っ! んっふふふふふふふふふふふふ」
「だーっはっはっはっはっ!! マジウケるわ! アズール!! 最高かよっ!」
「じ、ジョット…………笑ったら、失礼、だよ……! ふっ……くくくく……」
この他、三つ子は口を片手で押さえながら、もう片手でテーブルをバンバン叩き、サミュエルはテーブルに突っ伏して死んだように撃沈していた。盗聴用のスマホには一方的な防音魔法がかけられている為、こちらの音声は一切聞こえない。アズール達が日取りの話をしている頃には、一同はだいぶ落ち着いたが、些細なことでまた不意打ちで『愛の祭り』波が襲ってくる。そんな調子でなんとか苦難を乗り越え、正確な日取りの確認が取れたところでジェイドはスマホの通話を切ろうとした。が、次の会話で電話を切るのはもう少し先に延ばされる。
「あ、じゃあ、ロロ先輩にも連絡しておいた方がいいかな?」
「ロロさん? ユウさん、彼の連絡先をご存知なんですか?」
「うん。交流会の時に交換したの」
「連絡先を交換した」という一言にアズールだけでなく、ラウンジにいる一同にも緊張が走った。
「なぁに? 誰? 小エビちゃん、誰のこと言ってんの?」
「ロロさん……確か、ノーブルベルカレッジの生徒会長さん、でしたか」
「え? そんな人と監督生さんがなんで連絡先の交換なんてしてるんですかっ!? 僕達、聞いてない!」
「……交流会を通して連絡先を交換すること自体はおかしいことではないけれど、問題は監督生にとってその生徒会長がどういう存在か、だよ」
「少なくとも、お互いに連絡先を交換するくらいには仲が良いってことよね」
先程の爆笑騒ぎから一転、皆「そのロロってやつ、うちの寮長から恋人を奪おうとしているオスなのではないか」と殺気にも似た緊迫と困惑の空気が漂う。「もう少し様子を見ましょう」というジェイドの言葉に皆頷き、水を打ったように静まる空気の中、アズールと監督生の会話が続く。
「ユウさん、何故ロロさんと連絡を……」
「交流会の時に何かあったらいつでも連絡していいって言われたので」
「完全に気がありますね。阻止しましょう」
淡々と宣言するジェイドに一同は決意したように一度だけ頷いた。アズールも何か思うところがあるのか、少しの間、神妙な間があったかと思うと、監督生の代わりに自分がロロと話してもいいかと訊いた。監督生は何の気なしに「良いですよ」と言ってアズールに電話を渡したようだった。すぐに電話をすると、直ぐ様繋がったようだ。威嚇の意味も込めてアズールは厭に爽やかな声で応対する。
「お久しぶりです、ロロさん。その後、いかがお過ごしですか。……ふふ。そんなことを言わずに、どうか僕のお願いを……ああ、いいんですかねぇ? 電話を切ってしまって。これは監督生さんのお願いでもあるんですよ」
相手がアズールと知って電話を切ろうとしたロロという男は『監督生』という単語を聞いて食いついたようだった。やはり、間違いなく、その男は監督生に気があると見ていいようだ。その事実にフロイドとジョットは殺気立つ。
「は? 何こいつ、アズールのもんに手ぇ出そうとか思ってんの?」
「良い度胸じゃない。うちの寮長の恋人にちょっかいかけようなんて、ぶっ殺されても文句言えねぇよなぁ?」
「少しは落ち着いたら、どうだい? まだそうと決まった訳ではないし、やるなら絶対に周りに知られず、確実な方法を取った方がいいよ」
「実行するなら、お手伝いしますよ」
「オレも」
「ボクも~」
それぞれの意見を交わし、全員一致でアズールと監督生の仲を裂こうとするものなら、八つ裂きにするという結論を出したところで、ジェイドは「今日もうちの寮は平和ですね」と感慨に耽っていた。
一方でアズールの交渉という名の脅しが効いたのか、――『あのこと』をバラすと言ったら快く引き受けてくれたようだ――ロロは旅行当日、寮内の空いている部屋を貸し出してくれることになったらしい。そこまで聞いて、漸くジェイドは電話を切った。
「という訳で、アズールと監督生さんは今度の金曜日から日曜日まで、花の街へ旅行に行くそうです」
「ほんと奇遇だよねぇ〜。その日、オレ達も行くんだ〜」
「旅行なんて、陸に上がってから初めてです!」
「どんなところなんでしょうね、花の街って」
眼鏡を直しつつ、柔和な笑みを浮かべるジョット。先程、一番爆笑していたとは思えない変わり身の速さにロランドは密かに「相変わらず、猫被るの速いなぁ」と思っていたが、口にも表情にも一切出さなかった。
「事前に少し調べてみたところ、この街は……パンが有名だそうです! アズールの話にもありましたが、花の街では農業が盛んで特に小麦の生産量は全国的に見ても高い順位を誇っています。つまり、パンの他にもケーキなどの焼き菓子、パスタ等の麺類が数多く、その中でも特に評判なのが……クロワッサンのようです!」
「ジェイちゃん、相変わらず食べるの大好きなのねぇ」
現地のグルメに思いを馳せるジェイドとは対照的に、フロイドは現地の雑貨や服、靴に興味があるようだった。
「アズールが前、言ってたけどぉ、花の街ってこっちでもあんま見ねぇお土産とかあるらしいよぉ。そういうとこって、服とかでも結構良いもんあったりすんだよねぇ」
「僕は街の歴史が知りたいな。『正しき判事』の話は教科書にもあったけど、現地で学べることも多いだろうし」
ロランドのこの発言にジェイド以外の全員が「え〜?」と難色を示す。
「……ダメなのかい?」
「ダメじゃねぇけどさぁ。ヤコウガイ先輩、そういうのは一人でやんなよ。折角の旅行なのに、つまんねぇじゃん」
「そうですよー。旅行なのに、勉強なんてやだー」
「ロランドはこれを機に遊び方を勉強した方が良いわよ」
「遊ぶ……か。……ピンと来ないな」
カレッジに来るまで殆ど遊んだことの無かったロランドは、「遊ぶ」ということに対して非常に鈍感なところがある。家庭の事情が少し特殊な為だった上に、家庭の中で彼が生き残る手段が勉強に励むことだったので、無理も無いが。
「フロイド先輩、僕達もアクセサリー見たいです。向こうに行ったら、一緒に見ましょうよ」
「いいよぉ。オレについて来れたらねぇ」
「サミュエルさんとジョットさんは、何か見たいものや食べたいものはありますか?」
二人の顔を見るジェイドに、二人は互いに顔を見合わせたが、すぐには出ないようだった。
「そうね。私は特に宛もなく、街をぶらついたりする方が好きなのよねぇ」
「……僕も、まだこれと言ったものは……」
「では、お二人は現地にて思い思いに楽しむ、ということですね。はい、それでは全員の希望が出たところで待ち合わせの場所と時間ですが……」
てきぱきとそれぞれの予定を詰めていくジェイド。花の街についてわいわいと盛り上がる一同。誰もが嬉しそうに顔を綻ばせ、期待と希望に満ち溢れている。一つ、気がかりなことと言えば、この場にいる誰も、アズールに許可を貰っていないということ一点に尽きる。
待ちに待った金曜日の放課後。いそいそと荷物をまとめたアズールは、監督生との待ち合わせのため、鏡の間へ向かう。学園長には事前に許可を得ているし、ロロを通して向こうの学園長にも話は通っている。宿泊費を浮かせられたお陰で所持金にだいぶ余裕ができた。これで彼女と色々と楽しめると思いつつ、鏡の間へ入る。
と、そこでアズールは驚くと同時に宇宙を背負うことになる。
「あ、アズールやっと来たぁ。小エビちゃん、アズール来たよぉ」
「今日から三日間、よろしくね。監督生ちゃん。飴食べる?」
「僕らは何分、海外旅行は初めてだからね。色々と至らないとは思うが、足を引っ張らないようにするよ」
「楽しみですね、監督生さん」
「ボク、お祭りってあんまり参加したことないからわくわくする~」
「オレも」
「これで全員ですね。では、行きましょうか」
「なんでいるんだっ!!!! お前ら!!!!!!」
アズールのよく通る声が闇の鏡を震わせた。
先に来ていた監督生が事情を聞いたところ、フロイドが先に自分達と花の街に行く約束をしていたのに、監督生を優先したアズールが悪いと言い出す。
「それは確かにアズール先輩が悪いですね」
「ほらぁ〜、小エビちゃんもそう思うってぇ」
「監督生さん!? で、ですが、この旅行はあなたと……」
「だから、どっちもやっちゃいましょう! アズール先輩とのデートとみんなで旅行。どっちも」
まだ納得のいかない様子のアズールと「やったー!」と喜ぶ寮生達。
「小エビちゃん、良いこと言うじゃぁん」
「お話もまとまりましたし、では、プログラム通りに……」
「待て待て待て待て。プログラムってなんだ。……というか、何故サバナクロー寮のダニエルさんまでいるんです?」
フロイドの陰に隠れて見えなかったが、確かにアズールの指す生徒はいた。大きなニット帽を被って恥ずかしそうに縮こまっている、青い目をした大きな象耳の生徒だ。自分のことを言われていると気が付いた彼は、びくりと驚いたように肩を震わせて、おずおずと事情を説明する。
「え? ぼ、ぼくはフロイド君に誘われて……」
「フロイドに?」
「だぁってオレら、マンタちゃんに飛行術教えて貰ってるじゃん。今回はそのご褒美」
「ダニエルさんには大変お世話になっていますので、そのお礼ですよ」
「こんな横着したお礼がありますか。ダニエルさんだって困るでしょうに」
ダニエルというその生徒と監督生は初対面だったため、互いに簡単な自己紹介を交わしたが、その間、彼はずっとどこかキョドキョドしていて、恥ずかしそうに帽子を引っ張り、大きな耳を隠そうとしているようで落ち着かなかった。
「は、初めまして、監督生さん。ぼく、ダニエル・エルフィンストーンっていいます。サバナクロー寮で2年、です」
監督生も同じように返した後、先程のフロイドの発言で気になったことを訊いてみた。
「あの、先輩方に飛行術を教えてるというのは……?」
「ぼく、苦手な飛行術を克服した……から、その、のうはう? を教えて欲しいって、アズール君に言われたのがきっかけなんだ。それで、たまにバルガス先生と一緒に飛行術の教室を開いてるの」
「そうだったんですか。それで、たまにアズール先輩が昼休みに体操着で……」
「この話は終わりにしましょうか。お前達、折角来て貰ってすみませんが、寮に帰りなさい」
アズールがさっさと解散しろとばかりに手で払う仕草をすると、オクタヴィネルの面々はブーイングを飛ばす。
「ひどいです。アズール……。僕達だって綿密な予定を立ててきたのに……」
「今日、めちゃくちゃ楽しみだったのに……」
「もうボク達、海外旅行なんて一生行けないんだ……」
「泣かないで、ルキーノ。僕とティーノも辛いんだから」
「折角、手土産もとっておきのを選んだのに、行けないなんてねぇ……」
「全く、残念だよ。初めての旅行だったのだけど……」
「虚しく帰るしかないのか……」
いつもの泣き落としにかかってきた一同だが、アズールは「ふん。そんな猿芝居で誰が騙されるか」と思っていたが、監督生は違った。
「あの、アズール先輩。みんなで一緒に行きましょうよ」
その一言を待っていましたと言うように、オクタヴィネルの面々はぱあ、と表情を輝かせる。しまったとアズールが思った頃には、皆監督生側について彼女と同じように悲しげな顔で訴える。
「だめですか? アズール先輩」
「うっ……」
「ダメなの? アズール」
「お前達はやるんじゃない。可愛くありません」
それからアズールの心が揺れ始め、かなりの苦渋の決断を強いられた挙句、彼女に嫌われたくない一心で、渋々アズールは許可を出した。
「流石アズール、見事な決断ですね」
「お前達は帰って来たら、覚えていなさい」
「あの」
さて、出発というところで監督生がアズールの服の袖を引っ張る。その仕草にきゅんと胸を打たれつつも、平静を装って振り返ったアズールに、追い打ちが放たれた。
「みんなで行くんでしたら、グリムも一緒に行っていいですか? 自分だけ行けなくて拗ねてたので」
言いたいことはいっぱいある。なんでこのタイミングなんだとか、監督生さんは僕と二人きりの旅行が嫌なのかとか。しかし、これまでのやり取りで正直疲れを感じていたアズールは言った。
「……良いですよ」
「ありがとうございます! 私、急いで連れて来ますね!」
嬉しそうに走り去って行く彼女の後ろ姿を見送るアズールの顔は誰がどう見ても、くしゃっと手で潰した紙のように無念さでしわしわになっていた。
アジアゾウの獣人
名前 ダニエル・エルフィンストーン(Daniel Elphinstone)
学年・クラス 2年A組6番
誕生日 6月24日(蟹座)
年齢 17
身長 162cm
利き手 右
出身 夕焼けの草原
部活 マジフト部
得意科目 飛行術
趣味 帽子作り
嫌いなこと ユニーク魔法を不意打ちで発動させてしまうこと
好きな食べ物 ピーナッツパン
嫌いな食べ物 アルコールが入っているもの
特技 自己暗示
サバナクロー寮2年生。大きな象耳がコンプレックスで、いつも耳をニット帽の中に入れて隠している。怖い時や恥ずかしい時に、帽子を引っ張って顔を隠そうとするのが癖。元々飛行術が不得意だったが、1年生の頃に猛特訓し、今では大得意な科目になった。RSAに進学した友達のお守りを大切にしている。オクタヴィネル生に頼まれて時々、飛行術の教室を開いている。
気が弱いので、ナメられやすい。が、後述する評判のせいかお陰か、滅多に絡まれることは無い。フロイドには「マンタちゃん」と呼ばれている。尚、父親は彼が小さい頃に病死してしまった。
ユニーク魔法
『酒の魔力(エレファント・ドリーム)』
自分を変えたい一心で、ダニエルがミドルスクール卒業間際に、習得したユニーク魔法。ただ、その時にブランデーの香りで酔ってしまい、変な夢を見てしまったことが原因でもう一人の自分はおかしくなってしまった。使用すると外見と身長だけでなく、人格まで変わる。
まだ全然コントロールできなかった1年生の頃は、問題行動を起こしまくっていた。学内では「ピンクのダニー」として有名。そんな自分が嫌で、2年生に上がる頃には、地道なメンタルコントロールである程度扱えるようになった。が、自分の意図しない発動はまだ抑え込むことができない。
少しでも酒が入っているものや酒を連想させるものを食べたり飲んだりすると、ユニーク魔法発動のトリガーになってしまう。(洋酒入りのお菓子やジンジャエール、ワインソース等)
ピンクのダニー
身長 185cm
利き手 左
趣味 暴力
嫌いなこと 酔いが醒めてしまうこと
好きな食べ物 アルコールが入っているもの・おつまみ
嫌いな食べ物 水・お茶
特技 歌
『酒の魔力(エレファント・ドリーム)』で変わるダニエルのもう一つの姿。
発動すると、全身ピンクで瞳が虚ろな夢かわいい系男子になり、問題行動を起こしまくる。この形態の喋り方は語尾にウザい記号が付く。「ピンクの象だよ✩」と言いながら見境無く暴力行為に及ぶ。その声に応えると……? 特技は歌だが、歌詞は全く意味が通らず、歌声も聴けたものではない。あまり意思疎通はできない。この姿の時はフロイドに「カサゴちゃん」と呼ばれている。