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    ハニートラップダチ以上に大切なものなんてないって、俺はその日まで信じてたんだ。だってそうだろ?
    なのにあいつは、いともたやすくそれを壊した。

    思えば爆豪は、いつも俺の常識を易々と超えてゆく、いつだってぶっとんだやつだった。初めて入試で見かけたときは、あ、ヘドロヴィランに襲われたすげー強いやつだ、くらいの認識だった。そこに上書きされたのは、やばいくらいに綺麗なオレンジの瞳と、薄金色の髪の毛と、そのとげとげしい雰囲気だった。わぁ、すげー綺麗な人間なのになんてこえー顔してんだ、なんて、そんなことを思ったっけ。そして入試での鬼神みたいな爆発ぶりや、入学後のクラス内課題での暴れっぷりをみて、うわーやべえやつだと思ったら、すぐに意外と冷静な面が見えてきて、おまけに実はものすごくストイックな努力家だったりして、つまり、なんだか目が離せないクラスメイトで、気がついたら俺の中でとても重要なダチになっていた。(向こうがどう思っているかはさだかではなかったけど。)

    その日までは。

    その日はごく普通の1日だった。昼休みの終わりのあの時間までは。午前の授業を終えた俺たちは、学食で昼飯を平らげ、なんとなく日課なっていた校庭での腹ごなしのスポーツを始めた。その日はたまたまキャンディボールが近くにあったから、なんだか懐かしいドッヂボールをしていた。もし近くにあったのがサッカーボールならサッカーをしていたし、バスケットボールならバスケをしていただろう。そのくらい、なんてことない食後の遊戯だった。チーム分けは俺と瀬呂対、爆豪と上鳴の2on2。もちろん個性は使わない試合だったが(もしも爆豪の本気のパスを受けたら腹に穴が開きかねない。もちろん俺ならそんなヘマしないけどな!)結果は爆豪チームの圧勝で終わった。やつの馬鹿みたいなパワーとスタミナは個性抜きでも健在だった。
    そして、あの時間がやってくる。
    流れる汗をシャツで拭きながら午後の授業のためにみんなと教室に戻った俺は、カバンに入った飴のことをふと思い出した。今朝、寝坊して朝食を食べ損ねた俺に、母親が押し付けてきた、ガラス瓶入りのドロップ飴。なにげなく持ってカラカラと振っていたら、上鳴が飛びついてきた。
    「おっ、切島、いいもの持ってるー!俺にもくれよー、充電充電〜」
    そう言いながら上鳴はガラス瓶からひとつ飴を取っていった。その流れで、隣にいた瀬呂にもひとつ差し出し、そうしたらやっぱり爆豪にもやりたくなって、彼の瞳そっくりなオレンジ色の飴をひとつつまんで、すこし離れた窓際で体を冷やしていた爆豪に向かって差し出した。
    「飴いるか? 糖分補給!」
    「…ん」
    そんな短い返事のあと、あいつはなにをしたと思う?

    俺の指を咥えるように口をつけて、飴を食ってみせたのだ。

    あれ、あれ?
    頭の中が真っ白になるなんて現実に起こるんだなぁ、なんて、後からこの時のことを思い返すときにいつも思う。だって、そうだろ?爆豪が、あの爆豪がそんな無防備なことをするなんて、いったい誰に想像ができるというのだろう。食べてくれるかどうかも半信半疑で差し出した飴は、爆豪の鮮やかに色づいた舌に絡めとられるように口内に入り、そしてガリッと音を立てて一瞬で砕かれた。
    「甘ぇな」
    (…はぁ?!)
    その時俺を貫いた感覚はなんだったのだろう。全身がしびれるような、背中が粟立つような、そんな感覚。それがなんだか全然わからなかったのだけど、俺は爆豪から少しも目を離すことができなくなった。そのとき5時間目のチャイムが鳴らなければ、いつまでも金縛りにかかったみたいに棒立ちになったまま動けなかったかもしれない。がたがたと生徒たちが着席する音で、俺はようやく自分をなんとか取り戻した。
    そう、その時から俺は、爆豪に、恋をしてしまったのだ。



    それでもしばらくは普通に接することが出来ていたと思う。そのとき俺はまだ、『好き』に続く気持ちとか、行動とかを分かっていないただのお子様だったから。
    爆豪もあの飴事件以降は、相変わらずそっけない反応が多かったし、俺もいつもどおり昼飯を一緒に食ったり、他愛ない話をできれば満足していた。だから、特に進展も後退もないまま、俺が時たま、爆豪って以外と可愛い、とか思って悶えるくらいの日常が過ぎっていっていた。それでなんの問題もなかったのだ。好きなやつがたまたまダチだっただけのこと。それってむしろラッキーじゃん?くらいに思ってたんだ。
    でも、ある夕方、突然スコールのような夕立が来た日に、びしょ濡れで帰宅して、間抜けに風邪をひいて学校を休んだ次の日から、俺は爆豪にちゃんと接することができなくなってしまった。
    俺が学校を休んだ日の、多分18時くらいだったと思う。自室のベッドでまどろんでいた俺の額に何か冷たいものが触れて、ふわ、と目を開けると、そこに爆豪がいた。爆豪が俺の額に掌を当てていて、『あれ、夢かな?』なんて思いながら、その冷たさの心地よさに身を委ねてうっとりとしてしまった。
    「爆豪の手ぇ冷たいや…珍しいな…」
    なんで爆豪がここにいるのかな、という疑問もあったけど、そんなことどうでもよくなるくらい、冷えた手が気持ちよかった。
    「手、冷してきた」
    爆豪は、俺の額の上とは逆の手で、おそらくその辺の自販機で買ったのであろう、水滴のしたたる炭酸飲料のペットボトルを揺ら揺らと振る。
    「…まじか、さんきゅー…」
    手のひらは彼の大切な武器だ。その性質上、爆豪の手は他人よりずっと熱いはずなのに、それをわざわざ冷やしてくれたのか。俺のために。そんな健気な事をされたら、どんな男だって、くらりとしてしまうはずだ。体調が悪かったのもあるのかもしれないけど、うかつにも俺は感激してしまって、思わずぽろっと涙が出てしまったりして。あぁ、我ながら恥ずかしい。クラスメイトの前で泣くなんて、だせぇにもほどがある。しかも、好きなやつの前で。
    多分、爆豪もそれに気がついたと思うけど、何か茶化すようなことを言ったりはしなかった。ただ、少しだけ手のひらをずらして、俺の熱くなったまぶたを冷やしてくれただけだった。そのまま、何となく今日学校であったこととかをぽつりぽつりと話していたら、俺はまた眠くなってきてしまって、あ、でも、爆豪にお礼言ってからじゃなきゃな、と思って、寝ぼけたまま起き上がって、爆豪を見た。そうしたら、あいつはなんだか少し優しい顔をして(いつもと比べれば、だけど。)俺のことをじっと見返してきたから、俺の体を貫くような痺れが走った。あ、まただ。あの学校で飴をやったときと同じだ。そう思うのと同時くらいに体が勝手に動いていた。爆豪の頬に手を伸ばして、そして俺は。
    そのとき、母親が部屋に入ってこなかったら、俺は多分爆豪のくちびるにキスしてた。そうならなかったのは幸か不幸か分からない。突然のノックに、俺の心臓は跳ね上がり、止まりそうになり、そして自分が何をしようとしていたか自覚して、死ぬほどビビった。母親が持ってきたジュースを断るように帰って行った爆豪を引き止めることもせず、ただ固まっていたと思う。母親がどんな風に俺の部屋を出て行ったかなんて、全く覚えてもない。ベッドの上、布団の中で膝を抱えて、たったいま自分の中で湧き上がった衝動を思い返して、熱湯の中に放り込まれたように全身が熱くなる。
    あれ、俺、もしかしてやばいんじゃない? 今、爆豪とキスしたいと思った。それどころじゃなくて、もっとすごいことしたいと思った。ああ、そっか、爆豪が飴を食べてくれたあのとき、爆豪のことエロいと思ったんだ。
    あれ、それってやばくねぇ? 友達なのに、エロい目でみてた。男同士なのに、キスとかそれ以上とかしたいと思った。俺って、最低なんじゃない? どうしようどうしよう。
    布団を頭からかぶって、火照る思考と体を抑えようとしているうちに眠ってしまった俺は、爆豪とキスをする夢をみた。その夢は、俺の貧相な想像力の中で思いつく限りのエロいキスをしていて、信じられないことに夢精して、人生で1番最低な朝を迎えた。



    『好き』に付随する、あれやこれ。それはひどく厄介で複雑なものらしい。俺だって、普通の男の子なのだから、オナニーはした事があるし(というかわりと日常的なものだったし)、人間がセックスをするってことも知っていた。だけどそれはあくまでもエロサイトの中の話で、自分と、その大切なダチとの間に入り込んでくるものだなんて、思った事もなかったんだ。
    それに気がついてしまったら、とてもじゃないけど、今までみたいに爆豪に気軽に触ったり、声をかけたりする事は出来なくなってしまった。
    例えば朝。今までならわざわざ遠回りして爆豪の机の横を通って、おはようと声をかけてたけど、それをやめた。あるいは昼、いつもなら爆豪を誘って学食に行っていたけれど、1人で校庭のはじでコンビニのパンをかじった。そんなことを延々続けていたら、さすがの爆豪も何か感づいたようで、移動教室の時や、休み時間の終わり際なんかの瞬間に俺に接触しようとしてきたけれど、俺は卑怯にも逃げ続けた。だって、どうしたらいいか分からなかったんだ。まさか、このまま卒業まで逃げ回るわけにはいかないし、爆豪がそんな俺に対して次第にイライラしてきているのも分かっている。だけど、どうにかしなきゃ、と思うだけで、ただただ時間だけが過ぎていった。
    そんな時が2週間くらい続いたある日の昼休み、相変わらず爆豪のことを避けて、校庭で大きな桜の木にもたれて飯を食っていた俺に声をかけてくるやつがいた。
    「おーい、切島、こんなとこで何してんの?」
    がばっと振り向けば、そこにいたのは同じクラスの瀬呂だった。爆豪でないことにホッとしたのと同時に、いい加減1人でいるのにも辟易していた俺にはこの友人が救いの神に見えた。
    「瀬呂ー!!ちょっと相談に乗ってくれ!」
    「お、おぅ、いいけど…」
    なんの相談だ、と俺の隣に腰を下ろした瀬呂に、まだ手をつけていなかった焼きそばパンを押し付けてから、俺はゆっくりと言葉を選びながら、しゃべりだす。
    「あのな、えーと、これは俺の友達の話なんだけどな、なんか、そいつ、友達のことが気になるようになっちまったんだって」
    「…や、切島、まて。よく意味がわからないんだけど」
    「だからな、友達が友達のことを好きになっちゃったんだよ!そんでな、色々エロいこととか考えちまって、今まで通りにできなくなっちまったんだ!!」
    「なるほど…。つーか、友達の話なんだよな?」
    「はっ! そう!!俺の、中学のときのダチの話だ!」
    「あー、うん…。なるほどなぁ…」
    なぜだか分からないが、瀬呂は何かを察したような顔をして、呆れたような苦笑を漏らした。
    「その友達はさ、好きになったやつのこと、どう思ってるんだ? 単純にエロいことしたいだけ?」
    「違う! 同い年の男として、すげー尊敬してる! 強いし、何気にいつもまっすぐだし、かと思えばあんがい可愛いところあるし、せっかく才能まみれなのに、無駄に敵ばっか作るところとか、実はストイックなところとか全部ひっくるめて好きなんだ! も、もちろん、エロいことも考えなくもない、けど…」
    「…うん、まあそりゃ男だからしかたねぇな。でもさ、とにかく、その気持ちを、素直に全部伝えりゃいいんじゃねーかなぁ」
    「素直に…」
    「そうそう。案外、相手も同じように思ってるかもしれねぇぜ」
    爆豪が、俺に?
    いや、それはさすがに、ないだろう。でも、もしも伝えたら、どうなるだろう。爆豪がどんな反応をするかはまるで想像がつかない。
    「何事も、行動してみるのが1番だと思うけどな、俺は。あ、チャイム鳴ったな。行こうぜ、切島。次、化学だから移動教室だろ」
    確かに瀬呂の言う通りかもしれない。悩みが完全に晴れたわけではなかったが、それでも、口にしたことで少しだけ心が軽くなった気がした。そうか、素直に、か。素直に、素直に、と呪文のように独りごちて、ズボンの砂を払いながら立ち上がった。

    瀬呂とともに向かった化学実験室には、すでに大半のクラスメイトが集まっていた。その中には爆豪の姿もある。どうやら座席は好きに決めていいらしく、各々仲の良いメンバーが集まりざわざわと雑談に興じている。そんな騒がしい教室の中で、あいつは誰とも喋らずに、まっすぐに窓の外を見ていた。ちっともこちらを向かない爆豪の横顔を見つめて、俺はようやく決意する。よし、この授業が終わったら、教室までの帰り道は爆豪と行こう。そして、最近のことを謝り、素直に自分の気持ちを伝えよう。そう決めると、俺は足を踏み出して、爆豪の隣の席へと向かった。
    だが、ちょうどその時、化学担当の教師が実験室に入ってきたものだから、まだ立ち歩いていたやつらが一斉に慌ただしく席に着き、俺も慌てて爆豪の隣のイスに腰を下ろした。本当は、隣座るぜ、と声をかけて、そこから今までのように気軽な雑談を投げかけようと思ったのに。学級委員が、起立礼、なんて声を上げる中、爆豪はちらりと俺を見たがすぐにふいと視線を逸らしてしまって、俺はすっかり声をかけるタイミングを失った。いや、それでもまだチャンスはある、と俺は気持ちを立て直す。授業が終わってからが勝負だ。そう、思っていたのに。
    事件は無情にも起きる。
    その日は、空気から酸素を取り出すだけの、ごく簡単な化学実験だった。6人くらいが囲むそれぞれの机の上で、水の入ったビーカーが熱せられ、ぽこぽこと音を立てている。
    俺と爆豪は班の中で割り当てられた役割を黙ってもくもくとこなしていた。いや、本当は話しかけたかったのだけれど、やっぱりきっかけがつかめずにいたのだ。俺は少し焦っていた。それは認めよう。だからだろう、ふいに俺の手と爆豪の手が触れたその瞬間、思わず、持っていたフラスコを取り落としてしまった。軽い爆発とともに床にガラスが飛び散り、水がこぼれる。
    「あっ…わ、悪い、爆豪、大丈夫か?!」
    やべぇ、何でこんな時に、こんなミスしちまったんだろうって、俺は必要以上に焦ってしまった。机の端に置いてあった雑巾をつかもうと勢いよく身を乗り出して、そして自分が作ったばかりの水溜りで、ずるりと滑ってこけた。その上、なんとも運が悪いことに、投げ飛ばしてしまった雑巾が、机の上の実験器具に直撃して、めちゃくちゃになぎ倒す。ああ、なんてこと! 凄まじい騒音と共に、ビーカーが割れ、熱湯が飛び散る。はっと身を起こせば、寸前で熱湯を避けたらしい爆豪が、鬼のような形相で俺を見下ろしていた。
    (わぁ、やっちまった…)
    これはどうやっても言い逃れは無理だ。
    「切島ぁ…、おめぇ、俺を殺したいのか?」
    地を這うような低音。
    「違う、違う!!すまん!!事故だ!!」
    「あのなぁ、てめーが最近なにをグズグズ悩んでんのかなんて興味はねぇが、俺の足を引っ張ってんじゃねえ!!」
    「う…それは…その…悪りぃ…」
    うなだれて謝る俺の胸ぐらを、爆豪は掴む。
    そのころには、クラス全員が動きを止めて、俺たちのことを唖然としてみていた。そりゃそうだ、なにやら大事故が起きた直後にクラスメイトがいきなり怒鳴り合いをはじめたら、びっくりするに決まってる。爆豪はわりといつもこういった騒ぎの真ん中にいることが多いけど、その騒ぎの相手が俺ということに、多分みんなは驚いてる。みんなは俺たちがギクシャクしてたことなんて、知らないから。
    「おい…、黙ってねえでなんか言ってみろ、切島」
    まさかこんな形で爆豪と対峙することになるなんて思ってもみなかった俺は、パクパクと口を動かすのが精一杯で、何一つ言葉にすることができなかった。だって、『お前のことが好きなんだよ!』、なんてまさかこの場で言うわけにはいかないし、そもそもまだ心の準備が出来てない。結局俺はうなだれたまま、ぐっと唇を噛み締めた。その態度に余計に爆豪はイラついたのだろう。
    「俺のことを無視するとは、いい度胸じゃねぇか」
    「や、無視っていうか、その…」
    途端に、爆豪の手のひらが爆発する。ガタンと大きな音を立てて倒れる机と椅子をかばう余裕はまるでなかった。
    爆豪が怒っている。俺の心の内など、まるで知らない爆豪の怒りはもはや頂点に達してしまったようだ。
    「あぁ、めんどくせえ!! 俺の隣でウダウダイジイジしてんじゃねぇ。どっかのクソナードみたいでムカつくんだよ! 言いたいことがあるならはっきり言えや!!」
    ガシャン! そんな騒音をまき散らし、あたりのフラスコやシリンダーを手当たり次第に割る爆豪はまさしく鬼のようだった。
    「わ、わ、爆豪!! 落ち着け!!」
    気がつけば俺と爆豪の周りには、ガラス片の海が広がっている。今となっては俺がまき散らしたフラスコや熱湯などかわいいものに思えるほどだ。
    「まだ言う気にならねぇのか。腰抜け」
    ぷちん。
    俺の頭の中で、我慢の糸が切れた。
    爆豪が口が悪いのはいつものことなのに、なぜか今は我慢ができなかった。もう少しだけ待ってくれれば、きちんと伝えようと思っていたのに、なぜそのもう少しが待てないんだ。自分が今まで散々爆豪にしてきたことを棚に上げて、ふつふつ怒りを募らせる。これじゃただの逆ギレじゃねーか、と心の奥底では分かっていたが、なんだか頭や気持ちがごちゃごちゃして、湧き上がるイラつきを抑えることができなかった。ここ最近溜まっていた全てが急激にマグマのように噴き出しそうになる。俺は、個性を発動させた手で、すでに傾いている机をがつんと殴った。
    「腰抜けとは言ってくれるじゃねぇか」
    「ふん。事実だろ」
    「元はと言えば、爆豪、お前のせいだつーの!! 俺にこんなめんどくさいこと考えさせやがって!」
    「はぁ? 意味のわかんねーことをぐだくだ抜かしやがって」
    売りことばに、買いことば。お互いに胸ぐらを掴みあい、ねじりあげる。俺って本当に馬鹿だよな。ほんの少し勇気を出して、もう少しだけ早く素直になっていれば、多分こんなことにはならなかったのに。なんだって、告白寸前で、その相手と大げんかしてるんだろう。まあ、ただの大げんかなら、まだマシだっただろう。人間、運の悪い時にはとことん悪い方に行ってしまうもので。爆豪の爆破を避けるために繰り出した俺のパンチは、あろうことか窓ガラスにクリーンヒットして、なんと粉々に打ち砕いてしまった。やべぇ、と思った時にはもう遅い。砕けた窓はキラキラと光を反射させながら、遥か階下に落ちていく。下に人がいたらどうしようと、青ざめたその瞬間、俺と爆豪の体に衝撃が走った。
    視界が遮られ、体の自由が奪われる。気がつけば俺たちは、騒ぎを聞きつけ駆けつけたらしい相澤先生の捕縛布に、1ミリの隙間もないほどにぐるぐる巻きにされていた。



    大げんかの後、職員室に連行された俺たちは死ぬほど叱られて、罰として放課後までバケツを両手に持って廊下に立たされ、全校生徒の見世物となった。(いつの時代の罰だよ、コミックでも見たことねぇ。と、俺と爆豪は同時に言った。)いや、その程度で済んだのを喜ぶべきなのだが。ここが雄英でなく、並の高校だったならば停学か、あるいは退学だってありえなくない。俺たちが吹き飛ばした窓ガラスは、地上に到達する前に13号先生の個性によって綺麗さっぱり片付けられたらしいけど、それが間に合っていなければ誰かが大怪我をしていたかもしれないので、当然だ。爆豪もそれを承知していたのだろう、あのキレやすい男が、黙って俺の横でバケツを持って1時間以上立っていたのだから驚きだ。まあ、その間中ずっと舌打ちをしていたし、表情は怒りを通り越して、轟の氷以上に冷え切っていたけれど。
    放課後も再度こってりと叱られた俺たちは、夕日が沈むころにやっと解放されたが、喧嘩の最中に軽い怪我をした俺だけが保健室に呼ばれたため、爆豪に謝るタイミングはまたしても逃してしまった。俺が帰ろうとした時には、もう爆豪の姿はどこにもなかった。
    ああ、もしかしてこのまま、一生、爆豪とはちゃんと話せずに終わってしまうのかな。せっかくダチになれたのに。流石の俺も、今日のことで疲れきって、この先のことをポジティブには考えられなかった。俺の深いため息は、暗くなりはじめた空に飲み込まれた。

    だけど幸か不幸か、爆豪と2人きりになるチャンスは意外にもすぐにやってきた。正確に言うと、爆豪と、校長先生と、俺、という世にも不思議な3人組だったけれど。
    喧嘩の翌日、クラス単位で行う予定だった課外授業の時間に突然校長室に呼ばれた俺と爆豪は、特別授業の予定が言い渡された。
    君たち2人は、1-Aクラスの皆さんとは別行動で課外授業を行ってもらいます。さぁ行くぜ!なんて、そんな風に陽気に告げた校長先生は、自ら車を運転して、俺たちをどこかに連れ出した。
    というわけで、運転席に校長先生。そして後部座席に並んで座る制服姿の爆豪と俺、というなんとも珍妙な課外授業がいきなり始まったというわけだ。マスコットのような校長先生が運転していることにも驚いたし、その車がおしゃれな外車のスポーツカーということにも驚いた。(もっと素直に言うならば、似合わなすぎて笑ってしまった、だ。)車は市内を抜けると、ハイウェイに乗った。どうやらこのまま地方へ行くらしい。車は1時間近く走り続けて、いつの間にかビルのような建物はなくなり、田畑が広がる山岳地帯に突入していた。一体どこまで連れて行かれるのだろうかと、困惑する俺たちをよそに、校長先生は鼻歌を歌いながらペラペラと世間話をしている。
    「おおっと、だいぶ、目的地が近づいてきたよ。さて、そろそろこれから何をするかの話でもしようじゃないか。ヒーローはね、派手派手しい活躍ばかりでなく、地味な慈善事業も大変重要な任務なんだぜ。そこで、君たちペアには、林業のお手伝いをしてもらうつもりだよ。いま走っているこのハイウェイは作りかけでね、この先60キロメートルほどで行き止まりなんだ。その先はまだ道路が出来ていない。そこから先の道路の舗装のお手伝いをみっちり二日間してもらうんだぜ」
    「なんで俺たちだけこんなど田舎なんだ。他のチームは東京や大阪で警護実習だろ?」
    「うんうん、いい質問だぜ、爆豪くん。では君たち2人の最近の素行をよく思い出して欲しいな。心当たりはあるね? さあ、2人で答えてみよう。せーの」
    「「…窓を割りました」」
    「はい、その通りだね。よく反省して、お手伝いに励みたまえよ」
    「へーい…」
    俺の情けない返事で、爆豪の舌打ちが打ち消されたのが唯一の救いだ。さすがの爆豪も校長先生相手に舌打ち以上の反抗をする気はないようで、後部座席にどっかりと座って足を組んだまま、おとなしくなった。校長先生の車に乗せてもらって、足を組んでいる時点で相当な態度だとは思うが。
    「うむうむ、分かればよろしい。じゃあそろそろハイウェイを降りて、まずはお手伝いする林業さんの事務所に行こう。おっとその前にサービスエリアにちょっと寄ってから降りようか。先生方にお土産でも買って帰ろうじゃないか」
    そんなの帰り道にしろや、と思ったものの言えるはずもなく、俺たちは大人しく頷いて、到着を待った。
    車は、駐車率50%くらいのサービスエリアの駐車場にゆるやかに止まり、校長先生が後部座席を振り返る。俺は、こんな田舎のサービスエリアにも結構車がいるもんだ、と呑気に感動した。
    「2人は降りるかい? ここで待っていても構わないけどね」
    あいにく、素行の罰と言われたのに、喜んでお土産を買うような図太い神経は持ち合わせていない。黙って首を横に振れば、校長先生は、ふむ、と頷いて1人でトコトコとサービスエリアの建物へと歩いて行った。車内には、俺と爆豪が取り残される。
    あ、しまった、気まずいぞ、これは。そう気がついた時には校長先生の後ろ姿はどこにも見えなくなっていた。
    しばしの沈黙。爆豪はドアに寄りかかるように、窓の外をみている。俺に話しかけられたくないという意思を全身からほどばしらせていた。時間は、いつなんどきも同じ速度で進むってよくいうけど、それは絶対嘘だ。爆豪と2人きりの時間は、多分3分かそこらしか経っていないだろうに、俺には永遠に感じられた。
    「うおーっ! もうダメだ、黙ってらんねえ!!」
    精神的に限界を迎えた俺は、思わずそう叫んでいた。
    「爆豪、色々すまんかった!!」
    爆豪はちら、と視線をこちらによこしたが、またすぐにそっぽを向いてしまった。
    「…だあぁ、悪かったって!! こっち向いてくれよ! なぁ、爆豪…」
    「うるせえ、黙れ」
    「なっ…、お前なぁ…」
    俺も大概素直じゃないが、爆豪はその100倍はひねくれてやがるぞ! と、この場にいない瀬呂に向かって大きな声で言ってやりたい気分だった。だが、次の爆豪の言葉で、そんな叫びは一瞬にして飛び去ることとなる。
    「見ろ、ヴィランだ」
    「へ…?」
    爆豪は窓を開け、身を乗り出すように遥か後ろの山の中を指差した。そこにいたのは、馬鹿でかい竜みたいな化け物だった。
    「な、なんじゃありゃ…」
    「変身系の個性か、あるいは操ってるか、どっちかだろうな」
    「なんでこんなど田舎に?」
    「知るか。だけどちょっとやばいかもな。あいつ、こっちに向かってきてる」
    まじかよ、という俺の叫びは、木々がなぎ倒される騒音にかき消された。いつの間にか、化け物竜は俺たちのいるパーキングすれすれまで飛翔してきている。
    「なんだあいつ、速い!!」
    「ちっ…」
    どうやら攻撃は単調だが、そのパワーは計り知れないようだ。そのヴィランが一歩踏み込むだけで、ハイウェイは粉々に崩れる。そして次の瞬間、ヴィランの爪が、パーキングエリアに止まっていた車を引っ掛けて、宙へと放り投げた。
    「うわっ…」
    あの車は無人だったのだろうか? もしも人が乗っていたら? どうしよう、と俺が悩んだ瞬間にも、爆豪は行動を開始していた。いったい何を考えたのか、やつは後部座席から運転席へと飛ぶように移動し、そして、キーが刺さったままだったこの車を、いとも簡単に発進させた。
    「ば、爆豪?! お前、運転できんのか?!」
    「うっせぇ。多分なんとかなる」
    運転席の窓を爆破させた爆豪は、そのままの勢いで車の背後にいるヴィランめがけて何かを投げる。数秒後、ヴィランのすぐそばで大きな爆発が起こった。
    「あれ、なんだ?!」
    「俺の手榴弾。このままあのクソヴィラン
    こっちに引きつける!」
    「ええっ?!」
    そう言うのとほぼ同時に、車はパーキングエリアを出て、ハイウェイの本線に乗り込んでいた。爆豪の攻撃に驚いたらしいヴィランは、確かにこちらの後をついてきている。ついてきてはいるが、このあと一体どうするつもりなのか。
    「爆豪、勝算はあるのかよ?!」
    「ふん、あんなチンケな化け物、俺が粉々にして殺してやる!!」
    それを勝算と言えるのか分からないが、とにかく爆豪はやる気のようだ。車もヴィランも恐ろしいスピードで走り抜けている。ヴィランはどうやら光線か、あるいは竜巻のようなものを口から出せるようで、俺たちが走り抜けた道路はほとんど完璧に破壊されていく。正直言って、現状を把握するのがやっとで、俺の体はガチガチに固まっていた。
    「クソが…当たんねぇ…」
    窓から手榴弾を投げ続けている爆豪は、大きく舌打ちをする。それから、俺の度肝を抜かせることを言い出した。
    「おい!! 切島! 運転変われ!!」
    「はぁ?! 無理無理!!!」
    「うるせぇ!! 長距離では役立たずなんだから、とにかくハンドル握っとけ!」
    「んなこと言っても!!」
    「運転しながらじゃ、狙いが緩くなる!!」
    爆豪は手にした手榴弾をぐっと握り込み、叫ぶ。
    「このハイウェイ、作りかけだって校長が言ってたよなぁ。あのサービスエリアから60キロ先で行き止まりだって。俺たちは時速100キロ以上でもう15分以上走り続けてんだ。この意味、分かるか?」
    言われて初めて気がついた。それじゃ、あと十数分も走れば、道がなくなるってことじゃないか! 後ろの道路は破壊されていて、到底後戻りできる状態ではない。
    「道がなくなるだけだったらマシだけど、もしその先が崖だったら? 岩場だったら? だからそれまでにあいつを絶対に倒さなきゃなんねーんだ!! 分かったらさっさと運転変われ!!!」
    爆豪から投げつけられた言葉に、俺ははっとした。あぁ、そうだ。そうだった。行動を、しなきゃ。馬鹿みたいにぼーっと戦闘を眺めて、なにしてんだ? それでなにがヒーロー志望だ。
    心を整えている暇なんてなく、飛びつくように運転席に入り込み、爆豪からハンドルを奪い取る。
    すると視界が広がった。
    鼻をつく爆煙の香り、飛び散るコンクリートの破片、爆風と熱風。恐怖が興奮へと変わる。縮こまっていた体が、途端にかっと熱くなり、自然と笑いが漏れた。なんだなんだ、簡単なことだったんだ。行動こそ、最大の攻撃なり。
    なんだか、ここ最近で俺はすっかり腑抜けになっていたらしい。
    ヒーローになるって決めたその日から、生きるか死ぬかの世界に身を投じたのだ。ダチのことを好きになってしまった程度で、なにをグダグダと悩んでいたのか。男同士のどこが問題だというのだろう。好きなやつと、好きなことして生き抜けばいいじゃないか。悩んでる暇なんて、俺の人生にはないんだ。
    ハンドル、ブレーキ、アクセル。ちらりと横目で確認して、俺はくちびるを少し舐めた。15年も男の子をやってりゃそれくらいの車の知識はあるもんだ。速度計をみて、さらに笑いが漏れた。爆豪のやろう、フルスロットルで飛ばしやがって。化け物みたいな胆力だ。負けらんねぇな。爆豪にも、もちろんあのヴィランにも。だから、俺は叫ぶ。
    「爆豪!!やれ!!」
    溶けるように後方に去りゆく木々の向こうに真っ赤な夕焼け空が見える。こんな爆速で飛ばしているのに、太陽は全然動かないんだからすごいものだ。きっと地球の片隅で死闘を演じてる俺たちのちっぽけな姿を笑ってるんだろうな。助手席に移動した爆豪は、しばらく窓から身を乗り出して手榴弾を投げていたが、まだるっこしくなったようでいつの間にか車のルーフを手のひらで吹き飛ばして、助手席に片膝をつくように立ち上がっての攻撃に移っていた。時速130キロの風にあおられ、爆豪の綺麗な髪の毛がおそろしくなびく。残念ながらその絶景をゆっくりと眺めている暇は俺にはなかったけれど。よくもまあ、この速度で運転しながら敵に攻撃などしていたものだ。だが、そんな爆豪も焦ったように舌打ちをする。
    「ちくしょう、手榴弾じゃ威力が足らねぇな…。当たってんのに倒れねぇ。つーか、もう手榴弾のストックが足んねえ!!!」
    「まじか、どうする?!」
    爆豪は後方に迫るヴィランを睨みつけたまま、静かに深く息を吸い込んで、言う。
    「切島、車、あいつに向けろ。正面から突撃するぞ」
    「はぁ?!」
    風の音がうるさい。爆豪は両手をゆっくりと握り込み、それからニヤリと笑った。
    「爆破の準備は万端だ。あのくそヴィラン、俺のことをここまで追いつめやがって、いい度胸だな。直接爆破してやるよ!!」
    できるか、なんて考えてる暇はなかった。やるしかない。いや、絶対にやってやる。
    「OK、爆豪、やろう」
    額から汗が流れ落ちる。気温はこんなに低いのに、体ばかり燃えるように熱かった。
    「Uターンする余裕はねぇ。このままバックでつっこむぞ!!チャンスは多分1回!いいな爆豪、絶対にあいつを爆破しろよ!!」
    「あったりめぇだ!!お前こそ、土壇場でビビって運転ミスったらあとでコロスからな」
    「はは、よくもまあ、無免許の高校生に向かって言うよなぁ! でも、いいぜ、絶対に成功させてやるよ! お前のそういう無茶なこと、全部やってやる!! そんなのできるの、俺くらいだからな! 覚えとけよ!!」
    爆風のなか、俺は叫ぶ。
    「だから、これが終わったらご褒美にキスさせろ!」
    断られるとか気持ち悪るがられるとか、そんな事、全然思い浮かびもしなかった。一瞬、ほんの一瞬、爆豪は口を半開きにして俺を見つめて、でも、すぐにニヤリと口を釣り上げるように笑う。
    「やっと素直に言ったな。遅えんだよ。それで、こんだけ焦らして、キスだけでいいのかよ? もっとすごいこと、してやろーか?」
    この馬鹿みたいな状況で、しかしニヤニヤと笑う爆豪に、俺はクラクラして、正直に言うと勃ちそうになってしまった。ああ、全く、いつもこいつは! 冷たいくせに優しくて、キレやすいくせに冷静で、ぶっ飛んでるくせにセクシーで。次に何をやらかすか全然想像がつかなくて。だから俺は、こいつのことを好きになってしまったのだろう。
    仕方ない、もうすべて認めて、爆豪と行けるところまで行ってみよう。
    「行くぞ、爆豪!!」



    そこから先の記憶はいまいちはっきり覚えていないが、とにかく俺たちはヴィランを地に沈めることに成功した。一般人に怪我人はゼロ。見習いヒーローとしてできる最高の結果だったと思う。ただし、出来かけの道路は完膚なきまでにはちゃめちゃになり(半分はヴィランのせいで、半分は爆豪が吹き飛ばしたせいだ)、校長先生の車はスクラップ寸前、というか正しくスクラップ状態だった。窓ガラスはもちろん、ルーフも完全に残っていない。出来損ないのオープンカーみたいなありさまだった。
    「いやはや、爆豪くん切島くん。君たちは素晴らしい事をしてのけたねえ。学校の窓ガラスを割った償いが、私の車の窓ガラスを粉々にしたことだとしても、褒められるべき成果だよ」
    校長先生はそんなことを言ったけれど、褒められてるの叱られてるのか、よく分からなかった。
    「ま、道路はこの有様だから、課外学習は中止だね。それに、この車の状態ではとても雄英高校まで戻れないから、とりあえず今夜は近くのホテルにでも泊まって、明日の朝に、オールマイトくんあたりに迎えに来てもらおうかな」
    言われて初めて気がついたが、いつの間にか日が暮れてあたりは暗くなり始めていた。そんなわけで俺たちは警察との実況見分のあと、親切な一般人の車に同乗させてもらい、なんとか近くの街まで戻り、ようやくホテルの部屋に入れた頃には、とうに深夜になっていた。

    そのホテルは、どうやらヒーロー協会の計らいで用意されたものらしいが、高校生を泊めるにはいささか高級すぎた。俺と爆豪は初めてみるような豪奢な部屋に目を丸くした。
    「ずいぶん広い部屋だな…」
    「急だったからこの部屋しか空いてなかったとか、そんなとこだろ。風呂もでかくていいじゃねえか」
    爆豪の言う通り、バスルームはトイレと洗面台と風呂がひとつになったホテルによくあるタイプだったが、その広さが普通ではない。バスルームだけで、俺の部屋くらいはありそうだった。風呂も、バスタブとシャワーを浴びる洗い場にきちんと分かれている。だが問題は、洗面台と風呂の仕切りがなぜかガラス張りということだ。なぜ、こんなスケスケにしなければならないのだろう。まあ、タダでこんないい部屋に泊まらせてくれるというのだから、文句を言うつもりはない。
    ただ問題は、俺と爆豪に割り当てられた部屋は当たり前のように1室だったということだ。そりゃあ、男子高校生のしかもクラスメートなのだから、ヒーロー協会もわざわざ別の部屋を取るなんて無駄なことをするはずがないんだけど、正直にいうと、俺はとっても困っていた。ただでさえ戦闘の興奮で眠れそうもないのに、隣に爆豪がいる? 俺は、明日の朝までどうやって乗り越えるべきか、全く見当がつかなかった。
    だが、爆豪はそんな俺の葛藤をまったく意にも介さず、スタスタとバスルームに向かってしまった。さすがに戦闘慣れしてるというべきか、なんて図太いやつなんだ、というべきか。そんな風に玄関であたふたと固まっている俺に向かって、爆豪はいとも簡単に声をかける。
    「おい、風呂入るぞ」
    「お、おう! 入れ入れ」
    やっとのことでそう絞り出せば、壮絶ににらみを効かせた爆豪の顔が、にゅっとバスルームの扉から出てきた。
    「はぁ? お前もさっさとこいよ。その泥だらけで、俺が入ってる間ずっとドアの前に突っ立てるつもりかよ? 間抜けか?」
    えぇっ、一緒に入るってことか? いきなり? ちょっとそれは積極的すぎないか、爆豪。
    「…いまさら怖気づいたのかよ」
    ばか、と小さな声で付け加えられて、俺はぴしりと固まった。そんなことを言われて、まさか逃げ出すわけにはいかない。だからといって、どうしたらいいのかもよく分からない。もたもたとしていたら、シャワーの音が止まり、ドボンと爆豪が浴槽に浸かる音がした。どうしよう、行かないと。
    慌ててバスルームに飛び込んで、しかし風呂の仕切りガラスの奥は見ないようにさっと背を向け、慌ただしく制服を脱ぐ。腰にタオルを巻くか、巻かないか、少しばかり迷ったが、結局巻かずに、バスルームのガラス戸をわざと乱暴に押し開けた。
    (わ、お…)
    大きなバスタブに寝転ぶように浸かっていた爆豪の赤い瞳が、洗い場に立ち尽くす俺をじっとみる。やばい。俺はタオルを巻かなかったことを心底後悔した。爆豪の薄金色の髪の毛や、浮き出た鎖骨や、信じられないくらい白い肌から垂れる水滴。綺麗に引き締まった体や、少しばかり桃色に色づいた頬。ただ見ただけだというのに、俺のアソコはあっという間に勃ち上がっていた。だけど今更手で覆ったって隠しきれないし、格好もつかない。仕方なしに勃ち上がったそれに気がつかないフリで、シャワーのコックを勢いよくひねり、頭からお湯をざばざばとかぶった。爆豪に背を向ける格好だが、爆豪の視線が俺の背中に突き刺さっているのは見えなくともよく分かった。このあとどうしたものかと、ぐちゃぐちゃな頭で考えていたら、ぽつりと爆豪がとんでもないことをつぶやく。
    「切島の、でけぇな」
    は?
    いま、なんて言った?
    爆豪が発したその言葉は、シャワーの音に紛れることなく俺の耳にしっかりと飛び込んできた。というか、その瞬間だけあたりが無音になったようだった。
    「…っ!!」
    ばっと後ろの爆豪を振り返った俺は、シャワーを止めもせずに、そのままの勢いでバスタブに飛び込んだ。浴槽の水が、勢いよくバスタブの外へ溢れ出る。俺の気持ちも、同じように溢れ出る。
    「爆豪ぉ、お前なぁー、そういう可愛いことを迂闊に言うなって…!! 俺、お前のこと好きなんだよ!! そんなこと言われたら、襲いたくなっちまうだろぉ?!」
    「知ってる」
    「おー、そうだよな、知ってるよな。って、ええ?! 知ってんの? いやちょっと待て、どの部分を知ってんだ?」
    「お前が俺を好きなこと」
    「ええっ」
    俺が耳まで赤くなって叫べば、爆豪は、バレバレなんだよ、と意地悪く笑った。いったい、いつからこいつは気がついていたんだろう。
    「だから俺は、言いたいことがあるならさっさと言えって言ったんだ」
    「あー、うん、そういえばそうだな…。うん…いや…恥ずいな、俺…。ち、ちなみに俺がお前とエロいことしたいことも?」
    「知ってる」
    俺は湯船に撃沈しそうになった。そしてふと気がつく。もしかして、爆豪のアソコも、勃ってる? 水中のそこを思わずまじまじと見つめてしまったら、額に蹴りが飛んできた。
    「見てんじゃねえ」
    「…いてぇ…。すまん…」
    あそこの毛も薄金色なんだなー、とか、サイズは俺と同じくらいかな、いや俺の方が若干でかいぞ?! とか色んなことが頭の中をグルグルしていたが、どれも言ったら殺されそうだったので、口には出せなかった。
    しばし、よだれが垂れそうな緩んだ顔で爆豪の下腹部を見つめていた俺を、爆豪は冷ややかに見ていた。
    「いつまでそうしてんだ」
    「へ?! あ、ああ、おう」
    「…早く、なんかしろよ…」
    「……!?」
    なんてこった。まさかそんな事を言われるとは思ってなかった俺は、がばっと顔を上げ、それから爆豪の濡れた頭を、自分の胸めがけてぎゅうと抱き寄せた。あまりの勢いに、風呂のお湯が大きく跳ねる。ああ、このホテルの風呂が、きちんと洗い場とバスタブに分かれている大きな風呂で本当によかった。バスタブだけがある小さなバスルームだったら、洗面台やトイレの方までびしょ濡れになってしまっていただろう。
    「ばくごう…おまえ…ほんと…かわいい…」
    思わずそんなことを言えば、爆豪の頭が、俺の胸にグイグイと食い込んでくるように動く。わあ、信じられないけど、爆豪も照れたりするんだな。俺はめちゃくちゃに感動して、なんだか理性もなにもかも、吹っ飛んでしまいそうだった。腕の中の爆豪の頭のてっぺんに、鼻を擦り付けるように押し付ければ、シャンプーのいい匂いがした。すんすんと匂いを嗅ぎながら、両腕を少しずつずらして、爆豪の体をとにかく弄る。こういう時どうすればいいかなんて全然分からなかったけれど、胸の中の爆豪の息が少しずつ上がっていくのを聞いていたら、体が勝手に動いていた。俺の手が腰のあたりに触れた時、爆豪がびくっと身を震わせる。
    「…もしかして、ここ、弱い?」
    「…知るかよ、クソ…」
    口は悪いが、いつもより声は甘い。ああ、ちくしょう。こんな反応、反則だ。俺のアソコがぎちぎちに勃ちあがる。なんとも情けないことに、すでにちょっとでも触ったらイッてしまいそうだった。頭がクラクラした俺は、とにかく爆豪の腰のあたりを触りまくったのだが、どうやらやりすぎてしまったらしい。俺の胸の中にいた爆豪が突然暴れ出し、俺の上に覆いかぶさるように、両手で俺の肩を押さえつけてきた。俺を見下ろす爆豪の前髪から、ポタポタと水滴が落ちる。
    「ばっか…やろう…いつまでそこ触ってんだ…っ」
    「あ、ごめ…」
    「寸止めで煽りやがって…もっとちゃんと触れ…!」
    フーフーと苦しげな吐息をはく爆豪を見上げれば、なんとその目に涙が溜まっていた。よくよく観察すれば、頬も赤く色づいている。
    (もしかして…爆豪もめちゃくち興奮してる…?)
    そう気がついたら、本当にいてもたってもいられなくなって、今度は俺が、爆豪を押し倒すように抱きついていた。その時に溢れた水の勢いか、出しっ放しだったシャワーの向きが少し変わって、俺と爆豪の上に降り注ぐ。だが、そんなものを気にしている余裕は俺たちにはなかった。もう言葉も発せられず、お互いに噛み付くように口づけをしあう。いや、本当に少し噛み付いていた。くちびるだけではなく、首筋や、頬など、ありとあらゆるところに互いに甘噛みの愛撫を行う。2人の距離が近づいた時に、俺の前髪からはねた水滴がかかったのか、爆豪は少し目を細めた。
    「…前髪下ろしてんの、新鮮だな」
    「ん? ああ、そうだな。高校入ってからはずっと上げてたからなあ」
    ふうん、と小さく言った爆豪は、指先で俺の前髪を少し横に分けて、なぜか満足げに笑った。
    「じゃあ、高校でこの姿見たことあるのは俺だけなんだな」
    その言葉に、再度俺は身悶えた。ああ、もう、こいつは、なんてかわいいことを言ってくれんだ!
    「爆豪…! 頼むから、あんまり煽らねぇでくれ。俺、もうわりと限界だから…」
    「…俺もだ、バカ」
    それを耳元で囁くように言われて、どうして我慢できようか。お前が煽るからいけねえんだぞ、と、心の中で叫びながら、俺は爆豪のモノと自分のモノを2本まとめて握って、ぐっぐっとしごき出した。爆豪は俺の肩に両腕をまわし、俺の頭のてっぺんに鼻と口をぐいぐいと押し付けるようにしながら、熱い息をはいている。ちょうど目の前にあった、爆豪の鎖骨に噛み付くように口づけすると、やつの腰が飛び跳ねるみたいに揺れた。
    「んっ……!」
    その声は嬌声というには押し殺されすぎていたけど、爆豪が発したと思うと、興奮度は十二分過ぎた。身体中の血液がアソコに集中して、頭がクラクラする。爆豪、爆豪。俺は、2人のモノをしごきながら、馬鹿みたいに爆豪の名前だけを呼び続けた。まじで気持ちがよすぎて、それだけでもう、本当に本当に限界だった。
    「ばくご…出るっ…」
    「…っ!」
    おそらく、達したのは同時だったと思う。お湯の中に発せられた俺のものと、爆豪のものは、あっという間に混ざり合った。

    はあはあと荒い息の音と、シャワーの音だけがバスルームに響く。ぐったりとバスタブに寄りかかる俺の上には、これまたぐったりとした爆豪が乗っかっていた。なんだか、夢のような話だ。爆豪が俺の腕の中で、無防備にも射精の余韻に浸っているなんて。あまりにそれが甘やかで、俺は思わず馬鹿みたいな質問をしてしまった。
    「もしかして、爆豪も俺のこと好き?」
    気だるげに頭を振った爆豪は言う。
    「…さあな」
    てっきりそこで終わると思ったのに、爆豪は信じられないことを続けた。
    「…でも、お前とならこういうことしたいと思ってた」
    なんてこった。それって多分好きってことなんじゃないだろうか。いや、そうに決まってる。俺はきっと、満面の笑みだったのだろう。顔を上げて俺を見た爆豪は、露骨に嫌そうな顔をした。でもそれはきっと彼なりの照れ顔なのだ。(ということにしておく。)俺があまりに嬉しそうにしていたからか、ついには爆豪まで小さく笑う。そして、ぽつり、と言葉をもらした。
    「…お前は、それでいいんだよ」
    「え?」
    小さな小さな爆豪の言葉に耳を傾ける。シャワーの音にかき消されそうな、その言葉に。
    「だから、俺の隣でウダウダ悩むなってこと。お前はヘラヘラ、いつも能天気に笑ってればいいんだ。それで俺を…」
    「お前を?」
    「俺を…俺だけ見てろ」
    爆豪は本当はもう少しなにか言いたげだったけど、それきり口を噤んでしまった。
    だけど俺は笑って言う。
    「うん、わかった。お前のことずっと見てて、そんでお前がブチ切れそうになったら諭すし、なんかやりてーことあったら全力で助太刀してやる。そんなのできるの、俺だけだろ?」
    返事はない。だけど爆豪はふっ、と笑って、それから俺の顎をつかんで噛み付くようなキスをした。ご褒美の、キスをした。



    ここでお話は終了、でもよかったんだけど、俺たちは男子高校生で青春真っ只中のオトコノコたちなのだ。もっと色んなことしたくなってしまうのも、致し方ないだろう。この先は俺と爆豪の完全なる惚気話だから、まあ、気が向いた物好きなやつは見ていってくれ。ただし、誰にも内緒にしてくれよ。なんたってお互い初めてのエッチでどうしようもなく恥ずかしいことばかりだから。

    風呂で扱きあったあと、俺たちは髪を乾かすのもそこそこに、ほとんど裸のまま、ベッドの上で大の字になっていた。この部屋にはベッドがひとつ、なんていうエロい話みたいなことはなくて、ツインだったけれど、俺たちは同じベッドでくっつくように横たわっていた。とくに相談しあったわけでもなく、どちらともなく同じベッドに乗ったのだ。それが嬉しくて、俺は枕に顔を埋めてにやにやとしていた。まさか爆豪とこんなことできる日がくるなんて、ちょっと前までは想像もつかなかったのに。そうやってゴロゴロしているうちに、眠くなってしまうかと思っていたが、それだけではなかった。爆豪といちゃいちゃと(そうとしか言いようがない)お互いの体を触りあっていたら、またも、したくなってきてしまう。言ったら怒られるかな、と思ったが、俺の頭はとろんと惚けていて、思ったことがそのまま口に出てしまった。
    「ばくごー、もっとしてぇ…」
    返事なんか期待してなかったのに。
    「勝手にしろ」
    おそらくそれは、爆豪なりの全力のYESの返事なのだ。シーツに埋もれた耳が、明らかに赤い。信じられない反応に、俺は勢いよく上体を起こして、爆豪の上に覆いかぶさる。
    「も〜、可愛すぎるっていってんだろぉ!」
    「かわいいかわいいうるせえ! 俺のどこがかわいいんだ! アホか?」
    「そういうところがかわいいんだって!」
    ぐりぐりと、頬と頬を擦り付けあって、そのままの勢いでキスをしだしたら、本当にもう止まらなくなってしまった。爆豪の舌と俺の舌が絡み合い、唾液がシーツにぽたりと垂れる。酸欠になりそうだったけれど、俺は爆豪のことを離すつもりはなかったし、爆豪の方も負けじと俺の口内で舌を暴れさせている。キスってこんな獣みたいな行為だっけ、と疑問だったが、あいにく俺は今日、爆豪としたのが初めてだったのでそれは分からなかった。しばしキスが続き、ようやく口が離れたところで2人揃って荒い息を吐きながらベッドにぐったりと倒れる。だが、もちろんアソコはガチガチに勃ち上がっていた。
    「…なぁ、ばくごぉ、男同士ってどうやってやるんだろう。ケツの穴に入れるんだよなぁ」
    「…俺に聞くんじゃねえ。知ってるわけないだろ。つーか、女ともしたことねぇよ」
    薄々そうかなとは思っていたが、爆豪ならうっかり中学時代に経験済みかもという気もしなくはなかったので、その嬉しい情報に、俺は思わずにやりとした。
    「へぇー、そうかそうかぁ! 爆豪も案外普通なんだな。安心した!」
    「…殺されてえのか?」
    「違う違う! 俺も初めてだから、嬉しかったの!」
    「ちっ…。つーか、わかんねぇなら調べろよ。ケータイ持ってんだろ?」
    「はっ、確かに!」
    いそいそとベッドの横のローテーブルに手を伸ばして、ケータイをつかむ。えーと、なんで調べればいいんだろう。『男同士 やり方』かな。本当に出てくるのか半信半疑でポチッと気軽に検索ボタンを押した俺は、簡単に山ほどやり方を教えるページが出てきたことに驚いた。(世の中には、こんなに男同士のやり方を知りたい人間がいるのか…)唖然とする俺の手の中のケータイを、爆豪が覗き込んでくる。
    「なんか色々準備があるんだな」
    「…爆豪、お前、冷静だな…」
    俺はそういいながら、男同士でもどうやらコンドームが必要なことや、事前準備が必要なことに慄いていた。もちろんコンドームなんて持っていない。今日は出来そうもないことにショックを受けている俺に向かって爆豪は言う。
    「まあ、でもやりたいようにやってもいいんじゃねえの? ほら、ここ」
    爆豪が指さしたネットの中の情報には、『色々とやるべき事を書いてきましたが、本当に大切なのは相手を思いやる気持ちです。気持ちさえあれば、準備が完璧に出来なくてもきっと楽しい時間を過ごせるでしょう☆』と、なぜが異様にポップな語調で書いてあった。いや、爆豪、これは好き勝手やっていいですよって意味ではないと思うんだが。とはいえ、なにも道具がないわけだし、かといってこのまま寝れるわけがない。うんうん言いながら悩んでいる俺を見かねたのか、爆豪はベッドの下に手を伸ばして、床に乱暴に置かれていた自分のカバンから何かを投げてよこした。
    「それ使え。ただのハンドクリームだけどないよりマシだろ、多分」
    爆豪がそんなもの持っているなんて似合わなくてほうけていると、そんな俺の表情に気がついた爆豪は、照れくさそうにつけたした。
    「…手は大事にしてんだよ」
    「あ、そうか、爆豪の武器だもんなぁ」
    爆豪がここまでしてくれているのに、引くわけにはいかない。覚悟を決めた俺は、結局役に立たなかったケータイを放り投なげて、ベッドの上に正座をする。
    「よし、爆豪、やってみよう! 俺、頑張るわ! 優しくするから!!」
    「…俺が優しくされる方なのかよ」
    「あれ、違った?!」
    「…いやなんとなくそんな気はしてたけど」
    後から思えば、俺も爆豪も、ずいぶんな決断を軽々しくしたと思うが、この時はとにかく早くやりたくて、そんなことは些細なことに思えたのだ。(結局、このときの決定は後々もそのまま引き継がれて、暗黙のうちに俺が抱く方、爆豪が抱かれる方になった。まあ、そもそも俺は爆豪が可愛すぎて、抱くこと以外まったく考えてもいなかったのだけれど。)
    「よーし、やるぞ…うん…」
    爆豪の上に膝立ちで覆いかぶさった俺は、大きく息を吸い込んだ。そうして見下ろす爆豪の体は綺麗にしまっていて、だけど肌は雪みたいに白くて、あらためて見惚れてしまう。腹筋のよくついた腹は堅いけれど、頬はふにふに柔らかい。両手でそれぞれ、腹と頬をいじれば、爆豪はくすぐったそうに眉をひそめた。しばらくそんな風に爆豪の肉体を堪能していたら、なんだか苦しげな抗議の声が上がる。
    「だから、焦らすなって言ってんだろ…!」
    「あ、悪い。なんか楽しくてつい…」
    そう言いながら、俺はハンドクリームを手に取り、チューブを乱暴に押して、手のひらにクリームを乗せた。そして、そのまま爆豪の足の間に手を伸ばし、割れ目の奥にそっと指を差し込んだ。びくり。爆豪の体が、俺の下で跳ねる。まだ気持ちいいわけはないから、単純に驚いたのだろうけど、顔が真っ赤に染まっていたのにはとても興奮した。
    「ばくご、恥ずかしい…?」
    「う、るせっ…黙ってやれ…!」
    耳元に口を近づけて囁けば、吐息交じりの抗議が返る。いつもの性格からは考えられない素直さだ。こういうのを、体は正直って言うのかもしれないな、なんて、そんなことを思った。
    「指、入れるぜ…」
    「んっ…」
    わざわざ宣言したのはもっと照れる爆豪が見たかったからだったのだけれど、指の先がソコに入っただけで爆豪は身をよじりそうなほど、ふるふると震えた。
    「だ、大丈夫か? 痛くないか?」
    「るせぇっ…ささっと続けろ」
    この強情っぱりめ。なんて、俺もとても手加減してやる余裕なんかなくて、それからは夢中で爆豪のソコをほぐす事に集中した。爆豪中はとても熱くて、そして狭い。指一本押し込むのでさえ、とても苦労した。爆豪本人もやっぱり結構しんどそうで、息が上がっている。あのバカみたいなスタミナの爆豪でもこの反応なのだから、相当きついのもしれない。もう指を抜こうかな、と思ったところで、しかし爆豪の体が、今までとは明らかに違う反応をみせた。びくり、と、痺れるように腰が跳ねたのだ。
    (もしかして…感じた…?)
    驚いたのと、行為に夢中だったので、爆豪に具合を問いかけることもせずに、俺はソコを執拗に攻める。
    「ぁ…ばっか…んぁっ…そこ、やめろ…」
    「いや、やめねぇ。そっか、ここが気持ちいいんだ…」
    「くそっ…ぁ…んんっ」
    ふーふーと発情した虎のように荒い息をはく爆豪の表情は苦しげでいつもとあまり変わらないが、口元がほんの少しだけ緩んでいて、今にもよだれが溢れそうだ。そんな爆豪は今まで見たことがなくて、俺の興奮はぶっちぎりで限界を超えていた。自分の性器には触ってもいないのに、ぬるぬるしたものが溢れそうになっている。爆豪に気がつかれたら恥ずかしいな、なんて思っていたのが顔に出ていたのかもしれない。爆豪が俺のモノを乱暴に掴んだ。
    「いっ…!」
    「俺だけこんなにされてんのは許せねぇ。お前の、扱いてやる」
    「あっ、ちょっと、待っててば…」
    爆豪が俺の言うことを聞くはずもなく、すでにガチガチに勃っていたソコを乱暴にしごかれて、俺は悲鳴をあげた。
    「やべえって、爆豪…!」
    どうにか主導権を取り返したくて、俺は爆豪の中に突っ込んでいた指を、乱暴に2本に増やした。すると途端に爆豪の腰が引けて、ビクビクと痙攣するように震えた。まったく、エッチなことをしているというのに、どうしてこう荒々しくなってしまうのだろう。でも、いかにも俺と爆豪らしくて、嫌いじゃない。というか、むしろなんだかすごく興奮した。爆豪だって、どうやらほとんど同じような状態らしく、本人は気がついていないみたいだけど、腰をエッチに揺らしながら昂ぶった性器を俺の脚にグイグイと押し付けている。
    「まじで、もう限界…!爆豪の中、入れたい…」
    それでも、俺のモノをしごく爆豪の手は止まらなくて、やけになった俺は力づくで爆豪の手を振りほどこうとした。それが、いけなかった。爆豪の手が、俺のモノの1番いいところに引っかかって、その刺激があまりにもよくて、俺は爆豪の顔めがけて、思いきり、出してしまった。
    「うぁ…っ!!」
    同時に、俺の指が爆豪の中を強く引っ掻いて、爆豪の熱い精液が俺の胸に飛び散った。爆豪の中に少しも入れられずにイッてしまったのは悔しすぎるが、爆豪のことを指だけでいかせられたので、この勝負、引き分けって感じかな?

    2度目の射精に、今度こそ本当に精魂尽き果てた俺たちは重なり合ったまま、ベッドに沈む。風呂で出した時よりも余韻は長引いて、頭の中がなんだかぼーっとしていた。どうやら爆豪も同じようで、眠くて眠くて仕方ないといった感じの惚けた顔をしている。そんな爆豪が愛おしくて、髪を撫でてやれば、爆豪の細めた目がさらに蕩けた。
    そうやってずいぶん長い間、とくに何をするわけでもなく、ゆったりと気持ちよさに身を委ねていたけれど、ふと、気になったことがあり、俺は少しだけ身を起こす。
    「なぁ、そういえば、爆豪も俺とこういうこと『してもいいって思ってた』って、さっき言ってくれたけど、それっていつから?」
    「……」
    うつ伏せに寝転がって、枕に顔を埋めている爆豪は沈黙を保つ。あれ、もしかして。
    「も、もしかして、さ、それって結構前? えーと、例えば、昼休みにドッヂボールした日、覚えてるか? もしかして、それよりずっと前からだったり、する?」
    どうやら俺は核心をつくことを問うてしまったらしい。枕に埋もれた爆豪の首元が一気に赤く染まった。あれ、この反応ってもしかして。
    もしかして、俺って爆豪のハニートラップにまんまと引っかかったんじゃない?
    ななた Link Message Mute
    2022/07/10 18:21:53

    ハニートラップ

    切爆が付き合うまでのお話。

    爆豪にめろめろになった切島くんが悶々としていますが、最終的には両思いでえっちしています。
    お風呂でえっちする切爆ちゃんを書きたかったのですが、そこまでたどり着くまでにずいぶん長くなってしまいました。
    (pixivに投稿したものです)

    #切爆

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