「このタイトルおかしくねぇかァ」
「考えるな、感じるんだ」
「今回色々わかりにくいぞォ」
「お試し状態らしい」
「あっそォ」
「所変わればムードも変わる。それより聞いてくれ。先日同僚が口走ったんだ、”チャフ”と」
「Cギントンか」
「Tーマスだ。いやそうじゃない」
「すわミリ堕ちィ」
「かと思ったがあの男とうとう焙煎に手を染めたらしい」
「犯罪みてぇに言うな」
「当たらずといえども遠からずだな。夜な夜な眉間に皺を寄せた悪鬼の形相で豆を拾っているらしいぞ」
「遠いわ。しかしハンドピックかァ。気が狂いそうだぜェ」
「素人が手を出す分野ではない気がするな」
「仕入れの半分をゴミに出すシビアな作業だからなァ」
「だいたいでいい。だいたいで」
「どっちだよ」
「ッそ、どうなってやがるこのミニ付箋!あざとすぎんだろォ」
「得たのか」
「おゥ」
「もうプレ値ついてるな」
「発表と同時に即ポチ予約購入。抜かりはねェ」
「konozamaにも遭遇せず幸いだったな」
「ああ、最近またあるらしいからな。幸運の女神が俺に味方したぜェ」
「ドリンク各サイズ2杯まで50パーオフか。どうなんだ」
「1日で消費しそうな特典だがまァいい。使える物は有難く使わせてもらう」
「ないよりまし」
「言い方ァ」
「一寸の虫にも五分の魂」
「だいぶ違うな」
「難しいものだ」
「あ、言い忘れたが二人まで同時に使えるぞォ」
「ムフフ」
「え、今回俺も居んの?」
「そうらしいな。いつも適当だ」
「なんか3人だと毛色違わね?」
「もともと別のシリーズだったのをここに混ぜたらしい」
「これシリーズだったのか」
「口調しか共通点がない気がするが」
「まあいいやお前これ感想どうよ」
「薄くて酸味があって果物みたいな香りがする。お茶のようだな」
「こういうのあんまり飲まねえ?」
「一人では飲まないし、あいつは濃くて苦いのが好きだからな」
「あーわかるわかる」
「サードウェーブゥ?ブルーボトルゥ?俺はいつもの店のいつものブレンドだぜェとか言っちゃうんだろw」
「後ろにいるぞ、今」
「俺はクマァ」
「俺はバラだ」
「ロン毛の一つ縛りで連想したなァ」
「姉が美容院の後に寄ったときは おさげの女子を描いてくれたらしい」
「店員頑張ってるぜェ」
「ということはだ」
「おゥ」
「俺が丸刈りにして行くと彼はえなりのラテアートを描いてくれる。確実に」
「磯野だろ。坊主にすんのかァお前」
「してもいい。なにかこだわりがあって伸ばしているわけではないからな」
「俺も切るか?実家にバリカンがあるぞォ」
「DC時代を思い出すな」
「野球部かァ?」
「いやアーチェリー部」
「渋ゥ」
「お前くびれたアレは使わねえの?」
「こじゃれたトコはなんか置いてあるじゃん」
「穴小さすぎて手が入らねぇからなァ」
「奥まで手ェ突っ込んでガシガシやりてぇだろ」
「ふーん、そうゆうもん?」
「誰かに洗ってもらっていいだろ」
「いやお前、自分の道具くらい自分で始末するぜェ」
「俺はいろいろ女に洗ってもらうからいいや」
「タダでェ?」
「身体で」
「死ねよ」
エントランスを入ってカウンター前を横切った左手の奥。
壁に向かうカウンターは平日の昼もあまり人気がない。
黒い台の上には珍しく前の客のカップの水跡が残っている。
片手にカップを持ったままバックパックの脇からウエットティッシュを出しそこをさっと拭うと男は椅子に腰を下ろした。
当たり前のようにいつものカウンターに向かい、人もいない一角のひとつ左の椅子にバックパックを置く。
イヤホンをつける。携帯のプレイリストを見る。
束の間の無音の時間の後、耳の壁をくすぐるように低い音量で音が鳴り始める。
朝の心を呼び覚ますボーカルではなく、夜の心を揺さぶるサックスでもない。
ただ今の時間にふわりと漂っているようなピアノを耳に転がしながらマグカップの中身を一口含む。
幾つかファイルを開くと男は指を滑らせて目を通し始めた。
通知が来る。
開けば店の正面、ロゴのガラスに映り込むいつもの頭身。
イヤホンを外し、携帯をバッグのポケットにしまうと男は自分の椅子の背にバッグを掛け直した。
それから腕を曲げて少し後ろに開き肩と首を緩める。
首を後ろに折るとこきりと音がした。
少したって後ろから新しい芳香が近づいてくる気配。
良く知ったいつものビブラムが床を踏む音。
透明の板を挟んだ左にカップが置かれ、ぎしっと隣の椅子が軋んだ。
その声が言う。
「待たせた」
そう、フィクションです…。
Cメックスの使用感だけはガチである。