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    その目にどれだけ世界は異様に見えただろうか。忍の里を抜け、長閑の巷に身を置いた宇髄天元である。
    何の思惑もなく人の言葉を信じ、今を満喫して屈託なく日々の暮らしに勤しむ人間の群れ。宇髄は彼らを呼ぶ。のほほんと地味に生きている一般人と。彼が、いや彼らが今身を置くのはそんなそれまで生きた世界とはまるで違う論理の内なのだ。鬼殺隊に入ってさえ彼らの立つ位置は容易に変わらない。死ぬなよと言った宇髄をぽかんとした顔で見る女房達。宇髄が思う在り方に彼女らはまだ届いてさえいないのである。「そういう自分が嫌じゃなければそれでいい」と言う雛鶴はまた少し違った生き方を感じさせるけれども。

    8巻での登場シーン、あれが生来の宇髄のロジックなのだ。カナヲに言った「お前は先刻指令がきてる」という言葉。そう、ほとんど総ての隊士には絶えざる任務の指令が来る。怪我が治りきっていなくともである。では自由に使えそうな女は何処にいるか。蝶屋敷である。子供ならば禿に使える。年上なら遊女に化けられるだろう。須磨が嫁に来たのは11の時だ。隊で働く女たちなら使わない理由はない。自分は柱だ。隊のトップなのだ。しかし幼い少女は隊士ではないという。ならいらね(ポイー)。なんかこうるさいオスガキどもが現れて騒ぐ。いや、使えねえ女よりはこっちがましか。あっそォ、よしこいつらを使おう。お前ら俺に付いて来い。神を名乗りながら遊郭に移ってからも宇髄の焦りの色は濃い。もう死んでるんじゃねぇのと言った伊之助をぶん殴り、善逸に言った言葉は「まず俺の嫁を探せ」だ。手段は択ばない、部下は道具。かつて断ち切ったはずの論理に立ち戻る、それほどまでに彼は恐れたのだ。妻たちを失うことを。

    宇髄にとって身内とそれ以外には絶対的な差が存在している。彼が里を抜けたのは、恐らく人を殺める罪悪感などではなく直接的には父の暴走で兄弟を自分が手にかけたからである。そうして生き残った弟に刃を向けられ彼は里を抜けた。三人の女房を連れて。父のような、弟のような、あんな人間にはなりたくない。自分が父を殺すべきだった。そう逡巡し彼が地獄へ落ちるというときそれは身内をその手にかけたことを指すのだろうと思う。忍をやめ鬼狩りにその道を移しても、宇髄にとって自分の在り方に直結し影響を与え得るものは縁者のみであったといえるかもしれない。鬼殺隊に受け入れてくれた産屋敷を除いては。名だたる忍が主君を選ぶように、彼は鬼殺隊を択びとりそこに籍を置いた。

    そして、やがてそんな己を見直す瞬間が来る。「お前たちには悪いことをした」そう言って宇髄は一人で戦うことを選んだ。妻たちを死んだものとみなし「俺は、煉獄のようにはできねぇ」と思いながら。大口を叩きがちだが自分の力量はよくわかっていると悲鳴嶼に評された宇髄である。どれだけの無力を感じながらその言葉は発せられたことだろう。口先よりも胸を張って、そうして悪化するばかりの状況の中かつての論理と訣別する覚悟を決めた時、しかし彼は独りではなかった。撤退の命令に従わず作戦に失敗した指揮官を見捨てない部下。彼らが生きるのは掟ではなく打算でもない、ただ燃え上がる心情である。亡き煉獄の生き方が彼らの精神的な支柱だ。かつてあった熱い意志が、今度は宇髄を救ったのである。それまで己の中に身内との繋がりしか実感することのできなかっただろう宇髄に、その「他人」の想いはどれ程強く響いただろうか。福音であると同時にそれは一面では宇髄にとって軛からの解放でもあったかもしれない。他人がもはや他人ではなく大切な何かになる時、それはまた大きな力となって後生に届く。

    ライビュで小西さんが「彼には二つの世界がある」的なことを言ってくれたのが非常に嬉しかった(うろです)。二つの世界を一つの目で見る。それを、あの物語の中で真に理解できたのはひとり産屋敷耀哉をおいて誰があっただろうか。明るく、生きるものが鬼の為に誰も死なず傷つかず安んじて生きていける世界を招来するために、目の前に見るのはその手で子供と呼ぶ隊士を鬼の支配する闇に送り込み続ける地獄のような現実。その矛盾に耐え切れず父親は自害した。鱗滝老の、桑島老の、総ての育手の中にもきっと存在したであろうその矛盾。世界を二つながら生きる産屋敷が宇髄にかけた言葉は、そのまま自分の心の奥底から出ずるものであったのではないだろうか。違う世界を生きることの困難さ。もがきつつそれでもぶれない思いを持ち続けること。その人が抱く内面を少しずつ少しずつ零してゆく様を鬼滅はいつも鮮やかに見せてくれる。そんなことを思いながら今日もまた始まった刀鍛冶編を見ているこの頃である。誰も彼もいわゆる底抜けの善人などでは全くなく、ただ一個の必死な存在であり己の人生を歯を食いしばって生きているだけだ。記憶を保持できずそれでもただ鬼は倒さねばならないという思いだけが心にあり日々を生きている時透。のほほんと生きている一般人、そう呼ばれたその中にも誰も知り得ないどんな思いがあることだろう。自分にとっては小鉄少年の「ブウ」が刀鍛冶編の白眉である。遥か昔から描かれ続けた偉大なる王道、誰かの想いが誰かに届き、人が変わり、世界が動くその瞬間が本当に好きだ。(むいこてではないです…)


    るげ Link Message Mute
    2023/04/15 22:45:32

    個人的な宇髄読み直しまとめです

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    👹つれづれ
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