呼び出してきたのはそっちだ。
他にも沢山仕事はあったけれど、ヒソカが一番いい額を言ってくれたからわざわざ来てあげたというのに、何度呼びかけても起きようとしない。
わざと眠ったふりをしているのかと思ったがどうやらそういう訳でもないらしい。ヒソカにしては珍しく熟睡している。
しょうがないな、と思いつつ体を揺すってまた声をかけてやるとようやくヒソカは目を覚ました。
ゆっくり瞼を開け、俺の顔をまじまじと見、三秒ほど間を開けてからうわぁ!とらしくない声を出して飛び起きる。
「何驚いているのさ。呼び出したのはそっちだろ」
「い、イルミ…さん」
「…はあ?」
さん付けにも驚いたが俺を見る目にも驚いた。体をがくがくと震えさせ、怯えきった表情をするヒソカだなんて気色悪いにも程が有る。
俺を気持ち悪がらせる為の演技なのだろうか。前からヒソカが俺の無表情っぷりをどうにかして崩したいと零していたのを思い出した。
だとしてもこれは流石に気持ち悪すぎる。俺の顔は相変わらずいつものままだが腕はほら、こんなにも鳥肌立ってしまった。
「ふざけてないでさっさと仕事の話してよ。俺はヒソカと違って暇じゃないんだから」
「は、はいすみません!」
「…だからその喋り方やめてよ、気色悪い」
苛立った俺がまだ震えているヒソカの頬をぎゅっとつねると、痛い痛いと涙目になって情けない声を上げる。
いつもならもっと強くだのなんだの気持ち悪い言葉を吐きながら喜ぶのに、今日はずっとこのふざけた演技を続けていくようだ。
一度おもしろそうだと思った事をヒソカは途中で止めたりはしない。これはもう此方が折れるしかないと気づいた俺ははあ、と溜息を吐いてヒソカの頬を離した。
抓り過ぎてすっかり赤くなってしまったそこを何度も擦りながらヒソカが震えた声で話しだす。
「除念師を、紹介してください」
「…なんでまた」
「今日の僕の喋り方、変だと思いませんか?」
「変だよ。吐き気がするぐらい気持ち悪い」
腕を組んで少し睨みつけてやるとヒソカがすっと俺から目を逸らした。何もそこまで言わなくてもだのなんだの、ぼそぼそ呟いている。
俺はいつの間にかベットの上で正座していたヒソカの隣に座って話の続きを促す。
「昨日戦っている時にわざと相手の攻撃を受けてみたら、どうやらこんな風にする能力だったみたいで…」
「全然意味が分からないんだけど。こんな風って何?」
だから、こうです。と両腕を広げて俺を見るヒソカだがその体はやはり震えたまま。しかも少し顎を引いて俺を見ているもんだから若干上目遣いになっているのがまたムカつく。
「本当はいつも通りに喋っているつもりなんですが、勝手にこんな喋り方になってしまうんです」
「…じゃあ何、本当は『勝手にこんな喋り方になっちゃうんだよね♠』とか言ってるの?」
「そうです!僕の真似、お上手ですね~」
うわっ、きもちわるっ。
ニッコリほほ笑んでパチパチと拍手するヒソカ。普段のヒソカでもこういう行動を取る時があるけれど今日のそれはいつもと違って爽やかな、全く悪意のない笑みなところが物凄く気持ち悪い。
話はだいたい分かった。
気持ち悪いけれどこれはこれで面白いから放置しておきたいと俺は思ったが、ヒソカはそこそこいい額をちゃんと振り込んでくれるそこそこ良い客だ、断って機嫌を損ねたくはない。
「しょうがないな…じゃあ、俺の知ってる除念師連れてきてあげるよ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「先に言っておくけど、メールで言ってた額の倍は払ってよね」
「はい勿論です!」
…ああほんと、いつものあの傲慢で気狂いで変態なヒソカは何処へ行ったんだ。これじゃあ何だかこっちの調子が狂う。
そう、思ったところで自分はあのいつものヒソカをそれなりに気に入っていた事に気が付いて悔しくなった。
変人を気に入ってしまうなんて、それじゃあまるで俺も変人みたいじゃないか。こいつと一緒だなんて御免だ。
「じゃあ、明日の昼に、此処で」
「はい、ありがとうございますイルミさん」