聞かれたか、と魔王はどこか恥ずかしそうに笑った。神殿の巡回中、覚えのある声を辿ってみれば、覚えのない歌に辿り着いた。
とても印象的な旋律だ。フィスカが感想を伝えると、ほおの喜びに陰が差した。
「ただ、この続きが分からんのだ」
どこで聞いたのかも思い出せない、と彼は肩をすくめる。「私もお探しします」と言えば、「歌を探す?」と高い声で笑った。
そんな約束をしたのはいつだっただろう。覚えのある旋律を、覚えのない、それでも馴染んだ声が辿っていく。
なくしたものはきっと、いつもそばにあったのだろう。倒れてもなお伸ばしていた手は、求めていた形を確かにつかんでいた。
歌の続きを遮らないよう、フィスカは静かに槍を置いた。