蝶を追って、小さい手が空に伸ばされる。
落とさないよう抱え直し、子供が望むままに生太は蝶の後を追った。
木々の間からちらちら木漏れ日が差し、ひらひら舞う蝶の軌跡を飾り立てている。
つかず離れずゆっくりと歩を進めれば、頭上から絶えることなく好奇と喜び、落胆の声が高く響いた。
春だと思う。
季節も、自分も。
木漏れ日は僅かずつ体を蝕むが、辛いとは感じない。
蝶の羽ばたく先で森が終わり、その向こうには確か花畑があったはずだ。
花と蝶の楽園を見て、頭上の子供はどんな反応を示すだろう。
太陽のような笑顔を見せてくれるだろうか。
「目ぇ、つむっててください」
勿論子供にそんな我慢ができるはずもなく、生太は片手でそのつぶらな目を隠す。
「やーぁ!」
嫌がりながらもはしゃぐ声に、自然と口の端が緩んだ。
あやしながら歩くうち、光が増え、森の終わりが近づく。
( 明るいなぁ )
恋しさを通り越して憎しみすら抱いていた太陽を、今はただ、そう感じる。
そうしてくれた存在を、ただただ愛しく思う。
「もうええですよ」
手を外してやれば、子供の目にはどこまでも広がる花畑。
歓声をあげて降りようとする体をしっかりと捕まえ、迷うことなく生太は走り出した。
笑い声と、もっとと強請る声。
いつしか自分も笑い声を上げながら、吸血鬼は太陽の下を走り続けた。
ちなみに太陽の下でもある程度は活動できますが、めっちゃくちゃ消耗します。
ので、ちーちゃんを寝かせた後でぶっ倒れる羽目になります。