どこかの街にて
病院の敷地内、人目につかない場所でぼんやりとタバコをふかす渡海。
「やっぱりあなただったんですね」
聞き覚えのある声に振り返ると、ニコニコと笑いながらこちらに歩いてくる高階がいた。
「…なんでここに…」
「先日の論文、見させていただきました」
「なんの話だ?俺は論文なんて…」
「こちらの大学教授の論文、あのオペを実際に行ったのはあなたなのではないか、と」
「当てずっぽうでこんなとこまでか?ご苦労なこったな」
「そう…佐伯教授が仰って。」
にっこりと笑う高階に、嫌そうに目を閉じて空を仰ぐ。
「渡海先生、ひとつ、賭けをしませんか?」
「?」
「もし、あなたの一番弟子である世良くんが、いい医者になったら…あなたは自分を許してもどってくる、と」
そんなのは賭けにならない、そう言おうとして思い留まる。自分に師事した世良を、途中で放り出して逃げるように去った負い目がないとは言えなかった。
「ふぅ………分かったよ…」
「よかった。だ、そうですよ?世良くん」
顔を上げるとそこには今にも泣き出しそうな顔で佇む世良がいた。
おわり。