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    2-14 遺されしもの──
     思い出すのは緋色の世界。負った傷から流れる血で霞んだ世界で朧に見えたのは、傷付いた優しい人の姿。美しい羽があった筈の場所には深い傷が刻まれている。恐らく、もう彼の羽は二度と──
    「ごめんなさい……」
    何度も何度も繰り返す。僕に出来ることはそれだけだったから。
    「……気にしなくていい……君のせいじゃない……」
    そんな僕の頭に、優しい手が触れた。
    「だって僕を庇ったんだもの……僕のせいだ……僕は関わることでみんなを不幸にしてしまう!」
    「ロキ……そんなこと……言わないで。少なくとも俺は……君と出会えて良かった……」

    その言葉は優しくて、だけどそれ故に痛くて。だから僕は、彼の手を振り払うことを選んだんだ──

    ──
    「ロキ君?だいじょうぶ?」
    「ん……」
     ニブルヘイムの白氷牢塔。一度入れば二度と出ることはかなわないとされる檻。その最上階の部屋で、ロキは目を覚ました。
    「だいじょうぶ、って何でだ?」
    ロキの問いに、イーサは鏡を差し出す。目が少し赤くなっていて、頬が濡れていた。
    「ああ、大丈夫だよ。……昔の夢を見ていただけだから」
    「……昔?」
    イーサはきょとん、とした顔で聞き返した。
    「そういや、お前には昔の話とかしたことなかったよな」
    ロキはそう言うとおもむろに朝食の準備を始めた。
    「そうだね──」
    イーサもそれに倣って鍋を鉱石コンロにかけ、茶葉の準備をする。
    「ロキ君、昔の夢見た時はいつもうなされてたし、触れちゃいけない話題みたいな気もしてたからね」
    「い……いつも?そんなに頻繁に?」
    「うーん、そこまで頻繁でもないよ?けど、それっぽい夢を見てるときはいつも同じ言葉を繰り返してたから」
    「……同じ言葉、か」
    焼き上がったパンをテーブルに置いて、ロキは溜め息をつく。
    「……うん、ごめんなさい、ってずっと……」
    「やっぱり……そう、だろうな……あ、お湯が沸いたみたいだな」
    ロキはそう言うと会話を切って、鉱石コンロから鍋を降ろしポットに注ぐ。ふわっと紅茶のいい香りが舞った。
    「……ロキ君」
    「……後で話してやるよ。お前も感じてるんだろ?」
    ロキの言葉に、イーサは小さく頷く。
    「そうだね。……誰かがここに来る。そして解放の鐘を鳴らすみたいだよ……」

    ──
    「……寒いっ!」
     精霊界の北の果てに位置する万年氷に覆われた大陸、ニブルヘイム。遥か昔に存在したとされるユミルの一族ー巨人族が住み、また精霊の始祖のひとりアウドムラが生まれたとされる場所。今は白氷牢塔が佇むだけで、住む人はいない。ただ、静寂と白に支配された世界。その中でその建物だけがひどく異質だった。

     白氷牢塔。ユミル一族とドウェルグ達により今は失われた技術で造られた建造物。建てられてから千年は経過していると思われるが、廃墟、といった要素はどこにもない。変わらずにそびえ立つ尖塔。その頂上で時を告げる鐘。回り続ける大時計。壁には一筋のひびも入っていない。恐らく、すべてが当時のままだ。
    「とりあえず、入ってみよう」
     シュリがそう言って扉に手を触れると、扉はひとりでに開いた。
     そして玄関にはひとりの男性がシュリ達を出迎えるかのように立っていた。
    「ずっと、いつかこんな日が来るのを、僕は待っていました」
    金色の髪と空色の瞳。少し尖った耳の男性はそう言って柔らかく笑った。
    「あなたは?」
    「僕はリューです。……正確には彼の思念の残滓。この場所に遺された彼の『想い』に呪文で形を与えたもの」
    「思念の残滓?じゃあ、あんたはもう……」
    クルクの問いに、リューは悲しげに頷く。
    「はい。僕はもう生きてはいません。今から15年前、この場所で僕は死にました」
    「あ、あの、もし私の記憶が確かならその頃って確か闇精霊の反乱時期じゃ……」
    「……はい」
    リューは小さく頷く。
    「……じゃあ、あなたは闇精霊側についていたの?あ、あのね咎めるわけじゃないの。でも……」
    「……その辺りは俺が話すよ。よく辿り着いたな。シュリ。」
    「……思念を遺していて良かった。まさか君にもまた会えるなんてね。バルドル……いや、ルグ」
    「おい、ジェンティアでの偽名をばらすなって」
    「ふふっ」
    「えーと……」
    バルドルとリューはシュリ達の視線に気付いて話を切った。
    「ああ、悪い悪い。俺とリューは親友なんだよ」
    「正確には親友だった、だけどね。ほら、僕はもう存在してないし」
    「お前なあ。俺はお前が生きてようが死んでようがずっと親友だと思ってるからあえて過去形にしてないの察しろよ」
    「あ、なるほどね。さて、話を本題に戻そうか、バルドル」
    「そうだな。ここに囚われてるのはロキーあ、俺の彼氏とユミル一族の最後のひとりとされているイーサ・ユミル。 このふたりについて俺たちの知っていることを話しておくよ」
    「まずは、僕たちもそうは言ってもあまり詳しくは知らないイーサ君の方から」

     バルドルとリューがイーサについて語ったことは次の通り。
     今から15年前に闇精霊の王とその妃が光精霊ミトラに反旗を翻した。その戦いの中、苦戦を強いられた光精霊のある一派は禁忌とされた術を使ってユミル一族の魂を蘇らせようとした。嵐の巨人、岩の巨人、霜の巨人、炎の巨人。かつて精霊界にいたとされる力と智慧の持ち主達を。(ふたりいわく巨人というのはユミル一族に対するある種の尊称のようなものであり、実際に背が高いというわけではなかったとか)
     その中で唯一成功したのが霜の巨人「イーサ・ユミル」の魂を持つイーサだと。彼は生まれた時からこの白氷牢塔に囚われ、地下の実験室で何度も実験を繰り返されていたらしい。光精霊の一派はイーサの持つ「ユミルの記憶」を抜き出して自らのものにしたが、その記憶に記されたものを使いこなせず自滅した。そしてその一派が滅びた後は、光精霊たちから蔑まれ、いわれのない罪の元に虐待され続けたと。
     しかし、それに気付いたミトラがそれらの行為をすぐに禁止し、また、行為を行ったものたちを厳罰に処した。それでもイーサを守るためにずっと、白氷牢塔に軟禁しているのだと。

    「何と言うか……犠牲者なんですね。イーサさんは……」
    アルヒェの呟きにリューは睫毛を伏せる。
    「そうだね……僕もバルドルもその一派とは無関係じゃないから」
    「……まあな。まあ、もう遠い昔のことだ……今は話を進めよう。次にロキについてだけどな。彼はこいつのー」
    「ロキは、僕の子ども。正確には僕とスカアハのね」
    「え?」
    リューの言葉に全員が息を呑んだ。
    「……スカアハって……あの?」
    「そうだよ。君たちにとっては敵だろうけど、つまらない昔話だと思って聞いて欲しい」
    そしてリューは静かに語った。

     闇精霊は元々ドウェルグやユミル一族に近い存在であり、そのことにより光精霊達よりは下とされていた。
     光精霊が「白き者」と呼ばれていた頃、彼らは「黒き者」と呼ばれていた。ただ、「白き者」の系譜は様々であり、「黒き者」たちと親交のあったユミル一族の血を引く者もいた。彼らは「黒き者」と恋に落ちることも、子をもうけることもあった。リュー自身もまたほんの少しだがユミル一族の血を引く者である。
     ある日彼は闇精霊の王女スカアハと出会う。彼女は美しく、物静かな女性だった。リューは彼女に一目惚れしてしまい、少しずつ文を交わすことで仲良くなっていった。そして彼女の苦しみを知った。
    「リュー。わらわはわからぬ。どうして「黒き者」というだけで怖がられてしまうのじゃ。わらわは何もしてはおらぬのに……」
    「そうだね。君はこんなに優しいのに。そもそも「白き者」も「黒き者」も同じ精霊であるはずなのにね……」
     だから、その証を遺そうと思った。
     スカアハとリューは生まれて来る子が「白き者」と「黒き者」の架け橋になることを祈り、ロキを産んだ。
     「白」と「黒」が出会って生まれたどちらでもない「灰色」。それは新たな可能性だと信じて。
     だが、穏やかな時は長くは続かなかった。スカアハの両親が反乱を起こすと、リューとロキは白氷牢塔に囚われ、まもなくしてリューは死んだ。遺され、絶望したスカアハは反乱に加担し眠りの罰を受けることになった──

    「そして、その後はな」
     遺されたロキを危険視した者達は彼を殺そうとした。しかし、バルドルはリューの遺志を継ぎ、彼の育ての親となった。
    色々な事情でバルドルに逆らえる者は多くはなく、ある程度ロキが育った後は「彼氏」と言いふらすことによって彼を守った。
    バルドルの大切な存在、となれば手を出せる者はいないと考えたからだ。保護呪文もしっかりとかけた。
     しかし、あるとき事件が起きる。とある事情で人間界に出向いた時。モンスターに襲われたロキを庇ってバルドルは深手を負う。 精霊界に戻った彼に告げられたのはロキの処刑だった。何でも、故意に傷つけたと自白したからとのことだった。バルドルは根性で3日で傷を治すと、あの手この手で関係者を説得し、何とか白氷牢塔での幽閉に留めた。ロキに脱出の可能性と、未来への可能性を残すために。
    「そして、今に至るってわけだな」
    バルドルは話し終わると、ふう と大きな溜め息をついた。

    「へえ。なるほど。だからボクは軟禁されてたんだね。納得」
    「おい、イーサ!立ち聞きしてたのバレるだろ……って……」
    階段から急に姿を現した黒髪の少年と、薄紫色の髪の青年はシュリ達に気付いて足を止めた。
    「……バ……バルドル……さま」
    「やあ、ロキ。それにイーサも」
    「す、すみません!立ち聞きとかしてしまって。いや、僕はそんなつもりじゃ」
    しどろもどろになっているロキを、バルドルが優しく制す。
    「気にしなくていいよ。というか聞いてもらってた方が色々手間が省けるし」
    「は、はい」
    「それより、リュー。お前見せたいものというか渡したいものがあるんだろ?自分の子どもに。行って来いよ」
    「あ、うん。ロキ君、僕はリュー。覚えてないだろうけれど君の父親だよ。時間がないから着いて来てくれるかな?」
    リューはそう言ってロキの手を引く。
    「あ、は、はい」
    ロキはリューに連れられて白氷牢塔の奥へ姿を消した。

    ──
     ロキがリューに連れて来られたのは白氷牢塔の地下牢の一室だった。薄暗く、冷たく窓はない。静寂だけが支配する、墓標のような部屋が立ち並ぶ世界。空気の重さに、ロキは顔をしかめる。
    「ごめんね。だけどここに渡したいものを封印しておいたから」
    リューはそう言うと小さく呪文を唱える。床が開き、床下から銃が出て来た。
    「これは?」
    「魔石銃。鉱石の力を呪文によって変換して弾として撃ちだす銃だよ。ドウェルグが僕に与えたものだった」
    リューはそう言うとそれをそっとロキの手に握らせる。
    「これは君のものだよ。これから先、君が道を切り開く助けになるはずだから」
    彼が安心したかのように目を閉じると、その体が透け、揺らめき始めた。
    「もう時間だね。良かったよ。僕の唯一の心残りは生まれて来た子と言葉を交わせないことだったけど、それも叶った」
    「待って下さい!まだ僕は……!」
    伸ばしたロキの手はただ、空を切る。
    「ロキ。君を愛しています。僕もスカアハも。だから自分の信じた道をいきなさい。そして幸せに、ね」
    「……父さん……」
    壁に遺されていた文字は、涙で霞んでよく見えなかった。

    ーI Epoh Ruoy Om SSenipahー
    君の幸せだけを、願っています
    晶月翠羽@絵仕事募集 Link Message Mute
    Oct 13, 2018 3:38:31 PM

    2-14 遺されしもの

    あらすじ
    白氷牢搭に辿り着いたシュリ達はリューとバルドルからある昔話を聞かされる。
    そして遺された想いは、受け継がれていく―

    ##FCAS #ファンタジー #一次創作 #小説 #異世界FT #オリジナル

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