イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    月語りの魔女と泡沫の欠片 前日譚1

    ――昼の世界は、私には冷たすぎた。あまりにも生きづらくて、あまりにも苦しくて。何故普通の人々は昼に活動できるのかがあまり理解できなかった。
      感覚過敏、と言われるものがある。簡単にいえば普通の人の倍の刺激を普通のものから受けてしまうこと、と言えばいいのか。
     太陽の光は、カメラのフラッシュのような眩しさでめまいがする。
     冷房は体の芯まで冷え切って、酷い時には体温調節が狂って、発作を起こす。
      人の声があまりにうるさく聞こえて苛立ちがおさまらず、食感や匂いがダメで特定のものしか口にはできず、強い匂いでは頭がくらくらし、普通のマーカーですらアルコールのものは使えない。
      夜中の風の音にさえ目が冴えて、眠れないし、雷雨になってなろうものなら寝不足は確実だ。
     洗剤を使えば手荒れが酷いし、ともう言い出すとキリがない。
     もしも読者に私と同じ感覚過敏の方がいるならば、わかってもらえるかもしれない。

     そして、そうでない限りは間違いなくこう言われるだろうし、思うだろう。
    「気にしすぎ」「わがまま」「甘え」「我慢しろ」と。
    感覚過敏という現象の何が辛く、難しいかといえばあくまでその痛みも苦しみも感覚過敏の当事者だけのものでしかないので、周囲に伝わることがない点だ。
    心のない言葉だけを投げつけられて、私も生きてきた。

    本来は人間は昼を好むものかもしれない。明るくて、太陽の光に照らされた眩しい世界。神話にしたって大体夜は闇と結びつくし、怪物や幽霊やらの怪談や言い伝えには事欠かないだろう。
     しかし、現実問題として、私のような人間には昼こそが地獄だ。刺激が強すぎる。その点夜はいい。世界が眠ってしまうから、静かで、どこか時間の流れも緩やかで何より刺激が少ない。
     だからこそ、私は「魔女」になることを選んだ。

    ――
     生まれ故郷から離れた海の見える街の丘の上にひっそりとたたずむレンガ造りの小さな家。壁に蔦が巻き付き、古びたプレートに刻まれた名前は、「月読古書店」。今の私が店主であり、「二代目魔女」を名乗る古書店だ。

     運命とは不思議なもので、数日前にたまたま古本市に出かけていた私に、ひとりの男性が声をかけてきたのだが、その男性こそが古書店の店主だったのだ。
    「月が、好きなの?」
    「好きです。私は昔から月と太陽なら、太陽ではなく月派なんです」
     その時手に持っていたのは月の民話と美しい写真が納められた一冊の本。表紙の満月と海の写真が美しくて思わず手に取ったのだった。
    「そうか。確かに君の髪はぬばたまの黒髪……夜のような色をしている」
    「え?」
     そんなことを言われたのは初めてで、顔が火照るのがわかった。どちらかといえば伸ばしっぱなしのこの髪と前髪のせいでろくでもないあだ名をつけられる方が多かったから。
    「夜に愛されし、月の魔女」
    「そ、そんなの月にも魔女にも夜にも失礼ですから!」
    店主はそう言って微笑むと、じっと私の目を見つめる。
    「私は、実は魔法使いなのだよ。月に愛された、ね」
    「あ、あの、えっと」
    店主はそう言うと、
    「信じていないね?では、後で証拠を見せてあげよう。その代わりといっては何だが、店番を手伝ってはくれないかな?」
    「あ、はい」
     よくわからないけれど、とりあえずもう全部のブースは見終わったし、手招きされるままに私は店主の隣に腰を下ろした。
     遠くの空から雲が近づいているのが見えたので、雨宿りも兼ねて。十数分後。思っていた通りに雨になり、私は本をテントの中に運び込んでいて正解だったと確信した。
    「うん、昔から嵐は魔女と結びつけられ、月もまた雨と結びつけられている。それはそうと、紅茶でもいかがかな」
     いつの間に淹れたのか、ベルガモットの香りの紅茶の入った紙コップを渡される。雨になると気温が下がるので、その温かさは心地いい。
    一口飲んで、尋ねてみる。
    「貴方、本当に魔法使いなんですか?いや、格好や雰囲気はとてもそんな感じなんですけど」
     店主の着ている服は魔法使いが着ているようなフードつきローブで、インナーのベストには魔法薬に見えなくもないような鮮やかな色の液体のペンダント。ヘアピンには歯車と羽があしらわれている。
    「おや、信じていない?」
    「そりゃ、もちろんそうですよ……今二〇二〇年代なんですからね?」
     店主を改めて見ると、どうみても魔法使いのコスプレにしか見えない。銀色の髪に夜の色の瞳は、今の時代カラーコンタクトやウィッグもあるし、染めることだってできるのだから。
    「うん、まあそれが自然な反応だけど多分、君はそういうのが好きな人だよね。月音さん」
    「え、どうして名前」
     少なくとも初対面の店主に名乗った覚えはないのだが。
    「未来が見えるとか予知能力があるって言えばいいのかな。夢で見たとおりだから」
    「夢、ですか」
    店主はそう答えると、
    「別に私が魔法使いだって信じてくれなくてもいいんだよ。ひとつだけ訊くけど、月夜だけ開く古本屋、ってときめく?ときめかない?」
    「ときめきますけど」
    「それじゃあ、決まり」


     次の瞬間、世界がぐらりと歪んだ気がした。
    (な、何?)
     雨音が遠ざかる。思えばこの時の答えが、すべての始まりだったのだ。
    上月琴葉@絵仕事募集 Link Message Mute
    Mar 25, 2020 5:30:39 AM

    月語りの魔女と泡沫の欠片 前日譚1

    #オリジナル #一次創作 #ファンタジー #小説 ##月語り  #魔女  #感覚過敏

    生きづらさを感じる全ての人へ、声なき声を物語に変えて。
    これは月語りの魔女の紡ぐ、竜と魔女の童話――

    製本版はこちらよりお求めいただけます
    https://sikisaimusou.booth.pm/items/1243580

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品