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    奇跡 むかしむかし、ひとりのまほうつかいがいました。
     そのまほうつかいは、いろいろなまほうをつかってひとびとをえがおにしていました。
     まほうでばしゃをうみだして、ひとびとをはこびました。
     まほうでとりやにじをうみだして、ひとびとをたのしませました。
     まほうではなをうみだして、ひとびとをよろこばせました。
     まほうつかいのおかげでひとびとは、しあわせでした。まほうつかいも、しあわせだったでしょう。
     でも、まほうつかいのちからをおそれるひとびともいました。
     まほうつかいのちからをおそれるひとびとは、きょうふのこころにまけて、まほうつかいをくにからおいだしました。
     まほうつかいは、ひとりぼっちになりました。
     そのまほうつかいがいまどうしているのか、それはわからないままです。



     サフィラは金髪碧眼の容姿を持つ、真面目で優しい子だ。しかしずっと両親に大事にされて屋敷で過ごしていたので、世間知らずなところがあった。
     その日は屋敷の中は普段通りで、普段と変わらない夜になると思われた……のだが。
    「にゃ〜」
     サフィラが彼女の趣味である読書をしている時に、不意に鳴き声が聞こえた。サフィラが声が聞こえた方を見ると、窓の外に一匹の猫がいた。
    「にゃ〜にゃ〜」
     猫はサフィラを誘うように鳴き続けている。不思議に思いながらもサフィラは窓際に近付いた。
    「にゃ〜にゃ〜」
    「……静かにしてください」
     猫がうるさいのでサフィラが注意するが、猫は鳴き止まない。……このままではお姉様が起きてしまう。早々と眠った姉の事を思って、サフィラは窓を開けた。猫を手で追い払うつもりだったのだ。しかし窓を開けた瞬間に猫がサフィラに飛び掛かり、サフィラが耳に常に付けているイアリングを奪った。
    「あっ……!」
     猫はサフィラのイアリングを口にくわえたまま、走っていってしまう。
    「どうしましょう……お姉様がくださったイヤリングが……!」
     サフィラはイヤリングをとても大切にしていた。サファイアの石がはめられたそれは、唯一の姉から貰ったもので、姉が常に耳に付けているイヤリングとお揃いだった。
     サフィラの行動は早かった。彼女の頭からは勝手に屋敷から出たら親に怒られる事は吹き飛んでいた。奪われたイヤリングを取り戻したい、その一心からサフィラは窓まで飛び上がり、外に出て猫を追い掛けた。
    「待ってください!」
     猫はどんどん遠くへ走っていく。サフィラは猫を見失わないように必死に追い掛けた。

     サフィラが気が付いた時には、彼女は見知らぬ場所に迷い込んでいた。
    「……何処でしょう、此処は」
     屋敷から殆ど出たことがないサフィラは外の世界を知らない。辺りは暗く、サフィラが不安になりながら歩き続けると、彼女の視界に光が差し込んだ。
    「わ……」
     サフィラは思わず感嘆の声を上げる。彼女の視界には、夢のような町並みが広がっていた。シンプルな形をした建物が大きな月に照らされてキラキラと輝いている。それはまるで、サフィラが幼い頃に読んだお伽話の中の世界のようだった。
     サフィラが目の前の光景に見惚れていると、彼女が追い掛けていた猫が戻ってきてサフィラの肩に乗り、サフィラに口元を近付けた。
    「……イヤリング、返してくれるのですか?」
    「にゃ〜」
     猫からイヤリングを受け取って、サフィラはホッと息をつく。イヤリングを耳に付けて、サフィラは再び夢のような町並みを見た。
    「ようこそ、夜の魔法の町へ」
     突然、聞き覚えがない声がした。サフィラが驚いて声がした方向を見ると、一人の男が立っていた。男は大きなマントに身を包んでいる。仮面を付けているため、素顔は分からない。
    (見るからに怪しい……)
     サフィラが警戒を覚えていると、男は楽しげに笑った。
    「これはこれは、可愛らしいお嬢様を連れてきたものだね」
     男がサフィラの肩にいる猫を見て言ったため、サフィラが不思議に思っていると、男はサフィラに近付いて右手を差し出した。
    「これも何かの縁だ。僕とこの町を回らないか」
     サフィラが答える前に、男はサフィラの手を掴んで歩き出した。
    (え……)
     サフィラが戸惑っていると、男はパチンと指を鳴らした。瞬間、眩い光と共に馬車が現れる。
    (……え、ええ!?)
     サフィラは驚愕する。今、何もない場所に突然馬車が現れた。自分は幻を見ているのだろうか、それともこれは夢だろうか?
     男がサフィラの手を引きながら馬車に乗る。つられてサフィラも馬車に乗る形になった。
     男がパチンとまた指を鳴らした。それを合図に馬車が動く。
    「折角のお客さんだからね、今日は出し惜しみしないでおくよ」
     男が呟いて、何度も指を鳴らした。瞬間、小鳥が何羽も飛び上がり、夜だというのに虹が現れた。
    (ええ……!)
     目の前の光景にサフィラは再び驚愕した。驚愕しながら、気が高まるのも感じていた。
     何と、美しいのだろう!
     サフィラは目の前の光景に見惚れた。屋敷の中しか知らなかった彼女にとって、男が生み出すものはどれも驚きと高揚に満ちていた。

     男と馬車に乗りながら、サフィラは色々なものを見た。それはファンシーな生き物だったり、幻想的な景色だったり様々で、初めて見るそれにサフィラの心は釘付けになった。
     しかし、男との町巡りを楽しみながら、この男は何者だろうという気持ちと、屋敷に帰らなければいけないという気持ちが生まれていた。
     馬車から降りて一息ついている男の様子を眺めながら、サフィラは眉を寄せた。
    (お父様もお母様も、私が屋敷を出たことに気付いているかもしれない。いなくなった私のことを心配しているかもしれない。早く帰らないと……)
     サフィラが焦燥に駆られていると、男が戻ってきてサフィラにある花を差し出した。
    「僕に付き合ってくれたお礼だよ。青い薔薇、君に似合うね」
     そんな受け取れませんとサフィラは断ろうとしたが、男はサフィラに薔薇の束を持たせた。
    「今日は奇跡が起きた。君と出会えたから」
     男の言葉に、なんかこの人キザなことを言うな……とサフィラが思っていると、男が微笑んだ。
    「……今日は、本当に楽しかった。こんなに楽しかったのはいつぶりだろう……もう、思い出せないや」
     男の声は何処か寂しげだった。
    「……あの、あなたは……」
     何者なんですか、とサフィラが尋ねる前に、男は右手を上げた。
    「名残惜しいけどそろそろお別れだな。大丈夫、ちゃんと君は君の家に帰してあげるから」
    「……」
    「……最後に、君の名前を聞いてもいいかな」
     サフィラが迷いながらも名前を答えると、男が満面に笑った──気がした。
    「サフィラか……良い名前だ」
    「……あ、あの……あなたの名前は……!」
     男が指を鳴らして、サフィラの体が光に包まれて──サフィラは意識を手放した。



     むかしむかし、ひとりのまほうつかいがいました。
     そのまほうつかいは、いろいろなまほうをつかってひとびとをえがおにしていました。
     まほうでばしゃをうみだして、ひとびとをはこびました。
     まほうでとりやにじをうみだして、ひとびとをたのしませました。
     まほうではなをうみだして、ひとびとをよろこばせました。
     まほうつかいのおかげでひとびとは、しあわせでした。まほうつかいも、しあわせだったでしょう。
     でも、まほうつかいのちからをおそれるひとびともいました。
     まほうつかいのちからをおそれるひとびとは、きょうふのこころにまけて、まほうつかいをくにからおいだしました。
     まほうつかいは、ひとりぼっちになりました。
     そのまほうつかいがいまどうしているのか、それはわからないままです────



     サフィラが目を覚ますと、彼女はベッドの中にいた。周りを見て、自分が屋敷の中にいることを認識した彼女は目を瞬かせる。
    (あれ……私……)
     外にいたはずなのに、いつの間にか屋敷に帰っていた……あの男はいないし、自分の肩に乗っていた猫もいない。……あれは全て、夢だったんだろうか?
     サフィラがうーん……と唸っていると、部屋の扉が開かれて、一人の少女が入ってきた。
    「サフィラ、おはよ〜! ……んん? サフィラが着替えないで寝るなんて珍しいね〜!」
     姉のリュビの顔を見てサフィラがホッとすると、リュビは目を丸くした。
    「わぁ、綺麗な薔薇の花! サフィラ、どうしたのこれ?」
     サフィラはハッとする。自分の胸の中に、男がくれた青い薔薇の花があった。
     ──今日は奇跡が起きた。君と出会えたから。
     男の言葉を思い出して、サフィラは目を見開いて──頬を緩めた。
    「サフィラ、笑ってる? 怪しいなぁ〜」
     ジト目になるリュビを眺めて、青い薔薇を見て、サフィラは思う。

     あの人に、また出逢う。 
     そんな奇跡だって、あってもいいでしょう?



    <終>
    キサラギ Link Message Mute
    Apr 15, 2019 1:30:15 AM

    奇跡

    一人の箱入りお嬢様と、魔法使いのおはなし。
    表紙お借りしました→https://www.pixiv.net/member.php?id=3989101
    #オリジナル #創作 #小説

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