イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    【姥さに】透き通った青 梅雨のじめじめとした季節は、なんだか外にでる気も起こらないため家でだらだらと過ごしてしまう。しとしとと降り続く雨は嫌いではない。清少納言のいうように、雨の日は誰も訪ねて来ないからとても気が楽だ。それでいい、誰かと特に会いたいというわけでもない、そんな臆病なこの審神者には雨はむしろ都合が良かった。
     新しい合戦の地である京都、大阪城の地下とさまざまな戦場で勝利を収めているこの本丸の部隊は、練度も十分に足りている。そのため、無理に雨の中出陣しなくても良いだろうと、梅雨の時期が過ぎ去るまで出陣と遠征は控えることにした。
     短刀たちは雨に耐えられなくなったのか、通販で買ってあげたレインコートを気に入ったのか、両方か。雨の中元気いっぱい外で遊びまわったので、つい先日、一期一振と薬研藤四郎に怒られたばかりだった。審神者には苦笑いすることしか出来ない。雨は作物にとっては大切なものだから、わざわざ祈祷して晴れにするわけにもいくまい。
     遊びたいです、としょんぼりした今剣の頭をなでてやり、そのうち晴れ間になるよと声をかけた。

     そんな審神者の言葉が現実になるように、梅雨の間のある日朝からからりと晴天になった。
     雨ばかりで食料品や日用品――通販では時間がかなりかかるため買えない一部の食料品や、使いきってしまった消耗品など――を買いに行く絶好の機会だ、と審神者は思い立つ。そこで台所に行き、食事係から必要な物を聞いた。買わなくてはいけないものを本丸を歩いて点検をしながら買い物リストを作っていると、後ろから声をかけられた。

    「……どこかに出かけるのか? 買い物か?」

     そう、控えめに、審神者の服の裾をぎゅっとつかんで声をかけたのは山姥切国広だった。
     彼は審神者の初期刀である。
     金糸のように繊細で美しい髪、透き通った水をそのままうつしとったような青い瞳、滑らかな白い肌。それほど美しい見た目であるのに、自分が霊剣山姥切の写しであることを極度にこじらせて、綺麗だと言えば「綺麗とか言うな」と返す困ったさんである。綺麗だと言われるのが嫌で、いつもボロ布を纏い、顔を隠して、服もところどころほつれているわ、泥がついているわという有り様だ。泥で汚れた自分を満足そうに見ているので、どうにかして洗濯をしてやろうと、彼の兄弟刀である堀川国広は日頃から頭を悩ませている。

    「うん。足りないものを買いにくの。雨でずっと買い物に行けていなかったからね!」

     審神者が笑顔でそう答えると山姥切国広はうつむいた。
     どうしてうつむいたのかと、審神者が不思議に思い顔を覗きこもうとすると、少し顔を上げた山姥切と視線が合う。
     すると彼は、またうつむいてしまった。どうにも彼は内向的だ。彼とはそれなりに、付き合いがあるつもりなのだけれどな、と審神者が寂しく思っていると、彼が口を開いた。

    「どうせ、いろいろと買い込むのだろう。……俺がついていく」
    「え? いいの?」

     山姥切の突然の申し出に、審神者は驚いて聞き返した。

    「女一人に、そんな重いものを平気で持たせられるほど……俺は腐っていない。それとも何か、俺がついていくのは嫌か? ……俺が……写しだから……」
    「違う違う! びっくりして、聞き返しちゃっただけだから!」

     審神者が慌てて、山姥切の言葉を遮るように言い、首を横にぶんぶんと振ると、山姥切は落ち着いたようだ。
     どうにも彼は、他人の言葉や態度を拡大解釈してしまう傾向があるように感じる。しかも、悪い方に。彼に初めて畑当番を頼んだ時、写しにはお似合いだな、と彼は自身を嘲笑したことがある。審神者は慌てて、どうすればいいかと、本丸では古参である燭台切光忠に相談した。

    「国広くんが手伝ってくれるなんて嬉しいよ! じゃあ、さっそく行こうか」
    「……ああ。アンタがそう言うなら」

     審神者が荷物を持って、身支度を整えて、廊下を歩いていると、数体の刀たちとすれ違う。そのたびに、後ろにコガモのようについてまわる山姥切をひゅーひゅーと口笛を吹いてはやし立てていた。囃し立てられた彼は、からかわれていることに対して落ち込むでもなく、怒るでもなく、ただはあと疲れてため息をついているようだった。


    「……やけに人が多いな」
    「雨上がりだからかな? みんな雨が続いていたから、買い物に行けなくて困っていたんだろうね」

     門を出た先の、商店が並ぶ城下町のような場所がある。どうにもいつもより人が多く、ごった返している。気を抜けばすぐにはぐれてしまいそうだ。人が多い場所が得意ではない審神者は日を改めようかと考えていた。しかし、ふいにぎゅっと手を握られる。見ると隣に立っていた山姥切が、顔を赤くしてじっとこちらを見つめていた。

    「うっ……はぐれたら……面倒……だから、な……」
    「うん、そうだね。このまま行こうか」

     審神者がそう言うと、山姥切はこくこくと頷いた。




     ひと通り買い物がすみ、山姥切は荷物をすべて持とうとしたのだが、彼は審神者と手をつないでいたため片手がふさがっていた。
     荷物持ちに来た彼は納得がいかないようだが、審神者は渋る山姥切を「はぐれるのが怖いから」と抑えて、軽いものは自分で持つことにした。そもそも山姥切ひとりに荷物をもたせるのは申し訳ないと考えていた審神者は彼を傷つけずに断ることが出来て良かったと安堵する。

    「あ、あれ見て」

     審神者が指さしたものは風鈴売りだ。色とりどり、可愛らしい風鈴を木を組んだ屋台のようなものにたくさん吊り下げられている。

    「『売り声もなくて 買い手の数あるは 音に知られる風鈴の徳』……か」
    「国広くん? なんか言った?」
    「いいや何も。……そら、風鈴を見たいのだろう?」
    「あ、うん!」

     山姥切に促されて、審神者はきらきらとした目で、風鈴をうんうんと見比べた後、ひとつの風鈴を手にとった。それは、透き通った青い絵がべったりと塗られ、光に透かすととても涼しげて美しい。
     審神者は会計を済ませ、風鈴が丁寧に入れられた箱を受け取ると、そのまま山姥切に渡した。

    「これ、国広くんに」

     審神者がそう言うと、山姥切は顔を上げて、目を丸くして驚いている。

    「俺で……いいのか」

     不思議そうに、首を傾げて尋ねてきた。

    「もちろん! 国広くんには、お買い物についてきてもらちゃったし。人が多いの苦手でしょう? でも、手伝ってくれたんだよね。ありがとう。これはそのお礼だから、ね!」
    「いや、あの、その…………ありがとう」

     審神者が元気良く答えると、少し困ったような顔をして、何かを考えこむような間があったあと、山姥切は嬉しそうに受け取った。


     ***


     じめじめとした梅雨が開け、本丸には夏がやってきた。
     山姥切が審神者と出逢ったのは、桜が花を咲かせるちょうどその時期だった。本丸の四季の移ろいを見ているだけで、時間がそれほどにも過ぎたのかと驚かされる。彼にとって、審神者と出逢ったことがつい先日のように感じられるほど、それは早いものだった。

     今日は非番だ。どうにも、冷房にかまけてごろごろとしているのも疲れて部屋を出た。彼は自室の前の縁側の柱に寄りかかり、座り込む。そして、ちりちりちりん、と風に揺れる青い風鈴を見つめていた。
     自分は冷房が苦手なんだろう、どうにも風鈴の音を聞くであるとか、打ち水をするとか、そういう昔からの涼の取り方のほうがよい、といったことを考えた。山歌仙兼定も山姥切と同じなのか、冷房のよく聞いた部屋でごろごろとし、出てこようとしない連中を叱っていた。そのたびに、彼らの主である審神者が、冷房を入れずにいると熱中症になるから、と怠けて怒られた者たちをフォローしていた。審神者はそう言うが、山姥切も歌仙と同じで、それにしても怠けすぎだとは思う。

     山姥切はそんなこんなで、風鈴を見つめてぼんやりと過ごすほうが好きだ。冷房の効いた大部屋には、人が多くて疲れるというのもあるのかもしれない。暑くてもこちらのほうがよい。もちろん彼とて、審神者に説明を受けて以来、熱中症には気をつけている。

    「あ、兄弟。こんなところにいたんだね! 西瓜すいかを切ったから、皆で食べようと思って探していたんだよ」

     山姥切にそう声をかけたのは、堀川国広だ。堀川は山姥切のそばまで寄ってくると、あ、と声を上げて上を見る。
     そのときちょうどよく風が吹いて、風鈴が音を奏でた。

    「わあ、風鈴かあ、いいね。これ、兄弟の? どうしたの?」
    「……俺のものだ。この前買い物についていった時、主にもらった」

     山姥切が間を置いてから、そう答えると、堀川はわあ、と声を上げて腰を落とし、山姥切と目線の高さを合わせた。そして、意味深な笑みを浮かべる。

    「良かったね、兄弟。勇気を出して、主さんについていって!」
    「……う、うるさいっ」


     風鈴の青が、日に透いてきらきらと輝く。さながらそれは水面のようで、音と相まって美しい。山姥切はその青い風鈴がとても好きだ。  【Fine.】



    ゆずもち Link Message Mute
    2018/07/11 17:02:28

    【姥さに】透き通った青

    自サイトからの転載です
    #刀さに #姥さに ##小説 ##刀剣乱夢  #刀剣乱夢
    この小説は以下の要素が含まれます。

    ※創作女審神者(名前は出ません)
    ※キャラクター崩壊
    ※口調・呼び名の改変
    ※刀剣男士から審神者に対する恋愛表現(いわゆる刀×主要素)
    ※夢小説

    内容は

    ※山姥切国広×女審神者 他のCP要素はありません
    ※少しだけですが登場するキャラクターも含めると
     女審神者、山姥切国広、堀川国広、歌仙兼定、燭台切光忠です。

    以上のことがすべて大丈夫だという方のみ先へどうぞ


    Twitterの<http://shindanmaker.com/67048 >「小説用お題ったー。」さまから『君のことが好きなんだ・合わせたてのひら・勇気を出す切欠』という素敵なお題をいただき、書かせていただきました。

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    OK
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品