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    サテライト~あなたの灯り銀は今、湾岸沿いの埠頭の上に立っている。
    茫漠とした空間から風が流れてきて、自分の薄い色の髪を散らしているのを感じる。
    ここから先は、海。夜の海。見えないのだが銀にはわかる。
    潮騒の音、停泊する船舶の汽笛の音・・・・音。
    見えなくてもわかるのだ、そのさまざまな音の音色は暗黒の海に浮かぶサテライトだ。
    いつも情報のやりとりをしている観測霊たちとは違う。

    ──それは、私にとっての黒のようなもの・・・。

    銀はそう思う。黒の顔は銀には見えない。いつか、「怖い?」と私に尋ねてきた、その白い仮面・・・。
    私にはどちらも同じなのに。同じ黒なのに、気にするのだ。
    つまり黒は戦っている時の自分と、そうでない時の自分と、どちらが銀にとって親しみやすいかと聞きたかったのだろう。
    銀はそう解釈した。そして少し混乱した。

    戦っている時の黒は、銀にとっては自分を守っている時の姿。
    そして戦っていない時の黒は、自分にとって限りなくやさしい。

    どちらも自分には大切だ。だから・・・・「わからない」と答えた。
    でも黒には伝わらなかった。それが銀には悲しい。
    どうして自分は選び間違えるのだろう、あの北欧で起きた自動車事故の時のように。
    あの時も母と先生の姿を見て、おびえて逃げ出さなければよかったのだ。
    そうすれば、母は死ぬことはなかった。
    黄は私をドールとして迎えた時、その過去話を少し売人から聞いていて、
    私に同情してくれたらしい。選べなくていいんだよ、人間なんてそんなもんだからな。
    銀は「うん」としか答えられなかったが、黄が理解してくれたことはわかり、内心うれしかったのだ。
    黒ともそんな風になりたいと願っているのだが・・・それは悲しいくらいに切に願っているのだが。
    でも、黒は昔のことがあるから・・・・。
    いつか、黒ともわかりあえるといいのに・・・・。
    銀はそう思うのだった。
    だから私はもう、死なない。黒がいるから死なない。
    この突堤から先には落ちない。
    でも黒が私から離れたらどうだろう?
    南米で会ったあの人・・・・黒に何かを教えていた人らしい。
    あの人は黒に親しかった。そういう人がまたできたならどうするだろう、黒に。
    私は目が見えない。黒の足手まといにしかならない。
    観測霊がわからなければ、私には何の価値もなくなってしまう。
    そう考えた時に、不意に足元にぬくもりを感じた。
    「マオ」
    マオが銀の足元にじゃれついていた。
    「銀、ここは危険だ。帰った方がいい。」
    マオが人間の声でしゃべった。銀は遠くの夜の海を見ながら答えた。
    「うん・・・・そうする。」
    マオが尋ねた。
    「何を考えていたんだ?銀?」
    「マオは、見えるのね。黒の顔が。」
    「う、うんそりゃまあな?」
    「黒は仮面をかぶっている時があるんでしょ。」
    「あ、まあそれは・・・。やつも仕事だからな。」
    「黒は、どんな、顔?」
    マオの声が裏返った。
    「え・・・・そりゃまあ、イッ、イケメンかなぁ?!」
    「イケ、メン・・・。」
    「あ、お面がイケメンっていう名称じゃないからっ。古い言い方だと、ハ、ハンサムってことだ。銀とはお似合いだよ。」
    「そうなの・・・・。」
    「おまえにもいつか見えるといいな。」
    「いつか・・・。」
    「そんな日が来ると思うよオレは。銀の目が見えないのは、対価じゃないかなとオレは思うんだよね。」
    「対価・・・・。」

    銀はつぶやいた。対価じゃなくて、罰。母を殺した罰・・・きっとそう・・・。
    しかし銀はそのことは仲間の誰にも言ったことはなかった。銀は言った。
    「もし・・・もしね、マオ。私の目が見えるようになったら・・・。」
    「うん?」
    「黒は・・・あの灯りみたいにならなくなるのかな・・・。もし私が能力を失ったら・・・・。」
    「灯り?」
    「少し明るさはまぶたの裏に感じるの。この前は海でしょ。そこに遠くの建物の灯りが見える・・・・黒は、私にとってはそんな風なの・・・。」
    マオは言葉に詰まった。マオは本当は猫ではなく、それ相応に年も食った男なのである。今は故あって猫の身なのだ。こういう時うまい言葉が見つからない。
    「そ、そうか・・・早く黒にそれがわかるといいんだが・・・。」
    マオは自分が黒でないことを呪った。こんな言葉を聞くべき者はオレじゃないんだ。黒は今一体どこにいるんだ?
    と、その時黒がマオのそばに忍び歩いてきた。
    「銀、ここは風が寒い。風邪をひく。」
    「うん・・・。」
    銀は素直に突堤から飛び降りた。黒が少し驚いたように言う。
    「大丈夫だったか?」
    「平気。黒がいるから・・・。」
    「もどろう。」
    マオは黒の様子にカチンときた。この朴念仁は、銀の気持ちをちゃんとわかっているのか?マオは叫んだ。
    「あのなあ、黒よ、銀ちゃんはなあ・・・。」
    「?」
    「おまえのことを、街灯のように思っているんだからなっ。」
    「ああ外套?外套ね。この上着みたいにだろう。」
    黒は自分の上着を脱いで、銀に着せかけた。
    マオは本当はわかってないと思って、もう何も言わなかった。
    そういうしぐさは完璧なんだがな・・・・。
    まったく犬も食わないなんとやらだ。もう少し意思疎通のままおいておくか。
    いやいや言葉にしないところで、つながりあっているんだこいつらは。
    ちょっとした齟齬で相手に伝わっていないとか、ああオレも若いころはそういう煩悶の時期があったよなぁ。
    ただまあ、これだけは言っておくかとマオはひらりと黒の肩に乗り。
    「銀をもっと大事にしろよっ。」
    とだけ言うと、猫のフリをしてにゃあと逃げた。黒は言った。
    「なんだあいつ?」
    銀は指先で微笑んで黒に答えた。
    「マオはわかっているの。私たちのことが。」
    黒は少しとまどったが、銀の言葉がうれしくて、思わず反芻してしまった。
    「わたしたち、か・・・・。」
    銀は黒とふたりきりになると、マオに言いつのったような感情には蓋をしてしまう。
    それが銀なのだ。
    黒は知らない、銀の黒への不安な気持ちは・・・。
    でもそれは銀の切なる願いなのだ。それは黒に伝えたくないのだ。
    マオがそれ以上何も言わなかったのは、銀にとっては幸いだったのだ。

    黒は銀の手を静かにとった。エスコートするように、優雅に、やさしく。
    それは黒の銀への想い・・・・。黒もまた、銀には不安なことを伝えたくない・・・・。
    互いの不安な身を寄せ合うような二人だった。
    後年訪れる二人の悲劇は、この頃から始まっていたのかも知れない、おそらくは・・・・。
    そうしてお互いを確認すると、二人の長い黒い幸せそうな手をつないだ影は、だんだんと夜の町並みの中へと消えていった。
    遠くの海の上に、対岸のサテライトの光が、白くぼんやりと輝いていた。
















    おだまきまな Link Message Mute
    2019/03/04 14:33:26

    サテライト~あなたの灯り

    #DTB #黒銀  #短編
    サテライトの意味を取り違えてますね。本来は衛星という意味ですが。今読むと赤恥です。

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