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    時待人 第五話「全て剥がれ落ちて、崩れて」 魔術師の男が言い放った言葉に疑った。そんな事ができるのか?
    そもそも何故私に、とさえ思った。彼は一体何を考えているのだろうか、と。
    「で、どうする?私はこの後すぐにこの世界から出ていくんだけども」
     このまま朽ちて、消えるかもしくは、と考えたのは――
    人となり、弟を捜しに行くという考えだった。時計の姿では何もできない。ならばと考えたのが、人になる事。
    彼がどのくらいの力を持つ魔術師なのかわからないが、駄目もとで言ってみてもいいだろう、と時計はそう思ったのだ。
     そして彼女は願いを告げた。人の姿になりたい、と。
    「…意外な言葉だね。まあ、私にとっては簡単な事だけども」
     そう言い、魔術師はラエタを人の姿にしてくれた。長く、美しい黒髪を持つ女性の姿に変化し、元の時計だけは手元に残った。
    「それで、君は人の姿になってどうするんだい?」
    「弟を、捜しにいく」
     魔術師は大きく笑った。それは明らかに人を馬鹿にするような笑い方で、ラエタは不愉快な気分になった。
    「あの話を信じているって事か!君はなんという愚かな奴なんだ!」
    「何が可笑しいのさ!」
     彼はくっくっ、と笑いラエタを軽く睨む。
    「だってあの爆風で無事だと思うかい?きっと粉々だろうさ」
    「そんなわけ…!」
     魔術師はラエタの顔に近づき、小声で囁く。
    「君にはね、願いを叶えるついでに呪いをかけておいたんだ」
    「なッ…!?」
    「その呪いはね、そこの時計台とリンクする呪いでねえ。君は人になった変わりに、この街から一生出られない。そしてもう一つ…いやこれは、いずれわかるだろうね」
     実験にはちょうど良かったんだよ、と魔術師はそう言い別残し、この世界から消え去っていった。
    彼の言葉にあった最後の一言。それの意味がわかったのは、そう時間もかからなかった。
     魔術師は最後に時計店を復活させたようだが、そこにラエタを作った店主の存在はなかった。周囲の人間に聞いても、そんな人は知らないという。むしろ、貴女が店主だろうと言われる始末であった。記憶までも操作したなんて、きっとあの男の仕業だろう。
     時計店の店主として振る舞い続ける日々。だが、弟の手がかりは何一つ得られずに月日は過ぎていった。
     それはある日の事。店じまいの支度をし始めた夕方。ラエタはいつも通りに看板を片付け、店に鍵を閉めようとしていた。
    「…人になって、色々あったけれど、今の日々が幸せと感じてしまうね」
     その一言で彼女の世界は変わった。いや、止まってしまったのだ。彼女が、ガルデンの時を止めてしまったのだ。それは魔術師が施した呪いが発動する合図とは知らずに。魔術師の呪いは変に凝っており、それでかつ人の気持ちを弄ぶ呪いだった。
     彼女が「幸せ」と感じてしまったら、街の時を止める。それがもう一つの呪いだったのだ。
     彼の実験は成功し、ラエタはその瞬間から過去の記憶の一部に関しては時計台にいる呪いの塊に移された。
    そうして、今の今まで自分が時を止めたと自覚せず、この時の止まった街にずっと一人で過ごしてきたのだ。


    『これにて、彼女の過去の話はおしまい。悲しいと思うのか、自業自得だと思うかは…君次第だ』


     大量の記憶を見せられた後、俺の意識が戻った。この街の時を止めたのがラエタだったという事実、突然ラエタの前に現れた魔術師による実験。情報量が多すぎて、いまだに頭の中は混乱を起こしていた。
    「…きっと嫌いになったよね」
     俺がよく知っている方のラエタは、悲しげな表情で俺を見つめた。
    「全部、私のせいだった。なのに、貴方まで巻き込んで時を動かすなんて、そんな事してはいけなかったんだ…」
     ラエタの瞳から、ぽろぽろと透明な雫が流れていく。彼女が泣いている姿を見て、そんな事はないと言おうとし手を差し出そうと思った、その時。
     時計台は大きな音を立て始める。身体にまで伝わってくる音は鐘の音とは違う大きな音で、それの音にあわせてラエタと呪いの塊の様子がおかしい事に気付いた時は、もう手遅れだった。二人――いや一人と塊は一つに合わさろうとしていたのだ。
    「ラエタッ!」
     これでいい、と彼女は小さくつぶやき呪いの塊と一つになっていく。止めようとしたが、見えない壁がそれを阻み、それ以上先へと進む事はできなかった。
    「そうあるべきなの…きっと」
     呪いと一体化したラエタの姿は、悲しくも醜い怪物と化していた。
    背中には複数の歯車が合体し、羽のような形になっている。そしてその歯車の中央には人形の素体のような物が両手を広げ、ゆっくりと俺を見ていた。ラエタだった人は、今この瞬間怪物と化してしまった。いつものあの美しい姿はもうどこにもない。
     怪物は時計台の外に飛び出し、空へ舞っていった。それを追いかけようと思い、俺も時計台から飛び出ていく。
    すると、街の様子がおかしい事に気づく。どこを見渡しても黄昏時の光に包まれていた街は、いまや白と黒に染められた街へと変化していたのだ。
    「なんだ、これは…。街が、白黒に包まれてるなんて…」
     まるで世界の終わりのような光景だ。怪物は上空で飛び回り、暴れまわっている。そして街もまた、白黒の世界に包まれ異様な光景を生み出していた。
     この状況を目の当たりにして、俺はこれからどうしたらいいのかわからなかった。ただ見ている事しかできない、何もできないもどかしさだけが募る。
    「もう一度、街やラエタを元に戻せないのか…?」
     自然と握りしめていた手がさらにきつく握りしめる。何か方法がないのか、とうつむいていたその時だった。
    地面がぐにゃりと歪む。そしてぼこっという鈍い音が次々と発し、地面に突如穴が開く。その穴から芽が出て、そして一つの花が咲き始めた。
    『ディウス、聞こえますか?』
    「その声は、女王クイーン…!」
     今まで物語はおろか、女王への連絡がつかなかったこの世界でようやく女王と繋がり、少しだけ嬉しく思う。
    女王はとある世界に鎮座しているため、俺達アリスと話す際はこのような形で会話をする。一見すれば奇妙なやりとりだが、俺はもうすっかり慣れてしまった。
    『貴方が送った物語が今やってきて、そして緊急の連絡手段も飛んできたので何事かと思ったのですよ』
    「女王、いいタイミングで繋がってくれた。話があるんだ」
     俺は女王に今まであった事をかいつまんで説明した。そしてこの世界とラエタをなんとかしてあげたいという事も伝えた。
    『正直に言いますと、貴方がなぜこの世界に対して介入し続けるのでしょうか?今でしたら他の世界に飛ぶ事は可能ですし』
     帰ってきた答えがこんなに冷たい返答になるとは思ってもいなかった。それとも、この世界に居続けてしまった俺がおかしくなっただけなのか、と改めて思ってしまう。
    『…けれど、貴方は物語に対して人一倍こだわるのですから、貴方なりの結末を得たいのでしょう?』
    「そう、かもしれないな」
     俺はこの結末に納得していない。ラエタはただ、幸せになりたかった時計だ。弟を捜したかったから、人の姿になったのだ。
    それを悪用した魔術師を許し難いが、俺は今最も許せないのは、この状況だ。
    「俺は、なるべくなら幸せな物語で締めたい。こんな、悲しい結末を書くのは俺にとって許せないし、それに幸せになりたかった時計、いや女性がこんな状態で俺だけこの世界を抜け出すという事が、とても嫌だと思っているんだ」
     溢れ出る思いが、言葉が止まらない。短い時間でいたはずなのに、どうしてだろうか高ぶる気持ちが溢れてしまう。
    あんな過去を見せられたのもあるのだが、俺は彼女が一人でずっといた事という気持ちが少しだけわかってしまうのもあるからかもしれない。
     病弱だった少年時代。病室で一人きり、黙々と物語を書いていたあの頃。待つのは死しかなかった、白と黒の世界。
    きっと彼女もこの時が止まった世界で同じ気持ちだったかもしれないと、勝手に思っている。だからこそ、できるだけ最善の状態で救いだしてあげたいという感情が、湧き上がっているのだろう。
    『…わかりました。私も、この物語の結末を見届けたいと思います』
    「女王…!」
    『だから貴方に、一つの可能性を教えてあげましょう』
     女王が語る可能性。それは一体何なのだろうと、ごくりと息を飲む。
    『今回の件は時の力が絡んでると見越しています。ならば、彼を。時を旅する人―ーオルロを見つける事。これが今この街と時計を助けだせる方法です』
     そのオルロという人物。彼は時の神と共に旅をしているという。女王は今回の事件は魔法もそうだが、時の力も関わっている可能性があると語る。
    『それだったら、時の神に直に助けを求めてみるのも手だと思うのです』
    「時の、神…」
     いきなり神様というスケールの大きい存在が出てきた。そもそも、それで解決できるのだろうか?と疑問すら出てくるが、他に手段がないのならばそれに頼るしかない。
    『オルロはあっちこっちにあらゆる世界の時を飛んでいますので、捜すのに恐らく苦労するとは思います』
    「…そりゃそうだろうな」
     きっとちょっとやそっとじゃ見つからないだろう。それでもいい、あらゆる場所、世界、時捜してその男と神を捕まえてやる。
    『一応私がナビゲートします。何十回、何百回も世界を渡る可能性がありますがよろしいですか?』
     きっと飽きるかもしれない、諦めるかもしれない回数。それでも俺はその可能性を手繰り寄せたいのだ。
    「ああ。覚悟はできている」
     足元に光が溢れ、やがて魔法陣が浮かび、光はさらに強まっていく。
    『さあ、行きますよ』
    「頼む」
     どこか飛んで行ってしまった怪物と化したラエタ。早くその姿から解放させてあげたい、そんな気持ちでいっぱいだ。

     こうして、俺はガルデンから出て行きオルロと時の神を捜す旅へと出た。
    何十回も何百回もありとあらゆる世界と時を飛ぶのだ。最善の結末を目指して――


    「…時の音が聞こえる」
     長い黒髪を後ろで結んだ青年は、ふと立ち止まった。そして赤く燃える夕日の空を見つめ、どこか遠くで聞こえた時の音がもう一度聞こえないかと耳を澄ませる。
    『時の音、ねえ』
     ひょっこりと青年と同じような背丈で長い黒髪を肩に束ねた男性が表れる。ふわふわと青年の周りを漂った後、彼の横に立ち止まる。
    「軋むような、悲しい音色が聞こえた」
    『ふうむ…それが聞こえたのならば、君にとって縁がある時計じゃないかな?』
    「何故それを言い切れる?」
     じろりと青年は男性を睨む。やれやれ、といった反応で男性は静かに青年へ答えを教える。
    『だって私、時の神ですし』
     はあ、と青年はため息をついた。答えになっていない答えで呆れている。
    「時の神だからって何よ、胡散臭い神」
     青年の横にもう一人。凛とした佇まいで、薄い桃色の髪の毛を肩まで伸ばした女性がすっと現れた。
    「ソルシィ…もうほどほどでいいから…」
    「オルロはもうちょっと言い返す努力はしなさいよ!じゃないとこいつの言動に飲まれちゃうわよ!」
     オルロと呼ばれる青年は、さらに深くため息をついた。彼女――ソルシィの調子には相変わらずなれないもので、どう返していいのかわからないくらいである。
    『まーまー、お二人さん喧嘩しないで?ね?』
    「あんたのせいでしょうが!」
     時の神とソルシィはいつもこんな感じで接しているため、横で聞いているオルロはいつも置いてけぼり気味だ。
    それ故に、周囲の人々から見えない時の神のせいで変な二人と見られていることがしばしばあるのだ。そんな二人を置いておき、オルロは再び空へ目を向ける。
    (あの音はどこか懐かしい…。けれど俺は人になる前の記憶、時計だった頃を知らない。記憶もない)
     聞こえた時の音に思いを馳せ、彼は今日もあらゆる世界と時を飛んでいく。
     
     それはまるで時を旅する人かのように――



    時待人第六話へ続く…
    空鳥ひよの Link Message Mute
    Sep 22, 2018 2:38:11 PM

    時待人 第五話「全て剥がれ落ちて、崩れて」

    次回更新は10月になります。
    #オリジナル #創作 #ファンタジー

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